対象を立体的にとらえる力を養う指導法を提案します |
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実践事例2 美術科 中学校 第2学年 |
1 題材名 「すてきな模様の小物入れを作ろう 〜篤姫の小物入れ〜」 (工芸・木彫) |
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題材とその指導について |
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○ | 木彫は、小学校の図画工作科でも教材として用いられることが多く、ほとんどの生徒が彫刻刀で木を彫るという経験をしており、とても親しみやすい題材である。木彫は彫刻の1種である。粘土を用いた彫塑と違い一度削り落としてしまうと、その部分はやり直すことはできないという特徴がある。そのために自分がどのような形を作りたいのかというイメージをしっかりともっていないと制作段階で失敗しやすい。このことは生徒の「木彫嫌い」を生み出す原因の一つと考えられる。ワークシートを用いた作業過程と模様デザインの確認を通して、自分が考える模様を彫るためにはどのような手順を踏めばよいのかということを学ばせ、木を彫ることのすばらしさを生徒に味わわせたい。 | ||||
今回の題材で最も時間を費やすのは、木彫で模様を彫ることである。模様のデザインについては、基礎的な彫り方や彫刻刀の使い方を学べるように配慮し、指導に用いる資料に例示してある幾何学模様の彫り方と、「浮き彫り」で彫ることができる植物のデザインとした。 | |||||
これまでの美術教育、特に立体・工芸領域はどちらかというと制作重視の表現活動になることが多かった。このことを考慮し、今回は「篤姫の小物入れ」というテーマを設定した。このテーマ設定を通じて、生徒が自分なりの思いや発想・構想を作品に投影する過程を明確にすることで、新学習指導要領で重視されている「発想・構想の能力」の育成ができるものと考えている。NHKの大河ドラマ等で話題となっている篤姫という人物像を通して、そのイメージを膨らませ、自分がもったイメージをどのように作品に込めていくかという過程は、これまでの技術指導中心の美術教育から、思いを大切にする美術教育へ移行する1つの方策になると考える。 | |||||
○ |
生徒は、美術に対する関心が高く、制作に関する意欲が高い。生徒一人一人が関心をもち、意欲を高められるようなICT教材と関連するワークシートを用いて、順序立てて考えることができるように丁寧に指導していきたい。 | ||||
○ |
指導に当たっては、導入の段階でICTを活用した視聴覚教材を用い、生徒が彫りたい模様のデザインが、どのような作業手順を踏めば制作できるかということを分かりやすく提示したい。また、作業手順を忘れた場合でも、ICT教材を自分で操作し、何度でも振り返って学習できるような手立てを取り、基本的な彫り方や彫刻刀の使い方などの技能に関する定着を図りたい。 | ||||
またワークシートについては、@単元の作業工程を計画し、実際の制作後、反省と次回の見通しを立てる「思考力」を養うためのシート、Aデザインの発想・構想についてアイデアから具現化し、「構成力」を養うためのシート、B知識の定着と技能の向上を図り、技能に関する「表現力」を養うためのシート、C制作後、生徒作品の相互鑑賞に用い、言語活動における「鑑賞の能力」を養うためのシート、以上の4つのシートを作り、立体制作の表現活動と鑑賞活動において、生徒が自ら意欲的に取り組めるようにし、基礎的な造形力の向上につなげたい。 | |||||
3 |
題材におけるICTの活用について |
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本題材においては、授業場面における教師のプレゼンテーション(タイトルを自分で考える/美術のジャンルにおける工芸・木彫の位置/テーマ設定「篤姫の小物入れ」について/アイデアスケッチを考える など)と、生徒が自分で操作する資料(「いろいろな彫り方を学ぶ」プレゼンテーションソフト)において使用した。 (使用ソフトは「マイクロソフト オフィス パワーポイント2003」) |
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本題材で設定した評価規準 |
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「すてきな模様の小物入れを作ろう 〜篤姫の小物入れ〜」で設定した評価規準。 | |||||
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題材の目標 |
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(1) | ICT教材を用いて基本的な彫り方と彫刻刀の使い方を理解し、自分のデザインのどの部分に活用できるかを考え、制作に生かすことができる。(創造的な技能) | ||||
(2) | 制作手順をイメージし、計画を立てようとする。(美術への関心・意欲・態度) | ||||
(3) | 篤姫のイメージを生かしたデザインについて、アイデアスケッチから立体構造にいたるまでのイメージを描き表すことができる。(発想や構想の能力) | ||||
(4) | 鑑賞活動において、他の作品のよさや作者の思いを感じることができる。(鑑賞の能力) | ||||
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題材の指導計画 (全7時間) |
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第1次 | 美術のジャンルごとに様々な作品を鑑賞し、そのよさに触れながら、美術における木彫工芸の位置付けについて学習する。 | ||||
(1時間)本時@ |
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第2次 | 「篤姫」に関する資料をもとにイメージを膨らませ、装飾に関するアイデアスケッチをワークシートを活用して行う。 | ||||
(1時間)本時A |
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第3次 | アイデアスケッチを描き、互いに鑑賞し合う。 | ||||
正投影図について学習し、デザインの平面図を描く。 | |||||
(1時間)本時B |
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第4次 | 制作する。(木彫・下地処理・塗装) | ||||
(3時間) |
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第5次 | 完成した作品を相互鑑賞する。 | ||||
(1時間) |
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準備 |
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(教師) | 参考作品、コンピュータ、プロジェクター、紙やすり、塗料類、刷毛、ワークシート、付せん | ||||
(生徒) | 小箱、彫刻刀、作業台布 | ||||
本時@の学習指導 (1/7) |
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本時Aの学習指導 (2/7) |
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本時Bの学習指導 (3/7) |
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評価観点の表記 |
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このボタンをクリックするとその場面における指導のねらいと授業の実際を見ることができます。
8 学習指導の実際 (1/7) 本時@ 場所:美術室 |
8 学習指導の実際 (2/7) 本時A 場所:美術室 |
○ 本時の目標 | ||||||||
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○ 本時の展開 | ||||||||
過 程 |
学習活動
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教師の指導・支援と評価 |
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□ 生徒の具体的な学習活動 関連して学習内容も記載 |
○ 教師が行う指導・支援 評価や主な発問については □ 囲みで記載 関連するワークシートのページ・項目番号を[ ]で記載 |
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導 入 |
1. |
本時のめあてを知る。 @ 篤姫について知る。 A いろいろな彫り方について知る。 |
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2. |
課題に取り組んでの感想を発表する。 |
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□ 「篤姫」についての調べ学習に取り組んでの感想を発表する。 | ○ 生徒のワークシートへの取り組みについて、よかった点と次回見直したほうがよい点を知らせる。 | |||||||
展 開 |
1. |
「篤姫」について知る |
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@ 調べてきたことを発表し合う | ||||||||
(1) 友達が調べてきたことを知る![]() 図12 感想の発表1 □ 友達の調べてきた内容について検討し合う。 |
○ 事前に画像としてコンピュータにとりこんでおいた生徒のワークシートをプレゼンテーションソフトで映し出し紹介する。 ○ 生徒が調べてきたことについて他の生徒に感想を聞く。 |
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(2) グループを作り、話し合う![]() □ 3〜5名のグループになり、自分たちが調べてきた内容についてお互いに発表し合う。 □ グループとしての「篤姫」の人物像をまとめ、代表者の生徒が発表する。 |
○ 代表者が発表した内容を板書する。 |
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A 「篤姫の小物入れ」をイメージする □ 自分で調べてきた内容や友達の発表などを聞いて、篤姫の人物像を思い描き、「篤姫の小物入れ」としてどのようなデザインがいいか想像してみる。 □ イメージがある程度固まってきたらアイデアスケッチを行う。 |
[ワークシート 6p 7 模様のアイデアスケッチをしよう] |
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○ 頭の中にイメージはあっても、絵として描き表せない生徒は文章や箇条書きでもよいということを伝える。また、1つのアイデアスケッチだけではなく、できるだけたくさん描き、その中からよいものを決めたり部分をつなぎ合わせたりするなど、イメージを再構成する方法を知らせる。 | ||||||||
○ 人物像がある程度固まっている生徒で、アイデアスケッチに移行できない、または箇条書きにできないで悩んでいる生徒には次の点に留意しながら個別指導を行う。 個別指導における項目
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2. | いろいろな彫り方について知る□ 作りたいデザインがある程度固まったら、それをどのようにして制作するか、いろいろな彫り方の技法を学びながら考えていく。 |
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![]() 図15 いろいろな彫り方の説明 |
○ 資料集にある、いろいろな彫り方と併せて学習するように知らせる。 ○ プレゼンテーションソフトについては、次回の授業で生徒が自由に操作できることを伝える。また、本時の学習では、彫り方の種類と彫って出来上がる立体としての形がどのようになるかということを知ることが目的であることを伝える。 |
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![]() 図16 菱合い彫りの説明1 |
○ 彫り方の解説について表示されているアニメーションが、真上からの図・断面図・斜めから見た図の3方向から見た図であるということを説明する。 ○ 彫り方によって、使用する彫刻刀の種類や刃の方向などが変わることを知らせる。 |
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![]() 図17 菱合い彫りの説明2 |
○ 動画については、ここでは簡単に見せる程度とし、次の時間は生徒が自由に操作できるようにする。 ○ 彫刻刀を使うときは刃先に指を置かない、周囲の安全を確認する、道具の管理をきちんと行うなどの安全指導を行う。 |
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□ プレゼンテーションソフトで学んだことをワークシートに記入する。 | [ワークシート 4p 5 いろいろな彫り方を学ぼう] |
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3. | アイデアスケッチを描く □ 学んだ「いろいろな彫り方」を考慮して、自分がイメージしているアイデアスケッチを深める。 |
![]() [ワークシート 6p 7 模様のアイデアスケッチをしよう] |
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![]() 図18 生徒のアイデアスケッチ1 |
○ 言葉で自分のイメージを書いている生徒には、次のことを留意しながら、図としてアイデアスケッチを考えさせる。 個別指導における項目
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□ 次時までの課題として、アイデアスケッチを考えてくる。 | [ワークシート 6p 7 模様のアイデアスケッチをしよう] ○ 課題の提出日は次時の2日前に設定し、事前に生徒のワークシートを画像としてコンピュータに取り込んでおく。 |
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8 学習指導の実際 (3/7) 本時B 場所:美術室 |
○ 本時の目標 |
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○ 本時の展開 | |||||||
過 程 |
学習活動 | 教師の指導・支援と評価 |
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□ 生徒の具体的な学習活動 関連して学習内容も記載 |
○ 教師が行う指導・支援 評価や主な発問については □ 囲みで記載 関連するワークシートのページ・項目番号を[ ]で記載 |
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導 入 |
1. |
本時のめあてを知る。 @ アイデアスケッチを鑑賞しあう。 A 正投影図について知る。 B 装飾デザインの平面図を描く。 |
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2. |
課題に取り組んでの感想を発表する。 □ アイデアスケッチに取り組んでの感想を発表する。 |
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展 開 |
1. |
アイデアスケッチを鑑賞し合う @ 友達のアイデアスケッチを鑑賞する □ 友達のアイデアスケッチを鑑賞し、自分なりの意見をもって批評しあう。 |
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![]() 図19 生徒のアイデアスケッチを提示した様子1 |
○ 事前に画像として取り込んでおいたワークシートのアイデアスケッチを映し出し、生徒に感想を聞く。 ○ アイデアスケッチを描いた生徒に、自分が表現したかったことと、見た人の感想を比べての意見を聞く。 |
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![]() 図20 生徒のアイデアスケッチを提示した様子2 |
教師の発問
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A グループで鑑賞・批評し合い、アイデアスケッチを見直す。 □ グループでお互いのアイデアスケッチを見せ合い、意見交換する。その中で、自分のアイデアスケッチに手を加えたほうがよいところが見付かれば描き直してみる。 |
[ワークシート 6p 7 模様のアイデアスケッチをしよう] |
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![]() 図21 生徒のアイデアスケッチ2 |
○ グループ(3〜5名)の中で、自分のアイデアスケッチを見せ合わせ、お互いに鑑賞・批評をさせる。 ○ 友達の意見にアイデアスケッチを練り直したほうがよいという意見があったり、迷った場合は描き直してみることを勧める。 |
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2. | 正投影図について知る □ 立体を平面図に置き換える投影法について学ぶ。 □ アイデアスケッチを図面として描く場合に、どの投影法を使い、どのようなことに注意して描けばよいかを学ぶ。 □ 平面図から立体をイメージする方法を学ぶ。 |
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![]() 図22 正投影図の説明1 |
○ 立体を平面で表す方法として正投影図を挙げ、3つの図に描く考え方と方法をプレゼンテーションソフトを使って説明する。 |
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![]() 図23 正投影図の説明2 |
○ どこかの面を手がかりとして考えると分かりやすいということを伝える。 | ||||||
![]() 図24 正投影図の説明3 |
○ 逆に3つの平面図から立体をイメージできるようになることも大切であることを伝える。 | ||||||
□ 自分のアイデアスケッチを3つの図に描きおこす場合どのような図になるかということを考える。 | ○ 最初は真上から見た図(上面図)がどのようになるかを考えさせ、次に断面図(側面図)について考えさせる。 | ||||||
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3. | 装飾デザインの平面図を描く □ 実際にプレゼンテーションソフトを操作し、どのような彫り方があるかという種類と、どのようにして彫るのかという技法について学習する。 □ 自分が描いたアイデアスケッチを立体化するには、どの技法を用いて彫ればよいか考える。 □ 技法を考慮しつつ、アイデアスケッチを平面図に描き起こす作業を行う。 |
![]() [配付した平面図に記入] |
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![]() 図25 ソフトを操作する生徒の様子 |
○ プレゼンテーションソフトの最初に、いろいろな彫り方を紹介している目次があることを知らせ、操作方法を確認する。 | ||||||
![]() 図26 いろいろな彫り方の説明(アニメーション) |
○ ソフトで紹介してある彫り方の中で、難しい彫り方については3面図(1つは斜めからの図)で解説してあることを確認し、彫刻刀のアニメーションをそれぞれの面で見比べ立体をイメージしていくことを知らせる。 |
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![]() 図27 いろいろな彫り方の説明(動画) ![]() 図28 動画を見ている生徒の様子 |
○ 動画については、画面下部にある操作ボタンで一時停止や早送り、繰り返しなどができることを知らせ、彫り方について分かるまで見てよいことを伝える。 | ||||||
![]() ![]() ![]() 図29 用意した3種類の平面図 |
○ 平面図を描く用紙は3種類用意し、生徒が自分のアイデアスケッチを図面にする際描きやすい補助線が入った用紙を選ぶことができるように準備しておく。![]() |
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![]() 図30 生徒が下書きした図 □ 彫り方や描き表し方について理解できたら、装飾デザインを平面図に描き表す作業を行う。 |
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□ 間に合わない場合は次時までの課題として平面図を描いてくる。 | ○ 課題の提出日は次時の2日前に設定し、事前に生徒のワークシートを画像としてコンピュータに取り込んでおく。 | ||||||
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最終更新日: 2009-03-30 |