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活用力に培う国語科学習の在り方

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中学校第3学年の実践 


 1 単元名  読み比べて自分の考えをまとめよう

         〜2つの評論から〜

    教材名 「テクノロジーとの付き合い方」 池内 了

        「テクノロジーと人間らしさ」   黒崎 政男

   出  典 『新編 新しい国語3』 東京書籍

同じテーマを扱った2つの説明的文章を比べて読み、それぞれの論述の仕方に着目して読んでいくことによって筆者の主張の理解に役立てたいと考えました。説明的文章の読解では、何が書かれているかという内容の読み取りに傾いてしまいがちですが、いかに書かれているかという観点からテキストを批評させました。その際、1つのテキストをうのみにすることなく、相対化することによって、自分の考えを作っていけるような指導を意識しました。

 2 学習内容の系統性

 3 単元とその指導について

生徒観

教材観

筆者の主張を大まかにとらえることはできるが、そこに至るまでの論理の展開や主張と根拠とのかかわりについて把握することが苦手な生徒も多い。 2つの教材はいずれもテクノロジーと人間とのかかわりについて書かれた評論である。
前回の説明的文章の学習では、日常の言語生活で使えないような語句もあったが、マーキングして分類・整理することで、筆者の主張を理解して自分の考えを簡潔にまとめることができた。 「テクノロジーとの付き合い方」は、「人間」が作り出したテクノロジーによって、「ヒト」の能力が衰えている現状に危機感を持ち、2つの側面の調和を訴えている。そのため、「ヒト」と「人間」という対になるキーワードによって論述されている。
読書の傾向を見ると、ファンタジーや平易な文章の小説が多く、教材として教科書に取り上げられているような評論は、生活の中では読んでいないと思われる。
 
「テクノロジーと人間らしさ」は、人間はテクノロジーに巻き込まれ、テクノロジーによって変容する存在であることを自覚して、冷静な対処が必要であると訴えている。一般的によく見られるテクノロジーへの批判を取り上げて、一つ一つ根拠を示しながら反論し、筆者の主張へとつなげる書き方である。
   

指導のポイント!

「学び」の方法を意識させる場の工夫

 

知識・技能を意図的に活用させる場の工夫

導入段階で2つの評論を読んだあと、学習課題と学習計画を協議し設定する。毎時間、授業の最初に本時の学習の内容と具体的な学習活動を自分で確認することで、最終的に課題を解決するためにはどのような学習過程と具体的な学習内容が必要なのか、見通しをもって取り組むことができる。   どちらの評論により説得力があるのか、比べて読むことで「文章を評価し、理由を明確にして自分の考えを書く」言語活動を設定する。2つの文章を比べて読むことで、相違点がはっきりと認識でき、評価する立場に自分を置くことで、より主体的に文章を読むことになる。また、文章化することで、自分の考えを整理し自覚することができる。
キーワードとそれに関連する語句に色分けをしてマーキングすることで、文章の展開や主張へと向かう筆者の意図を読み取ることができる。本単元では、「テクノロジーとの付き合い方」の文章の特徴を整理する際に、この方法を取り入れた。文章全体をとらえてマーキングしたり、文章を比べて読んだりするために、2つの評論を1枚のプリントに左右に並べて「本文ワークシート」として提示する。   話し合い活動を取り入れ、それぞれの評論について文章の特徴や主張との関連を見付け出し、学級全体で意見を交流しながら確認する。グループごとの意見を交流する際、既に出された意見以外の内容を発表するか、付け加えをして発表していくことで、集中力が高まり、学級全体の学習内容が深まっていくことをねらいとする。

学習活動を振り返らせ、整理させる場の工夫

  4人グループで話し合いをした後、それぞれのグループが話し合いの結果を報告し、学級全体で交流する。自分と同じ意見を知ることにより、自分の考えをより確かなものにしたり、自分とは異なる視点での意見を知り、自らの考えを広げたりすることができる。
毎時間、授業の終わりにその時間の学習を振り返らせ、「学んだこと 今後役立てたいこと 気づき」を学習計画表に簡潔に書く。今後の学習の場面だけでなく、(読書)生活の場面も考えながら授業を振り返ることができる。  

 4 単元の指導目標

  論理の展開の仕方と主張とのかかわりなどを評価しながら読むことができるようにする。
  2人の筆者の書き方に着目して評価し,自分の意見を書くことができるようにする。

 5 評価規準

国語への関心・意欲・態度

2つの評論のどちらに共感するか、根拠を明らかにして自分の考えを述べるために、読み比べようとしている。【C 読むこと ウ】
読む能力
表現の特徴や論述の仕方など、それぞれの文章の特徴を整理している。【C 読むこと イ】
主張と論理の展開の仕方などについて、2つの文章を比べて評価しながら読んでいる。【C 読むこと ウ】

 6 単元の計画(全5時間)

主な言語活動
主な学習活動
評価とその方法
初発の感想 2つの評論を読んで、どちらに共感するか、根拠を明確にして160字以内で書く。 ア  根拠を明確にして、自分の考えを書いている。【学習計画表】
なぜ共感するのかについて、文章の特徴から考えるための課題を設定する。
【学習計画表】
本文の読み取り 「テクノロジーとの付き合い方」の文章の特徴を整理する。 イ  表現の仕方や論理の展開の仕方など、それぞれの文章の特徴を整理している。【本文ワークシート】【観察】
「テクノロジーと人間らしさ」の文章の特徴を整理する。
文章の評価
本時へGO!
2つの文章を比べて、それぞれの筆者の主張と文章の特徴の関係を考えて整理する。
【ワークシート1】
イ  作者の考えが表れる言葉に着目して筆者の主張の理解に役立てている。【本文ワークシート】【ワークシート1】【観察】
自分の考えのまとめ
【ワークシート2】
生徒がまとめた考え
@ A B C
2つの評論を読み比べて、自分の考えを400字以内で書く。
【ワークシート2】
 
ウ  主張と文章の特徴について、2つの文章を比べて評価しながら読んでいる。【本文ワークシート】【ワークシート2】【観察】

7 授業を終えて

授業での取り組みについての考察<成果と課題>
 「学び」の方法を意識させる場の工夫
成果 単元の導入時に毎回計画を立てることで生徒たちも見通しをもつことができるようになってきた。
文章読解の1つの視点として、関連語彙に着目して筆者の意図を読み取ることを説明的文章で何度か行ってきた。そのことが今回の学習で生かされ、文章の特徴として気が付き、マーキングすることによって文章の展開を理解することもできた。
文章の書き方に絞って比較し評価させるために、2つの本文を1枚のワークシートにまとめて学習を進めた。叙述に沿った読み取りではなく、全体を大きくつかんで特徴を整理するためには、このような形に構成し直して提示した方が分かりやすく、学習課題を常に意識することにも役立ったようである。また、「文章を評価し、自分の考えを書く」学習活動のワークシートでも、大まかな構成と内容を示したので、ほとんどの生徒が、根拠を示しながらどちらの文章に説得力があり共感するのかという自分の立場を明確にして書くことができていた。
 知識・技能を意図的に活用させる場の工夫
成果 本単元では、文章の特徴として気が付いたことを出し合い整理する学習と、主張と文章の特徴とのかかわりから筆者の意図を読み取る学習において話し合い活動を取り入れた。全員が取り組みやすい課題というわけではなく、一斉授業の中では意見が出にくいところであるが、話し合いの場を設けたことで、全体の集中力や理解が高まった。
字数を400字以内とし、大まかな構成と内容を示したワークシートを準備した。初発の段階では主張の内容についてのみ書いていたが、まとめの段階では文章の書き方と関連させて自分の意見を述べることができていた。
2つの評論を同時に比べて読むということは、多くの生徒にとっては負担が大きく、叙述に沿って理解していくだけでも困難な生徒が少なくない。しかし、今回の学習では、読解の過程で話し合い活動を中心にしたことで、生徒が集中して取り組むことができた。回を重ねるごとに、より良い意見を述べるために真剣に話し合うようになり、合計4回のグループでの話し合い活動を取り入れたことで、集中力を維持して理解に役立てることができた。
話し合いを取り入れたことで、教師主導の一斉授業やワークシートでの個人学習ではできなかった学級全体の集中力が維持できたのではないかと考えられる。また、必要に応じて話し合いのポイントを指導し、回を重ねるごとに話し合い方も内容も報告の仕方も高まっていった。今までは、「難しいのではないか」と教師主導になっていたことを振り返ると、生徒の力を生かしていなかったと反省するところである。
課題 協議して意見をまとめたり、気付いたことを交流したりする場面での力を付けていなかったことがはっきりした。「中学生はなかなか自分の意見を言わない」のは確かにそうだが、話し合いの方法と司会者や発言者としての役割を指導し、継続的にそのような場を設けていく必要性を強く感じた。
 学習活動を振り返り、整理する場の工夫
成果 自由記述の形で、毎時間の学習内容にポイントを絞った振り返りを書かせた。1文程度ではあるが、その時間の学習で身に付けたことや、生活で生かすことができそうなことなどを書くことで、力として自覚することにつながったと考えている。

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最終更新日: 2009-03-30