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活用力に培う国語科学習の在り方

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中学校第2学年の実践(1) 


 1 単元名  視点を変えて読んでみよう 

  

  教材名 「字のないはがき」 向田 邦子

   出  典 『国語 2』 光村図書

        『新編 新しい国語3』 東京書籍

娘の立場で書かれた随筆を父親の立場からリライトすることで、父親の心情を読み取ることをねらいとしました。また、文章に書かれてあることを基に、「書かれていないこと」を想像して書き加えることで、登場人物の言動や心情の変化にも着目させ、読みを深めていく授業です。

 2 学習内容の系統性

 3 単元とその指導について

生徒観

教材観

1年次の「さんちき」や「少年の日の思い出」で、登場人物の言動に着目して読むことを学習してきている。 外では保険会社の支店長を務めるほどに外面がよいが、家では酒を飲んではかんしゃくを起こして暴力をふるう暴君の父親を、娘の視点から描いた文章である。そんな父の「私」にあてた手紙、そして、妹の学童疎開に際して持たせたおびただしい数のはがきに込められた思い。照れ性で日ごろは決して見せることのない優しさや子どもたちを心配する気持ちが、筆者の淡々とした語り口でつづられていく。
 
本学級の生徒は、朝読書などでも小説等を積極的に読む生徒が多いクラスである。1年生のころは歴史マンガを読む生徒が多かったが、2年生になり、小説を読む生徒が増える傾向にある。しかし、特に女子生徒においてはいわゆるケータイ小説を読んでいる生徒も多く、ストーリー展開の派手さにひかれている生徒も少なくないと考えられる。
 
学級の雰囲気は男女が強く意識することもなく、比較的自由な雰囲気で発言し合うことができる。したがって、授業展開にも意見の交換や相互評価などを入れて、互いに学び合う授業を構想したいと考える。 視覚的に目を引くものやドラマティックな展開を好む生徒にとってはあっさりとしていて、一見物足りないと思わせる文章かもしれないが、言葉にできない思いや素直に言い表せない父親の心情を読み取ることで、主題に迫っていくことのできる教材である。
   

指導のポイント!

「学び」の方法を意識させる場の工夫

 

知識・技能を意図的に活用させる場の工夫

「立場を換えて書く」という活動に取り組ませるために教師が作成したモデルの文章を提示する。そして、場面を変えて二度リライト文を書かせた。(第3時と第4時)書く活動が15分以内で終えられるようモデルの文章の続きを書かせるようなワークシートを準備する。書く力の個人差はあっても全員が活動に取り組むことができ、達成感を得られるような目標を示して、生徒一人一人がステップアップしていると感じられるような場を作ることをねらいとする。  
教材文に即して忠実に書き換えるだけでなく、生徒自身の言葉で人物の心情を書き加えながら「リライト」する言語活動を設定する。そのためには原文を丁寧に読み、書かれていないことを想像しなければならない。ストーリーを追うだけの読みではなく、人物の言動の後ろにある心情を考えた読みに近付ける。
 

学習活動を振り返らせ、整理させる場の工夫

 
リライト文を読み合い、交流する。その活動を経て、自分自身の読みを振り返ることができる。
全5時間のうち、第3時(本時)と第4時で学習活動の中にリライトを取り入れている。そして、それを4人グループで紹介しあう時間を設け、相互評価をさせる。そのとき、評価規準(達成目標)を板書とワークシートに明記して、評価の観点が声の大きさや発表の仕方などといったことに拡散しないよう留意する。評価規準をもって他者の意見を聞くことが、おのずと自己評価(自分自身の振り返り)につながっていくと考える。
 
 

 4 単元の指導目標

  筆者(娘)側から書かれた文章を父親側からの文章に書き換えることを通して、父親の子どもたちに対する心情を想像させ、読みを深めることができるようにする。

 5 評価規準

国語への関心・意欲・態度

登場人物の言動の意味などを考え、父の心情を想像しながら読もうとしている。【C 読むこと ア イ】
読む能力
手紙の中や娘の学童疎開をめぐる出来事に表れる父の人柄や子どもたちへの思いを読み取っている。【C 読むこと イ】
筆者のものの見方や考え方に触れ、自分の考えをまとめている。【C 読むこと エ】

 6 単元の計画(全5時間)

主な言語活動
主な学習活動

評価とその方法

本文の読み取り
文章を読み、父から私への手紙からわかる父の姿を読み取る。
【ワークシート@】
 
手紙の文面に表れる父の人柄と日常の様子からうかがえる父の人柄を読みとっている。【発言・ワークシート】
「暴君」「照れ性」「折り目正しい」「保険会社の支店長」「筆まめ」といった言葉に着目する。  
末の妹が学童疎開したときのことから分かる父の人柄や心情を読み取る。
【ワークシートA】
父の言動に父の優しさが表れていることに気付いている。【ワークシート・発言】
リライト1
生徒のリライト1
本時へGO!
筆者の文章を父からの立場で書き換えて、父の心情を想像する。
【ワークシートB】
ウ  立場を換えて書き、自分の言葉で父の気持ちを書き加えている。【ワークシート】
リライトしたものをグループで発表し合い、交流する。
リライト2
生徒のリライト2
生徒の振り返り
末の妹を学童疎開へ出す場面を父の立場から書き換えて、父の心情に迫る。
【ワークシートC】
ウ  自分の言葉を使って父の気持ちを書いている。【ワークシート】
リライトしたものをグループで発表し合い、交流する。
【ワークシートD】
主題をとらえた感想 作品を通して筆者が伝えたかったことをまとめる。 筆者のものの見方や考え方に触れ、自分の考えをまとめている。【ワークシート・観察】

7 授業を終えて

授業での取り組みについての考察<成果と課題>
 「学び」の方法を意識させる場の工夫
成果 モデルの文章を提示することの効果は大きかった。「立場を換えて書く」→〈人物の心情を想像する〉というように活動の目的が移っていくことに抵抗なく取り組ませることができた。
生徒作品を提示することで、教師のモデル文だけでなく多様な表現を学ばせることができた。また、友達がリライトした作品に対しては親近感を感じていたようで、興味深く交流活動に取り組む姿が見られ、次に取り組む課題に対する意欲を喚起することができた。
 知識・技能を意図的に活用させる場の工夫
成果 人物の外見や言動の描写に着目することで、象徴的な事柄を読みとったり、心情を読みとったりして、人物の心境に近付くことができた。
続きの文を考えるということで、文体を模倣したり、心情を表現する言葉を取り入れながら書いたりする生徒も増えていった。
場面を変えて2度書かせたことで、2度目の方が読みが深まったという感想をもった生徒が多くいた。また、「父」になりきって心情を書き入れていくことにおもしろさを感じ、意欲的に取り組むことができたという感想をもった生徒もいた。パターンを変えるなどの工夫をしつつ、繰り返してリライトに取り組ませたことが技能の定着やより深い読み取りにつながり、生徒の自信にもなったと考えられる。
課題 2回のリライトの学習活動を経て、生徒自身の中で目標が高まっていくことがねらいであったが、教師のモデルの模倣だけに終わってしまう生徒もいた。そういう生徒に対して、模倣を許容しながら自分なりの表現に書き換えていくことで自信をもたせるように指導していく必要がある。
 学習活動を振り返らせ、整理させる場の工夫
成果 相互評価をする時、評価の観点を明確にもたせることで、他者の意見を聞くことにも自分を振り返ることにも生かすことができた。
 

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最終更新日: 2009-03-27