読み書き等のつまずきに対する「見る力」を高めるトレーニングの活用

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研究のまとめ
 
 
6 研究のまとめ

(1) 研究の成果
「見る力」を把握するためチェックシートの作成
 

「見る力」の内的な条件について、学習や生活場面における児童生徒の行動から大まかにチェックできるように作成した。
  このチェックシートは、奥村ら(2010)や北出(2003、2009)、内藤(2002)が作成したチェックシートを参考に、教師や保護者が、児童生徒の様子を想起しやすく、具体的な学習や生活場面から、児童生徒の「見る力」を知ることができるように作成した。具体的な学習や生活場面は、「読む」「書く」「道具を使う」「運動する」「休み時間」「その他」に分けて整理した。また、このチェックシートでチェックした結果は、「入力」「視知覚」「出力」の3つに分けて集計されるようにした。
  このチェックシートでは、学習や生活場面におけるつまずきと、「見る力」とのかかわりについて気付くことができ、 学習や生活場面において、「見る力」のどの部分に弱さが見られるかを把握することができる。さらに、このチェックシートを使うことによって、「見る力」を高めるためのトレーニングの必要性を検討することができる。また、このチェックシートは、教師や保護者の観察によって、「見る力」の弱い部分について、簡単にチェックできるものであると考える。

「見る力」を高めるトレーニングの効果
   「見る力」のアセスメントを行い、児童生徒が、「見る力」のどこに問題があるのかを把握した後、弱い部分へのトレーニングを中心にメニューを作成し、トレーニングを行った。
「両眼の運動機能」に弱さのある児童生徒には、眼を動かすトレーニングを行ったところ、対象物を眼で追うことができたり、両眼を十分に寄せることができるようになったりした。
「視覚情報処理機能」に弱さのある児童生徒には、パズルやジオボードなどで図形を作ったり、フロスティッグ視知覚学習ブックで形をなぞったりするトレーニングを行った。図形の部分を注視するこつをつかみ始め、正確に作ることができ、作業速度も速くなってきた。また、手先や体を使った運動では、鉛筆でなぞったり、お手玉をしたり、的にボールを当てたりするなど、子どもが楽しめる活動を行った。注視した1点に向かって、体を動かすことができるようになってきた。
 「見る力」のチェックシートで児童生徒の様子を知り、本人の「見る力」の弱さに合わせたトレーニングを行うことによって、その機能の改善がみられていると考える。
 対象児童生徒が在籍する学校の学級担任からの聞き取りから、学校では板書を写すことが速くなったり、文章を読むことが速くなったりしていることが分かった。また、保護者の話から、家庭でも、宿題にかかる時間が短くなったり、探し物をみつけやすくなったりしていることが分かった。これらの児童生徒の変容は、「見る力」を高めるトレーニングによって機能が改善したことが影響していると思われる。
 「見る力」のどこに問題があるのかを把握し、発達障害のある児童生徒の特性に応じて、「見る力」を高める トレーニングを行うことは、読み書き等のつまずきに対する支援の一つとして効果的であったと考える。
   
(2) 今後の課題
    「見る力」を高めるトレーニングは、苦手なことに取り組んでいくという側面があるので、楽しく、遊び感覚で行うことが、長く続けていく意欲につながる。また、短時間でも、できるだけ継続して行うほうが効果は上がる。
  そこで、児童生徒がトレーニングに飽きることなく楽しめるように、トレーニング内容の工夫や改善を、今後も行っていく必要がある。また、児童生徒の発達を踏まえたトレーニングの開始時期や内容についても考慮する必要がある。
 さらに、「見る力」を高める トレーニングによって、改善がみられた機能については、実際の学習や生活の中で、生かすことができるようになることが大切である。そのためには、「見る力」を高めるトレーニングの継続とともに、「見る力」に合った学習や生活の支援の在り方を探る必要があると考える。
   
   
7 用語集
WISC-V  1949年、アメリカのウェクスラー(Wechsler,D.)によって作られた子ども用知能検査WISC(Wech sler Intelligence Scale for Children)の改訂第3版。適用年齢は5歳〜16歳。全IQと、言語性IQ、動作性IQを出すだけでなく、被検者の個人内差を測定することができる検査。
フロスティッグ視知覚発達検査

「視覚と運動の協応」「図と地」「形の恒常性」「空間位置」「空間関係」の下位検査からなり、視知覚上の問題点を発見し、適切な訓練を行うための検査。対象年齢は4歳〜7歳11カ月。

ベンダーゲシュタルトテスト  9種の幾何学図形を模写させ、まとまり、歪みや逸脱などから、発達検査や器質的脳疾患の識別診断における認知機能の測定を行う検査。対象年齢は、5歳〜10歳。
DEMテスト (Developmental  Eye  Movement Test)  跳躍性眼球運動の正確性を測定するテスト。並び方が異なる2種類の数字表、テストA、テストB、テストC、を読ませ、速度と読み誤りを記録する。テストA、テストBは、文字間隔が狭く、等間隔に並んだ数字列をたてに音読させるテスト(たて読み)。テストCは、文字間隔が広く不等間隔に並んだ数字列をよこに音読させるテスト(よこ読み)。適応年齢は、6歳〜13歳11カ月。アメリカを中心に使用されている。
 
 
8 参考文献・参考資料
小学校学習指導要領解説 総則編 文部科学省  2008年 教育出版
学習につまずく子どもの見る力 玉井 浩 監修  奥村 智人・
若宮 英司 編著
2010年
明治図書
学ぶことが大好きになるビジョントレーニング 北出 勝也
2009年
図書文化
「見る」ことは「理解する」こと 本多 和子・北出 勝也
2003年
山洋社
勉強嫌い、集中力のなさは「眼」が原因だった 内藤 貴雄
2002年
二見書房
ちゃんと見えているかな?改訂版2 北出 勝也
2005年
NPO法人えじそんくらぶ
眼から鍛える運動能力 内藤 貴雄
2005年
東京書籍
脳を活性化する速読メソッド 呉 真由美
2009年
PHP研究所
小学生のためのビジョントレーニング 内藤 貴雄
2008年
日刊スポーツ出版社
発達障害の子どもの視知覚認知問題への対処法 リサ・A・カーツ
2010年
東京書籍
特別支援教育の理論と実際 T概論・アセスメント 上野 一彦 竹田 契一
下司 昌一 監修
 2007年 金剛出版
しっかり見よう 竹田 契一・北出 勝也監修
奥村 智人製作指揮
 2005年 理学館
視覚機能研究会 http://www.joyvision.biz/shikaku_study.html
視機能トレーニングセンターJoyVision http://www.joyvision.biz/index.html
          
 
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最終更新日:2011-03-30