|
平成24年度 佐賀県教育センター プロジェクト研究報告
 
|
|
|
|
(3) |
高校生と発達障害 |
|
|
|
|
|
ア |
発達段階としての高校生の時期について |
|
|
|
アメリカの発達心理学者 エリクソンは、発達段階論で、高校生の時期を、青年期にあるとしている。
青年期は、自分がどんな人間かということを確立することが課題となり、同一性(identity)の確立を目指して試行錯誤しながら、やがて自分の生き方、価値観、人生観、職業を決定し、自分自身を社会の中に位置付けていく時期だと述べている。
さらに、児童青年精神科医の佐々木は、青年期を、自分らしさが気になり始めて、自分を他人と比べたり、男女の違いを意識したり、アイデンティティが確立されたりする時期だと述べている。
このように、高校生の時期は、生徒が自分とは何者かを考え始めるようになり、自分らしさを探すため自分を他人と比べる時期であり、自分と他人のささいな違いを気にしていろいろ思い悩む時期だと言える。
|
|
|
|
|
|
|
イ |
発達障害の特性について |
|
|
|
平成16年に制定された発達障害者支援法では、「発達障害は、自閉性障害、アスペルガー症候群、その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能障害であって、その症状が通常低年齢において発現するもの」と定義されている。 これらの障害の特性については、下記で説明する。
これらの発達障害は、小さい頃のしつけや親の育て方が直接の原因でもなく、本人の努力不足が直接の原因でもない。そして、周りの人の対応によって、あるいは年齢に伴ってなど、条件の違いによって状態が著しく変化することがあり、これらの状態が重なり合っていることもある。また、一人一人異なった状態が見られる。
|
|
|
(ア) |
自閉性障害 |
|
|
|
自閉性障害には、知的な発達に遅れを併せ有する場合と知的な発達に遅れのない場合がある。どちらにも共通していることとしては、「他人との社会的関係の形成の困難さ」、「言語の発達の遅れ」、「想像力の弱さから興味や関心が狭く特定のものにこだわること」が挙げられる。自閉性障害の中で知的な発達に遅れがない場合には、「高機能自閉性障害」といわれることがあり、また、知的な発達に遅れはなく、言葉の発達に遅れを伴わない際には「アスペルガー症候群」といわれている。自閉性障害の特徴は、大きく以下の3点にまとめられる。
1点目は、「社会性」の特性である。例えば、暗黙のルールが分からずに、静かにしなければいけない場所で大声を出してしまったり、買い物の際にレジの列に並ばないといけないのに横入りしてしまったりするという姿である。
2点目は、「コミュニケーション能力」の特性である。例えば、相手の気持ちが分からずに、自分の興味・関心があることを一方的に話し続けたり、表情やしぐさなど、言葉以外を使ったコミュニケーションを理解することも使うことも苦手で、言葉を字義通り理解してしまったりするという姿である。
3点目は、「想像力」の特性である。例えば、くるくる回る、手をヒラヒラさせたり指をねじ曲げる等、常同的で反復的な運動があったり、 就寝前に、必ず部屋を3周歩き回る等の特定の習慣に固執したりするという姿である。
上記に挙げた例は、あくまで特性の一部であり、一人一人の特性が様々な行動として表れることがある。
|
|
|
(イ) |
学習障害(LD) |
|
|
|
学習障害(LD)は、認知能力に偏りがあり、学習内容に対する理解や定着の困難さとして表れることがある。例えば、音声は聞こえているが、意味のある音として、また、言葉として捉えられていなかったり、文脈全体の意味を理解していなかったりすることにより、説明や指示の理解が困難な状態になることがある。
「話すこと」においては、適当な言葉が見付けられなかったり、発音しにくい音や言葉があったり、うまく文を組み立てることができなかったりすることにより、自分の考えや思いを他人にうまく伝えることが難しいことがある。
「読むこと」では、形や位置を識別し、記憶することができなかったり、文字と音を適切に結び付けられなかったりすることにより、文章を理解し内容を整理して把握することが困難な状態になることがある。
「書くこと」では、文字情報を分析する視覚認知において課題があることにより文字や文章を書くこと、計算すること、形を整えることが困難な状態になることがある。
「計算すること」では、「数」が「量」や「順序」を表していることを理解する力や計算すべき数や繰り上がりを記憶する力などに苦手さがあるために、繰り上がりの計算ができない、数を論理的に操作できない等の状態になることがある。
「物事を予想したり推論したりすること」では、視覚・空間認知の困難さ、抽象的・論理的思考力の不足、視覚と運動を上手く関係付けコントロールできないことにより、図形の理解が苦手だったり、模写ができない、時間・場所の認識が弱い等の困難さとして表れることがある。
ここで挙げた例も学習障害の一部であり、一部だけが苦手さとして表れることもあるが、複数の苦手さとして表れることもある。
|
|
|
(ウ) |
注意欠陥多動性障害(ADHD) |
|
|
|
注意欠陥多動性障害(ADHD)のある生徒の主な特徴として、不注意・多動性・衝動性などが挙げられる。
「不注意」の側面としては、注意を適切に分配できなかったり、様々な外的な刺激に注意が向きやすかったりすることがある。例えば黒板やその周りに貼ってあるものや、ちょっとした物音や出来事によって、注意がすぐに散漫になってしまう。そのため、注意が戻ったときには授業が進んでしまっている状況になり、分からなくなる場合がある。
また、「多動性」の側面としては、じっとしていなければならない状況で過度に落ち着きがない状態である。例えば、授業中じっとしていることが難しく、身体を動かしたり、私語が禁じられている場面でも、近くの同級生に思いついたことを話したりすることがある。
「衝動性」の側面としては、人との会話中に、話題に関係ないことであっても頭に浮かぶと、すぐにそのことについて話しだすなど、会話がスムーズにつながらず、対人関係を困難なものにさせることがある。授業中では、教育職員の質問が終わらないうちに出し抜けに答えたり、分からないことがあるとすぐに質問したりすることがある。
このような行動の多くは年齢とともに改善していくが、教育職員や保護者からの叱責を受けてばかりいたり、同級生とのトラブルが頻発したりすると、自己肯定感が低下するとともに、言動がより乱暴になっていくことがある。
|
|
|
|
|
|
|
ウ |
高校生の発達障害 |
|
|
|
発達障害のある高校生は、その特性から学習面や生活面に様々な苦手さを抱えている。また、青年期という発達の段階にあり、自分らしさが気になり始めて自分を他人と比べたり、男女の違いを意識をしたり、自分とは何者かを考え始めたりするようになる。そういったアイデンティティが確立される時期に、発達障害の特性を有する生徒にとって、学習面や生活面で抱える苦手さに対しての理解と支援が遅れると、できなかったり、分からなかったり、分かってもらえなかったりという、失敗体験を積み重ねてしまうことになる。そして、自尊心が傷つき、自己肯定感が低下し、長期欠席や問題行動、学力不振などの二次障害が現れることになる。
発達障害の特性を有する生徒がアイデンティティを確立していく時期だからこそ、高等学校の学習面や生活面において生徒の自己肯定感を高めるために、「できる、分かる、分かってもらった」という成功体験を増やしていく環境を整えていくことが必要であり、そのための具体的な支援の方法を示していくことが求められる。 |
|
 |
 |
 |
 |
|
Copyright(C)2013 SAGA Prefectural Education Center All Rights Reserved.