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児童生徒が安心できる人間関係づくり   〜がばいシートを使って〜

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○小学校4〜6年生用シートを活用した事例(2)
 児童の実態 −1回目(7月)の結果分析から−
            〔グラフ1〕                             〔グラフ2〕
 
      *〔グラフ1〕の縦軸の数値は、各観点の回答状況を点数化し、合計したもの。好ましい状態であるほど数値が高く、満点は20ポイント。
    *〔グラフ2〕の縦軸の数値は、各設問の回答状況を点数化したもの。好ましい状態であるほど数値が高く、最も好ましい回答は4ポイント。
   
  (1) 結果から考えられること
 
  @ 学級集団の状態は4つの観点において教師のポイントより高い値を示している。「教師との関係」のみ教師の点数の方が高いが、この観点が5つの観点の中で一番低いポイントを示している。 〔グラフ1〕
  A  「教師との関係」を項目ごとに見ると、「困っているときに相談できる」が2.6ポイントと最も低い。〔グラフ2〕
  B  他にポイントの低い項目は、「自己存在感」の中の「頼りにされたり役に立ったりしている」の2.3ポイント、「学級の雰囲気」の中の「ルールが守られ、みんなが気持ちよく過ごせている。」の2.9ポイントである。教師の日常観察においても、ルールが守られなかったためにトラブルになっていることが多いと感じている。
  C  男子と女子の結果を比較した場合、5観点ともに女子の方が高いポイントを示した。また、男子の「教師との関係」を示すポイントも、女子のポイントや教師の自己評価より低い。教師自身も男子との信頼関係がまだ築けていないと感じている。
  (2) 支援に当たって
 
  @  児童と教師の関係性を深めるための活動を計画する。「困っているときに相談できる」が低かったことから、活動の中で積極的にかかわることだけにとどまらず、児童が本音を話すことができるよう、信頼関係を深めることも意識していく。また、教師と児童のポイントに各観点で4ポイント以上の開きがあったので、担任として実態を客観的に把握できるよう、手立てを考えたい。
  A  「自己存在感」の中でも「頼りにされたり役に立ったりしている」のポイントが低かったことから、係活動や当番活動を工夫することで「頼りにされている」「役に立っている」と感じる場面を増やし、自己存在感を高めたい。
  B  「学級の雰囲気」をよくするために、安心して過ごすことのできる人間関係をつくるための支援を進めたい。
   
 ねらい
 
(1)   担任教師が、学級全体の児童に積極的にかかわりながら関係性を深めていくような活動の場を工夫する。
                                              →《参考》支援のポイント「教師との関係」
(2)  係活動や当番活動などを通して、自己存在感を高めることのできるシステムづくりをする。
(3)  児童が互いの言葉の使い方を見直し改善していく活動を通して、一人一人が安心して過ごすことのできる人間関係づくりをする。
  
 支援の実際

 

 

(1)
 担任教師との関係づくり
  @  学級全体で「みんなで遊ぶ日」を設定し、担任と楽しくかかわる。(昼休み週1、2回実施) 
    (ア) 係活動の中にレクリエーション係を作る。(実態に合わせて担任が遊びの種類やルールについての助言を行う。)
    (イ) 「みんなで遊ぶ日」の出来事を日記に書いたものを、学級通信などで学級全体や保護者に情報を発信する。
    (ウ) 「ジャンケンいろいろ」「先生とビンゴ」「先生○×クイズ」「テレパシー」「腕相撲」などのショートエクササイズを行い、担任とかかわりを深める。(朝の会・帰りの会) 
  A  授業中には、児童が自分の答えや行動が正しいかどうかがすぐに分かるように、教師が早めに評価するよう心掛ける。
  B  児童(主に男子)が興味があることをリサーチし、給食時などに話題にすることを心掛ける。
(2)  自己存在感を高めるためのシステムづくり
  @  係活動の見直し
    (ア) 1つの係の人数を減らす。また、活動の簡単な振り返りができるようにする。
    (イ) 各教科の係を決め、授業の最初に学習クイズをしたり、場合によっては、司会進行を任せたりする。 
    (ウ) 担任がねぎらいの言葉を掛けたり、意識して仕事を頼む機会を増やしたりする。
  A  当番活動の見直し
     掃除や給食当番に関して、細かく役割分担を行い、できるだけ個人の仕事内容を明確にできるようにする。
(3)   児童同士の人間関係づくり                    →《参考》支援案リンク集「友達との関係」
    学級活動 「〜ホカホカ言葉〜言われて嬉しい言葉をたくさん使う作戦を考えよう」 (全2時間)
  @

いろいろな場面において、自分も相手も言われて嬉しい言葉掛けについて考え、それを学級で実践できる方法を設定する。

  A   言われて嬉しい言葉を互いに掛け合い、達成目標を「ホカホカ言葉大作戦」と掲げ、実践する。
  B    実践を振り返るとともに、ロールプレイを通して、温かい言葉掛けが相手の気持ちを明るくすることを実感する。
  C   取り組みを学級通信などで紹介し、保護者へ情報を発信する。  
    − 取り組みを終えての児童の感想 −
     ・  Aさんの役になったとき、Bさんの言い方だけでとっても気持ちが変わりました。最初の方はやさしくて、やる気が出るような気持ちだったけど2回目はとっても嫌な気持ちになりました。少しの言葉で、全然気持ちが変わるんだなと思いました。
     ・  実際に言ってみて、よい方を言ったときはいい気持ちだったけど、悪い方を言ったときは気持ちが悪かった。
   
 児童の変容および考察 −2回目(11月)調査の結果から−
          〔グラフ3〕                              〔グラフ4〕
 
      *〔グラフ1〕の縦軸の数値は、各観点の回答状況を点数化し、合計したもの。好ましい状態であるほど数値が高く、満点は20ポイント。
    *〔グラフ2〕の縦軸の数値は、各設問の回答状況を点数化したもの。好ましい状態であるほど数値が高く、最も好ましい回答は4ポイント。
  (1) 学級集団の変容
 
  @  各観点ともに7月よりポイントが下がった。特に大きく下がったのは「学級の雰囲気」の1.6ポイントであり、一番下がり方が小さかったのは 「教師との関係」の0.2ポイントである〔グラフ1〕。
  A  「教師との関係」を項目ごとに見ると、全体的に下がっているものの、「困っているときに相談できる」が0.3ポイント上がっている。下がり方が一番大きかったのは0.7ポイント下がった「先生と遊んでいる」の項目だった〔グラフ2〕。
  B  7月に低いポイントを示した「頼りにされたり役に立ったりしている」は0.1ポイント上がった。「ルールが守られ、みんなが気持ちよく過ごせている」は0.6ポイント下がった。
  C  教師と児童の結果を比較すると、ポイントにはまだ開きがあるもののグラフは似たような形を示すようになり、学級集団の状態について教師と児童の感じ方の差が縮まった。「教師との関係」においては、ほぼ同じ数値を示した。
  (2) 考察
 
  @  「困っているときに相談できる」のポイントが少し上がっている点は、授業や各活動の中での教師のかかわりを多く仕組んだことが、信頼関係を築くことにつながった結果だと考えられる。
  A  「先生と遊んでいる」が大きく下がっている一因は、7月に課題としていた男子児童と担任の関係と関連している。担任としては、男子の興味のあることを話題にしたり、活動の中で声を掛けるよう意識はしていたつもりであったが、直接的なかかわりとしては少なかったのかもしれない。ただ、「困っているときに相談できる」のポイントは男子も少し上がっているので、信頼関係はできつつあるととらえている。
  B  「自己存在感」全体としてはポイントが下がっているものの、「頼りにされたり役に立ったりしている」については少し上がっているので、係活動や当番活動を見直したことは有効だったと考えている。
  C  教師と児童の意識の差が縮まっていることから、担任として客観的に実態を把握することができるようになってきたと感じている。
  D  以上のことから、学級集団の状態に確実な改善が見られたとは言えないが、励まし合ったり感謝の言葉を掛け合ったりする機会は増えている。全体的にポイントが下がったことの1つの理由として担任がとらえているのは、発言力のある数名の児童によって学級の雰囲気が左右されているということである。よい方向に意識が向けば、リーダーとなって学級を支える力になり得ると思うので、今後の支援を工夫したい。
   
 今後の取り組み
 
(1)  学級のルールの確立を重点的に見直し、改善していく必要がある。基本的な学習面・生活面のルールを提示して常に意識させ、励みにつながる自己評価の工夫をしていきたい。それを、教師自身が根気強く丁寧に見取り、評価していくことが大切だと考える。
(2)  仲間づくりのスキルを高めるため、ソーシャルスキル・トレーニングなどを重点的に取り入れ、年間を通して計画的に実施したい。特に、ルールを守ることで楽しく参加できることを実感するエクササイズや自己肯定感をはぐくむ各種のエクササイズも取り入れたい。
   
 実践後の感想 
 
(1)  「がばいシート」を実施するタイミングによって、結果が違ってくる場合もあると思う。問題が起こった直後では、平常の状態と比べ、数値が大きく変わることもある。実際に本学級の2回目の実施はトラブルの起きた直後だったため、予想以上に前回の数値より低い値を示したのではないかと感じている。しかし、ただ数値が低かったととらえるだけでなく、今後この結果をどう生かしていくかということを考えることで、更に有効な支援へとつなげることができると思う。
(2)  2回目の結果は、思わしくなかったが、教師から見た児童の問題点と、児童自身が問題と考える点が一致するようになった。「がばいシート」によるアンケートの実施は、児童にとっては自らの問題点について意思表示をする機会となり、教師自身にとってはより客観的に学級の一人一人の状況を把握できる機会となった。今後につながる具体的支援策を考える大きな手立てとなったことは確かである。
   

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最終更新日: 2009-03-27