高校第1学年の実践 筆者の見方と文章展開を読み解く。
単元名 筆者への反論を試みる
教材名−  私にとって都市も自然だ
出  典− 第一学習社 『高等学校新訂国語一』現代文・表現編
※初出−『都市という新しい自然』昭和
63年 読売新聞社
作  者− 日野 啓三

補助教材− 自然と人工
出  典− 明治書院『高校生の国語総合』
初出−『独酌余滴』平成11年 朝日新聞社出版局
作  者− 多田 富雄
 筆者に反論させることで,文章展開を踏まえた的確な読みへ導くことを目指します。
 協同して読ませるために構造マップを利用し,ものの見方を広げるための補助教材を活用します。
授業展開
学習
指導案
ワークシ−ト

自然

マップ@

マップA

マップB

反論

マップC

単元観
(1)生徒の実態  (2)教材の特性 
抽象度が高く,筆者の個性が強く表れる評論は,内容をとらえにくいこともあり,生徒は文学的文章に比べて興味をもてないでいる。ただ,身近な事象でも定義を変えると,見方が変わることに対しては素直に驚きの声を上げる生徒が多い。

筋道立てて考える力の習得は,まだ十分とはいえない。ただ,これまでの評論の学習を通して,根拠を踏まえて主張をする評論の文章構造に注目することは,ある程度できるようになっている。

班活動で,具体的な作業はスムーズに行えるが,自分の考えを人前で話すことに抵抗感をもつため,話し合いがうまくいかないことが多い。

深い読みを行う生徒もいるが,多くの生徒は,どこに着目して読めばよいかで迷うことが多く,生徒間で助言をしあう関係がまだ十分にできていない。

進んで多読している生徒もいるが,全体的に軽読書に偏る傾向がある。教師が推薦する本には興味を示すが,新書などの説明文・評論文に対しては,自分の進路と関係がない限り,読書の対象としない生徒が多い。
人間の実生活での経験や意識とつながるものすべてを自然と見なす,筆者独特のものの見方がなされている。常識とは違う視点に触れることで、生徒の概念が揺さぶられる内容である。

具体的な事物を挙げて概念を規定し,読者が当然抱くであろう疑問に対する反論も織り込んでおくなど,読み手を強く意識した論の展開がなされている。

筆者の体験を基に,言葉と対象との関係を問い直す作業が繰り返されている。言葉に込められた概念の拡大がやや強引に行われるなど,生徒が内容を理解する際に抵抗が生じる論の展開である。

(3) 主な「言語活動」とその指導  
 反論−書かれている内容を分析・評価する。
筆者への反論を班で考えさせることで,生徒のもつ対抗意識を刺激し,読むことへの関心を高めたい。

反論するために,筆者の論の展開を的確に読み取らせることで,筆者独自のものの見方や,取り上げられている具体例と主張との関係の理解へと生徒を導けると考える。
 構造マップ−言葉の関係と論理の流れを整理する。
構造マップを班で作成させ,従来の自然と筆者が提案する自然の概念の違いを視覚的に把握させる。

ワークシートに言葉のつながりや筆者の論理を図式化し,関係を整理させていく班活動により,他の生徒の考えにふれさせながら思考を深めさせる。

指導目標
論理の展開を考えさせながら,的確に筆者の考えを読み取ることができるようにする。
評論を読む意欲を高め,ものの見方を広げることができるようにする。

評価規準
国語への関心・意欲・態度
評論を読む事への意欲をもち,積極的に話し合い・発表に参加している。
読む能力
文章の内容を叙述に即して的確に読み取っている。
【国語総合 C「読むこと」ア】
文章を読んで,ものの見方,感じ方,考え方を深めている。
【国語総合 C「読むこと」ウ】
言語についての知識・理解・技能
文章の組立て,語句の意味,用法及び表記の仕方等を理解している。
【国語総合 〔言語事項〕イ】

単元計画(全5時間)
主な
言語活動
主 な 学 習 活 動
 
自然をどのようにとらえられているかまとめる。
題名による問題提起を踏まえ,筆者の事物の見方をまとめる。
自然と人工の区分をなくす筆者のものの見方を,自分たちもしていないか思い起こす。

 
2種類の自然の説明について整理し,発表する。
筆者が反論される点を自分からあらかじめ提起し,新しい概念を提唱している点について考える。
筆者の主張の背後にある論理の流れを把握する。
「郷愁」「原風景」についての意味を調べる。

構造マップ
11〜18段落の言葉相互の関係を班活動での構造マップ作成を通して整理し,筆者の主張する「自然」の概念について考える。

反論
「柔軟な感性」「人間を含む自然」「人間の意識とじかに連動する自然」のもつ意味についてまとめ,発表する。
従来の自然観の問題点について考える。
主教材において,筆者の自然観に反論する。

構造マップ
筆者の自然観についてマップを作り,具体的に把握する。
主教材の自然観と比べることで,自然に多様なとらえ方があることについて考える。
自分にとっての自然は何かをまとめ,発表する。

単元周辺の計画
教材の内容に関して
教師による書籍の紹介
教材と関係の深い内容やテーマを含んだ作品を紹介し,読書活動に意欲をもたせる。
「日本の論点」
文藝春秋編
読書コーナー
図書館と連携し,学級文庫や図書館に特設コーナーを設置する。
自然や環境問題に関する説明文・評論文
同じ主題で,異なる考え方を述べている作品。
 
単元名
「作者への反論を試みる」

〜教材「私にとって都市も自然だ」他〜
単元の目標
論理の展開を考えさせながら,的確に筆者の考えを読み取ることができるようにする。
評論を読む意欲を高め,ものの見方を広げることができるようにする。
言語活動に関して
構造マップ
他の評論や自分の考えをまとめるとき,言葉の関係を整理させるために使えることを紹介する。
小論文
根拠を踏まえて主張を述べる文章展開を意識させる。
比べ読み
評論の発展教材として,同じ主題で違う視点の作品を読み比べさせる。
授業を終えて
班活動による構造マップ作り,反論作成を通し,生徒は筆者のものの見方を読み取ることができました。筆者に対する反論だけでなく,生徒間でも互いの考えの違いに気付いて意見を交換し合う姿を見ることができました。通常の一斉授業に比べ生徒が意欲的に活動し、評論文に主体的に向き合えたように思います。ただ,生徒の能力差を考慮した班分けをしても,司会を担当する生徒次第で話し合いの深まりに差が出ており,活動を支える技能の習得が課題として浮かび上がりました。
一部の班で細かな記述にとらわれすぎた点もありましたが,反論を意識させることで教材を読み流す傾向のある生徒を深い読みに導くことができました。
主教材と補助教材を読み比べて,多様な自然観の存在について意識させることができましたが,それが今後の学習にうまく生きてくるのか,各自の読書生活に影響を与えたかについては,今後の指導の中で検証していきたいと思います。
 

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