対象を立体的にとらえる力を養う指導法を提案します

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研究の成果

   
  1   ICTの活用について
 (1) 立体的表現を支援するツールとしての可能性
 

立体的表現は、素材を様々な角度から見つめ、それを変形させたり、組み合わせたりしながら制作していく行為である。しかしながら、そのような行為を思考の中だけで行うことは簡単なことではない。そのため、自分が考えていた作品のイメージや量感をうまく表現できずに、立体表現に困難さを感じている児童生徒も少なくない。また、そのイメージでさえも自由に発想することが難しいという実態もある。実際に実物を操作しながら、試してみることが有効だと考えられるが、何度も試行錯誤できるように素材をふんだんに準備できることもなく、彫刻のように一度削り落としてしまったら、その部分はやり直すことができないなど、今までもいろいろな課題が指摘されてきた。
 以上のような課題を克服し、対象を立体的にとらえる力を養うことができるためのツールとして、ICTの活用を取り上げてきたことは大きな成果につながったといえる。プレゼンテーションソフトのアニメーション機能や動画などを駆使することによって、バーチャルではあるが、場合によっては実物を提示するよりも確実に立体を意識させることが可能となる。このことは、図画工作科においてデジタルカメラで撮影した多面的な胴体の画像や美術科で開発したプレゼンテーションソフト「立体的にイメージする」「木彫 いろいろな彫り方」などの例からも分かる。このように、ICT活用は、対象を立体的にとらえる力を支える「構成力」「思考力」「表現力」を育てることにも有効であった。また、図画工作科においては、画像編集ソフト(お絵かきソフト)を使って、胴体の画像にコンピュータの画面上でアイデアスケッチをさせることで、実際に近い状態で形や色を配置できることや、何度もやり直しができることなど、ICTの特性を生かして、児童が納得のいくまで活動できるよさがあった。また、美術科では、複数のコンピュータを準備し、開発したプレゼンテーションソフトを生徒自身が操作し、必要な部分を納得するまで見て確認できる環境を整えたことは、生徒の主体性をはぐくみ、個人差に対応する有効な手立てでもあったといえる。
 このように、本研究を通して、ICTは立体的表現を支援するツールとして、有効性ができ、これからもその活用が期待される。
 

 (2) 教科共通に考えられるメリットと教科の特性に応じたメリット
   本研究で、特に期待したのは、(1)で述べた「立体的表現を支援するツール」としてのICTの機能であったが、それ以外にも、ICTを活用することによるメリットは多く挙げることができる。
  教科共通に考えられるメリットとしては、ICTは、児童生徒の興味・関心を引き出すためのツールであり、また、効果的、かつ効率的に画像などを提示できるツールであるという点である。図画工作科における電子紙芝居による場面設定と課題の提示はこれから全8時間にも及ぶ学習活動の動機付けを可能とした。また、美術科における美術作品や生徒のワークシート、アイデアスケッチなどのスクリーンへの提示は、学級すべての生徒が必要な情報を確実に受け取ることができるといった点で、生徒の興味・関心を持続させるための最低限の条件であるといえる。(現実に行われている授業では、この最低限の条件が満たされていない授業も少なくない。)
 教科の特性に応じたメリットとしては、表現にかかわるさまざまな技法の習得に有効であるといった点である。従来、図画工作科・美術科における表現技術の指導には教師による演示が欠かせない。しかしながら、教室環境や児童生徒の人数などを考えたときに、すべての児童生徒が満足のいく状態でその演示を観察することは難しい。ましては、児童生徒がその演示を見たいときに何度でも見ることができるようにすることなどは現実的に不可能である。美術科において開発したプレゼンテーションソフトはそのような問題を解決することができた。一斉指導における提示はもちろんのこと、コンピュータの環境を整えることで、見たい児童生徒が見たいときに見ることも可能となるのである。開発したソフトについては、まだまだ改善の余地もあるが、小学校で木彫の指導が十分にできない教師の自己研修ソフトとしても、また授業での演示用としても、有効に使うことができると考えている。
 これらのメリットは本研究のねらいから考えると、副次的なことではあるが、教科学習全般において、ICT活用の有用性を示すための機会となった。
   
  2   ワークシートの活用について
  (1) 学習活動の見通しをもたせ、活動の連続性を生み出すためのツール
   学習活動において、題材全体を見通すことや授業のゴール(図画工作科や美術科では作品の完成)をイメージさせるためのツールとして、ワークシートを活用することは児童生徒の自己学習力をはぐくむためにも有効であった。いずれの実践においても、冊子型のワークシート集を題材の導入時に児童生徒に配布することで、児童生徒に題材全体の活動の流れや作品完成までの時間なども見通すことができ、毎時間の活動の意欲付けにもなっていた。また、 自分が調査したことや、気付いたこと、考えたこと、それを基にした発想のアイデアや表現のイメージ、活動内容などを言葉による記述とアイデアスケッチ、画像などで記録していくことにより、児童生徒の表現に連続性が生まれ、自分の変容も確認することができた。これらのことが、本研究が目指してきた対象を立体的にとらえる力を支える3つの力(構成力、思考力、表現力)をスパイラル的に向上させることにつながり、「対象を立体的にとらえる力」を養うことができたと考える。 
 ※研究の概要参照
   
  (2) 児童生徒の思考を深め、教師とのコミュニケーションを図るためのツール
    平成20年に公示された新学習指導要領では言語事項を重視している。図画工作科・美術科においてもその教科の特性に応じて、適切な言語活動が求められるところである。今回の研究では、このことも視野に入れた中で、児童生徒が自らの思考を深めることができるワークシートの活用を行った。

具体的には、調査活動の記録や活動の見通しと振り返り、相互評価の結果などあらゆる学習場面における言語活動の営みをワークシートにとどめ、自らの思考を深めるために役立たせようと試みた。教科の特性から考える図画工作科・美術科におけるコミュニケーションは非言語的なものであるが、言葉を用いて思考することで、感性と知性の両方を働かせて、作品の表現や鑑賞に取り組むことができるようになった。
 また、 児童生徒がワークシートに記述した内容を教師が知ることで、発想・構想・表現・鑑賞の各段階において、児童生徒に表現の見通しをもたせたり、立体作品制作上での悩みを解決させるための適切な助言を行うことができた。また、記述した内容を生徒にICTを活用して知らせることで、グループ批評がより活発になったことも言語活動の充実につながったと言える。

その意味で、今回の研究においてICTと、それに関連するワークシートを活用することが、児童生徒同士の、また児童生徒と教師との言語によるコミュニケーションを活発にする効果があったことは、新学習指導要領のねらいに則したものであったと考える。
  

研究の課題

  (1) 指導形態や指導方法の工夫
   一斉指導の中で、教師がICTを活用する場合はさほど問題にはならないが、児童生徒にコンピュータなどの機器を操作させる場合にはそれに応じたスキルが必要となる。学校全体で情報教育が推進されている場合や中学校では技術・家庭科(技術分野)において、すでに「情報とコンピュータ」の学習を終えている場合はともかくとして、そうでない場合には、必要最低限のスキルを指導することや、情報教育担当の教師などとのティームティーチングで指導に当たるなどの必要性が出てくると考えられる。子どものコンピュータに関するスキルを十分に把握し、実態に応じた指導形態を工夫する必要がある。
 本研究で提案したワークシートの効果については、教師によるコメントなどによる評価と指導のフィードバックが欠かせない。しかしながら、実際の学校現場では本研究で取り組んだような丁寧なフィードバックは難しい。小学校では全教科の指導を行う中で、図画工作科のワークシートだけにそれだけの時間を掛けられるかという問題があり、中学校では学校規模によっては10クラス以上の学級を担当している中で、すべての児童生徒にきめ細やかなフィードバックを行うことが可能であるかという問題もある。しかしながら、「だから取り組まない」というスタンスに立つのではなく、「できることから始める」というスタンスに立ちたいと思う。例えば、@ワークシートの内容を精選し、本当に必要な部分の吟味をすること。A必ず教師がコメントを記す必要がある場面はどこなのかということを明確にし、それ以外は、サインだけにする。Bワークシートにコメントを記す児童生徒をローテーションで決定し、それ以外は特に記述を要する児童生徒のみにする。など、ワークシートによる指導方法を工夫し、無理なく取り組むことができることも継続して取り組むためのこつであると思う。
   
  (2) 年間指導計画レベルでの計画性と情報の共有
   ICTは万能ではない。図画工作科・美術科の本質としては、実物を前にして、実際に見たり、触れたりしながら学習を進めることが重要である。題材によって、ICTを用いた場合が有効な場合とそうでない場合の見極め、さらには、教師がICTを用いた場合と児童生徒に活用させる場合のどちらが有効であるかということを十分に吟味して、年間指導計画レベルで、いつの時期にどの題材で活用するのかということを計画する必要がある。(1)で述べたような児童生徒のスキル習得のタイミングなども考慮に入れる必要がある。また、小学校では必要なソフトやデータなどの情報を学校全体で共有し、いつでも誰でも使えるような環境を整えておくことが大切となる。
 本研究で用いたようなワークシートを作成するためには、題材全体の時間数や具体的な活動、評価規準などが明確になっておく必要がある。言い換えれば、このようなワークシートが作成できるということは、ある程度詳細な指導計画と評価計画が立っているということになる。数週間から数ヶ月を掛けて取り組む制作活動において、このような冊子型のワークシートは有効であると考えられるので、まずは1学期に1題材ずつでも作成していきたいと考える。また、一度出来上がったものも生徒の実態を加味しながら、修正を図りつつ、よりよいものにしていければと思う。
   
 (3) ICT環境の整備
   本研究で提案したような授業を実施するためには、コンピュータ室で使用できるソフトの準備、図画工作室や美術室におけるICT環境の充実などが必要な条件となる。今後は、情報教育がなお一層推進され、環境整備が進むことが期待されるが、本研究で示したような成果を基に、早急なICT環境の充実を訴えていく必要がある。
 

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最終更新日: 2009-03-25