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対象を立体的にとらえる力を養う指導法を提案します

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実践事例1   図画工作科    小学校 第5学年 


1 題材名 「HELLO ! スポンジモンスター」 (平成20年9月実施  31名)

2 題材とその指導について

モンスターは、児童にとってアニメのキャラクターであり、様々な形や色彩をもっているものとして認識されている。本題材は、「スポンジ星で出会ったモンスターを自分なりに想像してつくろう」と提案することで、児童の作品制作に対するモチベーションを高め、創造性を働かせながら、意欲的に造形活動に取り組ませることをねらいとしている。

素材のスポンジは様々な形や色があり、握るとふわふわしていながら、表面をなでるとざらざらしている触感をもっている。また、手で力を加えることにより、容易に変形させることができ、はさみで切ることで角を丸くしたり、分割したりすることができる。そして、適合する接着剤を使用すれば、比較的容易に接合することも可能であり、水性のサインペン等で着色することもできる。このような素材の特徴に触れ、その特徴を生かして造形表現を行うことで、児童は造形する楽しさを実感し、造形力を高めていくと考えられる。

児童は、普段の生活で、スポンジに触れる機会はあまりない。スポンジは、食器洗いのときに使うぐらいで、お手伝いなどの経験が少ない児童は、その柔らかくてざらざらしている触感を感じることはほとんどないと考える。また、スポンジを変形させる活動をした経験は皆無だと思われる。そのため、本題材で児童は身近な素材が造形活動の有用な材料になることを、経験を通して理解すると考える。

指導に当たっては、宇宙旅行の話をキューブきっず(電子紙芝居)で行い、児童の制作意欲を高める。次に、大きめのスポンジを2つ組み合わせてモンスターの胴体をつくり、デジタルカメラで撮影する。そして、画像をパソコンに取り込みスポンジモンスターのアイデアスケッチをするようにする。その際、使用するソフトはキューブきっず(お絵かきソフト)で行う。制作したアイデアスケッチは印刷してワークシートにはる。そのとき、モンスターの性格なども記述させたい。また、ワークシートは、制作する手順や制作時間の配分、学習の振り返り、鑑賞などの内容を随時記述させ、活動のあらゆる場面で使用させたい。制作の時間は、はさみの使い方で行き詰まる児童がいると予想されるので、はさみの入れ方を助言したり、加工するためのいろいろな技法を提示したりして支援する。鑑賞の時間は、アイデアスケッチを表現に生かしているか、スポンジの特徴を生かした表現になっているかなどの視点を与え、自他の作品のよさを見付けさせる。

3 題材におけるICTの活用について 

本題材においては、ICTを題材の導入のためのプレゼンテーションと児童が構想段階でのアイデアスケッチをする際に使用した。(使用ソフトは「キューブきっず」 発売元「スズキ教育ソフト」)

4 本題材で設定した評価規準

 
「HELLO !スポンジモンスター」で設定した評価規準。 詳細はこちらPDF

5 題材の目標 

 


 
スポンジの特徴を生かし、意欲的にアイデアスケッチやキャラクター設定をしたり、制作したりしようとする。
(造形への関心・意欲・態度)
 
キューブきっずを使用して自分なりにアイデアスケッチをしたり、キャラクター設定をしたりすることができる。(発想や構想の能力)
 
ワークシートにあるアイデアスケッチやキャラクター設定の記述などを基にして、はさみで切ったり、接着剤で部品を付けたりして自分なりのモンスターを表現することができる。(創造的な技能)  
 
自他の作品を鑑賞し、それらのよさやおもしろさを見付けることができる。 (鑑賞の能力)  

6 題材の指導計画 (全8時間)

第1次

第2次

第3次

第4次

スポンジ星の話を聞き、モンスターの胴体をつくる。(2時間 )

ICT、ワークシートを活用し、アイデアスケッチをする。(2時間 )

アイデアスケッチを基に制作する。(3時間 )

完成した作品を鑑賞する。(1時間 )

7 準備

  (1) 準備
    【教師】参考作品、針金(30p×200本)
    【児童】スポンジ(大きいもの2個、小さいもの10個程度)、はさみ、接着剤(ボンドG17 発売元コニシボンド)
  (2) 利用環境
    ○主なハードウエア   【教師】管理用パソコン1台  【児童】パソコン31台
    ○主なソフトウエア    【教師】キューブきっず(管理用)、スカイメニュー(管理用) 【児童】キューブきっず

8 学習指導の実際     場所:多目的室、パソコン室

学習活動

(Tは教師の発問、Cは児童の反応、水色のは評価、ピンクの文字は手だてに関係する言葉)

第1次   スポンジ星の話を聞き、モンスターの胴体をつくる。(2時間 )
1 「モンスター」について話し合う。

T みんなはモンスターって、どんなものをイメージしますか。

C ポケットモンスターです。

C ゴジラやモスラです。

 (この他にもいろいろな意見が出る。)

T モンスターって、普通の動物とどこが違いますか。

C 大きくて、街を破壊します。

C 頭や目がいくつもあります。

 (この他にもいろいろな意見が出る。)

C 今日からモンスターを作りますが、最初にお話を聞いてください。

《提示した話》

2050年、ついに人類は宇宙旅行に行ける時代になりました。わたしたちの小学校の同窓会を計画した2008年度の5年1組のみんなは、同窓会は宇宙旅行にしようということになりました。ということで、さあ出発!宇宙船はどんどん進みます。ところが、とちゅう具合が悪くなる人が続出。近くの星に着陸することになりました。その星は、スポンジでできていて、人類はまだ行ったことがありません。その星に近付いていくと、地球では見たこともない形や色をしたスポンジモンスターがたくさん住んでいました。モンスターはどれもおとなしく平和に暮らしていました。5年1組の仲間は、モンスターと仲よく遊び、とても楽しい宇宙旅行をすることができました。さて、問題です。あなたならこの星にどんなモンスターがいると思いますか。実は、答えは1つではありません。それに、答えはあなたの心の中にあります。さあ、みなさん、スポンジ星にいたらいいなと思うモンスターを想像してみましょう。

動画はこちら

使用したスライド(キューブきっずの電子紙芝居で作成)

2 スポンジで胴体をつくる。

T スポンジ星にいたらいいなと思うモンスターを作ります。

  まず、2つの大きめのスポンジを組み合わせて胴体を作りましょう。

C どう組み合わせたらいいだろう。

 胴体ができたらデジタルカメラで3〜4方向から撮影しましょう。

C ここが顔になるから、ここから撮ろう。

T 次の時間はモンスターの画像をパソコンに取り込んで、アイデアスケッチをします。

C パソコンでアイデアスケッチをするなんて、楽しそうだな。

 

  胴体を作る。       デジタルカメラで撮影する。     

第2次   ICT、ワークシートを活用し、アイデアスケッチをする。(2時間 )
3 アイデアスケッチをする。

T 今日はパソコンを使ってスポンジモンスターのアイデアスケッチをします。

  キューブきっずを立ち上げて、お絵かきのところを開きましょう。

C 自分の作品が入っているかな。

T お絵かきソフトを開き、先週撮影した写真の中からアイデアスケッチに使いたい写真を1枚選びましょう。

  線を書き加えたり、着色したりしてアイデアスケッチを描きましょう。

  レイヤーを掛けることを忘れないようにしましょう。

C 自分の作品の写真が3枚入っていたぞ。どれを選ぼうかな。

T では、アイデアスケッチを始めましょう。

[構想時の評価と支援]

[評価]

 モンスターの胴体の画像を基にして、自分なりに体の形を変えたり、手や足などの部分を

 付け加えたりして、アイデアスケッチを描くことができる。

[支援] 

  立体になったときの、手足などの形やその部分の色などを想像させ、アイデアスケッチを描かせる。

キューブきっずを使用してアイデアスケッチ をするB児

               

図ー1 アイデアスケッチ後の児童の意識(31名)

第3次  アイデアスケッチをもとに制作する。(3時間 )
4 制作する。

T アイデアスケッチの中から、一番作りたいものを選び、スポンジモンスターを作ろう。

C ぼくは、このアイデアスケッチを基にスポンジモンスターを作るぞ。

T スポンジの特徴を考え、角から切ったり、つまんで切ったりするなどして、工夫して切ってみましょう。

[制作時の評価と支援]

[評価] 

アイデアスケッチを基に、スポンジの色や形を考え、胴体を変形したり手足などを付け加えたりして

表現することができる。

[支援] 

アイデアスケッチをもとにして何をどのように作りたかったか、どこでつまずいているか確認し、

現状に応じた助言や補助をする。

 

A児の作ったモンスターの胴体       アイデアスケッチ              完成作品

 →  → 

    

B児の作ったモンスターの胴体      アイデアスケッチ               完成作品

 →  → 


B児の制作時におけるワークシートへ振り返りの記述内容           
拡大画像はこちらから(PDF)

          1                      2                     3


         児童のアイデアスケッチとそれを基にして制作した作品


 →      → 

 →          → 

第4次  完成した作品を鑑賞する。(1時間 )
5 鑑賞する。 

T 今から自分と友達の作品のよさ見付けをします。

  見るときのポイントを言いますので、よさ見付けの時の参考にしてください。

T 自分の作品のよさ見付けが終わったら、友達の作品のよさをカードに書いて、友達のワークシートに

    はってあげましょう。

C (付せんと鉛筆を持ちながら、友達の作品のよさを見付ける。

  見付けたよさを付せんに書き、作品の前に置いた友達のワークシートにはる。)

鑑賞する時のポイント

1、アイデアスケッチを基にした作品となっているか。

2、アイデアスケッチにない工夫もしているか。

3、モンスター(生き物)らしさが出るように、形を工夫しているか。

4、モンスターの色の使い方を工夫しているか。

B児の鑑賞活動時のワークシートの記述内容

拡大画像はこちらから(PDF)

 

鑑賞活動の様子

 


児童の作品

T 友達から見付けてもらったよさを読んでみて、どんな気持ちになりましたか。

C 友達から自分の作品のよさを見付けてもらって嬉しかったです。

C 「いろいろな色を使っている」ところを見付けてもらってすごく嬉しかったです。

 「アイデアスケッチを生かしている」と書いてくれたカード(付せん)があり、自分では思わなかったけど、「そう

   なんだ」と思いました。

[鑑賞時の評価と支援]

[評価]

 自分の作品のよさを友達に伝え、友達の作品のよさを見付けることができる。

[支援] 

 体全体の形、手や足などの部分の視点を与えて作品を見るように促す。

図ー2 学習後の児童の意識(31名)

 9 児童の感想
  (A児の感想)

かぶとのような角を付けたり、手のようなものを作ったり、人間のようなものを作ったりしました。手の爪を2つずつ付けました。裏にも羽を付け、ぺらぺらしたものを付けました。完成できてよかったです。

(B児の感想)

私のモンスターはカタツムリのような形なので小さいカタツムリを付けたりしました。思い付いたことをたくさん作ってみてよかったと思います。授業は終わりですが、家で付け加えをやってみようかなと思います。

(C児の感想)

 思い付いたアイデアはすぐに実行してどんどん作っていけたと思います。そして、自分が想像したモンスターを超えるようなモンスターができたのでよかったです。いろいろな色のスポンジも使えました。はさみで切ったり取り付けたりして楽しかったです。

 
 10 授業後の考察

本題材はスポンジを用いてモンスターを制作する活動であった。題材の目的は、スポンジの素材の特徴を生かし、自分なりの発想や構想で立体作品を制作するものであった。

まず、導入の段階でのICTの活用ということで、キューブきっずの電子紙芝居を使って、宇宙旅行に出かけるという場面設定を行った。その結果、図―1にあるように、大半の児童が、話を聞いてモンスターを制作したいという気持ちを高めることができたと考える。 また、アイデアスケッチをする段階においても、ICTの活用ということで、デジタルカメラで撮影した画像(A児とB児の大きめのスポンジを2つ組み合わせた胴体の画像を参照)をパソコンに取り込み、キューブきっずのお絵かきソフトで、形を付け加えたり、それに色を付けたりする活動を行った。その結果、図―1にあるように、アイデアスケッチをパソコンで行うことが役に立ったと思っている児童が約9割いることが分かる。このことは、アイデアスケッチ制作にパソコンを使用することで、形を描いたり消したり修正したりすることが容易になり、考えた色がすぐに付けられることで、作品完成のイメージをもちやすかったことが要因と考えられる。

本題材では、制作プランや学習の振り返り、鑑賞などの様々な場面で、ワークシートを用いた。このように活動全体を通してワークシートを用いることで、図―2にあるように、ほとんどの児童が、思っていたような活動ややる気を失わない活動ができたと回答している。ワークシートに描いたアイデアスケッチや制作する中で努力したことや困っていることなどの様々な感想に対して、教師が適時的に助言ができたことがプラスに働いたと考える。

本題材では、立体表現は完成のイメージを抱きにくいという傾向を踏まえ、ICTを活用することで児童に立体のイメージをとらえさせることを試みた。また、ワークシートの活用を通して、児童の思いを把握し、立体表現のポイントを助言した。これらの活動を通して、発想・構想段階では、立体をイメージする「思考力」やイメージを具体化する「構成力」を、表現段階では、立体の「表現力」をスパイラル的に養うことができたと考える。


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最終更新日: 2009-03-24