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◇ 研究の成果及び今後の課題 |
研究の成果
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平成20、21年度の2年間にわたり本研究に取り組んできた。
1年次は、中学1年生を対象に「生活・学習アンケート」を実施し、発達障害のある児童を含むほとんどの生徒が、学校生活に何らかの楽しみを感じている一方で、学校生活の大部分を占める授業場面において、自分のできる力をうまく発揮することができないため、学習に取り組みにくい状態にいることが分かった。また、小学校6年生及び中学校1年生の学級担任を対象に「教育的配慮に関するアンケート」を実施し、小学校と中学校において、学習場面で何らかの困難さを抱える発達障害のある児童生徒に対する支援の考え方や実施状況に違いがあることが分かった。これらのことから、授業場面において何らかの支援を必要としている児童生徒がいるにもかかわらず、小学校と中学校において、彼らの支援が十分に継続されない状況が明らかになった。
そこで、2年次においては、学習場面で何らかの困難さを抱える発達障害のある児童生徒が、学習の中で、「授業に参加している」「活動ができた」と実感できる学習環境をつくることに取り組んできた。
2年間の研究を通しての成果として、次の3点が挙げられる。 |
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1 |
発達障害のある児童生徒ができることを生かした支援を取り入れることで、児童生徒は、学習において満足感や達成感を感じることができた。 |
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配慮を必要とする児童生徒の特性に応じた支援を考えるためには、児童生徒の特性を十分に理解することが必要である。 本研究では、児童生徒の特性を理解するために、発達障害のある児童生徒の特性にかかわること(「聞くこと」「話すこと」「読むこと」「書くこと」「計算すること・推論すること」「粗大運動」「微細運動」「注意・集中」「多動性・衝動性」「社会性」)についてアセスメントを行うことで、発達障害のある児童生徒の特性がより理解しやすくなった。 実際には、今回作成した「個別の教育支援計画」作成支援ソフト内の「学習・生活理解シート」及び行動観察から特性の理解を行った。それを基に、児童生徒の「できること」「得意なこと」に目を向け、それを活用するという視点で支援を考え、授業実践を行った。学習場面において、できる力を発揮しながら活動することができた児童生徒は、「授業に参加している」という満足感や「活動ができた」という達成感を味わうことができたと考える。
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2 |
小・中学校が連携して活用できる「個別の教育支援計画」作成支援ソフトを開発した。 |
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小学校において行われている児童への支援は、中学校においても継続して行われる必要がある。今回作成した「個別の教育支援計画」作成支援ソフトは、デジタルデータで作成されており、加筆・修正・保存が容易にできるものである。対象となる児童生徒の支援を考える際に必要な情報(生育歴、他機関の利用状況、保護者の願い、学習や生活の様子等)が集約されており、それを基に、データーベース化された具体的な支援例から、有用な支援を抽出し、支援を計画することができる。
この「個別の教育支援計画」作成支援ソフトは、小・中学校の両方で利用することができ、支援の引き継ぎを容易に行うことができるようになり、これまで行われてきた効果的な支援の継続が可能となった。 |
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3 |
発達障害のある子どもへの支援が、その他の児童生徒への支援につながった。 |
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発達障害のある児童生徒の特性に配慮した支援は、個別に行う場合と学級全体に行う場合とがあり、学級全体に対しての支援を行っても、対象とした児童生徒の理解につながることが分かった。 例えば、自分の考えを整理して話すことが苦手な子どものために、話型を拡大して学級全体に提示すると、対象児童はそれを見ながら、活動に参加することができた。さらに、その話型を見ながら活動している他の児童もいた。今回実施した実践授業の中でも同じような場面がいくつも確認できた。 このことから、発達障害のある児童生徒の特性に配慮した支援は、その他の児童生徒にとっても有効であると考える。
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今後の課題 |
1 |
継続的な支援の実現を目指した「個別の教育支援計画」作成支援ソフトの活用の推進
発達障害のある児童生徒の特性に応じた支援を小学校から中学校へ継続するために、「個別の教育支援計画」による支援の共有が求められている。そこで、このソフトを積極的に紹介し、支援の引き継ぎが確実に行われるように、活用を推進していくことが必要であると考える。 |
2 |
通常学級に在籍する子ども一人一人の特性を理解し、だれもが学びやすい学習環境を整えて、一人一人が「授業に参加している」「活動ができた」と実感できる授業の実践
通常学級には発達障害のある児童生徒に限らず、学習において苦手さを抱えている児童生徒がいることから、児童生徒すべての特性を理解し、それらに配慮した授業づくりに取り組んでいくことが次の課題と考える。
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参考文献及び引用文献 |
《引用文献》 |
1) 文部科学省 「発達障害者支援法(平成十六年十二月十日法律第一六七号)」
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/001.htm |
2) 文部科学省 「特別支援教育の推進について(通知)
」
平成19年4月1日
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/07050101.htm |
3) 特別支援教育の更なる充実に向けて(審議の中間とりまとめ)〜早期からの教育支援の在り方について〜
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/054/gaiyou/1236337.htm |
4) 文部科学省「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」 平成15年3月
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/018/toushin/030301.htm |
《参考文献》 |
1) 文部科学省 『小学校学習指導要領』 平成20年3月告示 東京書籍 |
文部科学省 『小学校学習指導要領解説 総則編』 平成20年8月 東洋館出版社 |
2) 文部科学省 『中学校学習指導要領』 平成20年3月告示 東山書房 |
文部科学省 『中学校学習指導要領解説 総則編』 平成20年10月 ぎょうせい |
3) 文部科学省 『特別支援学校 教育要領・学習指導要領』 平成21年3月告示 海文堂 |
文部科学省 『特別支援学校学習指導要領解説 総則編』 平成21年6月 教育出版 |
4) 文部科学省 「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」 平成15年3月
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/018/toushin/030301.htm |
5) 佐賀県教育庁学校教育課編集
『特別な教育的支援が必要な子どものためのガイドブック』 平成17年 佐賀県教育委員会 |
6) 佐賀県教育庁学校教育課編集
『特別な教育的支援が必要な子どものためのケースブック』 平成18年 佐賀県教育委員会 |
7) 金子 晴恵 『先生が明日からできること』 2007 杉並けやき出版 |
8) 佐藤 慎二 『通常学級の特別支援』 2009 日本文化学社 |
9) 品川 裕香 『気になる子がぐんぐん伸びる授業』 2006 小学館 |
10) 品川 裕香 『気になる子がわくわく育つ授業』 2009 小学館 |
11) 高橋 あつ子編著
『LD、ADHDなどの子どもへの場面別サポートガイド 通常学級の先生のための特別支援教育』 2007 ほんの森出版 |
12) 特別支援教育士資格認定協会編 上野 一彦・竹田 契一・下司 昌一監修
『特別支援教育の理論と実践T、U、V』
2007年 金剛出版 |
13) 独立行政法人国立特殊教育総合研究所
『LD・ADHD・高機能自閉症のこどもの指導ガイド』 2008 東洋館出版社 |
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