読み書き等のつまずきに対する「見る力」を高めるトレーニングの活用

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「見る力」について
 
 
2 「見る力」について
 
(1) 「見る力」とは

私たちが、身のまわりにあるいろいろなものを見るときには、様々な視覚機能を働かせている。見たいものが「はっきり見えているか」ということだけでなく、その情報が「何であるか」を把握し、その情報に「どう反応したらよいのか」を考え、適切に行動することが「見る」という活動である。この「見る」活動を支えている視覚機能として、主に、「視力」「両眼の運動機能」「視覚情報処理機能」がある。これらの機能が効率よく働き合うことで「見る」活動が円滑に行われることになる。
  そこで本研究では、「視力」「両眼の運動機能」「視覚情報処理機能」の3つの視覚機能をまとめて「見る力」とした(資料1)。

mirutikara

鉄棒
資料1 「見る力」を支える視覚機能
 
 
ア 視力

「見る」ためには、まずは、「視力」が必要である。奥村(2010)は、「視力」を「注意して見分けようとする対象物を、どれだけ細かく見分けることができるかを表す単位」と述べている。この「視力」の測定法としては、眼科や保健室等での視力検査で用いられている「字づまり視標」(資料2)で測定されている。1.0や0.5といった値で「視力」が数値化されており、これは、「字づまり視標」に描かれている様々な大きさのランドルト環の隙間を識別できるかで評価されている。ただ、ここで評価される力は、ある一定の距離にある単純な形をどの程度小さいものまで識別できるかであり、「見る」活動で言えば、入り口の部分の力である。そのため、一般的に「視力」が低いと言われる近視、遠視、乱視がある場合は、眼鏡やコンタクトレンズ等を使って「視力」を補っている。

  字づまり視標
資料2 字づまり視標
本読み
 
 
イ 両眼の運動機能

見たいものを「視力」によって取り込む際には、そのものの方向に眼球を動かし、それがはっきりと映し出されるように、眼の中の水晶体というレンズの厚みを調節している。カメラを使って撮影をすることに例えるならば、写したい人やもの(被写体)を決め、その方向にカメラを向ける。カメラを向けた後、被写体の中で最も写したい場所をファインダーの中央に合わせ、シャッターを半押しする。すると、自動で焦点(フォーカス、ピント)を最適な状態に調節し、被写体が鮮明に撮影される。このようなことを瞬時に幾度となく行っている。さらに、右眼と左眼の両眼を使うことで立体感を感じることができるようになる。これらのような様々な機能が円滑に正常に行われることで、「視力」によって取り入れられた情報が「何であるか」を把握できるようになる。そこで「両眼の運動機能」について、「跳躍性眼球運動」、「追従性眼球運動」、「調節」、「両眼視」別に詳しくまとめる。

(ア) 跳躍性眼球運動
 まず、見たいものをとらえることから始まる。見たいものは、それが単体で存在するのではなく、その周りにはいろいろなものがある。たくさんのものの中から見たいものを瞬間的に見つけなければならない。そのためには、いろいろなものに対して飛び石をわたるように一つずつ視線を跳ばしていくことを行っている。このような眼の動きは、「跳躍性眼球運動」と呼ばれている。多くの人は、この「跳躍性眼球運動」は、ほんの0.1秒程度の短い時間の中で、ほぼ間違うことなく正確に行うことができる。例えば、合唱コンクールで舞台から観客席を見たときに、自分の家族をそれほど長い時間をかけずに探し出すことができるのは、この機能が正常に働いているからである。一方、この「跳躍性眼球運動」の働きに弱さがあると、すばやく正確に見たいものを探し出すことができない。そのため、例えば、学級のみんなと一斉に音読をするときに、読んでいる文字がどれなのかをすぐに探し出すことができなかったり、黒板の文字を書き写す時に、黒板から眼を離してノートに視線を合わせ、再び黒板に視線を移したときに、先ほどまで見ていた所にすぐに視線を合わせることができなかったりする。

(イ) 追従性眼球運動
 次に、見たいものをとらえることができたら、それに視線を向け固定することも必要になる。また、見たいものが動く際には、その動きに合わせて視線を動かさなければならない。このような眼の動きは、「追従性眼球運動」と呼ばれている。この「追従性眼球運動」は、 見たいものの動きに合わせて滑らかに行われ、動いているものと同じ速さで眼球を動かすことができる。例えば、テニスの試合を見ているときに、一球一球打ち合うテニスボールの動きを追うことができるのは、この機能が正常に働いているからである。一方、この「追従性眼球運動」の働きに弱さがあると、キャッチボール等のボール運動をするときに、うまくボールを捕ったり蹴ったりすることができなかったり、字を書くときに、見本の字を筆順に沿って眼で追うことができなかったり、鉛筆の芯の動きに視線を合わせ続けることができなかったりする。
  見たいものを見失ったときには、再び見たいものを瞬時に探し出さなければならないので「跳躍性眼球運動」が必要となる。さらに、「追従性眼球運動」と「跳躍性眼球運動」が頻繁に混じり合う状況では、見たいものをじっくり見ることができなかったり、再び見失ったりしてしまうこととなる。

(ウ) 調節
 さらに、「跳躍性眼球運動」や「追従性眼球運動」の正常な働きにより見たいものが定まったら、それを周りのものよりも鮮明に映し出すために、そこに焦点(フォーカスピント)を合わせる「調節」が必要になる。これは、前述したように、眼の中にある水晶体というレンズの厚みを変化させることで、焦点を合わせて鮮明に映し出されるようにしている。この水晶体の厚みを変えることができるのは、筋肉の働きがあるからである。水晶体の厚みを調節するための筋肉の働きが弱いと、焦点が合いにくかったり、焦点を合わせるために筋肉をたくさん働かせたりする。
  見たいものを見続けるためには、「跳躍性眼球運動」の働きを使い、瞬間的に焦点を合わせることを繰り返したり、「追従性眼球運動」の働きを使い、見たいものの動きに合わせて焦点を合わせ続けたりしなければならなくなる。

(エ) 両眼視
 これまで述べてきたように、見たいものをとらえるためには、「跳躍性眼球運動」と「追従性眼球運動」、「調節」が、円滑に働き合うことが必要となる。さらに、片方の眼でこのような働きがそれぞれ行われると同時に、両方の眼が協調し合うことで新たな働きが加わることになる。片眼だけで見たときには、写真のような平面でしかとらえることができなかった映像が、両眼に写った微妙に違う映像を重ね合わせることで、脳の中では、遠近感や立体感を感じることができるようになる。このような眼の働きは、「両眼視」と言われている。
 この「両眼視」では、まず、左右の眼で同時に同じものをとらえている状態が必要となる。このときは、両方の眼に映った像が重なり合い、両方の眼から均等に情報が取り込めていることが望ましい状態である。しかし、斜視( 片方の目は視線が正しく目標とする方向に向いているが、もう片方の目が内側や外側、あるいは上や下に向いている状態のこと )がある場合には、右眼と左眼で見ている映像が異なるため、何を見ているか混乱してしまうことがあり、その際は、脳が勝手に片方の眼の映像を取り入れないようにする。このことにより、本来見たいと思っているものが脳の中に取り入れられなくなり、意に反した情報を理解してしまうことになる。
 また、「両眼視」を使い、自分と見たいものとの距離を把握する必要もある。例えば、教科書を手に持ち、音読をするときの「両眼視」の状態は、視線が普段よりも内側に向いている。普段読む距離より顔に極端に本を近付ければ両眼は、「寄り眼」になる。また、教室の後方から黒板に書かれている文字を読むときには、視線はほぼ平行になっている。このように、見たいものとの距離に応じて、両眼の動きを調節していくことが大切となる。しかし、この動きがうまくできないと「両眼視」が十分にできなくなり、日常生活や学習場面で苦労するようになると考える。

ウ 視覚情報処理機能

両眼の運動機能により、見たいものをとらえることができ、脳の中に映像を映し出すことができたとしても、それが「何」であるかを判断しなければならない。そして、その映し出された映像が、どのような動きをしているのか、またそれに対してどう対応するのかを考えることになる。さらに、考えたことを実際の運動として表現することが必要になる。これらの働きが、「視覚情報処理機能」と呼ばれている。そこで、「視覚情報処理機能」について、「形態知覚」、「空間知覚」、「眼と手の協応」別に詳しくまとめる。


(ア) 形態知覚

 「跳躍性眼球運動」や「追従性眼球運動」、「調節」さらに、「両眼視」が円滑に行われるようになって初めて、見たいものが鮮明な映像として脳の中に描かれる。そして、次に行われるのが、見たいものが「何であるか」を理解することである。この段階では、脳の中に描かれた映像は、様々な点や線、色等で表現されており、それを統合して何かの形を把握することになる。この働きは、「形態知覚」と呼ばれている。

(イ) 空間知覚
 また、「形態知覚」と同時に、見たいものがどのように動いているのか、どのくらいの距離の場所にあるのか、他のものとどのような位置関係にあるのか等の空間的な位置関係を把握することも必要である。この働きは、「空間知覚」と呼ばれている。

(ウ) 眼と手の協応
 例えば、テニスでボールを打つ動きで考えると、相手がサービスで打とうとするボールを「跳躍性眼球運動」により探し出し、そこに焦点を「調節」して合わせ、「形態知覚」により、ボールと認識し、「追従性眼球運動」により、ボールに合わせた焦点を持続させる。このときには、「両眼視」により、自分とボールとの距離感を「空間知覚」を使いながら把握し、向かってくるボールに合わせて、両眼の視線を内側に寄せてくる。そして最後に、打ち返すために最適な位置にボールが来たときに、「打つ」という動作が行われる。打ち返すためには、向かってくるボールと自分の位置関係を把握し、自分自身の体をその場所に動かしたり、ボールの軌道に合わせて、ラケットの振り方を修正したりする必要もある。この眼から入った情報に対して、手や体の動きで「どう反応するか」が求められてくる。この働きは、「眼と手の協応」と呼ばれている。
 「眼と手の協応」は、運動としてあらわれてくる。生活や学習の中でのあらゆる活動において、手や指、その他の体の部位を正確に素早く動かさなければならない。運動の中でぎこちない動きをしたり、うまくやり遂げることができなかったりする児童生徒の姿を見て、その児童生徒の様子を「不器用」と表現することがあるが、これらは、これまでに述べてきた「視力」や「両眼の運動機能」、「視覚情報処理機能」が円滑に働いていないために起こっているものと考えられる。
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(2) 読み書き等のつまずきの背景にある「見る力」の問題
 読み書き等のつまずきの背景には、「見る力」に何らかの問題がある場合が考えられる。ここでは、そのつまずきの要因を、「見る力」との関連から考える。
 
ア 読むことが苦手な児童生徒
 奥村(2010)は、「文章や単語を読む際には、デコーディング(文字を音に変換するプロセス)と単語認識(単語をまとまり読みするプロセス)が必要である」と述べている。このデコーディングは、「初めて見る単語や親しみの薄い単語」を読む際に役立ち、単語認識は、「すでに知っている親しみの深い単語」をいくつかのまとまりとして読む際に、それぞれの読みを早く効率的に行うことに役立っている。これらの働きが弱いと、一文字一文字をたどたどしく読んだり、誤った発音があったりする等の読むことのつまずきとして現れてくる。ただ、これらの前提としては、眼の前にある文字が「どのような形をしているか」を把握し、これまで身に付けた知識としての発音と照らし合わせながら、その文字を「どう発音するのか」を理解した上で、音として表現する力が必要となる。この一連の働きがより円滑に行われることで、単語認識を高め、なめらかな読みとなる。そこで、「見る力」を支える3つの視覚機能毎に、読むことのつまずきの要因を考える。

(ア) 視力
 まずは、視力が必要である。これは、眼科や学校等で行われる視力検査の数値で確かめることができる。ただ、そこで測定される視力は、5m以上の距離で測定される「遠見視力」であることが多い。視力検査で視力が1.0と評価されたとしても、教科書等を読む際に必要となる、30cmの距離で測定される「近見視力」の値が低ければ、文字を読むことに影響を及ぼしていると考えることができる。

(イ) 両眼の運動機能
 「遠見視力」や「近見視力」の値が正常である、または、眼鏡等での矯正視力が日常生活に影響を及ぼさない程度であれば、「両眼の運動機能」における働きの不全が考えられる。教科書等を読み進めるためには、読むべき文字を探さなければならない。数多く示されている文字から読むために必要な文字を探し出すためには、まずは、「跳躍性眼球運動」と「調節」が必要となる。この2つの働きを瞬間的に何度も繰り返すことで、読むべき文字を探し出すことができる。しかし、「跳躍性眼球運動」の働きに弱さがあると、文字から文字へと視線を移動させることが困難になったり、動かしたい場所にきちんと動かせなかったりすることが考えられる。また、「調節」がすばやくできないと「跳躍性眼球運動」により、読みたい文字へ移動できたとしても焦点が合わずに、鮮明な映像としてとらえることができなくなる。さらに、これらの働きは、片眼それぞれ別々に行われているのではなく、両眼で1つの文字を同時にとらえている。この「両眼視」がうまくできない斜視のある場合にも、読むことのつまずきとして現れてくると考えられる。
 また、「追従性眼球運動」により、しばらくの間、読みたい文字に、視線を固定することができるようになる。次の文字へ移動をする際には、「跳躍性眼球運動」よりも「追従性眼球運動」を多く使うことで、なめらかな視線の移動が可能となる。その際、「調節」の働きにより焦点も合わせながら、かつ「両眼視」で行うことが必要となる。
 このように、「跳躍性眼球運動」や「追従性眼球運動」、「調節」、「両眼視」の働きの状態を把握することで、読み書きのつまずきの要因を知ることができる。

(ウ) 視覚情報処理機能
 「視力」、「両眼の運動機能」により見たい文字が鮮明な映像として脳の中に映し出された後に行われるのが、その文字が「何であるか」を識別する作業である。そのときに映されている文字は、点だけで示されたり、無意味な線が交り合ったりした図形のようなものである。まずは、その点の位置や大きさ、向き、線の位置や長さ、交わり、向きなどを正確にとらえることが必要になる。次に、そのすべての関係性を把握し、全体としての形を作り上げる。そして、これまでに学び得た知識として記憶されている文字と照合し、その文字の発音や意味等を確認することとなる。これは、「形態知覚」の働きによって行われている。この「形態知覚」の働きに弱さがあると、文字の読みに影響を及ぼす。点や線の大小、長短、他の点や線との位置関係などを正確に把握することができないと、正しい字形にはならず、誤って字を理解し、違う発音をしてしまうことになる。ただし、「形態知覚」の働きに弱さがあることを確認するための前提としては、知識として文字の形や音声、意味等を正確に記憶しているかを知っておく必要がある。また、構音障害のような発音する際の口腔内の運動機能不全により、発音の誤り等がないことを確かめておかなければならない。
イ 書くことが苦手な児童生徒
 奥村(2010)は、「書きの問題は、読みの問題と密接な関係があり、書くことが苦手な児童生徒の多くは、読むことでも何らかのつまずきを示す場合が多い。」と述べている。読むことは、外界からの情報を入力することに使われており、書くことは、外から得た情報に対して、自分の思考を他者へ伝えるための出力手段となる。思いや考えを伝える手段としては、話すことでも代用できるが、学校での学習を評価する際の手段としては、書くことが多く用いられている。そのため、書くことが苦手な児童生徒にとっては、頭の中にある思いや考えを十分に表現することができず、他者からよい評価を得ることができずにいると考えられる。
 書くことがどのような手続きで行われているかを考えると、眼の前にある文字が「どのような形をしているか」を把握し、これまで身に付けた知識としての字形と照らし合わせながら、その文字が「どの文字なのか」を理解し、最後に、照らし合わせた字形と同じ形として表現する力が必要となる。この一連の働きが、円滑に行われることで自分の思いや考えを書き綴ることが可能となる。そこで、「見る力」を支える3つの視覚機能毎に、書くことのつまずきの要因を考える。

(ア) 視力
 学校では、書くことの主な活動としては、「自発書字」、「視写」、「聴写」がある。「自発書字」としては、自分の考えや思いをそのまま文字として表すことであり、「視写」は、提示された見本を見ながら、それと同じような文字や図形として表すこと、「聴写」は、聞こえたことを文字や図形として表すことである。「視写」は苦手であるが、「自発書字」や「聴写」はできる場合については、「視力」に問題があることが考えらえる。その際には、適正な視力があるかを確かめなければならない。適正な視力はあるが、書くことに苦手さのある場合には、以下の「両眼の運動機能」や「視覚情報処理機能」の働きについて確かめることが必要となる。

(イ) 両眼の運動機能
 視写をする際には、書きたい文字がどのような形をしているかを正確に理解するまでの過程は、前述の読むことと同じである。視写において必要となる働きとして、「跳躍性眼球運動」と「調節」がある。視写では、書きたい文字の見本とこれから書こうとしている場所を見比べる作業を頻繁に行わなければならないが、その際に、両方の間の視線の移動を素早く正確に行うためには、「跳躍性眼球運動」と「調節」が円滑に働くことが求められる。また、授業の中で新しい漢字を学ぶ際、教師が空書き(空中に文字を書くこと)をしたり、黒板に書いたりする様子を見ながら筆順を確認する時、教師の手元やチョークの先を見続けるためには、「追従性眼球運動」と「調節」が必要となる。この「追従性眼球運動」の働きに弱さがあると、すぐに視線がそれてしまい、見るべき場所を「跳躍性眼球運動」によって探し直さなければならなくなる。しかし、見るべき場所に視線が戻ったとしても、「追従性眼球運動」の働きに弱さがあるために、また視線がそれてしまう。これを、何度も何度も繰り返すこととなり、筆順を一連の流れとして理解できず、字の部分だけしかとらえることができないことになる。さらに、実際に文字を書くときには、「跳躍性眼球運動」により書き始めの場所を決めたり、「追従性眼球運動」により自分自身が動かしている鉛筆等の先に視線を保持し続けたりする働きも必要になるため、「跳躍性眼球運動」や「追従性眼球運動」の働きに弱さがあると、書くことに支障をきたすようになると考える。
 また、これらの働きは、片眼でそれぞれに行われているのではなく、両眼を使って、それぞれの眼から入ってくる情報を均等に取り入れながら行うため、「両眼視」がきちんとできていることも必要になってくる。

(ウ) 視覚情報処理機能
 文字を書くためには、書きたい文字を正確にとらえ、記憶することが必要になる。ここでは、まず、書きたい文字や覚えたい文字を「視力」や「両眼の運動機能」により脳の中に鮮明な映像として映し出し、映し出された点の位置や大きさ、向き、線の位置や長さ、交わり、向きなどを正確にとらえ、これらすべての関係性を把握し、全体としての形を作り上げる。このとき、「形態知覚」が必要であり、作り上げた形が記憶として残っていく。視写をする時には、「形態知覚」の働きに弱さがなければ、「形態知覚」により認識した形と記憶している形を瞬時に照合し、指先で鉛筆等を操作する。ただし、「形態知覚」の働きに弱さがあれば、誤って形を認識してしまい、見本として示された形とは異なる文字をあらわしてしまう。
 実際に鉛筆で紙に文字をあらわそうとするときには、「空間知覚」や「眼と手の協応」の働きも必要になる。書きたいと思い描いている文字の1画目を書き、続いて2画目を書くときには、1画目との距離や長さ、交わり方等の空間的な位置関係を正確に判断しなければならない。そして、その判断したことを運動として手の動きで表現することになる。そのときには、手の動きがその向きでよいのか、長さはどうか、早さは適当か等についても、瞬間的な動きの中で判断し、調整を行うことが求められる。「空間知覚」の働きに弱さがある場合には、点や線の場所が正しくなかったり、長さが違ったり、交わり方がおかしくなったりしてしまい、字の形がいびつになってしまう。、また、「眼と手の協応」の働きに弱さがある場合には、自分が思い描いている形と照らし合わせながら確認し、もし違いあれば微調整をすることがうまくできずに、書きたいと思うものとは違う形になってしまうことがある。
 また、書く際には、1本の指先だけの動きだけでなく、5本の指の動きや手首の動き、腕の動き、肩の動き等とも関係しており、書くことにかかわるそれぞれの体の部位の動きが連動して、書くことができるようになる。さらには、それを見ている頭が揺れ動くことなく静止した状態として保たれておくことも必要であり、体全体の姿勢の保持も必要となってくる。
 
(3) 「見る力」のアセスメント 
  「見る力」のアセスメントには、児童生徒がもつ「見る力」について検討する内的な条件の評価と、児童生徒がかかわる環境についてその児童生徒に合ったものかを確認する外的な条件の評価がある。
 例えば、書くことが苦手な児童生徒についてのアセスメントでは、内的な条件としては、その児童生徒の「視力はどうか」「眼が文字を追うことができているか」「形や空間をとらえることができているか」「鉛筆をスムーズに動かすことができているか」などの情報が必要になる。一方、外的な条件としては、児童生徒が書きやすい「文字の大きさの提示をしているか」「ノートのマス目の大きさは合っているか」「座席の位置は適当か」などの環境面を整理することが必要である。
 そこで、本研究では、児童生徒の「見る力」の内的な条件のアセスメントを行い、児童生徒の「見る力」に合わせて、児童生徒が取り組むトレーニングを考えることとした。

【参考図書】 「学習につまずく子どもの見る力」   玉井 浩 監修 奥村智人・若宮英司 編著   2010年 明治図書
         「見る」ことは「理解する」こと      本田 和子・北出 勝也著  2003年 山洋社
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最終更新日:2011-03-30