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問題解決の力をはぐくむ生活科・総合的な学習の時間

            −言語の活用を重視した学習活動を通して−

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 小学校第6学年「総合的な学習の時間」


1 単元名 「地球の環境を守ろう!今、わたしたちにできること」

 (平成20年11月実施、25名)
 


前時までの指導についてはこちら

2 単元とその指導について 学習指導案

 近年、地球環境問題は顕在化し、警告を発している。持続可能な社会を実現するためには、社会を構成するあらゆる主体が自らの問題として環境問題を認識し、環境保全に取り組むようになることが求められている。総合的な学習の時間において環境教育を充実させるためには、環境について体験的に現状を理解し、問題の原因を探り、解決方法を考え行動すること、さらにその結果を振り返り、次なる課題を考えるなど、問題解決的に学んでいく必要がある。

児童が在籍する学校では、環境学習の取り組みの1つとして、毎年6年生が中心となってアルミ缶リサイクルを実施している。住んでいる町の環境の現状や問題点などについて深く考え、調べたり検討したりするまでには至っていなかったが、回収に取り組んだ1学期の終わりには、「他にもできることがあったら取り組みたい」という感想をもつなど、意識の変化が感じられるようになってきた。また、総合的な学習の時間以外でも、新聞やニュースなどで報道される環境問題が時折話題に上るようになるなど、様々な環境問題について関心をもち始めてきた。

そこで、本単元では、「地球の環境を守ろう!今、わたしたちにできること」をテーマに身近な環境問題の解決を図っていく。まず、体験や調べ活動を通して、個人で集めた問題や把握した現状を全員で共有する。共有した情報を図解し、整理した後、KJ法で分類化を図り、グループごとに課題を設定する。次に、自分たちの力で実現可能であるか、予備調査を行う。予備調査後、検討会を開き、課題及び解決策を加除修正する。問題の解決を図る過程では、それぞれの計画に沿った身近な学習対象とかかわる体験活動を通す。学習の成果や課題をまとめ、ゲストティーチャーを招いたパネルディスカッションにおいて、様々な立場から討議を行う。活動を通して明らかになったことを根拠として、説得力のある論を組み立てて話し合うことができるよう、ポートフォリオに蓄積してきた情報等を活用させる。パネルディスカッションで検討したことは、地域での環境保全の呼び掛けや実践に生かす。

環境については、解決すべき問題が多方面に広がっており、容易に解決に至らないことが多い。しかし、向き合って考え行動することができるように、問題の解決の過程に、研究の理論に沿う次の2つの学習過程を位置付ける。

(1) 情報を、言葉を用いて分析・整理・表現する学習活動

(2) 意見交換や検討、討議など、互いに学び合う学習活動

言葉で思考を質的に高め、解決の道筋を明らかにするこの学習を通して、問題解決の力をはぐくんでいきたいと考え、本単元を設定した。   研究の理論

   

3 単元の目標

     環境問題の現状とその原因を探って一人一人が地球に与えている負荷を知り、環境を守るためにできることを考えて、

 解決策を実践したり、地域に発信する活動を工夫したりすることができる。

4 単元の評価規準

(1)
 関心・意欲・態度
   環境問題を自らの問題として認識し、調査などの体験活動に主体的にかかわったり、まとめた情報や考えを
    積極的に発信したりしようとする。
   学んだことを自分の生活や学習に生かそうとしたり、人の役に立つ活動をしたりしようとする。
(2)
 思考・判断
   課題を設定したり活動計画を立てたり、収集した情報を整理・分析したりすることができる。
   集めた事実に基づいて論理的に考え、具体的な解決方法を決めて取り組むことができる。
   振り返りや検討会を通して、追究の内容や方法を見直すことができる。

(3)

  技能・表現
   探究の目的に応じて、調査、実験、制作、栽培、交流などをすることができる。
   調べたことや自分の考えをまとめ、相手や目的に応じて分かりやすく伝えることができる。
(4)
 知識・理解
  環境についての現状と問題の原因、自分にできる解決策を理解することができる。
  環境を守ろうとする人々の取り組みを理解することができる。

5 単元の計画(全24時間)

 
   第1次
地球の今を知り、環境を守るために企画会議をしよう。     
・・・・・・・・・・5時間
 
   第2次
計画に基づいて問題の原因を探り、解決を図ろう。       
・・・・・・・・・・5時間
 
   第3次
収集した情報を整理し、考えをまとめて検討しよう。      
・・・・・・・・・・6時間  (本時15・16/24)
 
   第4次
校区のまつりで地球環境未来予測について発信しよう。        
・・・・・・・・・・5時間
 
   第5次
わたしたちの地球未来予測を冊子にまとめよう。           
・・・・・・・・・・3時間

6 本時の学習指導(15・16/24)場所:教室 

 (1) 目標

 

  専門家や保護者を迎え、これまでの活動を通してまとめた提言を討論することを通して、「地球環境のために今できること」についての視野を広げ、理解を深め、実践に結びつけることができる。

 (2) 展開

児童の学習活動及び児童の反応
教師の指導  (□・・・本時における評価)
1

前時の学習を想起し、本時の課題を確かめる。

  パネルディスカッションの目的や意義、プログラム等を確認し、ゲストティーチャーを紹介する。  

    パネルディスカッションの会順と内容の提示

 活動を通して明らかになった根拠を基にして、説得力のある論を組み立てて話し合うこと、行政の努力や企業努力、経済との関係、経験に裏付けされた考えなど、広い視野に立った話を聞いて学ぶことを評価シートを基に確認する。             
              評価シート
2
 パネルディスカッション「未来の地球環境を守ろう」 を行う。

コーディネーターとパネリストの位置

(1)  はじめのことば 
(2) 「開発・改善の視点から」
 

『食』・・・「食糧難を考える〜残飯をどげんする〜」

            討論の記録1

 

『森』・・・「割りばしから世界を考える」

            討論の記録2

  『エネルギー』・・・「新エネルギー開発と省エネ」
   自分の考えを確認させるとともに、多様な視点からの質問や意見に答えることができるようにポートフォリオを準備させておく。準備したポートフォリオのシート

   討論時に、机上に準備したシート

(3) 「自然を守る視点から」 討論の記録3  環境の現状とその原因は、できるだけ実物やフリップを提示しながら具体的に説明させる。解決策は、体験を基にした具体的な根拠を示すように助言する。
 

『水』・・・「多布施川の水質を守る」

            

 

『動物』・・・「佐賀の絶めつ危ぐ種を救う」

            

 発表の内容を聞き取るために共通点や相違点、キーワード等をメモさせる。その内容を机間指導でチェックし、揺さぶりを掛けるなど意見交換に生かす。
 

『資源』・・・「栽培活動で資源のこかつを防ぐ」

記録用紙        
 

 パネルディスカッション2の記録(板書)

  「現状からの未来予測」「原因」「解決策」の視点で、児童の発表や感想、 意見を黒板に整理し、それぞれの取り組みのよさを明らかにする。
 
(4) ゲストティーチャーに学ぶ  事前にゲストティーチャーと時間配分やアドバイスの内容について打ち合わせをしておく。地域や保護者の参加者にも感想や意見をもらい、今後の活動に生かすようにしたい。  
   (上記の討論の記録1〜3を参照)
     ・ 参観者の方々の感想とアドバイス
 保護者の感想   
(5) おわりのことば  環境保全と開発は反するものではなく、共存し合えるものとしてとらえることができるなど、多様な視点をもたせる。
3
 パネルディスカッションを振り返り、感想や意見をまとめ、意見交換を行う。   パネルディスカッションを通してもった感想や意見を、言葉にまとめて表現することで、自分の考えを明らかにさせる。意見交換では、自分と同じ、または異なる視点をもつ意見を聞かせることで、考えを深め、視野を広げさせたい。その手立てとして、意見や感想は、どのグループの提案や意見を基にしているのかを明らかにさせ、板書にラインを引いて確かめながら意見交換を進める。ラインを引いたいくつかのキーワードは多方面にわたるが、共通するものはないか、行動に移すべきことは何かを考えさせる。

          意見交換の様子

 
          ワークシートに児童が記述した内容  
4 本時の学習をまとめ、次時の活動につなげる。 ○  活動のよさを価値付け、次への意欲へとつなげる。
       
※ 資料等 主張まとめシート パネル論の組み立てシート 授業後の振り返りシート
  案内状  意識調査シート 意識調査結果
 7 考 察
      本単元では、理論研究に基づき、問題解決の過程に、体験から得られた情報を言葉を用いて思考・表現し、意見交換を

通して深める活動を位置付け、課題を1つ1つ実現していくことを積み重ねて、問題解決の力をはぐくむ学習を試みた。

ここでは、研究の視点である次の項目について、本時の授業を考察する。

 なお、本時までの指導と考察については、 別途資料ページで述べる。  

   
(1)
  情報を、言葉を用いて思考・表現する活動
    ア 他者に伝わるように自分の考えを表現するための手立て
    イ 他者の考えを整理しながら聞くためのメモや板書の手立て
 
(2)
 意見交換を通して学習を深める活動
    ア 異なる視点から考えを検討させるための手立て
    イ パネルディスカッションで学んだことを、今後に生かすための手立て
 
(3)
 児童の興味・関心等の変容の結果及び保護者の評価
     
 
(1)
 情報を、言葉を用いて思考・表現する活動
    ア   他者に伝わるように表現するための手立て
   

   他者に伝わるように自分の考えを表現するための手立てとして、前時までに、「現状からの未来予測」「原因」「解

決策」の視点で情報を整理し、必要なことを落とさずに伝えることができるように論を組み立てさせておいた。(資料1)

 パネルディスカッションでは、他者の話を受けたり質問に応じたりしながら自分の考えを述べるので、用意していた

原稿のようにはいかないが、視点をもって情報を整理しておくと、必要に応じて取り出すことができるだけでなく、筋

道立てて話すことができると考えた。

     

  資料1 C児が前時までに準備していた「現状からの未来予測」「原因」「解決策」の視点

   

           

    C児は、「生活排水により、直接水の影響を受ける水辺の生き物はどうでしょうか。」というコーディネーターの問いか

けに合うように、歩いて調べたトンボの実態、生活排水の実態を述べながら絶滅を防ぐために油などを流さず水質を

守るべきだと主張している(資料2)。「現状」「原因」「解決策の提案」の順で述べているので分かりやすい。C児の発

言に関連して、D児が具体的な数値を述べることで、「排水溝に油を流さない」理由が聞き手に伝わり、具体的な解決

策「油の回収」を伝えることができた(資料2)。事前に3つの視点で情報を整理していたことは、有効な手立てだった

と思われる。

     
   
イ 他者の考えを整理しながら聞くためのメモや板書の手立て
   

 他者の考えを整理しながら聞くための手立てとして、児童が心に響いたことを書き留めて、言葉で考えを整理するこ

とができるように、タイトルなどのキーワードを入れ、効率的に記録できる表形式の記録用紙を作成し、活用した。(資料3)

児童は、記録に時間を取られることがなく、話し手の方を向いて聞くことができていたので、討論が途絶えることがほとん

どなかった。

 また、板書も他者の考えを整理しながら聞くための手立てとして、書き方やまとめ方を工夫した。児童の発言の要点

を、内容によってチョークの色を使い分けながら、記録用紙と同じ形式でまとめるようにした。既に予告している主張点

はカードを使用、写真や図を用いて視覚的にも分かりやすいように提示した。(写真1)文字の大きさは児童が読みやす

い大きさで書いていったので、書く内容が増えてきたら写真やカード、図は補助黒板に整理した。(写真2)黒板に書か

れたキーワードは、児童の考えを言語化し、理解を助け、意見交流に役立った。

   
     
 
(2)
 意見交換や検討、討議など、互いに学び合う学習活動
    ア 異なる視点から考えを検討させるための手立て
   

 異なる視点から考えを検討させるための手立てとして、各グループの取り組みに共通する点、異なる点などを考慮し

て、パネリストの意見発表の順を決めるパネルディスカッションの打ち合わせを事前に行い、展開の工夫を図っておい

た。また、質問の内容に応じてフロアのメンバーも回答できるようにし、意見を述べやすくしておいた。

 本時では、全員が意見を述べることができ、多様な考えが出された中で、それらに共通する主張に結びつけて論の展

開を図ることができた。自分たちでなければできない役割を担い、自分たちで追究して確かにした考えをもってきたこと

が、意欲や自信につながったのではないだろうか。「何か、自分が変わったような気がする。」そんな感想を授業後にカー

ドに書いていた。
   自分で方法を考え、実際に活動する際には、思い通りにならないことが多々あった。しかし、失敗から学んだことも、

パネルディスカッションの論に生かすことができていた。追究を積み重ねてきたことが伝えたい思いにつながり、主体

的で多様な視点をもった意見交換につながったのだと考える。

     

                          写真3 パネルディスカッションの様子 

  経験に基づいたよい考えや資料をもちながらも発表する機会を逸している場合は、教師が参加者としてゆさぶりを

かけたり質問を投げ掛けたりしたことも、多様な視点を引き出す手立てとして有効だった。また、ゲストティーチャーの

方々には、児童の論を裏付ける現状や児童だけでは気付かない視点について専門家の立場で話してもらい、児童

の学びの実感がより強まった。また、保護者の方に感想をもらって、自分たちの考えや活動が価値付けられ、達成感

をもつことができた。

     
    イ  パネルディスカッションで学んだことを、今後に生かすための手立て
     (ア) パネルディスカッション後の意見交換
   

 パネルディスカッションで学んだことを今後に生かすための手立てとして、パネルディスカッション後、振り返りカー

ドに感想や意見を記入させることで、学んだことを明らかにさせた。意見交換では、どの提案や意見を基にしている

のか、板書で確かめながら交流を進めた。言葉に注目することで、そのことに関連する意見や感想が続いた。

 最終的に、児童が注目した言葉は多方面にわたり拡散していたが、共通する言葉を手掛かりに考えさせることで収

束に向かわせた。

   
     
        資料4は、栽培活動が進まず、試行錯誤を重ねていたグループの発言と、発言を板書した黒板の一部である。発

 言では、体験から得た気持ちの変容が伝わってきた。意見交換では、この発言に注目して、「まず、自分たちがやら

 なければ、何も変わらないと思った。提案には、今すぐできることがあるので、面倒くさいという意識を変えて実行に

 移したい。」など、感想や意見を述べた児童が数名続いた。また、「車の乗合で人と分かち合う方法をとるなど、考え

 方を変えていってはどうでしょう。」「部分だけ見ないで生産、製造から廃棄処分までの全体で考えると、電気の節約

 だけでない生活の中にむだがもっと見えてくるのではないでしょうか。」などの意見を聞いて、「発想を変えて、さらに

 様々な視点から調べてみたい。」と新たな課題に結び付けていた。

   

   意見交換後の児童の感想からは、多様な考えを聞くことの意義を感じ、自分の考えが深まったことや感じるだけ

 でなく、これからの自分の生き方や生活に生かしていこうとする意欲が高まったことが分かる。(資料5)

   検討会、 意見交換、 感想交流などを通して学習をまとめ、振り返ることで、願いの実現への手応えを感じたり、

 がんばってきたことを実感して自分のよさを感じたり、足りないところに気付いて新たな課題をもったりすることがで

 きたのではないかと考える。

     
   
   
資料5 意見交換後の振り返り(自己評価)
   
    (イ) 「学んだこと・これからの自分に生かしたいこと」を問う
       学んだことを振り返り記録するカードに、「学んだこと・これからの自分に生かしたいこと」の項目を設け、今後に生

かしたいことを言葉にしてまとめることで、学びを生かすことを意識付けた。また、実際に、パネルディスカッションで

意見交換をしたこと、ゲストティーチャーのアドバイス、保護者の意見をもらったことを生かして、活動やまとめの原

稿に修正を加え、地域のまつりで発信してたくさんの賛同を得ることができ、願いを実現することができた。

   
   
        3学期も、自分たちの活動を自分たちでこつこつと続けることができている。

 「今できる一歩を積み重ねること」「視点を変えて、考えてみること」などが、生活の中にも、様々な教科の学習

 にも生きていることが感じられるときがある。

     
 
(3)
 児童の興味・関心等の変容の結果及び保護者の評価
     研究の視点(1)と(2)にかかわる児童の意識調査の結果は、資料10 のとおりであった。
     
   
 資料10 意識調査の結果(一部抜粋)   意識調査結果
         考えを記録したり、人と意見を比べて考えたりすることに、よさを感じる児童が増えていることがうかがえる。

また、学んだことを生かそうとしたり、あきらめずによりよい解決策を探ったりしようとしていることがうかがえる。

意識の変化が大きかったのは、自分のよさを感じる児童が増えてきたことであった。(資料10)  

        資料11のように授業を参観した保護者の感想(アンケート記述)からも、児童の姿を通した評価を得ることができ

た。問題解決の力をはぐくむことが求められていること、今後も授業の改善を図っていくことの大切さを感じている。

   保護者の感想2

 

  

資料11 パネルディスカッションに参加した保護者の感想

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最終更新日: 2009-03-30