本研究では、「社会についての見方・考え方」を養うことを研究主題としているとしている。ここで、「社会についての見方・考え方」と「社会的なものの見方・考え方」についての違いを明らかにしておく。
「社会的なものの見方・考え方」とは、社会生活を営む中で社会的事象は決して単独で存在することなく、何らかの形で他の社会的事象とかかわって存在しているということを認識し、そのような見方・考え方で社会的事象にかかわることができる資質・能力であるととらえる。
では、具体的にどのような見方・考え方が挙げられるのであろうか。北俊夫(1996)は「社会的なものの見方や考え方」として、次の10項目を挙げている。
@ 事実に基づいて見たり考えたりする。
A 社会的事象に対して自分なりに解釈(意味づけ)して見たり考えたりする。
B 複数の社会的な事実を一般化したり抽象化したりして見たり考えたりする。
C 社会的事象を多面的に見たり考えたりする。
D 社会的事象を公正に見たり考えたりする。
E 社会的事象を比較・関連・総合して見たり考えたりする。
F 社会的事象を時間の経緯や空間的な広がりの中で見たり考えたりする。
G 社会的事象を多面的に見たり考えたりする。
H 社会的事象を自分の生活や自分自身とのかかわりで見たり考えたりする。
I 事実や解釈の限界性を意識して見たり考えたりする。
これらを見ていくと、そのほとんどが事実に対する見方・考え方であることが分かる。しかし、これらは、社会的な価値に対する見方・考え方としてとらえることもできる。例えば、Hの「社会的事象を自分の生活や自分自身とのかかわりで見たり考えたりする」ことは、自分の生活や自分自身とのかかわりで見たり、考えたりすることになるので、当然、自分の価値観に照らし合わせて見たり考えたりしているといえるのである。つまり、一般に行われている社会科の授業では、社会的なものの見方・考え方を指導する中で、無自覚的に社会的な価値を取り扱っている場合も多く見られるといえる。
今日の価値多元化した社会の現状を見ると、社会的な価値を意識させた社会科学習は必要であるといえる。しかしながら、前述したように、社会的な価値を意識させた学習の取り組みはまだまだ十分ではないのが現状である。価値判断を含むことが多い意思決定型の学習に取り組んでいる際も、「よりよい社会を目指すためにはどうすればよいか」ということを問いながら、「よりよい社会とはどのような社会なのか」ということがあいまいであるがために、事実のメリット・デメリットのみに着目した意思決定に終始していた。
そこで、子どもたちに「よりよい社会」とはどのような社会なのかということを意識させるような見方や考え方が必要となる。本研究では、授業者によって、事実に対する見方・考え方と社会的な価値に対する見方・考え方が混在している状態にある「社会的なものの見方・考え方」との違いを明確にするために、社会的な価値をはっきりと意識させた見方・考え方を「社会についての見方・考え方」と定義する。
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