平成24年度佐賀県小・中学校学習状況調査及び全国学力・学習状況調査を活用した調査Web報告書

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Ⅲ 各教科の調査結果の分析   

中学校英語

  書くことを関連付けた言語活動の充実

全ての評価の観点、内容・領域において、「おおむね達成」の基準を上回る成果が見られた。特に、中学2年生は「聞くこと」の領域で、中学3年生は「聞くこと」及び「書くこと」の領域で「十分達成」の基準を上回った。「書くこと」の領域では、まとまった内容の文章を書くことができる中学3年生の割合が増え、学年が上がっても「要努力」の生徒の割合は増えなかった。しかし、文と文のつながりを工夫して書いたり、疑問詞を含む質問に英語で自分の考えや気持ちを書いたりすることに課題があった。今後の指導に当たっては、実際に互いの考えや気持ちを伝え合う言語活動を行うときに、書くことを関連付けて定着を図ることが大切である。

この後、評価の観点については、以下のように記す。

 ○コミュニケーションへの関心・意欲・態度

 ○表現の能力

 ○理解の能力

 ○言語や文化についての知識・理解

本調査では設定なし

「表現」

「理解」

「言語・文化」

 

結果の概要
 
(ア)
教科及び設問ごと正答率
 
教科正答率 各種グラフ

正答率ごとの分布

観点別達成状況 

内容・領域別達成状況 

基礎と発展の比較

「活用」に関する問題

設問ごと正答率

chu2ei

 

教科正答率 各種グラフ

正答率ごとの分布

観点別達成状況 

内容・領域別達成状況 

基礎と発展の比較

「活用」に関する問題

設問ごと正答率

chu3ei

教科正答率では、中学2年生が「おおむね達成」の基準を上回っており、中学3年生が「十分達成」の基準を上回っている。このことを設問ごとで見ると、中学3年生の大問10のように、読み取った文章について質問を書く設問の正答率が向上しており、書くことに対する指導が成果として表れている。

 
(イ)

評価の観点別正答率

①中学2年生

図1 H24年度(中学2年生英語)評価の観点別正答率

全ての観点で「おおむね達成」の基準を上回った。特に、聞いたり読んだりした英語の内容から、いつ、どこで、どのような用件かなどの具体的な情報を正しく理解する能力が身に付いている。しかし、聞いたり読んだりして得た複数の情報(例えば、中学2年生の大問4(3)の「現在10:15」と「次のバスは20分後」という2つの情報から「次のバスの発車時刻」を考える問題など)を結び付けて理解し、判断する力は十分には身に付いていないと考えられる。

中学3年生

図2 H24年度(中学3年生英語)評価の観点別正答率 

全ての観点で「おおむね達成」の基準を上回った。特に、「理解」及び「言語・文化」の観点が「十分達成」の基準を上回っている。読んだ内容からいつ、どこで、どのような用件かなどの具体的な情報を正しく聞き取る力や語と語のつながりに注意して正しく書く力が身に付いているためと考えられる。

 
(ウ)

内容・領域別正答率

中学2年生及び中学3年生の「聞くこと」の領域及び中学3年生の「書くこと」の領域で「十分達成」の基準を上回っており、指導は良好と言える。

①中学2年生

図3 H24年度(中学2年生英語)内容・領域別正答率

「聞くこと」については「十分達成」の基準を3.2ポイント上回り、良好だった。「書くこと」については、与えられたテーマなどについて自分の考えを書く力は付いているが、疑問詞を含む英文を語と語のつながりに注意して正しい語順で書く力や疑問詞で始まる質問に適切な表現を用いて自分のことを書く力が付いていない。疑問詞の知識はあっても、実際のコミュニケーションの場面で疑問詞を含んだ質問に適切に応答するという経験が不足していると考えられる。

②中学3年生

図4 H24年度(中学3年生英語)内容・領域別正答率

「聞くこと」及び「書くこと」については、「十分達成」の基準を上回り、良好だった。「読むこと」については、大問6(2)のような短答式の問題の答え方に課題はあるが、「おおむね達成」の基準を17.3ポイント上回り、良好と言える。なお、「書くこと」については、疑問詞を含んだ英語での質問に対して、自分の考えや気持ちを簡単な英語で答える問題で、無解答率の改善が見られるが、語と語のつながりに注意して正しく書く力には課題があり、日常の授業での書く活動の取組が必要である。

   

経年比較 

 

定着に差が出やすい「書くこと」の領域について、同一学年の経年比較(平成23年度中3年生と平成24年度中学3年生)及び同一生徒の経年比較(平成23年度中学2年生と平成24年度中学3年生)を行い、到達度分布の変容を分析した。さらに、具体的な問題で変容を分析するために、まとまった英文を書く力を見る問題、読んだ文章に簡単な英語で質問する問題及び指示に従って簡単な英文を書く問題で経年比較を行った。

   
(ア)

「書くこと」の領域での経年比較
①同一学年経年比較

図5 H24年度(中学3年生)、H23年度(中学3年生)の「書くこと」の内容・領域別

の到達度分布の経年比較

「要努力」の割合に注目すると、平成24年度の「要努力」の割合は平成23年度よりも28.0ポイント減少している。正しい語順で英文を書く問題やまとまった内容の文章を書く問題の正答率が上がっていることから,書くことの基礎的・基本的な知識・技能が定着し,まとまりのある文章を書くことに慣れてきたのではないかと考えられる。

   

















 

同一生徒経年比較

図6 H24年度(中学3年生)、H23年度(中学2年生)の「書くこと」の内容・領域別の

到達度分布の経年比較

「要努力」の割合に注目すると、平成24年度の「要努力」の割合は前年度よりも12.7ポイント減少している。中学2年生で書く活動を多く取り入れたことが,定着へつながったと考えられる。

図7 H22年度(中学3年生)、H21年度(中学2年生)「書くこと」の内容・領域別の

到達度分布の経年比較

平成22年度の「要努力」の中学3年生は57.3%だった。平成21年度の中学2年生の「要努力」が44.7%だったことから、学年が上がるについて、「書くこと」を苦手にする生徒が増えていたことが分かる。平成21年度以前についても同傾向が見られた。図6と図7の比較を通して、「『書くこと』を苦手とする生徒は学年が上がるにつれて増える」という傾向が、平成23年度及び平成24年度では見られないことが分かる。

中学3年生の同一学年経年比較と同一生徒経年比較を通して、「書くこと」を苦手にしている割合が減少し、これまでの学年が上がるにつれて二極化するという傾向が改善されつつあると言える。

   
(イ)

設問ごとの経年比較

①まとまった内容の文章を書く力を見る問題

図8 H24年度(中学3年生の問11)、H23年度(中学3年生の問11)、平成22年度(中学3年生の問10)正答率の経年比較

中学3年生が自分の考えや気持ちを4文以上の英文で書く問題を経年比較したものである。平成23・24年度は「おおむね達成」の基準を上回った。テーマが異なるために単純比較はできないが、県正答率が年々上昇している。なお、無解答率にばらつきがあるのは、テーマについての書きやすさの違いが影響していると考えられる。さらに、平成24年度中学3年生と平成23年度中学2年生の同一生徒で図9のように比較を行った。

図9 H24年度(中学3年生の問11)、H23年度(中学2年生の問11)正答率の経年比較

「私の好きなこと人物」というテーマについて、同一生徒が中学2年生では3文から中学3年生では4文に増やして、自分の考えや気持ちを書く問題である。平成23年度(中学2年生)は「十分達成」を上回っていたが、平成24年度(中学3年生)は「十分達成」を下回った。4文に増えると、1つのテーマについて文と文のつながりを考えて文章を構成する力がより必要になり、学年が上がっても、正答率が上がらなかったと考えられる。

図8から、まとまった英文を書く力は、少しずつ身に付いてきているが、図9から文と文のつながりに注意して、条件に応じた分量の英文を書くことについては課題があると言える。

②読んだ文章に簡単な英語で質問する問題

図10 H24年度(中学3年生問10)、H23年度(中学3年生問10)正答率の経年比較

中学3年生が、紹介文を読んで"What sport do you like?"などの質問をする英文を書く問題である。平成23・24年度共に「おおむね達成」の基準を上回っている。また、県正答率が5.0ポイント上がり、無解答率が1.9ポイント下がっている。スピーチなどの表現活動や教科書本文の内容理解の後に質問したり感想を述べたりする活動を行う機会が増えてきたことが要因の一つと考えられる。

③指示に従って簡単な英文を書く問題

   図11 H24年度(中学2年生問10(2))、H23年度(中学2年生問9(1)、H22年度(中学2年生問8(1))正答率の経年比較

中学2年生が、canを使って自分ができることを英語で書く問題である。平成22・23・24年度共に「十分達成」の基準を上回っている。無解答率も10.0を下回っており、他の記述式問題よりも低い。簡単な自己表現の英作文を書く力は付いていると言える。
以上のことから、「書くこと」については「要努力」の生徒の割合が少なくなり、まとまった英文、読んだ文(文章)に答える英文、簡単な英文などを書く力が少しずつ身に付いてきたと考えられる。

設問ごとに見た傾向と指導改善の手立て
 

 

平成24年度の調査で、正答率が低かった問題のうち、「簡単な自己表現」「複数の情報を結び付けて判断する聞き取り」「疑問詞を含む質問への応答」 について分析を行った。

   
傾向1

英語の質問を読んで、自分のことを簡単な英語で書くことには課題がある。

[中学2年生 大問10(3)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

疑問詞で始まる疑問文に対して"I study English."や"I watch TV."と答える問題である。「おおむね達成」の期待正答率40.0に対し県正答率は34.3で、5.7ポイント下回っている。無解答率は26.2である。単純に比較はできないが、平成23年度の中学2年生の類似問題(大問9(4)"What do you do after school?")と比較すると、正答率が24.2ポイント下がり、無解答率が6.0ポイント上がっている。中学1年生で学習したwhat,who,whose,whenなどをそれぞれ区別して理解できていないことや「主語+動詞+目的語」の語順で正しく答えることができなかったことが要因と考えられる。

○ 指導改善の手立て

普段の授業の冒頭で"What day is it today?" という疑問詞を含む質問はよく行われている。このときに"What do you do after dinner?"という質問を意図的に行うことから始めるとよい。他に、"What sports do you like?""When do you watch TV?"など複数の疑問詞を用いて生徒同士で問答する活動を取り入れたり、「私の一日」というテーマで原稿を書かせ、スピーチ活動を行うことも定着を図るのに効果的である。

[中学3年生 大問9(2)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率40.0に対し県正答率は46.7で、6.7ポイント上回っている。無解答率は13.1である。平成23年度の同問題(大問9(3))の正答率42.2(無解答率18.7)と比較すると、正答率が上がり無解答率が下がっており、改善の傾向が見えるが、依然として中学3年生の2人に1人はこの質問に適切な表現を用いて書けていない。疑問詞で始まる疑問文に対して「主語+動詞(過去形)+目的語」で答えることができなかったことが要因と考えられる。

○ 指導改善の手立て

英語の質問に答える言語活動として、スピーチ活動が考えられる。中学1年生の前半の自己紹介スピーチでは,Do you ...?やWhat's your ...?などの質問をしながら定着を図り、後半では好きな友達や好きなものの紹介スピーチを通してWhen do you ...?などの疑問詞を実際に使いながら定着を図ることができる。また,中学2年生の活動では,友達の日記を読んで,そのことに質問をして,答える活動なども考えられる。このように、書いて終わる活動から、書いたものを次のコミュニケーション活動につなげて定着を図る活動へ発展することが期待される。

   
傾向2

聞き取った複数の情報を結び付けて理解し、判断する力に課題がある。

[中学2年生 大問4(3)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率40.0に対し県正答率は15.8で24.2ポイント下回っている。"It's 10:15 now.  So, please wait about 20 minutes."から、10:35にバスが来ると判断しなければならないが、聞こえてくる2つの数字を関連付けず、そのままどちらかの数字を選んだことが要因と考えられる。

○ 指導改善の手立て

実際のコミュニケーションの場面では、「今10時15分です。20分後に集合してください。」というような複数の情報を結び付けて行動する場面がよくある。指導に当たっては、YesやNoで答えられる簡単な問いだけではなく、複数の情報を聞いて判断させるような問いを意識して設定する必要がある。例えば、"Hideki likes English.  Takako likes science." の後に"Does Hideki like English?"よりも"Who likes English, Hideki or Takako?"の方がより思考が深まる。「ヒデキが英語、タカコが理科」という聞き取った2つの情報を結び付けて、適切に答えるにはどうすればよいか考える場面があるからである。

[中学3年生 大問4(1)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率40.0に対し県正答率は34.2で5.8ポイント下回っている。相手が"Let's play soccer!"と誘っているが、選択肢に"Yes, let's."がなく、同じような意味で別の表現を類推することができなかったと考えられる。

○ 指導改善の手立て

時間を知りたい人から、"Do you have a watch?"と尋ねられたとき、文法的に言えば"Yes, I do."と言って時刻を伝えるが、"Sure."や"Sorry."と答える場合もある。型どおりの基本的な応答について練習して定着を図ることと併せて、複数の応答がある場面を生徒に考えさせる場面をつくることが必要である。

   
傾向3

疑問詞で始まる質問に適切な表現を用いて書くことに課題がある。 

[中学2年生 大問7(2)] 

○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率45.0に対し県正答率は27.3で17.7ポイント下回っている。"over there"が「あちら」という場所を表す語だという知識がないこと、"She is ..."という答え方の形式から"Who is ...?"と混同したこと、または"Where"のつづりの誤りとその後に続く文構造の誤りが誤答の要因と考えられる。

○ 指導改善の手立て

中学1年生では、主な疑問詞を知識として学習するが、実際のコミュニケーションで使用する場面が不足しがちである。したがって、who,what, when, whereなど複数の疑問詞を積極的に使用するコニュニケーション活動が中学1年生の後半に求められる。例えば、"Who am I?"のクイズであれば、"Where do I see you?"や"Who is your friend?"などの疑問詞を用いた質問が生徒から出され、コミュニケーションを楽しみながら、疑問詞の定着を図ることができる。

   
これからの指導に向けて
 

 

平成24年度から英語の授業が全学年で週3時間から4時間に増加した。指導すべき文法事項は従来のままであることから、コミュニケーション能力の育成を目指した言語活動の充実が今まで以上に求められている。指導に当たっては、増えた1時間を文法事項の説明やワークブックでの文法の確認に充てるのではなく、スピーチ活動やインタビュー活動の時間を充てる工夫が必要である。具体的には次の3点に留意して指導を行いたい。

(ア) 「書くこと」を活動の中に関連付けた指導

週4時間になり、授業中に書く活動を取り入れやすくなった。例えば、自己紹介は、友達のスピーチを聞いて拍手をして終わっていたが、これからは聞いた内容をメモして他の聞いていない友達に伝えたり、友達のスピーチ原稿を読んで、質問を書いたりする活動ができるようになる。書くことで「自分の英文が正しいか」など検証しながら学習が深まっていく効果もあり、「話す→書く」「読む→書く」など書くことを関連付けて指導することが望まれる。

() 活動を行いながら文法の定着を図る指導

三単現のSは脱落しても、コミュニケーションが成立することは多い。関係代名詞を使わなくても、2文で表現することで代用できる。これらの文法説明は、丁寧に説明すればするほど時間が掛かり、実際に学習した文法を使って言語活動を行う時間が不足しがちである。指導に当たっては、文法説明を最小限にして、友達紹介とその問答の時間に充てたり、関係代名詞を実際に使っているインターネットのニュース記事を読む時間に充てたりするなど、実際に活動を行いながら文法の定着を図ることが大切である。

(ウ) 生徒が思考・判断する場面を活動の中に取り入れる工夫

"Thank you."に対して"You're welcome."と答える基本的な応答については、生徒が場面に応じてどのように応答すべきか考える必要がない。しかし、対話の中で「"Thank you for ...."の後にどう続ければよいか?」という発問であれば、前後の文脈から判断し、"Thank you for your present."や"Thank you for coming."など適切な応答を考える必要がある。このように答えが1つではない活動を1時間の中に1つ取り入れることで、思考力・判断力を育てる必要がある。

 

   
授業実践に参考となるリンク
   
 
   
 

最終更新日: 2012-10-15