平成24年度 佐賀県教育センター プロジェクト研究報告 

 
5 学習に苦手さを抱える生徒への「支援の手引き
     
(1) 「支援の手引き」について  
 

生徒と教育職員の意識調査の結果を基に、苦手さを抱えている生徒が多かった「話すこと」「聞くこと」「課題への取組」の領域に対して、効果的だと思われる支援と他の領域「書くこと」「読むこと」「見ること」「注意・集中」「道具の管理」について実施しやすいと思われる支援を中心に「支援の手引き」を作成した。作成に当たっては、高等学校における実際の学習場面について、高等学校の教育職員から聞き取ったり、高等学校での学習支援に関わる文献を参考にしたりした。
  ここに挙げている支援の中には、教科の特性上、実施が難しいと思われる支援や個別に実施した方がよいと思われる支援などもある。そのため「支援の手引き」を活用する際には、担当する教科や生徒の実態に合わせて支援方法を工夫したり選択したりしていくことが必要である。

また、教育職員の意識調査から分かった取り組みやすい支援としては、「話すときは、ゆっくり話す」、「話すときは具体的に話す」など、学習の基本的なことに関わるもので、集団に対して自然に取り入れやすいものであった。これらの支援は、全体に活用しやすく、継続することで大きな効果があるという視点で紹介をしている。一方で、個別の対応や準備が必要な「書く内容や組み立ての視覚的な手掛かりを用意する」、「生徒と一緒にテスト勉強の計画を立てる」などの支援は、高等学校の教育職員にとっては、どちらかというと取り組みにくいものであった。これらの支援については「支援の手引き」の中で取り組みやすくなるための工夫を含めて紹介している。

 
     
(2) 「支援の手引き」の見方  
  《具体的な支援例》  
ノートのマス目や罫線の幅を選択できるように紹介する
 ノートを見返したときに分かるように、整理して書くことや数式や英単語のつづりを正しく写すことが苦手な生徒への支援。
  見やすいように書くことが苦手な生徒は、文字の細かい部分を書き間違えたり、文字の間隔が適切でなかったりすることがある。
  そこで、生徒が自分で使いやすい罫線の幅やマスの大きさ等を選択することで、書く文字の大きさを工夫することができ、細かい部分などを正しく写すことができると考えられる。
 
 
 
 

実際の授業や学習に関する指導場面での様子を、写真や図で見ることができます。

   この支援が有効と思われる生徒像

 生徒が抱えている具体的な苦手さ

 この支援をすることで期待される効果

 
     
(3) 具体的な学習活動場面ごとの具体的な「支援の手引き」  
「書くこと」が苦手な生徒への支援  
ノートのマス目や罫線の幅を選択できるように紹介する

ノートを見返したときに分かるように、整理して書くことや数式や英単語のつづりを正しく写すことが苦手な生徒への支援。
 見やすいように書くことが苦手な生徒は、文字の細かい部分を書き間違えたり、文字の間隔が適切でなかったりすることがある。
 そこで、生徒が自分で使いやすい罫線の幅やマスの大きさ等を選択することで、書く文字の大きさを調節し、自分の書きやすい文字の大きさで書くことができ、細かい部分などを正しく写すことができると考えられる。

 
 
ノートの書き写す量を調節する

板書を時間内に書き写すことが苦手な生徒への支援。
 見ながら書くことが苦手な生徒は、板書を書き写すことに時間が掛かってしまい、それ以外の話を聞いたり、活動したりできなくなることがある。
 そこで、書き写す量を少なくするために、図や絵を板書の中に取り入れ板書量を減らしたり、板書の図と同じワークシートを用意したり、ワークシートをノートに貼れるようにしたりすることで、必要な部分だけを短い時間で書き写すことができるようになると考えられる。

 
 
書く内容や組み立ての視覚的な手掛かりを用意する

作文や小論文などを書くときに、書く内容や文章の組み立てを考えるのが苦手な生徒への支援。
  書く内容や組み立てを考えることが苦手な生徒は、筋道が通りにくい文章を書いてしまうことがある。

そこで、書く内容や組み立てが視覚的に分かるように、ワークシートを用意したり、板書で図示したりすることで、書こうとする内容のイメージをもつことができ、読む人に伝わりやすい文章を書くことができると考えられる。

 
 
 
「聞くこと」が苦手な生徒への支援  
話をするときは、具体的に話す

教師の話の中で、正しく言葉の意味を理解することが苦手な生徒への支援。
 言葉による指示などを正しく理解することが苦手な生徒は、指示されたように活動できなかったり、自分だけ違ったことをしたりすることがある。

 そこで、話をするときに、できるだけ具体的な説明を取り入れて話すことで話の内容のイメージをもてるようになり、正しく教師の話を理解することができると考えられる。
 
 
話をするときは、ゆっくり話す

教師の話のスピードに合わせて話を聞くことが苦手な生徒への支援。
  話のスピードに合わせて聞くことが苦手な生徒は、言葉を聞き洩らしたり聞き間違いをしたりして、話の内容を正しく理解することができずに困っていることがある。

そこで、話をするときにはできるだけゆっくり話すことを心掛ける。特に大事なところは、さらにゆっくり話すことで言葉を聞き取りやすくなり、話の内容を理解することにつながると考えられる。

 
 
座席を前の方にする

教師の話を聞きもらさなかったり、聞いたことを正しく覚えたりすることが苦手な生徒への支援。
  言葉による指示や説明を正しく聞いて覚えることが苦手な生徒は、話の内容が分からないままで授業や活動に参加していることがある。
  そこで、座席を前の方にすると、聞くことに集中できたり、教師に質問しやすかったりして、話の内容の理解につながると考えられる。また、教師も生徒の把握や声掛けを行いやすくなると考えられる。

 
 
 
「話すこと」が苦手な生徒への支援  
少人数グループでの話し合い活動をする

クラスのみんなの前で発表することが苦手な生徒への支援。
 集団の前で話すことが苦手な生徒は、自分の思いをうまく話せずにもどかしさを感じていると思われる。

 そこで、少人数のグループの中での発表場面を取り入れることで、小集団の中で自分の考えを話す経験ができ、次第に人前で話すことへの抵抗が和らいでいくと考えられる。
 
 
発表のときに、事前に話す内容を書いてから発表する

頭の中で自分の考えをまとめてから発表することが苦手な生徒への支援。
   話そうとする内容をまとめてから話すことが苦手な生徒は、話すことへの抵抗が見られたり、また、内容を順序よく話すことができなかったりして、発表場面で戸惑うことがある。

そこで、生徒が事前に話す内容を紙に書くことで、話す内容が整理でき、書いたことを基に発表することができる安心感がもて、相手に分かりやすく伝えることができると考えられる。

 
 
「いつ」「どこで」「誰と」「何をした」など、答えやすいような問い掛けをする

話している途中で、言葉を思い浮かべながら、まとまりよく話すことが苦手な生徒への支援。
  まとまりよく話すことが苦手な生徒は、筋道を立てて話せず思いつくまま話をしたり、言葉に詰まってしまったりすることがある。

  そこで、言葉に詰まっているときには、聞き手が「いつ」「どこで」など、話題に沿って答えやすいような問い掛けをすることで、話す言葉が思い浮かびやすくなり、自分の思いを的確に伝えることができるようになると考えられる。
 
 
     
「読むこと」が苦手な生徒への支援  
漢字にふりがなを付ける

教科書に出てきた漢字を間違えずに読むことが苦手な生徒への支援。
 漢字を読むことが苦手な生徒は、文章をつかえずに読んだり、文章の意味を理解したりすることができずに困っていることがある。

 そこで、読み間違いをしやすい漢字や専門的な用語の漢字にふりがなを付けると、自分で正しく読むことができるようになり、学習内容の理解につながると考えられる。
 
 
読み間違いをしやすい語句や漢字に声掛けや印を付ける

文中の語句や問題文の指示を正確に読むことが苦手な生徒への支援。
  文中の語句を正しく読むことが苦手な生徒は、指示や説明などでの大事な部分を誤って読み、間違った解答や行動をする場合がある。
  そこで、読み間違いをしやすい語句や漢字については声掛けをしたり、語句にラインを引いたりすることで、指示や説明の大事な部分が正しく理解でき、指示通りに問題や課題に取り組むことができるようになると考えられる。

 
 
文章理解のために図などの視覚的手掛かりを使う
 文章理解が苦手な生徒への支援。
 
文章の理解が苦手な生徒は、その内容が分からず困っていることがある。
  そこで、文章で書いてあることを図や絵などで示すことで、その内容が理解できるようになると考えられる。
 
 
     
「見ること」が苦手な生徒への支援  
見やすいチョークの色で板書する

チョークの色によって板書の文字が見えにくい生徒に対する支援。
  チョークの色によって板書の文字を見ることが苦手な生徒は、板書された文章や単語が見えず、考えたり書き写したりすることができずに困っていることがある。

 そこで、黒板に文字を書く際は白色チョークや黄色チョークを使用し、要点やキーワードなどを囲む際は黄色や赤色のチョークを使用することで、板書の文字が見えやすくなり、書かれた言葉や大事な部分を意識しながら考えたり書き写したりするようになると考えられる。
 

 

 
黒板やワークシートでは、要点やキーワードなどに印をつけて提示する

学習の大事なポイントがどこかを見分けることが苦手な生徒への支援。
  大事なポイントを意識しながら見ることが苦手な生徒は、要点やキーワードを意識して板書を見たり書き写したりすることができずに困っていることがある。

 そこで、大事なポイントや例の場所が分かるように印を付けて板書したり、要点となる大事な箇所に下線を引いたりすることで、要点やキーワードを意識できるようになり、内容理解につながると考えられる。
 
 
大きい図や表を使用する

図や表の中の言葉や記号を見ることが苦手な生徒への支援。
  文字が小さくつまった表や細かく描かれた図などを見ることが苦手な生徒は、かかれた大事なポイントを意識できないことがある。

そこで、図や表を拡大し黒板に提示したり、パワーポイントを使って提示したり、大事なポイントに印を付けたりすることで、図や表が見やすくなり、説明されている内容や大事なポイントを理解しやすくなると考えられる。

 
 
 
「注意・集中」が苦手な生徒への支援  
教室前面の掲示物を少なくする

授業を集中して受けることが苦手な生徒への支援。
  授業に集中することが苦手な生徒は、周りの掲示物に気を取られることが多い。

 そこで、教室の前面の掲示物をできるだけ少なくすることで、授業に必要ない余計な情報が減り、黒板や教師の話に注意を向けることができ、学習に集中できるようになると考えられる。
 
 
活動を区切りながら取り組むようにする

授業の見通しをもって集中して最後まで受けることが苦手な生徒への支援。
  授業の見通しをもつことが苦手な生徒は、学習意欲や集中が途切れてしまうことがある。

 そこで、生徒が取り組みやすい活動の量や内容を、細切れに区切りながら取り組むことができる場面を設けることで、授業の見通しをもつことができ、注意を持続して授業に参加することができるようになると考えられる。
 
 
座席は刺激の少ない場所にする

周りの様子に気が散ることなく授業に参加することが苦手な生徒への支援。
  周りの刺激に反応し気が散りやすい生徒は、学習に集中できないことがある。

 そこで、生徒の座席を周りの刺激の少ない場所にすることで、目や耳に入る情報が少なくなり、授業に集中して取り組むことができると考えられる。また、気を鎮めたいときに教室から出やすくなり、安心して取り組むことができると考えられる。
 
     
     
「道具の管理」が苦手な生徒への支援  
整理用の箱を準備する

学習プリントや学習道具を整理することが苦手な生徒への支援。
  整理整頓が苦手な生徒は、学習プリントや学習道具等、ばらばらになっているものを管理できずに紛失してしまうことがある。

 そこで、個人用の整理箱に学習道具を入れるようにしたり、教科別に色分けしたファイルにプリントを綴じるようにしたりすることで、整理する場所を意識しやすくなり、学習プリント等を紛失することが減ってくると考えられる。
 
 
準備が必要なものはメモをする(メモを渡す)

忘れ物をせず、次の日の準備をすることが苦手な生徒への支援。
   忘れ物が多い生徒は、授業の活動に十分参加できないでいることがある。
   そこで、持ってくる物をメモするように声掛けをしたり、メモをすることが難しい生徒には、持ってくる物を付箋に書いて渡したりすることで、忘れ物をしないで授業に参加できるようになると考えられる。

 
 
 
「課題への取組」が苦手な生徒への支援  
課題提出に十分な時間を取る

期限内に課題を終わらせることが苦手な生徒への支援。

決められた期間内に、課題を終わらせることが苦手な生徒は、課題の量や時間的な見通しをもって取り組むことができないことがある。
 そこで、提出日の声掛けをしたり、課題がどれくらい進んでいるかを細やかに確認したりしていくことで、提出日を意識しながら課題に取り組むことができると考えられる。

 
 
テスト勉強の計画を一緒に立てる

テストに備えて、勉強の計画を自分で立てることが苦手な生徒への支援。

テスト勉強の計画を自分で立てたり、優先順位を決めて取り組むことが苦手な生徒は、テスト当日までの見通しが立っていないことがある。

そこで、生徒が教師と相談しながら予定表をつくり、教師が定期的に声を掛けたり、途中で予定表を提出させたりすることで、勉強のペースを意識できるようになると考えられる。

 
     
     
 
Copyright(C)2013 SAGA Prefectural Education Center All Rights Reserved.