平成22年度佐賀県小・中学校学習状況調査Web報告書

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Ⅲ 各教科の調査結果の分析   

※中学1年生の調査については、小学6年生の学習内容としているため、小学校の項で分析している。

中学校数学

知識・技能の習得を図り、思考力・判断力・表現力をはぐくむために

平成22年度の中学2年生における正答率は48.9であり、「おおむね達成」の基準を3.7ポイント上回った。正答率を評価の観点別に見ると、「数量、図形などについての知識・理解」の観点は「おおむね達成」の基準を下回り、内容領域別に見ると、「関数」の領域が「おおむね達成」の基準を下回った。「活用」に関する問題については、正答率が「おおむね達成」の基準を上回り、改善が図られてきたと考えられるが、無解答率はまだ高い状況にある。また、新学習指導要領への移行に伴って新しく加わった学習内容の定着と数学的な思考力・判断力・表現力の育成には課題が見られる。これらの結果を踏まえ、今後の指導においては、移行に伴って新たに追加された学習内容や「比例・反比例」についての基礎的・基本的な学習内容の定着を図るための指導の工夫が必要である。また、数学的な思考力・判断力・表現力の育成を図るために、数学的活動の充実を図る学習指導の工夫・改善が求められる。

この後、評価の観点については、以下のように記す。

 ○数学への関心・意欲・態度 → 本調査では設定なし

 ○数学的な見方や考え方 → 「見方や考え方」

 ○数学的な表現・処理 → 「表現・処理」

 ○数量,図形などについての知識・理解 → 「知識・理解」

結果の概要
 
(ア)
教科全体及び設問毎正答率
 
教科全体正答率 各種グラフ

正答率ごとの分布

観点別達成状況 

内容・領域別達成状況 

基礎と発展の比較

「活用」に関する問題

設問ごと正答率

 

(イ)

評価の観点別正答率

中学2年生

図1 H22年度 (中学2年生数学) 評価の観点別正答率 

「表現・処理」については、「十分達成」の基準には達しなかったものの、「おおむね達成」の基準を大きく上回り、良好な結果であった。しかしながら、平成21年度まで比較的良好であった「知識・理解」については、「おおむね達成」の基準を下回る結果となった。理由の一つとして球の体積や有効数字など、新学習指導要領への移行措置に伴い新しく追加された学習内容に関する問題の正答率が特に低く、定着が十分でなかったことがあげられる。また、「見方や考え方」においても、「おおむね達成」の基準をわずかに上回る結果にとどまった。「与えられた情報を読み取り、数学的に処理する力」や「数量の関係や問題解決の方法を説明する力」などに課題がみられた。


(ウ)

内容・領域別正答率

中学2年生

図2 H22年度 (中学2年生数学) 内容・領域別正答率

新学習指導要領への移行措置に伴い、平成21年度までの3領域に「資料の活用」を加えた4領域(「数量関係」は「関数」に変更)において、平成22年度は出題されている。「数と式」、「図形」、「資料の活用」の領域においては、「おおむね達成」の基準を上回った。また「関数」の領域においては大きな低下が見られ、出題された8問中の7問において、「おおむね達成」の基準を下回る結果となった。理由として、中学1年生の「関数」領域の主要内容ともいえる「比例と反比例」に関する内容の定着が、十分でなかったことが考えられる。

 

経年比較 

 

数学においては、同一学年(平成22年度の2年生と平成21年度の2年生)について、経年比較をすることにより分析を行った。比較する視点については、上記の概要から大きな低下がうかがえる「基礎的・基本的問題」と、平成21年度調査を受けての大きな課題の1つであった「活用する力を問う問題」の2点に絞った。

(ア)

「基礎的・基本的問題」の経年比較(同一学年)

中学2年生

図3 H21・22年度 (中学2年生数学) 「基礎的・基本的問題」正答率の経年比較

「基礎的・基本的問題」については、平成21年度に比べると、全体として正答率の低下は明らかである。ただ設問別に見れば、新しく追加された学習内容にかかわる問題等、特定の問題についての正答率が大きく落ち込んでいることが大きな要因の1つであることがわかる。

また、下の表1は、「数と式」の領域における「基礎的・基本的問題」(正の数・負の数及び文字の式、方程式における計算の技能を必要とする問題)の正答率を表したものであり、出題形式や難易度もほぼ同等と判断できたので比較した。下の表からは、「数と式」の領域における「基礎的・基本的問題」についても、やや低下の傾向にあることがわかる。

表1 H21・H22年度 (中学2年生数学)「主に計算の技能を必要とする問題」正答率の経年比較
(イ)

「活用」に関する問題の経年比較(同一学年)

中学2年生

図4 H21・22年度 (中学2年生数学) 「活用」に関する問題の正答率の経年比較

「活用」に関する問題については、平成22年度は「おおむね達成」の基準をやや上回り、全体的に向上している。特に「図形」領域の「対称な図形」に関する問題については、「十分達成」の基準を上回り、良好な結果が見られた。しかし、「数と式」領域の「2通りに表される数量を見いだし、方程式をつくる」、「文字式を読み取る」などの問題や、「関数」領域における「活用」に関する問題が「おおむね達成」の基準を下回る結果となり、課題が見られた。また、「活用」に関する記述式の問題について、表2により経年比較をした。

表2 H21・22年度 (中学2年生数学)記述式の問題の正答率・無解答率の経年比較

平成21年度と比べると、全体正答率において7.5ポイントの上昇が見られるので、成果も上がっているとのとらえ方もできる。しかし、全体正答率が「おおむね達成」の基準に到達していない点と、無解答率が39.1と高い数値である点を考えれば、今後も「数学的な表現を用いて、思考の過程や判断の根拠などを数学的に説明する力」を高めるための取り組みが必要である。

 

設問ごとに見た傾向と指導法改善の手立て  

 

 

記の「ア 結果の概要」と「イ 経年比較」から、「基礎的・基本的な知識・技能」にかかわる学習内容(特に新しく追加された学習内容)と、「活用」に関する学習内容において、課題が多いことがわかった。そこで、この2点について、正答率が低かった問題と無解答率が高かった問題を取り上げ、設問ごとに分析を行うことで、より詳細に課題を把握し、具体的な改善点や方策を提示することとした。


傾向1

「基礎的・基本的な知識・技能」を問う問題の正答率が低下している。

[中学2年生 大問2の(1)]  
○ 問題の概要 

○ 解答状況

正答率は53.5であり、「おおむね達成」の期待正答率55.0をやや下回った。小数や分数について数値的な大きさに関する概念が定着していないものと考えられる。

○ 指導法改善の手立て

数の大小関係を表す不等号と、負の小数や分数についての大小関係について、知識の定着を図る取り組みが必要である。場合によっては、小学校で学習する内容の正の数の範囲の小数や分数についての復習も必要である。数の大小関係を考える場合は、数直線上に表して考えることが多いと思うが、数直線上の目盛りを細かくとって表すなどの指導の工夫が必要である。

[中学2年生 大問8の(1)]  

○ 問題の概要 

○ 解答状況

正答率は13.2であり、「おおむね達成」の期待正答率50.0を大きく下回った。球の体積を求めるための公式についての知識の定着が不十分であるといえる。


○ 指導法改善の手立て

新学習指導要領への移行措置に伴い、新しく追加された学習内容である。球の体積の公式の導き方については、中学校の学習では取り扱わないため、図形領域における知識の一つとして、十分な定着を図る必要がある。例えば、「球や半球の容器に水を入れて、体積を求める」などの操作する活動を取り入れれば、学習意欲の向上も期待でき、より知識の定着が図られるものと思われる。

 

[中学2年生 大問10の(1),(2)]

○ 問題の概要 

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率はともに50.0であり、(1)は48.1、(2)は36.0と、期待正答率を下回った。しかも(2)に至っては、無解答率も16.6と高い数値であった。yがxに反比例する関係についての基礎的・基本的な学習内容に、大きな課題があると考えられる。

○ 指導法改善の手立て

比例や反比例の学習では、式、表、グラフを関連付けて、ともなって変わる2つの数量の変化や対応について調べることにより、その特徴を見いだしたり、確認したりすることが大切である。またその際、それぞれの式、表、グラフの特徴について、具体的に言葉で書き表したり説明したりするなどの表現活動を取り入れることで、より理解も深められると考える。また反比例の式の形としては、y=a/x が一般的ではあるが、xy=a ととらえる見方についても、知識としてはぐくみたい。

[中学2年生 大問15]

○ 問題の概要 


○ 解答状況

正答率は11.1であり、「おおむね達成」の期待正答率50.0を大きく下回った。有効数字の表し方についての知識の定着が不十分であるといえる。   


○ 指導法改善の手立て

新学習指導要領への移行措置に伴い、新しく追加された学習内容である。有効数字については、その有用性について理解をさせながら、知識としての定着を図っていく必要がある。できれば、理科で取り扱われるような実験結果を基にした数値や、日常生活の中にある数値で表された情報などを題材として、生徒の関心・意欲を引き出しながら、理解が深められるようにしていきたい。

 

傾向2    

「数と式」、「関数」の領域における「活用」に関する問題の正答率が低く、無解答率が高い。

[中学2年生 大問4の(2)]  

○ 問題の概要 

○ 解答状況

正答率は8.7と、「おおむね達成」の期待正答率35.0を大きく下回った。与えられた情報の中から、数量の関係を的確に読み取り、式に表すという数学的な思考力に大きな課題がある。


○ 指導法改善の手立て

この問題は、まず2つの未知数が問われており、未知数 x の置き方によって2通りの方程式が考えられるものであった。太郎さんの考え(生徒の人数をxとおいて、お菓子の数が等しいことに目を付ける)が一般的であると思うが、花子さんの考え(お菓子の数を x とおいて、生徒の数が等しいことに目を付ける)も理解できるような柔軟な思考力を身に付けさせたいものである。授業においても、このような2通り以上の考え方ができる方程式の問題等を題材として取り扱うことにより、数学的な思考力を培うこともできると考える。

[中学2年生 大問5の(1),(2)]  

○ 問題の概要
 
 

 ○ 解答状況

(1)は「おおむね達成」の期待正答率45.0に対し正答率は42.7、(2)は「おおむね達成」の期待正答率35.0に対し正答率は31.9で、ともに下回った。特に(2)については、無解答率も42.2と高い数値であった。文字式の意味を読み取ったり説明したりするために必要となる数学的な思考力・表現力において課題が見られた。


○ 指導法改善の手立て

ある具体的な数量について表された文字式の意味を読み取ったり、逆に具体的な数量を一般化して文字式に表す場合については、幅広い視野での数学的な見方や考え方が必要になる。さらに、(2)のように説明を必要とする場合については、数学的な表現力や言語能力も必要となる。このような問題については、主に課題学習の中で取り扱われることが多いが、図を用いたり数を数えたりするところから、規則性や数量の関係に気付かせ、文字式として一般化させていくような取り組みが大切である。そういった活動を通して、幅広い視野での数学的な思考力が培われていくものと考える。また授業の中で、自分が予想したことやその理由等について、書き表したり人に伝えたりする活動も合わせて取り組むことによって、数学的な表現力や言語能力が培われていくものと考える。

[中学2年生 大問11の(1),(2)]  
○ 問題の概要 

○ 解答状況

(1)は「おおむね達成」の期待正答率45.0に対し正答率は16.7、(2)は「おおむね達成」の期待正答率35.0に対し正答率は31.5で、ともに下回った。さらに無解答率については、(1)が19.3、(2)が36.1と高い数値であった。事象を数学化する力や、数学的に解釈したり表現したりする力に課題が見られた。


○ 指導法改善の手立て

この問題においては、比例にかかわる基礎的・基本的な知識・技能と、それらを活用する力が求められている。特に比例や反比例を学習するにあたっては、できるだけ身近にあるような題材を用いて、分かりやすいものから取り扱い、基礎的・基本的な知識・技能の定着を図りながら、少しずつ思考力を伴うような問題へとステップアップしていく進め方がよいと考える。また、正答率が低かった原因の一つとして、目盛りの違うx軸とy軸のグラフの見方や考え方について、慣れていなかったことも考えられる。教科書においては、このような題材の取り扱いも少ないため、別に題材や課題を提示して、そこから思考力や表現力をはぐくむような学習活動を取り入れていく必要がある。

[中学2年生 大問12の(1),(2),(3)]  
○ 問題の概要 

○ 解答状況 
「おおむね達成」の期待正答率は(1)45.0、(2)45.0、(3)35.0であったが、正答率は(1)23.7、(2)34.0、(3)30.8と、すべて下回った。無解答率も、(1)20.6、(2)24.7、(3)25.0と高い数値を示した。情報を読み取り活用する力や、事象の変化をとらえ、数学的に処理する力などにおいて、課題が見られた。

○ 指導法改善の手立て

(1)については、多くの与えられた情報の中から数量の関係(x、yの関係)を見いだす力が求められている。また、(2)、(3)については、与えられた情報を整理して見る力と、そこから見い出される数量の関係を的確に読み取り、それらを活用していく力が求められている。一つの単元や関連内容の学習が終了する節目となる時間に、このような問題を取り扱った授業を実践することは、数学的な思考力・表現力を高める上においても、基礎的・基本的な知識・技能の定着を図る上においても大きな効果をもたらすものと考える。実践にあたっては、題材や課題の提示、場面の設定などの工夫が大切である。

これからの指導に向けて
 

 

今回の調査によって明らかになった指導改善のための重点項目は、次の3つである。

 ア 「知識・理解」に関する学習内容及び基礎的・基本的な学習内容(特に新しく追加された内容)の確実な
   定着を図ること

 イ 「関数」領域の「比例と反比例」に関する学習内容の確実な定着を図ること

 ウ 数学的な思考力や表現力をさらにはぐくんでいくこと

以上のような重点項目を踏まえ、学習指導の改善を図っていく必要がある。数学的活動についても、積極的に取り入れることが大切ではあるが、「授業の中にどのように位置付け、どのような活動をさせた方がより効果的であるか」ということを考えながら、授業の改善を図っていくことが大切である。 

※数学的活動は、基礎的・基本的な知識・技能を確実に身に付けるとともに、数学的に考える力を高めたり、数学を学ぶことの楽しさや意義を実感させたりするために、重要な役割を果たすものである。 

ア 「知識・理解」に関する学習内容及び基礎的・基本的な学習内容の確実な定着に向けて
「球の体積」や「有効数字」等、新しく追加された学習内容に関しての課題だけでなく、全体的にみても基礎的・基本的な学習内容の定着にも課題があることがうかがえる。思考力や表現力の向上を目的とした数学的活動を取り入れた授業実践を重視することはもちろん大切であるが、こればかりを重視しすぎれば、逆に活動の基盤となる基礎的・基本的学習内容の定着が低下するといった悪影響も考えられる。数学的活動の役割にもあるように、3つの点(「知識・技能を確実に身に付ける」、「思考力・判断力・表現力を高める」、「数学を学ぶことの楽しさや意義を実感させる」)のバランスと連動性を考えながら、授業改善を図ることが大切である。

          

イ 「関数」領域「比例と反比例」に関する学習内容の確実な定着を目指して 
1学年の「関数」領域の学習内容は、「比例と反比例」が中心であるが、2学年以降の本領域の学習において、関数や座標の意味、グラフのかき方など、基盤となる大切な内容も多い。そのため、今後の本領域の学習過程においては、既習事項の確認を十分行いながら、学習を進めていく必要があると思われる。また、できるだけ身近にあるような題材や興味を引くような題材を取り上げて、分かりやすいものから、少しずつ思考力を伴うような問題へと、段階に応じた学習指導が望まれる。生徒の学習状況や到達度に応じて、適切な題材や課題の提示を工夫することが大切であると考える。

ウ 数学的な思考力・表現力の向上を目指して 

数学的活動を積極的に取り入れた授業実践を積み重ねることが必要であるが、前にも述べたように授業実践をする上において、基礎的・基本的な知識・技能の定着を図る視点も忘れてはならない。 その上で、「概念・法則・意図などを解釈し、説明したり活用したりする活動」、「情報を分析・評価し論述する活動」、「互いの考えを伝え合い、自らの考えや集団の考えを発展させる活動」などの言語活動を重視した数学的活動を通した授業の充実を図っていくことが大切である。また、通常の授業で取り扱う題材や課題は、領域の内容を中心としたものが多いため、生徒は各領域の内容を関連性のないものととらえる傾向がある。獲得した知識・技能を活用するための数学的な思考力・表現力を身に付けるには、各領域の学習やそれらを相互に関連付けたストーリー性のある授業を設定していくことも必要である。

 

授業実践に参考となるリンク
   
 
   
 

最終更新日: 2011-1-31