生きて働く言語能力を育てる「国語科学習指導の具体策」を提案します!

 授業展開案  〜授業づくりの基本構想に基づく実践の提案〜 (「書くこと」の指導)
単元名 
  「人物の特徴をとらえて論じよう」
教材名(出典)
  「平家物語」(東京書籍「新しい国語2」)
生徒の実態と指導のねらい
 

佐賀県の中学校第2学年の生徒の実態として、平成24年度佐賀県小・中学校学習状況調査の結果から「書くこと」に課題が見られます。特に「相手や目的に応じて分かりやすく書く」ことを問う設問では無解答率が他の設問を大きく上回っており、特に留意して課題の解決に取り組まなければならないと考えられます。
 本単元では、「書くこと」の学習に重点を置き、古典に描かれた登場人物の人柄や性格について論じる文章「人物論」を書かせることを言語活動として設定します。この活動を通して、読み取った情報を整理し、相手や目的に応じて分かりやすく書く力を身に付けさせたいと考えます。
 本教材の「那須与一」の場面は、平家と源氏の両軍が見守る中で、源氏方である東国の若武者「那須与一」が、風にひらめくはるかかなたの扇の的を見事に射落とす場面です。そこには、与一の弓術の見事さと、味方の名誉のために命を懸けて挑んだ悲壮な心境が描かれています。
 また、これに続く「弓流」の場面では、与一の優れた武芸に感銘を受けた平家方の男が舞を披露し、与一を褒めたたえる姿が描かれます。そこで義経の命を受けた与一が再び弓を執り、その男を射殺してしまいます。そこからは戦の中に身を置く武士の姿を感じ取ることができます。生徒たちはそのような場面における登場人物の心情を読み取ることで、昔の人のものの見方や考え方に触れることができると考えます。
 生徒は、前単元で、本単元と同じ教材を用いて伝統的な言語文化に関する事項ア(ア)についての学習に取り組んでいます。冒頭部分は暗唱を通して、「那須与一」「弓流」の部分は音読を通して場面の状況や物語の展開などを読み取っており、「平家物語」の作品の概要や、「那須与一」「弓流」の大体の内容を理解しています。
 また、根拠を明確にして書くことについては、第1学年「書くこと」の指導事項ウに明示されており、これを受けて、第2学年では、根拠と理由付けと主張を明確に認識して、論理的な文章を書くことを指導したいと考えます。
 指導に当たっては、まず、生徒の身近な例で簡単な人物論を書くモデル学習を通して、本単元における学習課題と学習方法、学習計画等を確認させ、見通しをもたせます。次に、「那須与一」「弓流」の場面の登場人物の言動など、人柄や性格が分かる表現に着目させ、読み取った情報を整理・分析し、一人の登場人物を選んで人物論を書かせます。書いた人物論については、登場人物ごとに人柄や性格についてグループで交流させます。そして、「平家物語」に表れたものの見方や考え方に触れ、登場人物の思いなどについて考えを深めさせます。また、登場人物の人柄や性格が伝わるように、根拠を明らかにして書くことについての知識・技能を確実に身に付けさせることを目指します。

学習内容の系統性
 
言語活動について
  本単元では、「書くこと」の力を身に付けさせるために、「平家物語」の一場面を読み、登場人物の人柄や性格について、根拠を明らかにして人物論を書くという言語活動を取り入れました。登場人物の言動からその人物像を読み取り、根拠と理由付けを明らかにして書くことを学ばせます。
単元の目標
 
(1)
作品に表れたものの見方や考え方に触れ、登場人物の思いを想像して人物論を書こうとする。
(2)
登場人物の人柄や性格について、相手に効果的に伝わるように、根拠を明らかにして書くことができる。
(3)
古典に表れたものの見方や考え方に触れ、登場人物の思いなどを想像することができる。
7 単元の評価規準
 
   国語への関心・意欲・態度
 書く能力
 言語についての知識・理解・技能
@ 作品に表れたものの見方や考え方に関心をもち、登場人物の思いを想像して人物論を書こうとしている。
@ 登場人物の人柄や性格について、相手に効果的に伝わるように、根拠を明らかにして書いている。(ウ)
@ 「平家物語」に表れたものの見方や考え方に触れ、登場人物の思いなどを想像している。((1)ア(イ))
8 単元の指導と評価の計画(全4時間)
 
主な学習活動
指導上の留意点
評価規準
評価方法
指導計画
ワークシート
いくつかの文章を比べ読みし、説得力のある主張とはどのようなものか考える。
   
学習課題「『平家物語』の登場人物について人物論を書くことを通して、『平家物語』に表れたものの見方や考え方に触れ、登場人物の思いなどを想像する力や、根拠を明らかにして自分の考えを書く力を身に付けよう」を設定する。
漫画の登場人物について人物論を書き、モデル学習に取り組む。
「平家物語」で人物論を書くための学習計画を確認する。
根拠のない主張を、少しずつ根拠のある主張に書き換えていく過程を読ませ、説得力をもたせるためには、より具体的な根拠を述べることが必要であることを実感させる。
   
必要な情報を整理・分析し、根拠を明らかにして自分の考えをまとめる力を身に付けることを確認する。
根拠から主張を導き出すためには、理由付けが必要であることを確認させる。
根拠が同じでも理由付けが違えば、人柄や性格についての考えが異なることを確認させる。
モデル学習として、漫画「ドラえもん」の中から一人の人物を選ばせて人物論を書かせる。
教材提示装置で学習計画表を提示して、人物論を書くために必要な活動を確認し、本単元の学習について見通しをもたせる。
[国語への関心・意欲・態度]@
作品に表れたものの見方や考え方に関心をもち、登場人物の思いを想像して人物論を書こうとしている。
【観察】
【ワークシート@】
【ワークシートA】
指導計画1/4
ワークシート@
(記入例)







学習計画表
ワークシートA
(記入例)
学習計画表


人物論を書く人物を登場人物の中から一人選ぶ。
教科書の「平家物語」を読み、自分が選んだ登場人物の特徴が分かる部分を探す。
人物論を書くために読み取った情報を整理・分析する。
登場人物を確認させ、その中から誰の人物論を書きたいかを決めさせる。
人柄や性格が分かる言動などに着目させる。
原文だけでなく、口語訳や現代文で書かれた部分も参考にさせる。
モデル学習を参考にさせる。
読み取った内容をワークシートBにまとめ、選んだ人物の人柄や性格を考えさせる。











[言語についての知識・理解・技能]@
「平家物語」に表れたものの見方や考え方に触れ、登場人物の思いなどを想像している。((1)ア(イ))
【ワークシートB】
指導計画2/4
学習計画表
ワークシートB
補助資料

選んだ人物の人柄や性格について、根拠を明らかにして人物論を書く。
根拠、理由付け、主張を確認して書くように指示する。
これまで使用したワークシート、補助資料等を利用させる。
[国語への関心・意欲・態度]@
作品に表れたものの見方や考え方に関心をもち、登場人物の思いを想像して人物論を書こうとしている。
【観察】
【ワークシートC】

[書く能力]@
登場人物の人柄や性格について、相手に効果的に伝わるように、根拠を明らかにして書いている。(ウ)
【ワークシートC】

指導計画3/4
学習計画表
ワークシートB
ワークシートC
作品モデル
補助資料
学習の手引き「書くこと」B

書き上げた人物論を読み合い、感想や意見を交流する。
10 単元の学習を振り返り、身に付けた力やその力を活用できそうな場面について考える。
友達の書いた人物論を読ませることで、登場人物の言動の意味や思い、人柄や性格等について考えを深めさせたり、広げさせたりする。
単元の学習について指導者の評価を伝え、生徒が新しい課題や今後の学習の展望がもてるようにする。


[言語についての知識・理解・技能]@
「平家物語」に表れたものの見方や考え方に触れ、登場人物の思いなどを想像している。((1)ア(イ))
【交流シート】


指導計画4/4
学習計画表
交流シート
ワークシートC
学習計画表
  ※学習計画表は、単元を通して同じものを使用しています。また、同一番号のワークシートはすべて同じ内容です。
実践を振り返って
 
  言語活動について
  本単元では、根拠を明らかにして書くことを指導するために、「平家物語」の一場面を読み、登場人物の人柄や性格について、根拠を明らかにして人物論を書くという言語活動を取り入れました。指導に当たっては、まず、生徒の身近な例を取り上げて、説得力のある主張は根拠が明らかであるということと、根拠から主張を導き出すには理由付けが必要であることについて理解を深めさせました。次に、生徒のよく知っている漫画作品を題材にして、登場人物の人物論を書くモデル学習に取り組ませ、「根拠」「理由付け」「主張」を明らかにして書くことを学ばせました。このように、モデル学習を通して学習の手順や方法を知らせることで、生徒は見通しをもって学習に取り組むことができました。
  学習評価の進め方について
  前時の学習活動において「十分満足できる」状況(A)と判断した生徒のワークシートの記述を本時の導入で紹介し、その時間で取り組む学習内容についての理解を深めるようにしました。このようにして評価を指導に生かすことで、生徒は評価規準を具体的に理解し、目標を明らかにして学習に取り組むことができました。
  人物論を書かせる際には、人物論の作品モデルを提示しました。この作品モデルの提示によって、生徒は評価規準を具体的に理解することができ、学習活動にスムーズに取り組むことができました。右の写真は作品モデルを参考にして人物論を書いている様子の写真です。生徒は、第2時でワークシートBにまとめた自分の考えを基に、それまでに使用したワークシートや作品モデルを参照しながら根拠を明らかにした人物論を書き上げることができました。このように評価規準を作品モデルで具体的に理解させることで、[書く能力]@「登場人物の人柄や性格について、相手に効果的に伝わるように、根拠を明らかにして書いている」に照らして、ほとんどの生徒を、少なくとも「おおむね満足できる」状況(B)とすることができました。
  ICT利活用について
  モデル学習で題材とした漫画や、生徒のワークシートの記述を教材提示装置で拡大提示しました。その結果、注目するところを実際に指示しながら説明ができたので、生徒は見通しをもって学習に取り組むことができました。
  学習プリントの効果的な活用について
 
推敲については、学習の手引き「読むこと」Bを活用して、要点を押さえた説明ができました。生徒も必要に応じて何度でも参照することができたので、主体的な学習の助けとなったと考えられます。
   
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