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「社会についての見方・考え方」を養う社会科学習に取り組んでみよう!

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研究の概要

研究テーマ
 

 

社会についての見方・考え方を養う社会科学習の在り方

研究テーマ設定の理由と研究の概要
 
社会の現状 及び 社会科の学習に求められていること
社会科における確かな学力
「社会についての見方・考え方」を養う授業の構想

社会の現状 及び 社会科の学習に求められていること 
 

変化の激しい現代社会において、就労年齢に達しても定職に就かない若者の増加や年金の未払い率の上昇など、社会への参加意識や社会的義務を果たそうとする意識が薄れてきている。また、民主主義社会における権利の一つである選挙においても投票率の低迷が続き、政治に対する関心の低さも問題となっている。これらの問題の要因として、社会の一員としての自覚の不足や自分と社会との関係をとらえることができていないことなどが挙げられる。

このような社会情勢を踏まえて、平成20年に小・中学校の新しい学習指導要領が告示された。今回の学習指導要領改訂は中央教育審議会答申(平成20年1月)を踏まえて行われている。この答申の中で、「社会科、地理歴史科、公民科においては、(中略)社会的な見方や考え方を成長させることを一層重視する方向で改善を図る。」と示している。この改善の方向は、今回新たに示されたものではなく、すでに平成10年の教育課程審議会の答申における改善の基本方針にも示されていた。つまり、この10年間、知識の獲得を中心とした内容構成から、社会的な見方や考え方の獲得を目指した学習へと質的な転換を図ることが求められてきていたのである。しかしながら、この10年間で、社会科の授業がこのような質的な転換を成し得てきたかといえば、まだ十分とはいえない。

また、現代社会は、価値多元化社会といわれている。各個々人や各集団が、それぞれの価値観をもちつつも社会という一つの枠組みの中で生活をしている。それゆえ、時にはそれらが対立し、社会的な論争問題となる場合がある。このような社会を主体的に生きていくために、様々な状況を的確に把握し、多面的、多角的に思考し、判断し、行動できるような力が求められている。そこで、近年の社会科教育では意思決定力の育成が重要視されている。小原(1994)は、意思決定力について、「問題場面での自己の行為を科学的な事実認識と反省的に吟味された価値判断に基づいて合理的に選択・決定するために必要な能力であり、目的・目標を達成するために考えられる実行可能な全ての行動案(手段・方法)、あるいは、問題を解決するために考えられる全ての解決策の中から、より望ましいものを選択・決定することのできる能力」と定義している。そこで問題となるのが、社会的な価値についての指導である。これまでの社会科教育においては、長く、社会的な価値についての指導を避ける傾向にあり、あいまいにしてきた部分がある。しかし、現代社会が直面している課題や今後、直面することが予想される課題の多くは価値観の違いによって解決策が分かれるような、それゆえ合理的な解決が困難な課題ばかりである。このような課題に対して社会的な価値を意識した上での合理的な判断を行い、適切な社会的行為を選択していくことがこれからの時代を生きる民主的な社会の主権者に特に求められているといえる。

社会科における確かな学力
 

本研究委員会が目指す「確かな学力をはぐくむ社会科学習の在り方」にかかわって、社会科における確かな学力についての考え方を述べたい。

平成20年3月に小学校新学習指導要領及び中学校学習指導要領が告示された。それぞれの教科目標を見ると次のようになっている。(下線は筆者)

                     【小学校】                               【中学校】


  この目標からも分かるように、小・中学校の社会科学習に求められているものは、国際社会に生きる平和で民主的な国家・社会の形成者の育成である。形成者とは、自らの意思でよりよい社会を築き上げようとする主体であると考える。

そのために義務教育の9か年においては、国家・社会の形成者として必要な公民的資質の基礎を養うことが社会科の究極的なねらいとされている。現代のように、社会の一員としての自覚の不足や自分と社会との関係をとらえることができていないといった問題を解決するためには、子どもたちに、社会は自分たちの生活と切り離されたバーチャルなものではなく、自分を取り巻く現実の社会であることを気付かせ、社会は自分たちで創造していくものであるということを意識させる必要がある。

そのためには、「どのような社会を求めていくのか」といったような社会的な価値について意識させていく必要があると考える。この社会的な価値にふれることについては、長く、社会科教育において敬遠されがちであった。しかし、未来に生きる子どもたちには、どのような社会が望ましいのかということを意識させ判断させていくような学習が必要である。

社会的な価値について意識させ、意思決定をさせていく上で大切なことがある。それは、価値判断に基づいて意思決定をするための前提として、科学的な事実認識をするために必要な知識や技能を確実に身に付けておくことである。前述の中央教育審議会答申においても、学習指導要領改訂の基本方針として「社会的事象に関する基礎的・基本的な知識、概念や技能を確実に習得させ、それらを活用する力や課題を探究する力を育成する」と述べてある。つまり、知識や技能を確実に習得すること、また、それらを活用する力や、探究する力を育成することと社会的な価値を意識させることを両立させることが、小・中学校の社会科教育の目標を実現するためには必要なのである。

本研究ではぐくみたい社会科における確かな学力とは、「必要な知識や技能を習得し、その知識や技能を基にして、社会的事象の特色や事象間の関連を理解し、説明するなどして、よりよい社会の在り方を考え、公正に判断することができる力」であると考える。この確かな学力をはぐくむために、本研究では、社会的な価値の意識化を図ることを重要視したい。それは、子どもたちに「目指す社会」を意識させ、考えさせることに他ならない。そのためには、いろいろな社会事象についての事実認識にとどまらず、社会的な価値までを意識した見方・考え方を指導することが必要であると考える。

「社会についての見方・考え方」とは
 

本研究では、「社会についての見方・考え方」を養うことを研究主題としているとしている。ここで、「社会についての見方・考え方」と「社会的なものの見方・考え方」についての違いを明らかにしておく。

「社会的なものの見方・考え方」とは、社会生活を営む中で社会的事象は決して単独で存在することなく、何らかの形で他の社会的事象とかかわって存在しているということを認識し、そのような見方・考え方で社会的事象にかかわることができる資質・能力であるととらえる。

では、具体的にどのような見方・考え方が挙げられるのであろうか。北俊夫(1996)は「社会的なものの見方や考え方」として、次の10項目を挙げている。

  @ 事実に基づいて見たり考えたりする。

 A 社会的事象に対して自分なりに解釈(意味づけ)して見たり考えたりする。

 B 複数の社会的な事実を一般化したり抽象化したりして見たり考えたりする。

 C 社会的事象を多面的に見たり考えたりする。

 D 社会的事象を公正に見たり考えたりする。

 E 社会的事象を比較・関連・総合して見たり考えたりする。

 F 社会的事象を時間の経緯や空間的な広がりの中で見たり考えたりする。

 G 社会的事象を多面的に見たり考えたりする。 

 H 社会的事象を自分の生活や自分自身とのかかわりで見たり考えたりする。

 I 事実や解釈の限界性を意識して見たり考えたりする。

これらを見ていくと、そのほとんどが事実に対する見方・考え方であることが分かる。しかし、これらは、社会的な価値に対する見方・考え方としてとらえることもできる。例えば、Hの「社会的事象を自分の生活や自分自身とのかかわりで見たり考えたりする」ことは、自分の生活や自分自身とのかかわりで見たり、考えたりすることになるので、当然、自分の価値観に照らし合わせて見たり考えたりしているといえるのである。つまり、一般に行われている社会科の授業では、社会的なものの見方・考え方を指導する中で、無自覚的に社会的な価値を取り扱っている場合も多く見られるといえる。

今日の価値多元化した社会の現状を見ると、社会的な価値を意識させた社会科学習は必要であるといえる。しかしながら、前述したように、社会的な価値を意識させた学習の取り組みはまだまだ十分ではないのが現状である。価値判断を含むことが多い意思決定型の学習に取り組んでいる際も、「よりよい社会を目指すためにはどうすればよいか」ということを問いながら、「よりよい社会とはどのような社会なのか」ということがあいまいであるがために、事実のメリット・デメリットのみに着目した意思決定に終始していた。

そこで、子どもたちに「よりよい社会」とはどのような社会なのかということを意識させるような見方や考え方が必要となる。本研究では、授業者によって、事実に対する見方・考え方と社会的な価値に対する見方・考え方が混在している状態にある「社会的なものの見方・考え方」との違いを明確にするために、社会的な価値をはっきりと意識させた見方・考え方を「社会についての見方・考え方」と定義する。

「社会についての見方・考え方」を養う授業の構想
 

子どもたちに「社会についての見方・考え方」を養うために、意思決定型の学習を取り入れる。意思決定型の学習とは、子どもたちに目的・目標を達成するために考えられる実行可能なすべての行動案(手段・方法)、あるいは、問題を解決するために考えられるすべての解決策の中から、より望ましいものを選択・決定させる学習である。

行動案や解決策を検討するためには、資料の分析や話し合いによる吟味などが考えられる。それらの活動に取り組む中で、子どもに「社会についての見方・考え方」を意識させるために、どのような社会を目指したいのかということを常に考えさせる。「目指す社会を考えさせること」とは、「それらの行動案や解決策を選択することにより、どのような社会を選択したことになるのか」ということを考えさせることである。

例えば、学習の中で「社会福祉に使う目的で消費税を引き上げる」という政策の吟味をするとする。これは、どのような社会を目指したことになるのであろうか。消費税は所得の多い少ないにかかわらず、買ったものに対して同じ割合で課税されるので、国民は、消費活動の上では、公平な立場で税を支払うことになる。税率が上がるので税負担は増えるが、安心した老後を約束されたり、健康を害したときなどの医療費などについても不安がなくなったりする。つまり、「国民全員が一律に負担をしなければならないが、いざというときに安心な社会」ということになる。さらに考えを進めていくと、「お互いがお互いを支えあう社会」「共生の社会」などというように「目指す社会」が見えてくる。もちろん、発達段階に応じて言葉のレベルに違いはあるが、どのような社会を目指していることになるのかを子どもたちにイメージさせることにつながる。

授業の中では、この「目指す社会」を意識させた上で、解決策の是非や選択において、判断を迫る授業を展開したり、自分が選択した解決策はどのような社会を選択したことになるのか、「目指す社会」を考えさせ、意識させたりするなどの学習活動が考えられる。

このことにより、子どもたちは、解決策のメリットやデメリットの吟味などにとどまらず、それらに含まれている価値を意識することになる。つまり、選択した解決策によって、自分が目指したい社会とはどのような社会なのかということまでを考えることにつながり、判断を迫られた問題だけではなく、社会の在り方そのものを意識することになる。このような経験を積み重ねることにより、社会と自分とのかかわりを今まで以上に自覚し、よりよい社会をつくろうとする公民的資質の基礎が養われていくと考える。

 

具体的な発問や活動の例

本研究における「社会についての見方・考え方」を養う意思決定の場面
 
校種
学年
単元名
意思決定内容
リンク


第3学年
「まちの人たちのしごと
〜どこで買うの そのわけなんだろう〜」

地域のスーパーマーケットの食料品売り場について、
@ 地元の物だけを売っているスー

 パーマーケット
A いろいろなところの物を売ってい

 るスーパーマーケット
のどちらがよいか選択する。


第4学年
「そのごみどうするの
〜ごみべらし作戦を考えよう〜」

ごみをへらすためのプランとして、
@物を最後まで使うようにチラシで呼

 びかける
Aレジぶくろを高い値段にする
のどちらがよいか選択する。


第5学年
「わたしたちの生活と情報」 小学生誘拐事件が起きた場合、 テレビのニュースで事件を報道するべきかどうかを判断する。

第6学年
「住みよいくらしと政治の働き」 道路建設のための予算を増やし、もっとたくさん道路をつくるべきか、予算を減らして道路建設を控えるべきかを判断する。


第1学年
歴史的分野
「武士による政治のはじまり
〜1221年の承久の乱、あなたならどちらの味方になる?!〜」
承久の乱の時代に身を置き、
@後鳥羽上皇が目指した社会
A北条政子が目指した社会
のどちらがよいか選択する。
第2学年
地理的分野
「資源とエネルギー
〜バイオエタノールは必要か?〜」
日本のエネルギー事情、食糧問題、環境問題を考えて、バイオエタノールは必要かどうかを判断する。
第3学年
公民的分野
「平和主義の選択
〜日本は憲法第9条を守るべきか、改正すべきか〜」
日本は平和を維持するために、憲法第9条を守るべきか、改正するべきかを判断する。

引用文献・参考文献
 

<引用文献>

・文部科学省              『小学校学習指導要領解説 社会編』 平成20年8月 

                                                   東洋館出版社  p..10

・文部科学省              『中学校学習指導要領解説 社会編』 平成20年9月 

                                                   東洋館出版社  p.17

・北 俊夫                『「生きる力」を育てる社会科授業』 1996年 明治図書 

・小原 友行              「社会科における意思決定」 社会認識教育学会編『社会科

                       教育学ハンドブック』 1994年 明治図書 p.170

<参考文献>

・岩田 一彦              『社会科固有の授業理論』 2001年 明治図書

・松尾 正幸/佐長 健司編著   『ディベートによる社会科の授業づくり』 1995年 明治図書

・佐長 健司              「社会科授業における価値判断指導の検討」全国社会科教

                      育学会『社会科研究』第65号 2006年11月 

・原田 智仁              『社会科教育へのアプローチ』 2002年 現代教育社 

・佐賀県中学校教育研究会社会科部会  

                       『平成19年度佐賀県中学校社会科研究会研究会報<第40号>』  


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最終更新日: 2009-03-30