人の生き方から学び、自己の生き方を探る道徳の時間を提案します。

 

2 研究の実際

(3) 授業実践

@ 事前アンケートの結果と分析

A 自作資料の開発と作成  ア 資料開発と作成の手順 イ 自作資料作成の実際

B 実践1 「目標に向かう強い意志」

        内容項目1−(2)

        資料名「柳川春己の挑戦」(自作資料)

C 実践2 「周囲の人々の支えを糧に」

        内容項目1−(2) 関連項目2−(6)

        資料名「父との約束−消防士への道−」

             (自作資料)

@ 事前アンケートの結果と分析

まず、生徒の実態を把握するため、1年生の対象学級(36名)に、夢や目標に関することについて、アンケートを実施することにしました。アンケートは、一般社団法人「次代の教育を共に拓く会」が実施した「みらいと自分アンケート(2011)」を参考にして作成しました。                       夢や目標に関するアンケートはこちら

資料1 夢や目標に関する事前アンケート結果(4月実施)

資料1にあるように、具体的な職業名や分野を回答した生徒は24名(約66%)でした。この結果は、佐賀県小・中学校学習状況調査意識調査の1年生の結果に近い数字だということが分かりました。

             

資料2 夢や目標に関する事前アンケート結果(4月実施)

資料2は、夢や目標をもつことを現在の生活の中でどのように意識しているかを知ることを目的とした質問項目です。この質問項目で「していない」と回答した6名と無回答の2名の「将来、就きたいと思っている仕事は何ですか」の質問に対する回答は、医療関係(2名)、人の役に立てる仕事(3名)、できるだけ運動ができるところ、お金がたくさんもらえる仕事、無回答(各1名)であり、具体的な職業名や分野を答えている生徒が少ないことが分かりました。これらの結果から、将来の夢や目標をより具体的にもつことは、現在の生活の中でそれらに関わる目標をもったり、勉強や人との関わり、スポーツなど、将来の夢や目標に向けた努力をしたりすることにつながると考えられます。

 

「自分の周りや世界中で『この人はすごい!』と思う人は誰ですか。」

・サッカー選手、長友選手4人  ・ウサイン・ボルト選手2人  ・なでしこジャパン2名

・オリンピックに出た人たち2人  ・いろんな事に挑戦する人2人  ・ダルビッシュ有

・イチロー  ・吉田沙保里選手  ・嵐の5人(24時間テレビ)  ・トム・クルーズ

・ライト兄弟  ・オバマ大統領  ・病気と闘っている人  ・手足が不自由な人

・勉強ができる人  ・部活の人たち、先輩  ・お母さん  ・玄海 椿先生  ・なし、無記名7名

資料3 事前アンケートの回答一覧(9月上旬実施)

資料3は、生徒の興味・関心を知ることを目的としたアンケートです。オリンピックが開催されたこともあり、回答にはオリンピックに関連した名前が多く挙げられました。結果から、生徒たちの関心のある分野にはどういうものがあるかということと、質問に対して特に思いつかない生徒が7名(20%)いることが分かりました。

A 自作資料の開発と作成

ア 資料開発と作成の手順

理論研究を基に、自作資料を開発する際の手順をまとめました。

それぞれのポイントや留意点は次の通りです。

素材収集

・ 人の生き方に関わるエピソードに触れて、指導者自身が考えを深める機会を多くもつ。

・ 道徳的価値に迫る人材を含んだメディアの情報を収集しておく。

・ 日頃から、道徳的価値に関わらず、新聞記事やテレビのドキュメンタリー番組をチェックし、自らの感

 性に迫ってくる情報を切り抜いたり、録画したりして確保しておく。

道徳の資料となる素材例

身の回りの素材例として、以下のようなものが考えられます。

□書籍→小説、絵本、詩、雑誌、アニメ □インタビュー映像 □生徒作文

□情報メディア→新聞の記事、広告、インターネット □体験活動 □実物

□テレビやラジオの番組→ニュース、ドラマ、ドキュメント、コマーシャル □4コマ漫画 

□芸術作品→映画、絵画、歌、写真 □地域の方からの手紙、講演

□自作資料→スポーツ選手、歴史上の人物など

教師自身がふと出会って感動したり、「なるほど」と思ったりしたときに、「これを生徒にも考えさせたい」と思えば、それが十分に活用できると考えます。

情報メディアに関して、映像や記事等を使用したり、人材の協力を得たりする場合は、著作権者(放送局、出版社等)や本人に趣旨を伝え、承諾を得る必要があります。この作業は、指導案や資料を作成する前に行い、使用できるかどうかを事前に調べておくことが大切です。著作権については、下記の書籍、著作権のページを参考にしてください。

・ 「必携!教師のための学校著作権マニュアル」 監修 清水 康敬 (教育出版)

・ 佐賀県教育センター>ICT利活用支援>著作権Q&Aコーナー

・ 文化庁>著作権>著作権なるほど質問箱

(1) ねらいの設定

・ 自作資料で授業をするねらい(内容項目)を決定する。

(2) 素材決め

・ ねらいに関わる人間的魅力の伝わるエピソードを探す。

・ 内容項目に合うメディア情報や人物を決定する。

・ 著作権に関わる資料の場合は、番組のWebページを確認し、制作者と連絡を取る。

(3) 素材を教材化するための情報収集やインタビュー

・ 情報収集と並行して、資料の形態を考える。(読み物、映像、パワーポイント等)

・ 実際にインタビューが可能ならば、本人と連絡を取り、取材日等を打ち合わせる。

・ 収集した情報を本人に確認する。事実の確認を怠らない。

(4) 資料作成と指導展開の検討(資料分析)

・ 収集した情報を基に、資料作成と並行して指導展開を考える。

・ 中心場面を決め、大まかな起承転結を設定する。

・ 人としての弱さを吐露する姿や生きる勇気、知恵などを感じ取ることができる場面(主人公が葛藤した

 り迷ったりする場面)を設定する。

・ 読み物資料の場合は、場面分けを基に文章化していく。その場合、人としての弱さ、迷い、強さ等の

 心の動きを行動や言葉によって表現する。

 

指導展開の検討の手順例

指導展開を考える前に、登場人物の行為やその奥にある心の動きに含まれている、ねらいに迫るための道徳的価値を押さえます。そして、発問を構成する場合には,中心発問や中心課題となる場面を考え,次にそれを生かすためにその前後の発問を考えるという手順が有効だと考えます。そこで、下に示した順序のように、まず最初に中心となる展開の段階で、どのような発問をするか、また、どのような学習活動を仕組むかを検討しました。

@ 中心となる展開場面(主に展開後段)の工夫

・ 道徳的価値について自分との関わりで価値を捉えさせることを目指す。

・ 道徳的価値の内面的な自覚を深めるための発問を考える。

・ 中心発問では、生徒が自分の考えや感じ方を自由に出し合えるような発問にする。

A 中心場面とつながる前後の場面の工夫

・ 道徳的価値を理解させることを目指す。

・ 資料を通して、生徒が自分の考え方や感じ方を明らかにしていけるような発問を設定する。

・ 話合いを通して、生徒が自分自身の生き方を深く見つめることを目指す。

・ 生徒の多様な価値観を引き出す。

B 導入の工夫

・ 道徳的価値への方向付けを行う。

・ 問題意識を焦点化させる。

・ ねらいに関する生活体験を想起させる。

・ 資料の補足や雰囲気作りを心掛ける。

C 終末の工夫

・ 道徳的価値を発展させていき、実践化への意欲付けを図る。

・ 余韻の残る終末を心掛ける。

・ 教師の体験談、説話、格言、映像資料やゲストティーチャー等を活用する。

D 板書計画の工夫

・ 提示資料等の検討をする。

・ 生徒の視覚に訴え、主人公の生き方を主体的に考えられるようにする。

・ 発問の板書は、簡潔で分かりやすい形にしたり、変化に富んだ短冊・絵・小道具等を効果的に活用

 する。

(5) 資料と指導展開の見直し

・ 人物の生い立ちや残した業績の素晴らしさが目立った記述になっていないか見直す。

・ ねらいとする道徳的価値に迫る上で必要な補助説明等を準備する。

・ 発問の精選を行う。

・ 複数の教師や資料化した人物に読んだり見たりしてもらい、内容の検討をする。

(6) 資料活用の手立ての検討

・ 話合い活動や切り返しの問い等、効果的な展開を考える。

・ 道徳的価値や行為を押し付けることがないように留意する。

留意すべきこと

人物を教材化し授業を作る際には、教師がねらいとする道徳的価値をしっかりともっておくことが大切だと考えます。道徳の時間に目指すことは、人物そのものの素晴らしさに共感させることだけではなく、その人物の生き方を通して、道徳的価値を中心に道徳的なものの見方・考え方を高めることです。

道徳の副読本は、すでにねらいが決まっているものですが、自分で素材を見付けたときには、それをどういうねらいで授業を行っていくかを検討します。新聞記事やマスメディアの情報も教材として活用することが可能ですが、ねらいとする道徳的価値にどのように迫っていくか、また、全ての情報を生徒に与える必要があるか、資料の吟味(資料分析)が必要になります。さらに、同じ人物の生き方の中でも、ねらいによって扱い方が変わります。その人物の生き方のどの場面を取り上げて、ねらいとする道徳的価値に向かって考えを深めさせていくのか、様々な角度から資料を見ることが大切だと考えます。

「道徳の時間の教材にしたい」と思った瞬間に、自分自身が、どう感動したか、どういう思いになったかで、ねらいを思い付くことが多くあると考えられます。ただ、道徳の資料として作られたものと違い、素材自体は、多様な価値の可能性を含んでいます。価値がいくつか考えられる場合は、自分のねらいとするものに絞る必要があり、ねらいがぶれないように教材化していく必要があります。

イ 自作資料作成の実際

授業実践を基に、自作資料を作成する手順例を紹介します。今回、2種類の自作資料を作成しましたが、視聴覚資料等(パワーポイントや映像資料等)の場合と読み物資料の場合では、手順の中の取材やインタビューを行うタイミングについて、若干違いがありました(資料4)。

 資料4 自作資料を作成する手順例

視聴覚資料等の場合、素材についての情報収集を行った後、大まかな構成を考えてから、取材やインタビューをします。大まかな構成を考える段階で、葛藤場面を取り入れた指導展開を作成します。インタビューの際、その部分を資料化した人物に伝えることで、葛藤場面やねらいとする道徳的価値を意識した資料の作成ができます。

読み物資料の場合は、情報収集を行った後、それらの事実を基に読み物資料を作成します。この段階で、葛藤場面を意識しながら資料を作成することになります。その後の取材やインタビューで作成した資料は、あくまで補助資料となります。取材の中で、本人に読み物資料や指導展開を確認してもらい、必要な補助資料の準備を行います。

実践授業1と2の自作資料作成の実際を次に紹介します。

○視聴覚資料等の場合

 実践1 主題名 「目標に向かう強い意志」  内容項目 1−(2) 資料名 「柳川春己の挑戦

            指導展開を考える手順例はこちら

 

 

○読み物資料の場合

 実践2 主題名 「周囲の人々の思いを糧に」  内容項目 1−(2) 関連項目 2−(6)

      資料名 「父との約束−消防士への道−」

 


Copyright(C) 2013 SAGA Prefectural Education Center. All Rights Reserved.