3つのポイントを生かした支援

 ここでは、3つのポイント((ポイント1)「子どもの今」をとらえよう(ポイント2)「子どもの今」につきあおう(ポイント3)支援者の持ち味を生かそう)を生かした支援を考えていきます。
 具体的には、以下のような手立てを事例を通して示していきたいと思います。


○(Point1)「子どもの対人関係と行動の状態チェック表」を使った子どもの状態把握

○(Point2)心のエネルギーを貯える活動の実施

○(Point3)連携した支援のための個別支援シートの活用


 以下、A子(中学3年生)の事例を通して、3つのポイントを生かした支援を考えてみます。

 A子の事例を通して

【事例の概要】

 小学6年生の6月から、友人関係のトラブルがきっかけとなり不登校になる。
 中学校への入学を契機に、登校するようになるが、5月中旬から欠席が目立ち始め、6月には全く登校しなくなった。
 中1の10月から、本人の希望で、適応教室へ通級し始めた。
 その後、学校(担任)、保護者、適応教室指導員の3者を中心として連携が図られた。
 A子は、支援者それぞれに見守られながら、心のエネルギーを貯えていった。そして、しだいに学校へ登校することもできるようになり、希望する高校に合格し、中学校を卒業した。

 ここで、A子の回復過程を「心のエネルギー曲線」を使って表すと、次のようになると考えられます。


 ここでは、上記で示された「中期」、「後期」、「復帰期」の3期におけるA子の行動や様子及び支援者のかかわり等を表で示します。


 事例の見方について

 A子の事例は、学校適応指導教室(以下、適応教室)との連携を含んだ事例ですが、適応教室に通級している子どもへの支援の参考になるだけではありません。
 「適応教室の支援方針やかかわり方」、「適応教室での活動内容」、「連携した支援の方法」は、特に、現在相談室や保健室に登校しているの子どもたちや、心のエネルギーが貯まってきていると判断できる「中期後半」、「後期」、「回復期」の不登校の子どもたちへの支援の参考になるのではないかと思います。


 また、A子とA子を取り巻く支援者との関係を図(「人的資源図」)で表し、各期における人的資源の状況を視覚的に示しました。図中の、子どもからそれぞれの支援者までの距離は、両者の心的距離を表しています。
【中期】



【後期】



【復帰期】



 このように、3期の変化をみてみると、A子の心のエネルギーの高まりに伴って、部分登校ができる等、行動や対人関係が広がってきました。その結果、支援者の数が増えたり支援者との心的距離が短くなってきたのがわかります。このような支援者の広がりをみるとき、支援者間の連携の大切さや支援方針に対する共通理解が必要になってくるのではないでしょうか。

 今、目の前にいる不登校の子どもたちは、果たしてどれだけの支援者がいるのでしょうか。いたとしても、その支援者との心的距離はどれほどのものでしょう。
 今後の支援のために、人的資源図を使って現状をとらえてみるのもいいかもしれません。

 「中期」における支援

時期 子どもの行動や様子 支援者の主なかかわり等
○:学校、□:保護者、◇:適応教室、▼:連携
3つのポイントからの手立ての資料等
中1 10月































中2 5月
適応教室に通い始める



適応教室では、コミュニケーションの場面での緊張感がとても高く、集団活動も参加したがらない
























適応教室指導員に、「今日の活動はとても楽しかった」と初めて自分から話しかける

◇適応教室の場(人的及び物的環境)に慣れるために、次の支援方針を立てた
・指導員との1対1の関係づくりから始めること
・その際、A子の興味・関心があることや得意なことを一緒に行い、緊張や不安を和らげることに努めること
 また、会話や散歩、ゲーム、スポーツなどを他の指導員や通級生を交えて行い(するかしないかはA子の決定を重視)、対人関係の範囲を広げていく

▼学校(担任)、保護者、適応教室の3者が、情報交換をし、今後の支援について協議する(「支援者の持ち味を生かそう」へ)場を設定する


○A子との関係性をつないでいくために、定期的に家庭訪問を行う

○保護者との情報交換を定期的に行う


□A子のいいところをみつける(「子どものよさを見つける7つのポイント」へ)姿勢、A子を否定するような言葉かけをしない(「言葉かけの見直し」へ)ことを心がける

□ A子の話をじっくり聴く時間をとる


心のエネルギーを貯える活動の継続的実施












☆3者の協議での資料
●保護者が記入した「子どもの対人関係と行動の状態チェック表」
●学校(担任)、保護者、適応教室の3者が協議して作成した個別支援シート









☆「心のエネルギーを貯える活動」例
●体験的な活動(トラストウォーク)の資料(活動内容、留意点、子ども用プリント等)

☆A子を取り巻く支援者の変化
●中期におけるA子の人的資源図


 「後期」における支援

時期 子どもの行動や様子 支援者の主なかかわり等
○:学校、□:保護者、◇:適応教室、▼:連携
3つのポイントからの手立ての資料等
中2 6月

















中2 12月








中2 2月


中3 4月

適応教室での活動で、笑顔が多くみられるようになる


適応教室で、自分が得意なスポーツをするときは、率先して道具の準備や後かたづけをする
また、好きな教科の勉強をするようになる



コミュニケーションの場面での緊張感は依然高い


朝、学校で担任と会ってから適応教室に通うようになる(毎日ではない)

学校に寄ってから適応教室にきたときは、「つかれた、きつかった」といい、元気がないことが多い

卒業後の自分の進路希望を口にする

始業式に参加するかどうか担任から話があったが、行かないことに決める
そのことを担任には直接いうことができず、電子メールで伝える

▼学校(担任)、保護者、適応教室の3者が、情報交換をし、今後の支援について協議する(「支援者の持ち味を生かそう」へ)場を設定する


□A子のいいところをみつける(「子どものよさを見つける7つのポイント」へ)姿勢、A子を否定するような言葉かけをしない(「言葉かけの見直し」へ)ことを心がける

□できたこと(適応教室での活動、家庭での手伝い等)を認めほめるような姿勢を持つ

□一緒に活動する時間をとる


心のエネルギーを貯える活動の継続的実施






○対人関係において強い緊張感を示すA子との連絡に電子メールを使う

○A子の無理のない範囲(時間帯、場所、会う人等はA子と一緒に決めていく)で、登校を促してみる

○適応教室での活動ぶりを認めたり、ほめたりすることに努める

○学校行事や進路等の情報を提供する
☆3者の協議での資料
●保護者が記入した「子どもの対人関係と行動の状態チェック表」
●学校(担任)、保護者、適応教室の3者が協議して作成した個別支援シート






☆「心のエネルギーを貯える活動」例
●体験的な活動(陶芸)の資料(活動内容、留意点、子ども用プリント等)










☆A子を取り巻く支援者の変化
●後期におけるA子の人的資源図


 「復帰期」における支援

時期 子どもの行動や様子 支援者の主なかかわり等
○:学校、□:保護者、◇:適応教室、▼:連携
3つのポイントからの手立ての資料等
中3 5月









中3 8月


中3 9月



中3 10月


中3 11月






中3 12月


中3 2月

中3 3月

午前中、相談室でしばらく過ごしてから適応教室へ通う日が徐々に増えてくる(過ごす時間は長いときもあれば短いときもある)

好きな教科の学習をするようになる

高校の体験入学に参加する

始業式に参加(体育館で整列している学級の列に入り)する

好きな教科の授業を受けるようになる

担任の教科の授業を受けることができた

相談室で担任以外の教師と学習するようになる


適応教室の他の通級生と夕方遊ぶようになる

高校を受験し合格する

卒業

▼学校(担任)、保護者、適応教室の3者が、情報交換をし、今後の支援について協議する(「支援者の持ち味を生かそう」へ)場を設定する









心のエネルギーを貯える活動の継続的実施


□学校との連絡を密にとるようにする

□A子の主体的な活動を支援していく


○A子の自己決定を促す手立てをとる
※A子の状態把握を行い、細かなステップを考え、それをA子に提案し、A子の主体性を尊重する
 【ステップ】
 ・登校しやすい時間帯、場所、会う人を考える
 ・学校で過ごす内容を考える
 ・参加できる学校行事や活動を考える
 ・好きな教科の授業を受けることを考える
 ・信頼できる先生と過ごす内容を考える


☆3者の協議での資料
●保護者が記入した「子どもの対人関係と行動の状態チェック表」
●学校(担任)、保護者、適応教室の3者が協議して作成した個別支援シート


☆「心のエネルギーを貯える活動」例
●体験的な活動(竹細工)の資料(活動内容、留意点、子ども用プリント等)











☆A子を取り巻く支援者の変化
●復帰期におけるA子の人的資源図