人の生き方から学び、自己の生き方を探る道徳の時間を提案します。

 

2 研究の実際

 

    

(1) 学習指導要領における道徳教育の考え方

  

@ 道徳教育改訂の主な要点及び改善の内容

学習指導要領では、学校における道徳教育を一層充実させるために様々な改善がなされました。充実・改善の基本方針として、学校や学年段階ごとに道徳教育で取り組むべき重点、そして道徳の時間における小学校と中学校の指導の重点や特色をそれぞれ明確にすることが示され、その中で中学校における道徳の時間においては、「人間としての生き方や社会とのかかわりを見つめさせる指導を充実する観点から、道徳的価値に裏打ちされた人間としての生き方について自覚を深める指導を重視する」こととし、その際に行うべき多様な学習について、「法やきまり、社会とのかかわりなどに目を向ける、人物から生き方や人生訓を学んだり自分のテーマをもって考え討論したりする」ことが示されています。

また、中学校学習指導要領の指導計画の作成と内容の取扱い(第3章道徳の第3)には、配慮すべき重点内容として「自他の生命を尊重し、規律ある生活ができ、自分の将来を考え、法やきまりの意義の理解を深め、主体的に社会の形成に参画し、国際社会に生きる日本人としての自覚を身に付けるようにすること」と示されています。また、中学校学習指導要領解説の指導内容の重点化における配慮と工夫(第4章の第5節)に示されている重点内容をまとめると次のようになります。

                                    (参考:中学校学習指導要領解説道徳編 p.6 p.79)

 

A 道徳的価値の自覚を深めるための手立て

中学校学習指導要領解説には、道徳の時間の目標(第2章第3節)として、「道徳的価値及びそれに基づいた人間としての生き方についての自覚を深め、道徳的実践力を育成するものとする」と示されています。そして、道徳的価値の自覚については、押さえておくべき3つの事柄が次のように示されています。

一つは、道徳的価値についての理解である。道徳的価値が人間らしさを表すものであるため、同時に人間理解や他者理解を深めていくようにする。

二つは、自分とのかかわりで道徳的価値がとらえられることである。そのことにあわせて自己理解を深めてい くようにする。

三つは、道徳的価値を自分なりに発展させていくことへの思いや課題が培われることである。の中で自己や社会の未来に夢や希望がもてるようにする。

                                      (引用:中学校学習指導要領解説道徳編 p.31)

よって、道徳の時間には、資料の提示や発問の仕方を工夫することで、上記の3つの事柄を発達の段階に応じて、道徳の時間に組み込む必要があると考えられます。  

道徳的価値が人間らしさを表すものであるため、同時に人間理解や他者理解を深めたり、考えたりする場面を展開に取り入れます。

道徳的価値についての理解、人間理解、他者理解を、自分との関わりで捉える場面を取り入れます。

資料における登場人物の心情や生き方を考えさせる中で、自分との関わりで道徳的価値についての考えを引き出すため、次のような発問が考えられます。

   ・「主人公の○○さんの行動について、あなたはどう考えますか。」

   ・「主人公の○○さんの生き方で見習いたいことはどういうところですか。」

   ・「『〜なところを見習いたい』と発言しましたが、どうしてそう考えるか、詳しく教えてください。」 

確かな道徳的実践力を身に付けるために、理解や自覚を深めた道徳的価値について、これまでの自分を振り返りながら、また、これからの自分を見据えながら、道徳的価値をどのように高めていくか、そしてそのための課題をもつことの大切さを押さえます。

このような手立てを取ることで、一人一人が自己を見つめ、道徳的実践力を身に付けることにつながると考えられます。そこで、本研究では、上記ウのように「夢をしっかりもちたいなぁ」や「目標に向かって一生懸命努力していこう」というような、道徳的実践力を育てる道徳の時間を目指したいと考えました。道徳的実践力については、中学校学習指導要領解説道徳編で、次のように示されています。

道徳的実践力とは、人間としてよりよく生きていく力であり、一人一人の生徒が道徳的価値を自覚し、人間としての生き方について深く考え、将来出会うであろう様々な場面、状況においても、道徳的価値を実現するための適切な行為を主体的に選択し、実践することができるような内面的資質を意味している。 (中略) 道徳的実践力を育てることを目的とする道徳の時間においては、その特質を十分に理解して、教師の一方的な押し付けや単なる生活経験の話合いなどに終始することのないように特に留意し、それにふさわしい指導の計画や方法を講じ、指導の効果を高める工夫をすることが大切である。                       (引用:中学校学習指導要領解説道徳編 p.32)

また、道徳の時間に用いられる教材については、「道徳の時間に生かす教材は、生徒が道徳的価値の自覚を深めていくための手掛かりとして極めて大きな意味をもっている」とあり、生徒が感動を覚えるような魅力的な教材の開発や活用を通して、生徒の発達の段階や特性等を考慮した創意工夫ある指導を行うことの必要性が示されています。

道徳的価値及びそれに基づいた人間としての生き方について自覚を深めるために、道徳の時間に用いられる教材の具備すべき要件として、次の事柄が挙げられています。

ア 生徒の感性に訴え、感動を覚えるようなもの

イ 人間の弱さやもろさに向き合い、生きる喜びや勇気を与えられるもの

ウ 生や死の問題、先人が残した生き方の知恵など人間としてよりよく生きることの意味を深く考えることが

  できるもの

エ 体験活動や日常生活等を振り返り、道徳的価値の意義や大切さを考えることができるもの

オ 悩みや葛藤等の心の揺れ、人間関係の理解等の課題について深く考えることができるもの

カ 多様で発展的な学習活動を可能にするもの

            (引用:中学校学習指導要領解説道徳編 p.98)          


道徳の時間における話合いについては、道徳的価値の自覚を深める手立ての1つとして、(2)展開の工夫(第5章第3節の1)に、次のように示されています。

生徒が主体的に人間としての生き方を追求し、思考を深めるためには、生徒が道徳的価値を自分のこととしてとらえ、その価値とのかかわりで深く自己を見つめるようにすることが大切である。例えば、二人一組の対話や小集団による話合い、自分の考えをまとめて書く活動などを取り入れ、授業形態に工夫を加え、生徒が生き生きと活動し主体的に考え、さらにその考えを深められるようにする場面を設定することが、道徳の時間の指導効果を高めることにつながる。

(引用:中学校学習指導要領解説道徳編 p.90)

さらに、指導方法の創意工夫(2)話合い(第5章第3節の3)中で、主体的に道徳的実践力を身に付ける上で、話合いが効果的な方法であるとして、その効果を一層高めるためには「学級の生徒の実態や発達的特質、取り上げる資料の特質、他の教育活動との関連などに応じて工夫することが大切である。」と、話合いの形態も様々な方法で取り入れる必要性が示されています。

 (引用:中学校学習指導要領解説道徳編 p.93)

B 人の生き方から学び、自己の生き方を探る道徳の時間

学習指導要領解説では道徳教育改訂の要点のイ「内容」の中で、「3の(3)では、教材の開発や活用に関して、『先人の伝記、自然、伝統と文化、スポーツなどを題材とし、生徒が感動を覚えるような魅力的な教材』と具体的に例示し、多様な教材を生かした創意工夫ある指導を行うことを一層重視した」と述べられており、先人や偉人の教材化がクローズアップされました。また、3魅力的な教材の開発や活用(第5章道徳の時間の指導第4節)の中で、先人の伝記については、「多様な生き方が織り込まれ、生きる勇気や知恵などを感じることができるとともに、人間としての弱さを吐露する姿などにも接し、生きることの魅力や意味の深さについて考えを深めることができる」と記されています。また、スポーツを題材としたものについて「今、実際に活躍するアスリートなどのチャレンジ精神や力強い生き方、苦悩などに触れて道徳的価値及びそれに基づいた人間としての生き方についての自覚を深めることができる」と記されています。

                                                                       (引用:中学校学習指導要領解説道徳編 p.11 p.99)


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