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◇視覚的な支援と操作的活動を取り入れた授業の実際

【小学校第2学年 算数科】

 1 個別の教育支援計画に見られる気になる児童の様子(○・・・得意なこと、●・・・苦手なこと)

 
*この色の文字は、本時の主な支援につながる児童の様子
学びの要素等
児童A
児童B

児童の特性


*「個別の教育支援計画」のアプローチシートの学校・生活の理解シートより


聞くこと
個別に出された指示を聞いて、理解することができる。
聞いたことを何度も聞くことがある。
話の内容を正確に聞き取ることが苦手である。
視覚的に訴えると興味をもち、聞くことができる。
話の内容を正確に聞き取ることが苦手である。

話すこと
興味のあることや好きなことについては、自分から話をすることができる。
経験したことは、順序よく話すことができる。
思ったことを伝えることは苦手である。



興味のある話題については、友達と会話をすることができる。
発表する時には、話型があると、それを使いながら話すことができる。
思ったことを伝えることは苦手である。



読むこと
指で文をたどって読むことができる。
ひらがな、カタカナを読むことが苦手である。
文章を読んで、内容を理解することが苦手である。

ひらがな、カタカナは読むことができる。
学年相応の漢字を読むことができる。
音読が苦手である。
文章を読んで、内容を理解することが苦手である。


書くこと
文字を書くことがとても苦手である。
特殊音節(拗音、促音等)を正しく表記することが苦手である。
文章で考えを表現することが苦手である。


学年相応の漢字を書くことができる。
文を書くことが苦手である。
計算・推論
繰り上がりのないたし算、ひき算であれば、指を使って答えを出すことができる。
半具体物の操作をすることで、計算の答えを考えることができる。
繰り上(下)がりのあるたし算、ひき算を暗算ですることが苦手である。
言葉だけの説明で、その内容を表す簡単な絵や図を描くことが苦手である。

繰り上(下)がりのないたし算、ひき算であれば、暗算で答えを出すことができる。
半具体物の操作をすることで、計算の答えを考えることができる。
繰り上(下)がりのあるたし算、ひき算を暗算ですることが苦手である。
言葉だけの説明で、その内容を表す簡単な絵や図を描くことが苦手である。


運動
縄跳びやボール投げなど粗大運動はできる。
縄跳びやボール投げなど粗大運動はできる。
注意・集中
写真や映像、具体物に注目しやすい。
短い時間の活動には、取り組むことができる。
人の話に注意を向けて聞くことが苦手である。
写真や映像、具体物に注目しやすい。
人の話に注意を向けて聞くことが苦手である。
多動・衝動
順番やルールを守って行動することができる。
話を聞くときに、手遊びをすることがある。

順番やルールを守って行動することができる。
話を聞くときに、手遊びをすることがある。
社会性
友達とかかわるのが好きである。
進んで先生の手伝いをする。
話す相手に合わせた言葉遣いは苦手である。
友達と誘い合いながら、遊んだり活動したりすることができる。

 2 単元について

単元名
小学校第2学年 算数科「新しい計算を考えよう(かけ算1)」
単元に
ついて

これまでの既習事項を活用しながら、「かけ算」という新しい計算方法を学ぶという乗法の導入の学習である。乗法の学習は、以後の算数学習の基礎となる。そこで、乗法の導入である本単元の役割は、乗法のもつ有用性について気付かせることをねらいとしている。
第1学年の学習で、数のまとまりに着目して「2とび」や「5とび」などの数の系列や「10のまとまり」をつくるなど、同じ数のまとまりの個数を数えて総数を求めるというような乗法の素地的経験をしてきている。
本単元では、これらの経験を基に乗法がどのような場合に用いられるかをとらえさせることを通して、乗法を用いて計算することのよさに気付かせたい。
単元の
目標
乗法のよさに気付き、乗法の意味について理解し、進んでそれを用いることができる。
身の回りの乗法で表される場面に気付き、ものの個数をとらえるときに進んで乗法を用いようとする。
全体の個数を出すときに、もとになる「1つ分の数」とその「いくつ分」かについて考える。
乗法が用いられる場合を具体物や式で表したり、乗法九九(5、2、3、4の段)を構成して九九を唱えたりする。
乗法が用いられる場面を通して乗法の意味と求め方を理解するとともに、乗法の構成の仕方を理解する。
  • 対象児童の
    支援について


    *支援のポイントについては、「個別の教育支援計画」のアプローチシート及びアクションシートを基に考える。




































児童の様子 支援のポイント


A
話を聞いたり、文章を読んだりして、その内容を理解することが苦手である。
言葉だけの説明で、その内容を表す簡単な絵や図を描くことが苦手である。
人の話に注意を向けて聞くことが苦手である。
具体物に注目しやすい。
手順やルールが分かると、活動に取り組むことができる。
話を聞いたり、文章を読んだりして、その内容を理解することが苦手である。
具体物を操作して、計算の答えを求めることができる。
話を聞いて理解することが苦手である。
短い時間の活動には、取り組むことができる。
思ったことを伝えることは苦手である。
言葉だけの説明で、その内容を表す簡単な絵や図を描くことが苦手であるため、キーワードとなる言葉(「1つ分の数」「いくつ分」)が分かりやすくなるように色を付けて表示し、それに対応するところはすべて同じ色で示すことで視覚的に理解しやすくする。また、個人活動においても、同じ色の付せんを使うようにすることで、乗法の意味について理解しやすくする。
頭の中で数の操作をすることが苦手であるため、半具体物を使い、実際の操作を取り入れることで、乗法の意味について理解しやすくする。

長時間集中して話を聞き、活動することが苦手であるため、活動の説明をするときは、少しずつ区切って行う。また、説明と活動を交互に行うようにすることで、1つの活動の内容を理解し、確認しながら次の活動に取り組むことができるようにする。

思ったことを人に分かるように伝えることが苦手であるため、友達との交流の時は話型を用意し、それを見ながらできるようにする。


B
話を聞いたり、文章を読んだりして、その内容を理解することが苦手である。
人の話に注意を向けて聞くことが苦手である。
具体物に注目しやすい。
手順やルールが分かると、活動に取り組むことができる。
話を聞いたり、文章を読んだりして、その内容を理解することが苦手である。
具体物を操作して、計算の答えを考えることができる。
自分の考えを伝えることが苦手である。
発表する時には、話型があると、それを使いながら話すことができる。
友達とかかわることを好む。
言葉だけの説明で、その内容を表す簡単な絵や図を描くことが苦手であるため、キーワードとなる言葉(「1つ分の数」「いくつ分」)が分かりやすくなるように色を付けて表示し、それに対応するところはすべて同じ色で示すことで視覚的に理解しやすくする。また、個人活動においても、同じ色の付せんを使うようにすることで、乗法の意味について理解しやすくする。
頭の中で数の操作をすることが苦手であるため、半具体物を使い、実際の操作を取り入れることで、乗法の意味について理解しやすくする。
自分の考えを人に分かるように伝えることが苦手であるため、友達との交流の時は話型を用意し、それを見ながらできるようにする。

 3 本時について

本時の
目標
かけ算の意味を理解することができる。
本時の
ポイント
本時は、かけ算の意味を理解することをねらいとしている。まず、かけ算の式を作るときの「1つ分の数」とその「いくつ分」を区別できるように、キーワードや操作するときの道具を色分けして視覚的にとらえやすくする。その後、おはじきやスタンプなどの半具体物を操作することにより、体験的にかけ算の意味を理解できるようにする。
また、活動の手順を説明するときは、内容を1つずつ分けて順番に伝えるようにする。さらに、ペア活動の際には、話型を提示し、活動に取り組みやすくする。
本時の
流れと
主な支援

主な学習活動
対象児童への主な支援
本時の学習の流れを知る。
 
本時の問題を知り、課題をつかむ。
「1つ分の数」「いくつ分」のキーワードを、見て分かりやすいように色分けしたカードを使い、掲示する。
                         【支援T】
式に合うようにおはじきを並べる。
@個人で活動する
Aみんなで確かめる
「いくつ分」の赤色紙の上におはじきを置くことで操作的に理解ができるようにする。【支援U】
「1つ分の数」や「いくつ分」をとらえられていなければ、個別に指導をする。
自分でかけ算の式を考え、それに合うようにスタンプを押す。
  @ かけ算プリントに式を書き、「いくつ分」の紙をはり、スタンプを押す。
A 作ったスタンププリントを見せ合い、友達に式を答えてもらう。また、理由も答えてもらう。
かけ算スタンプの作り方が見て分かるように、手順を1つずつ区切って黒板に提示する。 【支援V】
「1つ分の数」や「いくつ分」をとらえていなければ、個別に指導をする。


スタンプ問題のやり方が見て分かるように、進め方を黒板に提示する。
理由の説明の仕方の話型を提示する。【支援W】
本時の学習のまとめをする。
 

 4 支援の実際と児童の様子

支援T
「1つ分の数」「いくつ分」のキーワードを色分けしたカードを使って、掲示する。
支援の
説明
言葉だけの説明で理解することが苦手な児童のために、キーワードとそれに対応するもの(おはじき、付せん等)を同じ色にすることで、色を手掛かりに、活動を分かりやすくする。具体的には、「1つ分の数」に当たるところを青、「いくつ分」に当たるところを赤に統一して使用する。
対象児童の取り組みの様子
  児童A、Bは、人の話を聞いて理解したり、文字を読んで理解したりすることに苦手さがあり、注意を集中させることが難しかった。
そこで、色を手掛かりにして考える支援を取り入れたところ、黒板を見て説明を聞いたり教師の発問に対して答えたりすることができていた。児童Bは、最初の活動では誤答だったが、黒板に示された正答を見て、自分の解答が誤りであることに気付き、色を手掛かりにして自分の解答の修正することができていた。
他の児童の取り組みの様子
  色を手掛かりにしながら考えることができ、ほとんどの児童が黒板に注目して説明を聞くことができていた。その後の活動でも、分からなくなったときは黒板を見て確認しながら進めていた。
支援の
考察
  人の話を聞いて理解したり、文字を読んで理解することに苦手さがある児童A、Bにとっては、文字を読んだり説明を聞きながら、内容を理解することはとても難しいことであった。
本時のように、キーワード(「1つ分の数」「いくつ分」)と活動で使用する道具を色で対応させた支援は、色を手掛かりにして考えることができ、分かりやすいものとなっていた。そのため、黒板に掲示されたものを見ながら、集中して説明を聞くことができていた。また、分からなくなったときも黒板を見て、色を手掛かりに解答を確認したり、修正したりすることができていた。色を手掛かりとした支援は、注意を向けたり、意味を理解したりするのに十分役立つ支援と考える。
支援U
「いくつ分」の赤色紙の上に、「1つ分の数」のおはじきを置く活動をする。
支援の
説明
言葉だけの説明で理解することが苦手な児童のために、付せんにおはじきを並べたりスタンプを押したりする操作的な活動を取り入れることで、かけ算の意味を体験的に理解できるようにする。
対象児童の取り組みの様子
児童A、Bは、人の話を聞いて理解することに苦手さがあったが、操作的な活動はすすんで取り組んでいた。そこで、おはじきやスタンプ等の半具体物を操作する活動を取り入れた。
児童Aは活動に取り組む意欲を見せていたが、初めのうちは方法を理解できずにいた。活動を通して理解が進み、教師からの「できたね。」の声掛けに笑顔を見せていた。
児童Bは、教師の説明では理解できずにいたため、周りの様子を見て活動を確認して取り組んだ。最初は、誤答となったが、教師が具体的に方法を示したことで、理解することができた。全体で確認する際には、進んで発表し、賞賛されたことで笑顔が見られた。
他の児童の取り組みの様子
  ほとんどの児童が、素早く付せんをはり、その上におはじきを並べた。確認の時は、挙手をして発表する姿も見られた。また、かけ算の式を考えてスタンプを押す活動では、1枚のプリントが完成したら新しいプリントを取りに行くなど、意欲的に活動していた。
支援の
考察
  人の話を聞いて理解することに苦手さがある児童A、Bにとっては、説明を聞いただけで、内容を理解することは、とても難しいことであった。
そこで、半具体物を用いた操作的な活動を取り入れた支援は、実際に数の操作を見える形で行うことができ、体験的に理解することにつながったと考える。また、児童Bは、操作的な活動を通して、分かったことを全体の場で発表することができた。これは、体験的に学んだことで、自信を付け、発表する意欲につながったと考える。
 
支援V
作り方が見て分かるように、手順を1つずつ区切って提示する。
支援の
説明
長い時間集中して話を聞き、活動したりすることが苦手な児童のために、活動の説明をするときは、手順を1つずつ区切って提示し、説明の後、その活動を行って確かめることで、一つ一つの活動が分かり、全体の活動に取り組むことができるようにする。
対象児童の取り組みの様子
  児童Aは、長い時間集中して話を聞き、活動したりすることに苦手さがある。そこで、活動を行うときには、短い言葉で手順を示した。
児童Aは、集中を切らすことなく黒板や教師に注目し、作業の進め方を理解することができた。
他の児童の取り組みの様子
  ほとんどの児童が活動の進め方の手順を理解し、すぐに作業に取り組んでいた。活動の途中で、手順を忘れて戸惑っている児童も見られたが、友達の様子を見たり、黒板で活動の流れを確認したりしながら、取り組んでいた。スタンプ問題の作成は、全員が間違うことなくできていた。
支援の
考察
一度にたくさんの情報を取り入れることが難しい児童Aにとっては、活動の進め方をすべて聞き、取り組むことが難しかった。
そこで、伝える情報を細かく区切って、1つずつ順番に伝えることで、内容を理解しやすくなり、その後の活動に失敗することなく取り組むことができたと考える。
 
支援W
理由の説明の仕方の話型を提示する。
支援の
説明
自分の考えを言葉で伝えることが苦手であるため、考えと理由を説明するための話型を提示して、話しやすくする。また、児童が見えやすいように、大きく掲示する。
対象児童の取り組みの様子
  児童A、Bは、自分の考えを整理し、うまくまとめることができないため、自分の考えを伝えることに苦手さがあった。そこで、友達に伝えやすいように、理由を説明するための話型を提示した。
児童Aは、大きく掲示された話型を見て活動に取り組み、友達からシールをもらうことができた。
児童Bは、考えを伝える前に、話型を確認して、交流に臨んでいた。交流の場面では、友達からシールをもらえたことで笑顔が見られた。
他の児童の取り組みの様子
  多くの児童がワークシートの話型を見ながら相手に伝えていた。黒板に大きく提示した話型を目で確認しながら答えていた。一人の友達との交流が終わると、次の友達へ移り、意欲的に活動していた。
支援の
考察
自分の思ったことを相手に分かるように伝えることが苦手な児童A、Bにとっては、交流の場面で考えを友達に伝えることは、難しいことであった。そこで、理由を説明するための話型を提示し、話しやすくする支援を行った。
児童A、Bとも、話型を提示したことで、それを見ながら友達と交流に進んで取り組んでいた。これは、発表の仕方が具体的に示されていることで、何を言えばよいかが分かり、自分の考えを伝えることにつながったと考える。中でも、大きく掲示された話型は、対象児童に限らず誰でも見ることができ、多くの児童の活動を助ける支援となっていたと考える。
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最終更新日: 2010-03-23