人の生き方から学び、自己の生き方を探る道徳の時間を提案します。

 

2 研究の実際

 

(4) 実際と考察

A 実践2の実際と考察

ア 葛藤場面について

読み物資料を前半と後半に分けて提示をし、前半では、主人公が中学・高校時代に部活動に一生懸命取り組む様子や、将来も陸上競技を続けたいという思いを紹介しました。

パワーポイントスライド資料

そして、高校卒業の際、進路先が真っ白になったときに焦点を当てて、主人公の気持ちを考えさせました。ここでは、主人公が葛藤した経験を紹介し、そのときの主人公の不安と迷いに共感させることにしました。高校卒業時という、生徒たちにとって比較的近い将来における気持ちを考えさせることは、より主人公の気持ちに、自分の経験や思いを重ねることができたのではないかと考えます。

発問は、主人公が抱いた「迷い」と「不安」の言葉を具体化させることにしました。この発問は、気持ちを問うよりも具体的に考えることができたため、ほぼ全生徒から予想される反応を出させることができました。授業の感想で、具体的に自分自身の挫折や迷いを合わせて記述している生徒の感想は下の通りです。

生徒の感想 (太字:自分の思いや経験と重ねて考えを深めていると思われる記述)

・ 私はこの話を聞いて、牧瀬さんは、とても素晴らしいんだなと思いました。例え、家族が大変な状況だったとし

ても、その人に何ができるか、考えていけることはすごいと思いました。私は、部活と勉強が両立できず、落ち

込んだこともあったけど、牧瀬さんのように、夢に向かってあきらめないで頑張っていけたらいいなと思いまし

た。

・ 自分がなりたい職業のために、一生懸命勉強したい。そして、親の期待にこたえるために、いい高校に入りた

いです。牧瀬さんのことを知る前は「なりたい職業に就きたいけど、こんな成績じゃ・・・。」とあきらめようと

しました。でも、牧瀬さんのことを知って「あきらめるのはまだ早い。高校に行くまで、まだ2年近くある」と希望が

もてました。

・ 今日、牧瀬さんの生き方を知り、「(夢)目標をもって努力すれば、かなわないことはない」という言葉を聞いて、

自信がつきました。私は、やりたいことがあっても、どうするか、もう(いつか)やめないといけないだろうと

し考えていたので、とっても自信をもらえたのでうれしかったです。

 私も、小さい頃から習字一筋でいこうと思っているので、同じような状況になってしまったら、どうしよう

と考えました。多分、お母さんは「自分のやりたいことをやりなさい」というと思うので、私も迷うと思いま

す。わか奈さんの両親はすごいなぁと思いました。真正面から現実を受け止め、娘を支え、とても勇気のいること

かなと思います。わか奈さんの制服姿をお父さんは見られなかったかもしれない。でも、心の中で、お父さんはわ

か奈さんをずぅーっと見守っていると感じました。

・ お父さん、お母さんが、いつもそばで支えてくれていることが私は毎日、当たり前のようになっていたので、今

日、お母さん、お父さんに感謝しながら勉強できる大切さを考えながらやろうと思いました。私は、小学校の時

からバスケをやっていて、とても大好きなので、高校もバスケ部に入ろうと思っているけど、将来バスケ

のことしか、今考えていなかったので少し心配になりました。でも、こういう機会があってよかったです。

これらの感想から、主人公の挫折や葛藤を提示することは、生徒自身の挫折や迷いの経験を想起することにつながったと考えられます。また、挫折や迷いを経験していない生徒にとっても、主人公の成功や偉業だけではなく、苦労した部分に共感することによって、終末で道徳的価値を自分なりに発展させていくことへの思いや課題の記述につながったと考えます

イ 話合い活動について

実践2では、範例資料の特徴を生かすため、発問「牧瀬さんの考え方や生き方で、見習いたいと思うところはどんなことですか」と問い、ねらいとする価値を話合い活動の中で生徒たちから導き出す手立てを取ることにしました。ここでは、KJ法の手法を用いた話合いを取り入れ、班の話合いを通して、内容項目1−(2)と関連項目2−(6)の道徳的価値が出されることを目指しました。

KJ法

自分の考えや思いを1枚ずつ小さなカードに書き込み、班でそれらのカードを紹介し合いながら、似ている考えや思い同士を2、3枚ずつ集めてグループ化していく。必要であれば、それらを小グループから中グループ、大グループへと組み立てて可視化していく。小集団の中で、道徳的価値の理解の深まりを可視化できる。

今回の話合い活動の具体的な手順は次の通りです。話合いの手順については、パワーポイントを使い、全体で手順を説明しました。

発問「牧瀬さんの考え方や生き方で、見習いたいと思うところはどんなことですか。」

@ 付せんに、自分の考えを思いつくまま書き出す。

A 班で付せんを貼りながら、意見を交流させ、2つ程度にまとめさせる。

(方法)それぞれが出した意見をグルーピングしながら、似ている意見や具体的な表現をしている意見をまとめてい

く。

B 班の代表がまとめた意見を発表し、全体で広げる。

パワーポイントスライド資料

    

話合い活動の様子

  

話合い後のまとめ

慣れない段階では多少時間が掛かりますが、授業全体の発問数を精選することで、この話合い活動に十分時間を掛けることができると考えます。何度か実践すると、スムーズな話合いができるのではないかと思います。

○生徒の感想の考察

考察の視点

自分なりに価値を発展させていくことへの

思いや課題の記述ができている。

主人公のすごさ等、主人公についての

感想のみ記述している。

割合
81%
19%
記述内容

生徒A 

自分も牧瀬さんのように、強い意志をもっ

て、何にでも取り組みたいです。それに、父へ

の恩返しをするために、一生懸命頑張っていた

ところにとても尊敬します。

生徒F 

1度夢をあきらめて、別の仕事を考えてそれ

にむかってがんばって、いろんな県で受けてす

ごいと思いました。どれだけきついことがあって

も、夢があればがんばれることが分かりまし

た。

生徒B 

しっかり勉強して、自分のことを支えてくれて

いる親の願いを実現させたいと、牧瀬さんの経験

を聞いて思いました。自分は、人の役に立つ仕

事がしたいと思っているので、牧瀬さんみたい

になりたいと思いました。

生徒G 

わか奈さんはとてもおいこまれたと思うし、

不安や悩みもたくさんあったと思いました。だか

らこそ、前向きになって、夢をあきらめなかった

のはすごくよいと思いました!!

生徒C 

支えてもらった人のためにも目標に向かって進

んで、逆に支える立場になって、いろんな人を支え

たいです。僕も、牧瀬さんみたいに、目標向か

って、まっすぐ進んでいきたいです。

生徒H 

「人の役に立ちたい思いに男も女もない。」

と言って、陸上競技とは別に新しい夢をもって、

「救急救命士」になっていて、その目標に向か

って、少しずつ少しずつ「救急救命士」という夢

に向かっていたので、すごいと思いました。

生徒D 

牧瀬さんの父への想いや「絶対に救急救命士

になりたい」という決意に感動しました。自分のた

めに、ということはあたりまえかもしれないけど、誰

かのために、ということもとっても大事だと分かりま

した。これから、将来のことで、たくさんなむと

思います。でも、支えてくれる人がいることを忘

れずに、前へ進み、夢をかなえたいです。

生徒I 

今日、牧瀬さんの救急救命士になるぞ、のカ

ードを見てとても感動しました。改めて、救急救

命士になるってとても難しいんだなと思いまし

た。牧瀬さんは、消防車から水が出るロープを

上手に巻いていたので、すごいなと思いまし

た。

生徒E 

今日の道徳の授業を受けて、私は、牧瀬さんっ

て強くて頑張り屋だなと思いました。私はまだ将来

の夢が決まっていないので、将来のことを早く考え

ないとなぁといつも思います。なので「これになりた

い!」という強い意志をもっている牧瀬さんを見て

すごい人だなと思いました。私も牧瀬さんを見習

って、早く将来の夢を決めようと思います。

生徒J 

今日の道徳で、絶対になると思った夢はか

なうということが分かりました。牧瀬さんは、父

が余命3ヶ月だから、父に制服姿を見せたいと

いう気持ちで何があっても絶対救急救命士に

なるという気持ちでがんばっていてほんとうに

なれた牧瀬さんはすごいと思いました。

終末の発問では、「あなたを見守ってくれている人の思いや支えに応えるために、これから何をしていきたいですか。」と問い、道徳的価値を自分なりに発展させていくことへの思いや課題を培わせることを目指しました。主人公の生き方に感銘を受けたことと、そこから自分の思いや課題へとつなげて記述した生徒が81%、主人公についての記述のみで終わっている生徒が19%でした。後者の生徒たちの感想を見てみると、主人公の生き方に強い印象を受けた感想になっていました。その内容には、班の話合いで深めたところをより具体的に記した感想で、資料に関心をもったであろうと思われる感想がほとんどでした。そこから自分の思いや課題へとつなげるためには、終末の発問をゆっくり丁寧に問い掛け、「自分のこれからについて、考えてみよう。」と補助発問をするなど、手立てが必要だと感じました。また、生徒Iや生徒Jのように、自分の思いや課題の記述ができていなくても、牧瀬さんの生き方について考えたことをしっかりと自分の言葉で書いている生徒もいました。評価の方法について、本時のワークシートだけではなく、学活ノート等の記述や生徒と相対して話す機会をもつことでワークシートに記述しなかった課題や思いを知ることができるのではないかと考えます。

授業後、生徒の感想を牧瀬さんにも読んでもらい、感想に対する返事を頂きました。本人と連絡が取れて授業後まで協力を頂ける場合は、このような手紙を教室に提示することで、生徒が授業を思い出したり、励まされたりすることができると考えます。

牧瀬さんからの手紙



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