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好ましい人間関係を育てる開発的・予防的教育支援の在り方の研究

  高等学校    個への支援事例

(1)生徒の実態

 

 
 
対象生徒 生徒C
学級担任から見た生徒Cの様子
(5月)
○成績は学級で上位。授業態度良好。成績を維持することへのプレッシャーを感じている。
○特定の生徒とは関係をつくれるが、集団での活動が苦手である。学校行事は見学が多い。
○学級担任とじっくり話す時間が取れていない。
「がばいシート」の結果
(1回目:5月)
〔グラフ1〕個人の様子
〔グラフ2〕学級の雰囲気

〔グラフ3〕教師との関係

*〔グラフ1〕の縦軸の数値は、各観点の回答状況を点数化し、合計したものである。好ましい状態であるほど点数が高く、満点は20点とする。
*〔グラフ2〕〔グラフ3〕の縦軸の数値は、各設問の回答状況を点数化したものである。好ましい状態であるほど点数が高く、最も好ましい回答は4点とする。
結果の分析 ○〔グラフ1〕では「学級の雰囲気」と「友達との関係」の点数に5点の差がある。
○〔グラフ2〕から分かるように、仲のよいグループ内の友達との関係性はよいが、学級の中にはルールを守らなかったり、言動に気を配らない生徒がいると感じている。
○〔グラフ1〕の「授業への意欲」の点数は大変高い。授業へは積極的に取り組んでいるといえる。
○「教師との関係」は他の観点と比べて最も点数が低い。〔グラフ3〕から分かるように、困っているときに教師に相談できないと思っている。
考察 ○成績がよく、授業に熱心に取り組むので一見問題のなさそうな生徒だが、〔グラフ2〕からは、学級に不満があることが分かる。
○授業へは積極的に取り組んでいることが〔グラフ1〕から分かるが、日常の観察からは、よい成績を取ることへのプレッシャーをいつも感じているようである。
○〔グラフ3〕から相談できる教師はいないと感じているし、学級担任も十分に話をする時間が確保できていない。成績へのプレッシャーや学級に対する不満など生徒Cが抱えている問題について、時間を取って話ができる環境を整えることが必要である。本人の素直な気持ちを出せる機会を設け、気持ちを安定させるような支援が必要と考える。
   

(2)支援の実際

 

 
 
ねらい            @生徒Cが抱えるプレッシャーやストレスを軽減し、気持ちの安定を図る。そして、自分の課題を整理して解決できるよう援助していく。
A教師との関係性の改善を図る。
方法 @「がばいシート」の結果を踏まえて、1か月に1回、研究担当者が個人面接を行う。かしこまった面接にすると抵抗感があるようなので、場所や時間帯など、本人がゆったりした気持ちで話ができるように配慮をする。
A学級担任以外の関係職員も生徒Cとかかわる機会を設ける。具体的には、養護教諭、副担任、司書等が本人に対して声掛けをし、放課後や休み時間を中心に時間を取って話を聴く機会を設ける。
支援の実際
面接での支援
○内容 及び ●留意した点


○互いの自己紹介。好きなことや自慢したいこと等。
●受容に徹する。安心して話せるように常にゆったりとした雰囲気をつくり、ラポールの形成を心掛けた。  


○過去の話や面接者を試すような発言。
●どんな内容の話を聴いても、慌てたり、不必要に驚いたりしないで、肯定的な態度で受け止め、認めるような応答をした。


○将来について語る。明るい内容。
●本人の気持ちに寄り添いながら、面接者の個人的な経験や意見を混ぜながら話をした。


○現在の自分が抱えている問題について。面接を楽しみにしていると発言。
●共感を示すとともに、具体的に何が問題なのか明確にできるように支援した。
●生徒Cからの質問に答える際は、専門的な立場から可能なこと、不可能なことをあいまいにせず伝えた。


○進路について。
●前回から引き続き具体的なアドバイスを求めているので、面接者が経験したこと、また専門的な情報を中心に話をした。
面接の際の基本的な考え方
  面接は援助(支援)の一つであるが、同時にアセスメントの機能ももつ。1対1でかかわることで、不安や葛藤を和らげ、子どもが出会っている問題状況を把握し、それを自分の力で解決できるように援助する。Being-In(理解者になる)、 Being-For(味方になる)、 Being-With(人間としてかかわる)、の3つのかかわり方を教育相談の基本とする。
※参考文献 「学校心理学」 石隈 利紀 1999年 誠信書房
  面接の際に、留意したほうがよい点をまとめています。
                →こちらをご覧ください。
   

(3)生徒の変容と考察

 

 
 
「がばいシート」の結果
(2回目:11月)
 

〔グラフ4〕個人の様子
〔グラフ5〕自己存在感

〔グラフ6〕教師との関係

結果の分析 ○〔グラフ4〕から 「自己存在感」「授業への意欲」の点数は前回に比べて下降したことが分かる。
○〔グラフ5〕を見ると、友達とは楽しく過ごしているようだが、学級の中で他の生徒から感謝されたり、役に立っていると感じたりすることが少ないようである。
○一方、〔グラフ4〕から「学級の雰囲気」「友達との関係」「教師との関係」の点数は前回に比べて上昇した。
○特に「教師との関係」が5点上昇した。〔グラフ6〕から教師と気軽に話すことができるようになったようである。
変容と考察 ○個人的なトラブルが原因で学習に集中できないときがあり、成績が下がった。このことは、「がばいシート」の「授業への意欲」の点数が下降したことに関係していると考える。
○日ごろから学校行事に参加する機会が少なく、学級の中で自分が役に立っていると感じることがあまりないようである。そのため、「自己存在感」の点数が下降したと考える。
○「教師との関係」の点数が上昇したのは、学級担任だけでなく、養護教諭、司書教諭、学年主任等からの声掛けの効果が表れ、複数の教師と気軽に話ができるようになったことが要因だと思われる。信頼している教師には、自分の抱える悩みを打ち明けるようになった。
○面接を毎回楽しみにしている。面接後の表情はすっきりと明るい表情である。いろいろな立場の大人と話をするのはよい気分転換になっているようである。
○仲のよい友達以外とは、依然として打ち解けようとしない。
   

(4)今後の取り組み

 

 
 
○毎月の面接は、生徒Cの精神的な安定を図るために効果的であったと思われる。今後は、養護教諭や教育相談担当等が研究担当者の役割を引き継ぎ、生徒の抱える問題を受け止めていく。
○11月の2回目の「がばいシート」の結果からも分かるように、2学期に入って、学習に対しての取り組みが安定していないので、普段のテストだけではなく、進路について考える機会を与え、計画的な学習ができるように関係職員と協力し、支援していく。
○ごく少数の友達以外との接触を避ける傾向があるので、いろいろな考え方をもつ人間とうまく付き合えるようなソーシャルスキルを習得させる機会をもつ。その中で、学校行事にも徐々に参加できるような支援をしていく。

 

 

 

 


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最終更新日: 2010-03-18