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国語科授業の「あったらいいな!」を形にします。

研究のまとめ

(1)研究を振り返って

   中学校国語科では、「活用力に培う国語科学習の在り方−言語活動の充実を通して−」をテーマに研究を進めてきました。「習得した知識・技能を条件に応じて使う力」を「活用力」ととらえ、その育成を目指すことで、知識・技能の確実な定着を図るとともに、知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力をはぐくむ授業の在り方を探ることを中心に研究を行いました。
   1年次は、学習内容の系統性を明らかにすることと、授業の中に「学びの方法を意識させる場」「知識・技能を意図的に活用させる場」「学習活動を振り返らせ、整理させる場」を取り入れた授業の実践を行ってきました。その結果、ねらいや身に付けるべき知識・技能を明確にした言語活動を位置付けた授業を展開することができました。
   2年次である今年度は、1年次の研究の成果を踏まえた上で、単元や1時間の授業において身に付けるべき知識・技能を生徒に意識化させ、学習のねらいを教師と生徒が共有できるような手立てを探ってきました。そして、ねらいや身に付けるべき知識・技能を明確にした言語活動を位置付け、すぐに役立つ授業モデルとして提案することができました。さらに、その授業を支える手引き等も併せて提案することができました。
   具体的な研究の成果は以下のとおりです。

《研究の成果》

研究の内容1 活用力に培う授業づくりについて
  知識・技能の定着を図るとともに、知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力をはぐくむ授業の在り方について考えました。
  まず、 新学習指導要領の指導事項を踏まえ、全国学力・学習状況調査や佐賀県小・中学校学習状況調査の結果における佐賀県の生徒の課題から、佐賀県の生徒に身に付けさせたい基礎的・基本的な知識・技能を明確にしました。更に、生徒に、身に付けるべき知識・技能を意識させ、身に付けさせたい基礎的・基本的な知識・技能をよりどころとした授業づくりを行いました。 その際、「授業づくりの視点の提案」→「先行実践・検証」→「授業モデルの提案」→「授業モデルを基にした授業展開案の提案」→「展開案を基にした授業実践・再検証」の流れで研究を進めました。
  その結果、次のような成果が得られました。
  ア 授業づくりの視点の提案
 
  知識・技能を活用させ、思考力・判断力・表現力を育成するための授業づくりに必要な考え方をまとめ、授業づくりの視点として提案することができました。
  イ 授業づくりの視点に基づいた授業モデルと授業展開案の提案
 
 
  授業づくりの視点に基づいて、単元のねらいに対応した言語活動を位置付け、「書く力」と「読む力」の両方を伸ばすことをねらいとした先行実践を行いました。その中で明らかになった課題や問題点を踏まえ、それまでの単元の学習で身に付けている知識・技能や単元の中で身に付いた知識・技能を活用させる場としての言語活動の位置付け方を授業モデルとして示すことができました。
 
  学習内容の系統性と身に付けるべき知識・技能の対応関係を、系統図として図式化して示すことで、そのつながりを分かりやすく示すことができました。 さらに、佐賀県の生徒に身に付けさせたい基礎的・基本的な知識・技能を基に、教科書教材を見直し、学習内容の系統性を明らかにしました。
 これまでに身に付けた知識・技能と身に付けるべき知識・技能が明らかになることで、教師も生徒も単元間や学年間のつながりを意識して授業に臨むことができるようになりました。
 
  授業づくりの視点に基づいて単元構想をした授業モデルの提案に合わせて、単元のねらいや位置付けた言語活動の指導のポイント等を示した「教師用手引き」を提案することができました。初めて授業をする先生にも指導のねらいや授業の流れが伝わるように作成しました。
  ウ 授業展開案に沿った授業実践
 
  学校によって年間の指導計画や生徒の実態が異なるので、実際の授業においては、当然指導のポイントは変わってきます。授業展開案4に沿った授業実践では、表現の工夫として図解表現を重点的に指導する展開Aと、表現の工夫としてキャッチコピーについて重点的に指導する展開Bというように、2通りの学習活動の流れで実践できました。
  授業展開案に沿って、各学校で一般的に実施される時期に合わせて授業実践を行い、授業に役立つアイディアや便利グッズとして紹介することができました。生徒の実態に合わせて学習活動や教材にさまざまなアレンジをし、より現場の実情に合わせて活用できるようにしました。
 研究の内容2 生徒が主体的に学ぶための手立てについて
  生徒が主体的な学習者となることができるよう、単元や1時間の授業において身に付けるべき知識・技能の意識化を図る手立てを探りました。生徒に、身に付けるべき知識・技能を意識させるためには、教師がその知識・技能を明確にし、意識して授業に臨むことが大切です。
  そこで、まず、新学習指導要領の指導事項を踏まえ、全国学力・学習状況調査や佐賀県小・中学校学習状況調査の結果における佐賀県の生徒の課題から、佐賀県の生徒に身に付けさせたい基礎的・基本的な知識・技能を明確にしました。その結果、その知識・技能を生徒に意識させ主体的に学ばせるための手立てについて明らかにすることができました。
  また、 知識・技能の確実な習得のために、学習活動の見直しを行いました。段階を細分化したスモールステップによる学習活動を授業の中に取り入れ、その活動を支える手引きも開発しました。生徒が段階を踏んで学んでいく道筋を意識することが、主体的な学びにつながり、身に付けるべき基礎的・基本的な知識・技能の習得を図ることができたということを検証できたと思います。次は、その具体的な成果です。
 
 
 
  授業で学習計画表を活用することによって、生徒は「何を」「いつ」「どのように」学ぶのかを見通しとしてもつことができ、主体的に学ぶことができるようになりました。
  学習計画を立てて行う単元学習を重ねることで、学習計画表の振り返りの欄の記述も、学んだことをより具体的に書くことができるようになり、単元の学習を通して身に付けた知識・技能を生徒が自覚していることがうかがえました。
 
  新学習指導要領の指導事項を基に、身に付けるべき知識・技能に関するアンケートの作成を行い、単元の前後に同じ内容で実施しました。
  事前のアンケートでは、教師は生徒の意識の実態を把握することができ、生徒はこれからの授業で身に付けるべき知識・技能をイメージすることができました。
  事後のアンケートでは、教師は生徒の意識の変容を把握することができ、生徒は今回の学習で身に付けた知識・技能を確認することができました。
  実際のアンケート結果では、ほとんどの項目で事前よりも事後の方がよい結果となり、生徒の意識には明らかな変容が見られました。
  学習活動の手順や方法を生徒自身が把握できるような生徒用手引きや活動に必要な知識を示した補助資料を、細分化した学習活動の段階に合わせて授業の中で活用しました。
  検証授業の中では、生徒は活動に見通しをもち、それらを利用して、何とか自分で解決しようとする姿が見られるようになりました。
 
  単元に位置付けた言語活動を効果的に行うために有効なワークシートを作成し、授業の中で適宜使用することで、これまで言語活動に苦手意識をもっていた生徒に対して、まずやってみようという意欲を喚起することができました。
  活動の内容や手順をチェック欄とともに示したワークシートを活用したことで、自分で書くべきことを確認しながら作業を進めたり、表現を付け加えたりして、よりよいものにすることができました。
 研究の内容3 知識・技能の定着と活用力の育成を図る学習プリントの作成
  知識・技能の定着を図るとともに、知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力の育成を図る学習プリントを作成しました。授業を支えるものとして、生徒が身に付けるべき知識・技能を意識しながら、主体的に学ぶことができるように作成しました。授業展開案2と授業展開案3の中でも使用しており、要約の手順を確認させるのに有効でした。
 
 
  学習プリントとして
@基礎的・基本的な知識・技能を身に付けさせるための「知識・技能プリント」
A学習したことが身に付いたかどうかを確かめるための「確認プリント」
B解答・解説
C 知識・技能を学ぶための「学習の手引き」
を提案しました。
  短時間でポイントを絞って学習できるため、予習・復習の課題にも使用できました。
 
  社会生活のさまざまな問題を解決するために必要な、習得した知識・技能を活用する力を問うための「活用プリント」を提案しました。
  生徒が授業の中で習得した知識・技能を場面や条件に応じて使うことができるように作成しました。
  「全国学力・学習状況調査」や「佐賀県小・中学校学習状況調査」から見える課題に対する手立てにもなりました。

 《研究を終えて〜課題と展望〜》

  今回の研究では、知識・技能を活用させる場としての言語活動を単元に位置付けた授業づくりについて提案しました。また、授業を行う際の手助けとなる教材等についても授業づくりと関連付けて提案することができました。さらに、この研究を通して、学習内容の系統性を教師が意識することの大切さを感じました。身に付けさせたい知識・技能に着目して前後の学年の学習を関連付けることで、 知識・技能の確実な定着を図るとともに、知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力をはぐくむことができることも分かってきました。しかし、今回の研究では部分的なつながりを明らかにすることで終わっており、全体の系統性を意識するまでには至っていません。
  今後は、新学習指導要領の全面実施に向けて、授業実践例を更に増やし、ワークシートや手引き等の内容を充実させることが必要になってくると考えます。生徒の主体的な学びを実現するための手立てについては、まだ検討の余地があるといえるでしょう。
  今回の研究は、中学校第2学年を中心に行いました。今後の研究の展望としては、中学校第1学年の指導事項に目を向け、小学校とのつながりを意識しながら、学習内容を関連付けることが考えられます。生徒の主体的な学びを実現するための手立てについても、更に検討を重ね、実践につなげたいと考えます。

(2)参考文献・資料

佐賀県教育委員会
文部科学省
中央教育審議会

梶田叡一
西村左二編著
堀江祐爾

国語教育実践理論研究会

井上一郎
『佐賀県教育の基本方針』 平成20年4月
『中学校学習指導要領解説 国語編』 平成20年9月
『幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について(答申)』 平成20年1月
『教育における評価の理論T:学力観・評価観の転換』 1994年 金子書房
『国語科の活用力を育てる授業』 平成19年 光文書院
『国語科授業再生のための5つのポイント-よりよい授業づくりを目指して-』 
2007年 明治図書
『読解力再考 すべての子どもたちに読む喜びを -PISAの前にあること-』
2007年 東洋館出版社
『読む力の基礎・基本-17の視点による授業づくり-』 2003年 明治図書
『ことばが生まれる-伝え合う力を高める表現単元の授業の作り方-』  2002年 
明治図書

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