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社会的な見方や考え方を深める社会科学習に取り組んでみよう!

2 研究の実際                                                       

(1) 単元の指導過程の整理と単元づくりのポイント

○ 意思決定型の学習の単元における取り入れ方の違いによる分類

「意思決定型の学習をしてみたいけど、単元の進め方が分からない」「意思決定型の学習は時間がかかり、難しそう」「習得すべき学習内容はどうするの?」「歴史学習ではどうすればいいの?」など、授業改善の必要性は感じているものの、具体的にどうすればいいのか分からなかったり、難しいと思い込んでしまったりしている先生方は少なくないようです。

そこで、まずは、意思決定型の学習での指導過程について、児童生徒の発達の段階や単元の内容を考えながら、図1のように、4つに分類することにしました。

                     図1 意思決定型の学習の4分類
   

 
単元の中での取り入れ方
単元例
A 発展型
教科書を使った学習をした後、発展的な学習として取り入れるものです。

小学校5年生の単元「日本の米づくりは、どうなっているの」は、農業従事者の工夫や努力を理解していくことが主な学習のねらいとなります。教科書の内容としては、そこで終わりとなりますが、発展学習として今後の農業の在り方などについて話し合う場を設定することも可能であると考えます。
 
例えば、「日本の食料自給率を上げるべきか」というテーマを設定し、教科書において習得した知識を基に、食料自給率の増加の是非についての意見交換などの学習を展開することができます。   

B 問題発見型
単元前半で教科書を使った学習をし、その中から解決すべき問題を学習者が発見していくようにします。そして、単元後半にその解決に向けた学習として取り入れるものです。

小学校3年生の単元「市のようすは、学校のまわりとどうちがうの」は、地域を調べる学習であり、児童は地域について調べることで、地域について深く理解したり、興味や関心をもったりすることができます。
  地域には、商店街の衰退や地域のお祭りの衰退などの問題があることにも気付きます。そこで生まれる疑問や解決への意欲を基に、その問題を解決するために意見交換を行わせる学習を展開することができます。

C 問題解決型
問題自体を学習内容として、単元を通して、その解決に向けた学習として取り入れるものです。多くの場合は、実際に現実社会で起きている論争をテーマとして扱います。

中学校の公民的分野で扱うことが可能な、原子力発電の問題、憲法改正の問題などの場合、実際の主張を分析したり、テーマについて意見交換をしたりすることで、社会への参加意識が高まっていきます。
  その結果、現実の社会で行われている論争を追体験することができ、生徒の社会に対する興味や関心が高まることが期待できます。

D 重点型
教科書を中心にした学習の中で、重点的に意思決定場面を取り入れた学習を取り入れるものです。 小学校6年生の歴史学習の中で、「あなたが聖武天皇に意見できるとしたら、大仏づくりに賛成するか、反対するか」などについて、1時間単位の学習の中で取り組んだり、通常は1時間のところを2時間扱いにして取り組んだりすることもできます。
 

4つの型のそれぞれに、以下のような「よさ」や「配慮すべき点」がありますので、単元の内容や地域の特性、児童生徒の発達の段階を踏まえて、どの型で単元づくりを行うのかを考える必要があります。

 
この型のよさ
この型で配慮すべき点
A 発展型
学習したことを活用させるため、短い時間数で実施可能であり、比較的取り組みやすい型です。

教科書を使った学習と意思決定型の学習とをつなぐ際に、児童生徒の意識が途切れないように気を付ける必要があります。
  学習したこととのずれを感じさせたり、疑問をさらに追究させたり、児童生徒の生活場面に結び付けたりするなどの工夫が大切です。  

B 問題発見型
学習の中から生まれてきた疑問が出発点となるので、児童生徒が明確な目的意識をもって学習に取り組むことができる型です。

単元の前半と後半をつなぐ際に、児童生徒の意識が途切れないように気を付ける必要があります。
  そのために単元前半で意図的に資料提示をしたり、ゲストティ−チャーの話を聞いたりすることで、児童生徒に問題を発見させ、その解決に向けた意欲を高めていくことが大切です。    

C 問題解決型

現実で起きている論争について調べたり、意見交換をしたりするので、その問題を解決したいという目的意識が高くなると考えます。
  特に、中学校においては、小学校と重複する学習内容があり、知識・技能の習得を図る時間の短縮が可能です。さらに、時事問題を扱う場合が多いことから、児童生徒の発達の段階を考えても問題解決型が取り組みやすい型です。

問題を解決していく過程において、並行して知識・技能も習得させていく必要があります。
  そのためには、この単元で身に付けさせるべき知識・技能を明確にし、それを習得させる場面は、問題を発見するまでの場面なのか、調査活動の場面なのか、意見交換の場面なのかなどを整理しておくことが大切です。
D 重点型
短い時間数で実施可能であり、比較的取り組みやすい型です。 短い時間数で実施するため、あらかじめ資料の精選をしておいたり、意見交換の際にポイントとなる部分を意図的に取り上げて広げたりする教師の働きかけが大切です。

○意思決定型の学習を取り入れた単元づくりのポイント

単元において何を目標とするべきか明確にします。例えば、「○○地域の在り方についての意見文をつくること」などがこれに当たります。
社会が抱えている問題と単元の内容とを関連付けながら考えるようにします。具体的事象が目に見えるもので、自分たちの生活とのかかわりが感じられるものをテーマにすることが、児童生徒の問題解決への切実感を高め、学習意欲を継続させることにもつながります。
また、以下のように2つのテーマの設定の仕方が考えられます。

(ア) 「○○すべきである(賛成か反対か)」

 →解決策の是非がそれぞれどのような社会につながるのか、「目指す社会」を
    意識させて、判断を迫る授業を展開する。
  (イ) 「○○するためのプランを考えよう(AプランがいいかBプランがいいか)」

 →「目指す社会」を意識させた上で、解決策の選択において、判断を迫る授業
    を展開する。

学習内容を踏まえながら、期待する意見交換の流れを予想し、設定します。児童生徒の主体性や自分なりの考えを尊重することも大切ですが、活用させたい知識や概念、資料を明確にしたり、意見交換を深めたりするためにも、教師がしっかりと教材研究をし、どのような意見交換が展開されるのかということを予想しておくことは大切なことです。
前述した意思決定型学習の取り入れ方の類型A〜Dの「よさ」や「配慮すべき点」を基に、いずれかの型を選択して、単元計画を作成していくようにします。
(2) 実践事例

意思決定型の学習を取り入れた単元のテーマ例

  下の表にある意思決定のテーマ例については、選択した意思決定型の学習の取り入れ方の類型A〜Dに合わせて、また、学年の発達の段階に応じて変更をする必要があります。

例えば、歴史学習では小学校、中学校で類似した学習が展開されます。江戸幕府の開国の学習では、意思決定のテーマはどちらも開国の是非となります。しかし、児童生徒の発達の段階を踏まえると、当然、学習内容に違いがでてきますし、取り扱う資料や学習内容が違うので、児童生徒の発言や論述内容の質も変わってきます。 小学校であれば、「あなたが〜だったら」というように、当時の将軍や老中の体験を追体験するという学習内容が考えられます。中学校であれば、開国することはどのような意味や価値をもったのかについて、現在から見た歴史の評価を行うこともできます。

このように、当時の時代背景に焦点を当て「日本は開国すべきか(D:重点型)」とする場合と、その前後の時代背景まで考慮し「日本は開国すべきだったのか(A:発展型)」とする場合では、テーマを変更する必要があります。

 

小学校3・4学年
内容項目
意思決定のテーマ例
  【選択可能な型】
 リンク
身近な地域や市の地形、土地利用、公共施設などの様子 「○○公民館の利用者がふえるプランを考えよう」 A:発展型
B:問題発見型
地域の生産や販売に携わっている人々の働き
「スーパーマーケットの食料品売り場は、地元のものだけがよいか、いろいろなところのものがあったほうがよいか」
A:発展型
B:問題発見型
地域の人々の健康な生活や良好な生活環境を守るための諸活動 「ごみをへらすプランを考えよう」
A:発展型
B:問題発見型
地域の人々の安全を守るための諸活動 「○○地区交通事故0作戦を考えよう」 
A:発展型
B:問題発見型
 
地域の古い道具、文化財や年中行事、地域の発展に尽くした先人の具体的事例 「地域の伝統的なお祭りを元気にするプランを考えよう」
A:発展型
B:問題発見型
 
県の地形や産業、県内の特色ある地域 「観光名所○○を守っていくためのプランを考えよう」 A:発展型
B:問題発見型


小学校第5学年

内容項目
意思決定のテーマ例
 【選択可能な型】
     リンク
我が国の国土の様子と国民生活との関連 「日本の森林を守っていくためのプランを考えよう」

A:発展型
B:問題発見型
 
我が国の食料生産の様子と国民生活との関連 「日本の水産業は輸入に頼るべきか」  A:発展型
B:問題発見型
我が国の食料生産の様子と国民生活との関連 「日本は食料自給率を上げるべきか」
A:発展型
B:問題発見型
 
我が国の工業の様子と国民生活との関連
「あなたが自動車会社の社長なら、これから何を中心にした自動車をつくるか」
A:発展型
B:問題発見型
 
我が国の情報産業などの様子と国民生活との関連 「小学生誘拐事件発生!この事件を報道すべきか」
A:発展型
B:問題発見型


小学校第6学年

内容項目
意思決定のテーマ例
  【選択可能な型】
リンク
我が国の歴史上の主な事象 「タイムスリップするなら、縄文時代と弥生時代のどちらを選ぶか」                 A:発展型
D:重点型
 
我が国の歴史上の主な事象 「あなたが聖武天皇に意見できるとしたら、大仏づくりに賛成するか」          A:発展型
D:重点型
 
我が国の歴史上の主な事象 「織田信長、豊臣秀吉、徳川家康のだれが一番すぐれていたか」          A:発展型
D:重点型
 
我が国の歴史上の主な事象 「徳川幕府は、開国すべきか」 A:発展型
D:重点型
 
我が国の歴史上の主な事象 「明治維新で、最も優先すべき改革は何か」 A:発展型
D:重点型
 
我が国の歴史上の主な事象 「日本が国際社会への復帰をはたしたのはいつか」 A:発展型
D:重点型
 
我が国の政治の働き、日本国憲法の考え方 「道路建設のための予算をふやし、もっとたくさんの道路をつくるべきか」                A:発展型
B:問題発見型
我が国とつながりの深い国の人々の生活の様子、国際社会における我が国の役割 「日本とのつながりがより深いのは、A国か、B国か」 A:発展型
B:問題発見型
 

中学校
学年
分野
内容項目
意思決定のテーマ例
【選択可能な型】
リンク
1年
歴史 中世の日本
「1221承久の乱、あなたならどちらの味方になるか」 A:発展型
D:重点型
地理 身近な地域の調査 「○○を世界文化遺産リストに推薦すべきか」 B:問題発見型
C:問題解決型
世界と比べた日本の地域的特色
(自然環境)
「諫早湾干拓堤防の水門を開放すべきか」                 B:問題発見型
C:問題解決型
 
2年
歴史 近代の日本と世界 「幕末までを見る中で、日本は開国すべきだったか」                     A:発展型
D:重点型
近代の日本と世界 「1904の日露戦争は必要であったのか」   A:発展型
D:重点型
 
地理 世界と比べた日本の地域的特色
(資源・エネルギーと産業)
「バイオエタノールは必要か」          B:問題発見型
C:問題解決型
3年 公民 世界平和と人類の福祉の増大 「日本は原子力発電を増やすべきか」  B:問題発見型
C:問題解決型
人間の尊重と日本国憲法の基本的原則 「日本は、憲法9条を守るべきか、改正すべきか」 B:問題発見型
C:問題解決型
民主政治と政治参加 「日本は、地方分権制をすすめるため、道州制を導入すべきか」                           B:問題発見型
C:問題解決型
 

(3) 指導法とワークシート作成のポイント
  社会的な見方や考え方を深めさせるためには、資料活用や意見交換の場面における指導の工夫をし、児童生徒が明確な根拠を基に、学習問題に対する自分なりの考えをもったり、他者との意見交換などを通して判断したりしていくことが必要です。
 @資料活用をさせる上での工夫

(ア) 指導のポイント

  新学習指導要領では社会科の授業時数が増えました。しかしながら、それでも意思決定型学習を取り入れた
  授業に取り組むには時間数が足りないことが問題に挙げられます。十分な調査活動や意見交換の時間を確保し
  たいが、その時間がなかなか取れないのが現状のようです。そこで、短い単元計画の中でも、社会的な見方や
  考え方を深めさせる授業を行うためには、教師が資料を意図的に提示する方法が有効です。
  (イ) ワークシート作成のポイント
    資料1は中学校第3学年における授業の配付資料で、「日本は原子力発電所を増やすべきかどうか」というテ
  ーマで意思決定型の学習を行うときに使用したものです。この資料のように、指導すべき内容を踏まえた上で、
   両方の立場からバランスよく資料を提示する必要があります。また、資料活用能力を高めるための図表や自分な
   りの考えをもつことを苦手としている児童生徒のために「主な意見」などを示しておくことも有効です。
   このような資料を基に、問題となっていることやそれぞれの立場が大切にしている価値などを分析させるように
  すると、 限られた時間の中で比較的、効率的に意思決定型学習を進めることができます。

資料1 配付資料例(中学校3年生)

→ 実際の配布資料へ

A多面的・多角的に考えさせるための工夫 

(ア) 指導のポイント 
     児童生徒の見方や考え方を深めさせるためには、多面的・多角的に見たり考えたりさせることが必要です。討
  論の授業では、立場を決めて、賛成側はメリットを反対側はデメリットを考え、意見をつくらせる方法が多く見られ
  ます。
    しかしながら、限られた時間の中で意思決定型学習を進めるためには、学級全員でメリット、デメリットを考
  えた後に、両方の立場に分かれて討論活動に入るという方法も有効です。このような単元の流れを組むことで、
  児童生徒はお互いに相手の立場を意識しやすくなり、相手の立場を踏まえた発言も増え、より多面的・多角的な
  意見をつくることにつながっていきます。
  (イ) ワークシート作成のポイント
   資料2は小学5年生における討論活動「日本は食料自給率を上げるべきか」の事前学習に用いたワークシー
  トです。このワークシートを用いて、問題に対する解決策に対して、それを実行することによるメリット、デメリットを
  自分が選択した立場だけでなく両方の立場から考えさせ、整理させるようにします。
   これを基にして、どんな内容が中心になるのか確認をしたり、何を資料として準備していくかなどをグループで
  書き込ませたりすることが大切です。

    資料2 ワークシート記入例(小学校5年生 「日本は食料自給率を上げるべきか」) 

  

B論理的な考えに高めるための工夫
  (ア) 指導のポイント

  意思決定型学習を取り入れた授業に取り組んでみたけれども、児童生徒の意見の質を高めることに苦慮した
  という経験がある先生方も多いことと思います。せっかく取り組んでみたけれども、 「水掛け論になってしまった」
  「根拠がなかったり、はっきりしなかったりする意見が多い」とお考えの先生方や、「もっと分かりやすい意見を述
  べさせたいけれども、どのように指導したらよいのだろうか?」と悩まれている先生方も少なくないようです。その
  ような場合には、まず、自分の考えの理由を明確にさせるように、「なぜそう思うの?」「それを分かりやすく伝え
  る資料はどれかな?」などいったような問い掛けが大切となります。さらに、事実と自分の考えをきちんと分けて
  考えさせていくことが大切です。

(イ) ワークシート作成のポイント
    資料3のワークシートは、トゥールミンモデル※を基にしており、「@調べたこと(資料)」と「B結論」を結び付
    けるために「A理由」を考えさせるような手順となっています。これにより、根拠が明確になるだけでなく、理由を
   考えることで社会的な価値を意識させることもできます。このように、ワークシートを工夫することによって、児童
   生徒の思考の流れを分かりやすく示し、自分の考えをどのようにまとめたらよいのかを学ばせることが可能とな
   ります 。
     ただし、児童生徒の発達の段階や学級の実態に応じて、まずは書き方に慣れさせるために学級全員で取り
  組んでみたり、書き始めの言葉を決めるなどの形式を作りかえたりするなどして、無理なく取り組ませることが
  できるような配慮が必要であると思います。

トゥールミンモデルとは
イギリスの分析哲学者スティーブン・トゥールミン(Stephen Toulmin)が提唱 した議論レイアウトである。トゥールミンモデルは、結論を支える根拠を「データ」と「理由付け」に分けて、「結論」「データ」「理由付け」の3つを議論の基本要素として図式化するものである。

資料3 ワークシート記入例(小学校4年生 「○○地区交通事故0作戦を考えよう」 )

C自分の考えを再構成させるための工夫

(ア) 指導のポイント

  中央教育審議会答申(平成20年1月)の小学校社会科についての「改善の具体的事項」の中にも、お互いの考
  えを深めていく学習の充実を図るために、「再構成する学習」に取り組ませる必要性があると述べられています。
    そこで、本研究では、自分の考えを見直し、付加修正させることとらえることにしました。実際の授業場面では、
  自分の考えをもたせた後に、学習問題に合わせた観点を基に、双方の立場から比較・検討しながら自分の考え
  を見つめ直させ、それを意見交換させるようにします。そして、考えの付加修正を行わせていくことが有効と考えら
  れます。  

(イ) ワークシート作成のポイント 

  ワークシートの形式としては、資料4のように、○と×を付けさせる方法がありますが、他にも優先順位を付けさ
  せたり、レーダーチャートに表させたりするなど様々な方法が考えられます。このような手立てを取ることが、児童
  生徒に自分の考えをもたせ、表現させるきっかけとなります。
    さらに、そのアイデアを実行すれば、どのような社会につながっていくのかについて「これからの○○」の欄に、
  未来像を書き込ませることも社会的な価値を意識させるために有効です。また、資料5のように学習前と学習後
  の自分の考えの強さをレベル表に表すことで、自分の考えや考えの変容に気付かせる工夫も有効です。
    まずは、それぞれの児童生徒に書かせたりグループ(3〜4人)で話し合いながら書かせたりして意見交換を

すえう方法と意見交換をしながら学級としての考えをまとめていくような方法も考えられます。

 資料4 ワークシート記入例(小学校3年生 「ごみをへらすプランを考えよう」) 

  

                         資料5 ワークシート記入例
      (小学校3年生 「スーパーマーケットの食料品売り場は、地元のものだけがよいか、いろいろな
    ところのものがあったほうがよいか」) 

  D意見交換場面における工夫

  社会的な見方や考え方を深めさせるためには、意見交換場面を設定することも大切です。なぜなら、意見交
  換をすることで、社会的な価値が意識されたり、自分の考えが見直されたりすることになり、そのことが、見方や
  考え方の深まりにつながっていくからです。

 (ア)  指導のポイント

   板書をどのようにまとめるかということは、大切なポイントの1つです。まずは、両方の立場がそれぞれどのよ
    うな意見を出したのかを、メリットやデメリット、観点ごとなど意図的に書き分けていくことで、討論の流れやポイ
    ントを視覚的に把握させることができます(資料6)。
     また、 大切になる価値や立場などを意図的に色を変えたりアンダーラインを引いたりしていくことも大切で
    す。このような手立てを取ることで、児童生徒は、今何が問題になっているのかを明確にし、自分の考えを見
    つめ直し、再構成するためのヒントを得ることができたりすると考えられます。

     この場面では、原則として、児童生徒の主体性を重んじることが大切ですが、意見交換の際、途中で、教師
    がポイントとなる発言を取り上げて、学級の考えを広げてあげることや、偏りすぎた意見ばかりが出された場合
    には上手に 軌道修正をしてあげることなど、生徒の発達段階や学習経験などの実態にあわせて、適宜、教師
    が 介入をすることも必要です。

                                         資料6 板書例
      (小学校3年生 「スーパーマーケットの食料品売り場は、地元のものだけがよいか、いろいろな
    ところのものがあったほうがよいか」)

 

 (イ)  ワークシート作成のポイント

    十分な目的意識をもたずに、意見交換に参加してしまう児童生徒は少なくありません。それでは、内容も深
   まらないし、自分の考えが見直されることもなく、より深まった見方や考え方にもなっていきません。
    そこで、資料7のようにワークシートやノートを準備することも有効です。このシート(ノート)に、「これは大切」
   と思った意見をメモさせておくようにします。意見をメモするように指示すると、書き取ることに集中し過ぎて意見
   交換に参加できなくなってしまうというマイナス面も考えられますので、書き取る際は、キーワードで書かせるこ
   とをお薦めします。
     しかし、「キーワードといっても何を書けばよいか分からない」という場合も予想されるので、あらかじめ、教師
   が大切な言葉やポイントとなる言葉を、板書の中で色を変えたり意図的に取り上げたりしながらメモの仕方を学
   ばせておくことも必要です。普段の授業の中でもメモの仕方などの共通理解を図っておくとよいでしょ う。 

   資料7 ワークシート記入例(中学校1年生 「○○を世界文化遺産リストに推薦すべき?」)

(4) 社会的な見方や考え方の評価のポイント
 本研究においては、児童生徒が社会の仕組みや制度だけではなく、「社会全体にとってよいことか」という社会的な価値を意識した見方や考え方を獲得させることに主眼をおいています。このように、社会的な価値を意識し、様々な立場や観点を踏まえながら社会的事象を見たり考えたりできるようになることを「深まり」ととらえ、目指す社会の在り方を考えさせることで、児童生徒の社会的な見方や考え方を深める指導の在り方を探ってきました。 近年、特に「指導と評価の一体化」ということが大切にされています。しかし、児童生徒の知識・理解の習得に比べ社会的な見方や考え方の変容や伸びは、測ることが難しいという問題があります。しかしながら、ぜひ育成したい大切な力であるからこそ、的確に評価を行い、その評価情報に基づいて、適切な指導をしていくことが重要となります。社会的な見方や考え方を評価するためには、できるだけ、具体的な評価規準と評価の基準を設定し、それらを見取っていくための方法を明らかにしておく必要があります。社会的な見方や考え方は質的なものであり、見えにくいことを考えると、それらを児童生徒の考えとして、発言や記述などの形で表現させ、それを見ていくことが有効であると考えます。
 ここでは、評価の手順とポイントについて述べたいと思います。

【手順】

 @学習指導要領を基に、評価規準と評価方法を決める。

     評価規準は、子どもにつけたい力(目標)を示すもので、質的なものといわれます。4観点の中の何を、どの
   ような学習場面で 、何を基に評価をするのかを考える必要があります。

     社会的な見方や考え方の評価については、社会的な思考・判断の観点で、児童生徒が意思決定した理由
    を記述したノートやワークシート、意見交換場面での発言等を見取っていくことになると考えます。

 A評価の基準を設定する。

  評価の基準は、評価規準で示したつけたい力(目標)がどの程度達成されたか判断するための目安となるも
   ので、「ものさし」のようなものです。具体的には、Aは十分に満足できる状況、Bはおおむね満足できる状況、
   Cは努力を要する状況と考えます。
    まずは、全ての児童生徒につけたい力として、B基準から考えることをお薦めします。その際、できるだけ具
   体的な状況を量的な面(意識した立場や観点の数、理由を支える資料の数など)に目を向けながら設定して
   おくと評価がしやすくなると考えます。その際、CについてはBに達していないものとして考えられる児童の実
    態の例を考えておく必要があります。また、BをAに、CをBに引き上げるための手立てまでを考えることが大
   切です。 

  本研究においては、評価の基準をA・B・Cの3つに設定していますが、A・Bの2つで設定する場合もありま
    す。

【評価規準と評価の基準の例】

     単元名  「循誘公民館の利用者がふえるアイデアを考えよう」(小学校3年生)

 

B児童生徒の記述内容や発言を基に、評価する。

  実際に、評価する際には、児童生徒の記述内容や発言を基に、その状況を見取っていくことになります。意思

決定場面においては、それぞれの児童がどのような考えなのか(どのような立場を選択しているのか)が一目で
  分かるように、ネームプレートを黒板に貼らせたり、選択した立場ごとにワークシートの色を変えたりするなどの
  工夫も有効です。

【ポイント】

  評価の基準に基づいて、形成的な評価を行うことが基本です。加えて、社会的な見方や考え方の深まりを見て
  いくためには、単元の始めと終わりや授業の前後、前単元との比較などをしながら継続的・総合的に評価していく
  ことが必要です。
   どちらにしても、次の6つの視点で、児童生徒の記述や発言を見ていくことで、社会的な見方や考え方の深まり
  を見ていくことができると思います。  

視点1 書かれている内容に、社会的事象にかかわる立場が増えているか。
    〈例〉生産者の立場だけを考えた意見から、生産者と消費者の立場を考えた意見に変容した。
       自分たちのこと(子ども)だけを考えた意見から、高齢者や体の不自由な人のことまで考えた意見に変容
       した。 
 
  視点2 書かれている内容に、社会的な価値にかかわる観点が増えているか。

    〈例〉経済面だけを考えた意見から、経済面と環境面から考えた意見に変容した。


  視点3 根拠が増えたり、より論理的な説明になったりしているか。

    〈例〉考えの中に含まれる立場や観点の数としては変わらないが、それを支える資料が増えたり根拠が明確
       になったりした。  


  視点4 事実だけでなく、望ましい社会の在り方を意識した内容が書かれているか。

    〈例〉「社会全体」「これから(未来)」について考えている意見が付加されている。
 
  視点5 相手の立場と比較したり、相手の立場を踏まえた内容が書かれたりしているか。
    〈例〉「確かに○○さんの言うように・・・だけど」や「相手の立場と比べてみると・・・だから」といった意見が付加
       されている。   


  視点6 合意を図るような解決策や新たな解決策を見いだそうとした内容が書かれているか。

    (ただし、それが現実的(可能)なものなのか、よく考えずに安易にまとめようとしていないのかについては、
      留意して見ていく必要がある。)
    〈例〉自分の意見に固執しすぎずに、両方の立場のよさを生かしたり、補完しあったりするような意見が考えだ
       されている。


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最終更新日: 2010-03-24