平成22年度佐賀県小・中学校学習状況調査Web報告書

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Ⅲ 各教科の調査結果の分析

中学校英語

書く活動を日常的に取り入れた授業づくり

すべての評価の観点、内容・領域において、「おおむね達成」の基準を上回る成果が見られた。特に中学2年生の「聞くこと」及び中学3年生の「読むこと」の領域で「十分達成」の基準を上回った。しかし、「書くこと」の領域では学年が上がるごとに「要努力」の比率が増加する傾向がある。今後の指導にあたっては、書く活動を日常的に取り入れた授業づくりが求められる。毎回、5分程度で簡単に取り組める活動や毎学期に数回、5文程度の自由英作文を書かせる活動などを増やして、生徒が書くことに慣れ親しむことができるようにしたい

この後、評価の観点については以下のように記す。
○コミュニケーションへの関心・意欲・態度 → 本調査では設定なし
○表現の能力 →「表現」
○理解の能力 →「理解」・・・英語を聞いたり読んだりして、言語技能として理解する能力である。
○言語や文化についての知識・理解 →「知識・理解」…言語自体についての知識や理解、また、言葉の背景にある文化を
  理解する能力である。例えば、「関係代名詞の文の形・意味・用法を理解できる。」が知識・理解にあたる。


結果の概要
 
(ア)
教科全体及び設問毎正答率
 
教科全体正答率 各種グラフ

正答率ごとの分布

観点別達成状況 

内容・領域別達成状況 

基礎と発展の比較

「活用」に関する問題

設問ごと正答率

 

教科全体正答率 各種グラフ

正答率ごとの分布

観点別達成状況 

内容・領域別達成状況 

基礎と発展の比較

「活用」に関する問題

設問ごと正答率

   
(イ)

評価の観点別正答率 

①中学2年生

図1 H22年度 (中学2年生英語) 評価の観点別正答率

「表現」、「理解」、「知識・理解」のいずれの観点も、「おおむね達成」の基準を上回った。しかし、「表現」と「知識・理解」については、自分のことを簡単な英語で書くことや文法の理解などで定着が十分ではないと考えられる。

②中学3年生

図2 H22年度 (中学3年生英語) 評価の観点別正答率

「理解」の観点は「おおむね達成」の基準を上回ったが、「表現」と「知識・理解」については、「おおむね達成」の基準と同ポイントにとどまった。語彙や文法の知識を基に、正しい表現ができるような指導が必要である。



(ウ)

内容・領域別正答率

①中学2年生

図3 H22年度 (中学2年生英語) 内容・領域別正答率

「聞くこと」については「十分達成」の基準を上回り、良好だった。しかし、「書くこと」については「十分達成」の基準には大きく届かず、特に、正しい語順に英文を並べ替える問題や自分の考えや気持ちを簡単な英語で書く問題の正答率が低い。書いて表現する場面を授業で設定する必要がある。

②中学3年生

図4 H22年度 (中学3年生英語) 内容・領域別正答率

「読むこと」については「十分達成」の基準を上回り良好だった。平成21度の中学2年生で「十分達成」の基準を上回った「聞くこと」の領域については、まとまりのある英文を聞き取る問題の正答率が低く、「おおむね達成」の基準を上回るにとどまった。「書くこと」については「おおむね達成」の基準と同じであり、「要努力」や「無解答」の割合が高い、このことは書くことについて生徒が慣れていないことが原因の一つと考えられる。

 

経年比較 

 
 

 

本調査では、中学2年生に着目し、3つの領域「聞くこと」、「読むこと」及び「書くこと」の到達度分布について、平成21年度と平成22年度の同一学年の経年比較により分析をする。さらに、課題がある「書くこと」について中学3年生に着目し、平成20年度から平成22年度の3年間の到達度分布の経年比較により分析をする。

 (ア)

中学2年生の領域別経年比較

図5 平成22年度 (中学2年生)領域別到達度分布

図6 平成21年度 (中学2年生)領域別到達度分布

「聞くこと」及び「読むこと」の領域では大きな変化が見られない。しかし、「書くこと」の領域では「要努力」の割合が8.9ポイント上昇し、平成22年度では50%以上の生徒が「要努力」となった。

  (イ)

中学3年生の「書くこと」における到達度分布の経年比較

図7 平成20・21・22年度 (中学3年生)「書くこと」の到達度分布の経年比較

要努力の割合が36.2%、44.7%、57.3%と学年が上がるにつれて増加しており、書くことを苦手としている生徒が増えていることが分かる。

 

図8 平成22年度 (中学2年生)「書くこと」の度数分布


図9 平成22年度(中学3年生)「書くこと」の度数分布

平成22年度の「書くこと」についての度数分布では、中学2年生と中学3年生のどちらも「十分達成」と「要努力」が多く、「おおむね達成」が少ない。特に、中学3年生の到達度度数分布を見ると0~9%が一番多くなっており、「書くこと」の指導が難しい状況がうかがえる。

 

図10  H19・20・21年度 生徒意識調査(書く活動の興味・関心)の経年比較


図11 H19・20・21年度 教師意識調査(書く活動の頻度)の経年比較

中学2年生の生徒意識調査から、日記や作文などを書いて表現する活動について「興味がある」「どちらかといえば興味がある」と答えた生徒の割合は増加している。しかし、中学1・2年生担当の英語教師の意識調査から、日記や作文など書いて表現する言語活動を「多くの単元で行っている」及び「半分程度の単元で行っている」を合わせた割合が徐々に少なくなっている。「話すこと・聞くこと」の言語活動についての同調査では大きな変化がないことから、生徒の「書くこと」についての興味・関心はやや増しているにもかかわらず、教師の指導時間は徐々に減少しており、「書くこと」を意識した授業を行うことが求められる。

 

(ウ)

「聞くこと」の経年比較

中学2年生

図12 H21・22年度 (同一生徒) 「聞くこと」の正答率の経年比較

平成21年度の中学2年生(現3年生)と平成22年度の中学2年生は、どちらも十分達成の基準を上回っており、良好であった。「聞く・話す」を中心とした1年次の授業が聞く力の定着につながっていると考えられる。

(エ)

「読むこと」の経年比較

中学3年生

図13 H20・21・22年度 (同一生徒) 「読むこと」の正答率の経年比較

平成20年度は「十分達成」の基準を0.3ポイント上回り、21年度は「おおむね達成」の基準内だったが、平成22年度は「十分達成」の基準を3.7ポイント上回った。「読むこと」の指導が3年間を通して効果的に行われていることがうかがえる。

 

設問ごとに見た傾向と指導法改善の視点  




傾向 1

 


生徒間に定着の差が出やすい「文法事項」と「英作文」について、設問ごとに分析した。

自分の気持ちや考えを条件に即して簡単な英語で書くことには課題がある。

[中学2年生 大問8の小問(1)(2)(3)]  

○ 問題の概要


○ 解答状況

問8(1)の問題は「十分達成」の期待正答率を6.5ポイント上回っている。 しかし、過去形を用いた英作文の問8(2)の問題は「おおむね達成」の期待正答率を下回った。問8(3)の問題は「おおむね達成」の期待正答率をやや上回るにとどまった。(1)~(3)ともに3語程度の簡単な英語で答える問題であるが、定着状況に大きな差が生じている。

問8(1)の問題は動詞に語形変化がないが、問8(2)の問題は過去形はedを付けるため正答率が下がっていると考えられる。 また、過去形の定着には時間が掛かることも無解答率が高い原因の一つと考えられる。


○ 指導法改善の手立て

その日学習した新出文法や新出表現を I を主語にして書く活動が必要である。

例えば、問8(1)では「友だちとできることについて話してみましょう。その後であなたができることを I から始めてノートに書いてみましょう。」という授業はよく行われている。そこで、問8(2)でも、過去形の語形変化についての文法説明よりも、「友だちとの対話の後に自分が昨日したことを I から始まる英文で書いてみよう。」という授業を行うことが効果的である。

その際、"I watched TV after school yesterday, but I always watch it after dinner."のように動詞の時制に注意を向けるような英作文の指導が効果的である。

また、問8(3)で、"I from Japan."の誤答例のようなbe動詞が脱落することを防ぐには、4月に行う自己紹介のような活動を継続して行い、そのスピーチ原稿を書かせる指導を行うと効果的である。

 

[中学3年生 大問8の小問(1)(2)(3)]  

○ 問題の概要

 

○ 解答状況

問8(1)~(3)の3問とも「おおむね達成」の期待正答率を下回るか、やや上回る結果となった。

問8(1)は正しく"Yes, I was."と書くことについて課題がある。(2)(3)は疑問詞で始まる疑問文のため、(1)よりも無答率が20%を超えている。普段の授業で話したり書いたりする活動が不足していることが理由の一つと考えられる。


○ 指導法改善の手立て

中学2年生の書く活動では、日記や将来の夢などまとまった英文を書かせる機会が増える。いきなり書く指導に入るのではなく、まず口頭で十分に対話練習をして慣れてから、書く活動に入ることが有効である。慣れてきたら、正しく書くために、授業中に"Were you busy yesterday?"と"Did you watch TV yesterday?"という答え方の異なる2つの質問をまとめて行うと効果的である。ただし、文法用語の解説や用法の区別などに深入りしないように留意しなければならない。

 

傾向2     

文法の知識を用いて、英文を正しく書くことに課題がある。

[中学2年生 大問9の(1)(2)(3)]  

○ 問題の概要 

○ 解答状況

問9(1)は疑問詞whichを含む英文の並べ替え問題であり、「おおむね達成」の期待正答率を下回った。平成21年度の類似問題(whoseを含む英文)の正答率を14.1ポイント下回り、定着に課題が残る。問9(2)は副詞oftenを含む英文であり、平成21年度の同一問題の正答率を2.8ポイント上回った。問9(3)は前置詞withを含む現在進行形の英文の並べ替え問題であり、「おおむね達成」の期待正答率を2.1ポイント下回った。主語がKenなのかsheなのか判断することに課題が残る。


○ 指導法改善の手立て

単語の意味や働きから単語間の結び付きを理解させ、適切な語順で文を書くことができるように指導することが求められる。具体的にはwhで始まる疑問文、前置詞や副詞を含む文などの構造を十分理解した上で繰り返し練習し、活用できるまでに高める指導が求められる。

[中学3年生 大問9の(1)(2)(3)]  
○ 問題の概要
 

○ 解答状況

問9(1)は助動詞mayを含む4語の比較的平易な英文の並べ替え問題だったが、「おおむね達成」の期待正答率を下回った。代名詞thisの用法に慣れていないためと考えられる。問9(2)は副詞usuallyを含む英文であり、平成21年度の同一問題の正答率を2.5ポイント上回った。問9(3)は接続詞ifを含む複文の6語並べ替え問題であり、正答率を低く予想したが、「十分達成」を0.1ポイント上回り良好だった。


○ 指導法改善の手立て

問9(3)Let's...if.....の正答率が予想以上に高かった理由は、Let's playから始まる英文が生徒にとって繰り返し使ったことがある表現だったからと考えられる。したがって、問9(1)も教室で"May I use this?"などの表現を実際に使う場面を設定することが効果的だと考えられる。

 

傾向3

形式ではなく内容をとらえて応答することに課題がある。

[中学3年生 大問1の(3)]  
○ 問題の概要

 

○ 解答状況

"No, but why do you ask?"が正答であるが、正答率は「おおむね達成」の期待正答率を下回った。"Do you...?と聞かれて"Yes, I do.や"No, I don't."などの文形式どおりの選択肢がないことが誤答の原因と考えられる。文形式ではなく内容をとらえて応答するこのような問題については、平成21年度の調査同様定着が十分ではない。


○ 指導法改善の手立て

文形式ではなく意味をとらえて応答することや、"Do you ?"に対して"No, but why do you ask?"のようないくつかの答え方があることを指導していく必要がある。実際のコミュニケーションの場面では"Do you...?"の質問に"Yes, I do".と正確に応える場面のほうがむしろ少ないかもしれないことから、"Yes, I do."と応答した後で、さらに一文加えて会話を続けさせる指導の工夫が必要である。



これからの指導に向けて
 


小学校段階での外国語活動を通じて音声面を中心としたコミュニケーションに対する積極的な態度等の一定の素地が育成されることを踏まえ、中学校段階では不足している「書くこと」の指導を充実させ、4つの領域をバランスよく指導し、授業を英語で行う高等学校やその後の生涯にわたる外国語学習へとつなげなければならない。これまで「時間がない」ということで新出文法の説明や口頭練習だけで終わっていた授業は、授業時数の増加に伴って、「話すこと」や「書くこと」を通じて、自分の考えや気持ちなどを英語を通して表現する活動を盛り込んだ授業に変えなければならない。今回の調査から、「聞くこと」や「読むこと」については成果が出ていることがうかがえるが、「書くこと」については改善が必要であることが分かる。また、形式どおりではない応答やいろいろな動詞を使って自分のことを表現することに課題があることから、次の3点を具体的に指導する必要がある。

ア 毎時間の書く活動の位置付け
「ノートに何も書かなかった。」ということが日々の授業でないようにしたい。授業で「聞くこと・話すこと」を中心に展開しても、授業の終わりには I を主語にして自分のことを簡単な英語を用いて書かせる授業展開が必要である。さらに、以前取り扱ったことがあるトピックを再度書かせることで定着を図ることが効果的である。例えば、中学1年生で書いた自己紹介文に2年生や3年生で新しく学習した文法や表現を加えていけば、生徒にとって復習にもなるし、自分の英作文の定着状況も確認することができる。また、佐賀県教育センターの「中学校英語科プロジェクト研究」で紹介しているように、ライティングノートを用いて毎時間5分程度書く活動を行うことも有効な指導法である。

イ 活用することを通して文構造を正しく理解する指導
"Yes, I did."と"Yes, I do."の違いについて文法の説明を行うよりも、"Were you busy yesterday?"のような応答を授業の中で多く取り入れるように授業を改善することが必要である。自己紹介や将来の夢のスピーチをさせる前に、"What do you usually do after dinner?"や"What do you want to be in the future?"などの質問とその応答を教師と生徒、生徒同士で行う場面を設定することが必要である。それらの言語活動を通して文法の定着を図るように指導法を改善することが望まれる。

ウ 意味をとらえて応答することや、依頼や申し出などの応答表現の習熟を図る。
実際のコミュニケーションは、文形式ではなく意味をとらえて応答することが大切であり、文法指導と併せて指導する必要がある。また、依頼や申し出などの応答表現の習熟を図るためには、授業中に教師と生徒、生徒同士でこれらの表現を用いる機会や場面を意図的に作っていく必要がある。自己紹介やハンバーガーショップなど話題が日常的なものほど正答率が高いことから、さまざまな場面を用意して、意味内容を理解させる活動が必要である。

 

授業実践に参考となるリンク
   
 
   
 

最終更新日: 2011-1-31