平成22年度佐賀県小・中学校学習状況調査Web報告書

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Ⅲ 各教科の調査結果の分析   

※中学1年生の調査については、小学6年生の学習内容としているため、小学校の項で分析している。


中学校理科

生徒一人一人の実態に応じたきめ細かな指導の徹底 

教科全体正答率は、中学2年生、3年生ともに「おおむね達成」の基準を上回っている。しかし、内容・領域別正答率は、中学2年生は「大地の成り立ちと変化」と「身の回りの物質」、中学3年生は「天気とその変化」と「化学変化と原子・分子」の正答率が低い。また、設問ごとに見た傾向は、観察や実験の結果を分析して解釈する問題や自分の考えを文章やグラフで表現する問題に課題が見られる。

そこで、地学領域と化学領域を中心に、授業中に学習内容を振り返る時間の確保、家庭学習の充実など、生徒一人一人の実態に応じたきめ細かな指導を徹底する必要がある。また、基礎的・基本的な知識・技能の定着、目的意識をもった観察・実験の徹底、言語活動の充実などを通して、科学的な思考力・表現力の育成を図る必要がある。

 

この後、評価の観点については、以下のように記す。

 ○自然事象への関心・意欲・態度 → 本調査では設定なし。

 ○科学的な思考 → 「思考」ただし本文中では「科学的な思考」

 ○観察・実験の技能・表現 → 「技能・表現」

 ○自然事象についての知識・理解 → 「知識・理解」

結果の概要
 
(ア)
教科全体及び設問毎正答率
 
教科全体正答率 各種グラフ

正答率ごとの分布

観点別達成状況 

内容・領域別達成状況 

基礎と発展の比較

「活用」に関する問題

設問ごと正答率

 

教科全体正答率 各種グラフ

正答率ごとの分布

観点別達成状況 

内容・領域別達成状況 

基礎と発展の比較

「活用」に関する問題

設問ごと正答率

   
(イ)

評価の観点別正答率

①中学2年生

図1 H22年度 (中学2年生理科) 評価の観点別正答率 

③中学3年生

図2 H22年度 (中学3年生理科) 評価の観点別正答率

中学3年生は、すべての観点において、「おおむね達成」の基準を上回ったが、「十分達成」の基準には届かなかった。中学2年生は、「科学的な思考」と「技能・表現」は、「おおむね達成」の基準を上回ったが、「知識・理解」は、「おおむね達成」の基準を下回った。中学2年生の「知識・理解」の観点が低かった原因の一つに、「大地の成り立ちと変化」の正答率の低さがあると考えられる。

 

(ウ)

内容・領域別正答率

①中学2年生

図3 H22年度 (中学2年生理科) 内容・領域別正答率 

「植物の生活と種類」と「身近な物理現象」については、「おおむね達成」の基準を上回ったが、「身の回りの物質」については、「おおむね達成」の基準をわずかに上回るにとどまっている。また、「大地の成り立ちと変化」については、「おおむね達成」の基準を下回っている。

「大地の成り立ちと変化」は、学年末に学習することが多い。そのため、定期テストや確認テスト等で学習内容が生徒一人一人に定着しているかの評価と、それに対する指導が十分に行われていないためであると考えられる。

②中学3年生

図4 H22年度 (中学3年生理科) 内容・領域別正答率

「電流とその利用」については、「十分達成」の基準を上回った。「動物の生活と種類」については、「おおむね達成」の基準を上回った。しかし、「化学変化と原子・分子」と「天気とその変化」については、「おおむね達成」の基準をわずかに上回るにとどまっている。地学領域と化学領域の正答率の低さは、中学2年生にも同じ傾向がみられる。「化学変化と原子・分子」と「天気とその変化」とも、記述式で答える問題が多く、生徒一人一人に言語力が十分に身に付いていないためであると考えられる。

 

経年比較 

 


 

中学2年生は、「知識・理解」の評価の観点別正答率が低く、課題が見られた。中学3年生は、「科学的な思考」の評価の観点別到達度分布に課題が見られた。そこで、平成22年度と平成21年度において、同一生徒を対象に追跡調査し、経年比較を行った。

また、新しい学習指導要領では、言語活動の充実を通して科学的な思考力を育成することが求められており、「活用」に関する問題の正答率を経年比較することも重要なことである。そこで、「活用」に関する問題の正答率についても同様に経年比較を行った。

(ア)

「知識・理解」の経年比較

H22中学2年生とH21中学1年生(同一生徒)

図5 H21年度 (中学1年生)・H22年度 (中学2年生) 「科学的事象についての知識・理解

     正答率の経年比較

「知識・理解」について、平成21年度の中学1年生では「おおむね達成」の基準を上回ったが、平成22年度の中学2年生では「おおむね達成」の基準を下回った。中学校理科の学習は、小学校理科の学習と比べて学習内容が多く、しかも授業の進度も速いため、知識・理解の定着が十分に図られていないことが考えられる。

(イ)

「科学的な思考」の経年比較

H22中学3年生とH21中学2年生(同一生徒)

図6 H21年度 (中学2年生)・H22年度 (中学3年生) 「科学的な思考」評価観点別

    到達度分布の経年比較

「科学的な思考」について、平成21年度の中学2年生では、「要努力」の生徒の割合が40.2%で、「おおむね達成」の生徒の割合が26.2%であった。しかし、平成22年度の中学3年生では、「要努力」の生徒の割合が34.6%と5.6ポイント減少し、「おおむね達成」の生徒の割合が33.3%と7.1ポイント上昇した。このことは、実験や観察で得られたデータや事実を客観的にとらえ生徒自身が考察しまとめるような授業を通して、科学的な思考力の育成に努めてきた成果であると考える。しかし、「十分達成」の生徒の割合は、平成22年度は32.1%と、平成21年度の33.6%より1.5ポイント減少しており、生徒一人一人の能力に応じたきめ細かな指導をさらに充実させる必要がある。


(ウ)

「活用」に関する問題の経年比較

①H22中学2年生とH21中学1年生(同一生徒)

図7 H21年度 (中学1年生)・H22年度 (中学2年生) 「活用」に関する問題の正答率の経年比較

②H22中学3年生とH21中学2年生(同一生徒)

図8 H21年度 (中学2年生)・H22年度 (中学3年生) 「活用」に関する問題の正答率の経年比較

中学2年生は、平成21年度は「おおむね達成」の基準を16.6ポイント上回り、平成22年度では「おおむね達成」の基準を7.8ポイント上回っていた。また、中学3年生は、平成21年度は「おおむね達成」の基準を6.1ポイント上回り、平成22年度では「おおむね達成」の基準を13.3ポイント上回った。以上のことから、中学校理科における「活用」を問う問題の正答率は、おおむね良好な結果であるといえる。このことは、身の回りの自然事象から問題を見出し、科学的な知識や概念を用いて、主体的に解決する学習を計画的に取り入れてきたためであると考える。



設問ごとに見た傾向と指導法改善の手立て  


 

経年比較より、「知識・理解」の評価の観点別正答率については、中学1年生から中学2年生にかけて低下するものの中学3年生になると向上している。「活用」を問う問題の正答率についても、同じような傾向が見られる。知識・技能を習得することと、習得した知識・技能を活用することは、車の両輪のように相互に関連し合っている。そこで、知識・技能の習得と活用に関連の深い内容の問題として、「観察、実験の技能・表現に関する問題」「結果を分析して解釈する問題」「日常生活や社会との関連を図る問題」「導き出した自分の考えを文章やグラフで表現する問題」について分析する。

傾向1

観察や実験の技能・表現に関する問題は良好。 結果を分析して解釈する問題に課題。

[中学2年生 大問2の(4)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況
「十分達成」の期待正答率65.0に対して正答率は78.6であり、13.6ポイント上回った。無解答率も2.8と低かった。 授業中に観察・実験はよく行われており、特に観察・実験の場面で、TTや少人数指導などの指導が活発に行われている。このようなきめ細かな指導が生徒の観察、実験の技能・表現の向上につながっていると考える。


○ 指導法改善の手立て

平成21年度の第2学年で、種子が発芽したときの芽生えの様子から双子葉類の特徴について問う問題を出しているが、「おおむね達成」の期待正答率50.0に対して正答率は44.3であり、5.7ポイント下回っていた。無解答率も19.7と高かった。しかし、平成22年度では、双子葉類の葉脈の観察結果を正確に表現することができた生徒の割合は78.6%で、「十分達成」を13.6ポイント上回り、良好な結果であった。

観察、実験におけるTTや少人数指導などの指導などのきめ細かな指導が、観察、実験の技能・表現の向上につながっていると考える。今後は、目的意識をもって観察や実験を行い、分かったことや気付いたことを記録・分析し、図や文章等で表現する活動を授業に計画的に取り入れていくことにより、観察、実験の技能・表現のより一層の向上へとつながっていくと考える。

[中学2年生 大問6の(4)]  
○ 問題の概要 

○ 解答状況

正答率は24.4であり、「おおむね達成」の期待正答率35.0に対して10.6ポイント下回った。日々の授業で、実験で得られたグラフから物質の融点と加熱時間の関係を読み取るなど、結果を分析して解釈する力が十分に育成されていないためであると考える。


○ 指導法改善の手立て

結果を分析して解釈する力を育成するためには、パルミチン酸の量を変えたときのデータを基にグラフを作成させたり、縦軸と横軸の目盛りの取り方を生徒自身に考えさせたりして、グラフを読み取る能力の育成を図ることが必要であると考える。指導に当たっては、少人数やTTで授業を行ったり、グループで協力して取り組ませたりするなど、結果を分析して解釈する場面において、生徒の理解の程度に応じたきめ細かな指導をより一層徹底することが大切であると考える。

傾向2     

日常生活や社会との関連を図る問題は良好。 導き出した自分の考えを文章やグラフで表現する問題に課題

[中学3年生 大問2の(3)]  
○ 問題の概要 

○ 解答状況
正答率は84.2であり、「十分達成」の期待正答率60.0に対して24.2ポイント上回った。生徒の身の回りにある電気ポットとテーブルタップに関する問題であり、学習した内容を日常生活との経験と関連付けて答えることができたため正答率も高かったと考えられる。


○ 指導法改善の手立て

新学習指導要領にも示されているように、日常生活や社会との関連を図る力をより一層高めるため、科学技術が日常生活や社会を豊かにしていること、安全性の向上に役立っていることについて授業で扱うことは、理科を学習する意義や有用性を実感させ、自然事象に対する関心を高めるのに有効な取り組みであると考える。

[中学3年生 大問5の(4)]  
○ 問題の概要 

○ 解答状況

正答率は32.1であり、「おおむね達成」の期待正答率40.0に対して7.9ポイント下回った。また無解答率は28.9と高かった。日々の授業において、「何のためにこの実験を行うのか」「どのような結果になるのか」について、自分の言葉で表現する場面を取り入れた学習活動が十分に行われていなかったためであると考える。


○ 指導法改善の手立て

導き出した自分の考えを文章やグラフで表現する力を育成するための手立てとして、次の3つの活動を取り入れた取り組みが考えられる。

①観察や実験の計画や検証方法を発表し自分の考えを深める活動

②観察や実験の結果を図、表、グラフに表して考察し、レポートにまとめる活動

③学習内容と関連する身近な事象について、科学的な知識や技能を活用して説明する活動

また、無解答率を減少させるための取り組みとして、観察・実験の「予想」や「考察」、「この実験で何が明らかとなって何が課題として残ったのか」等について、授業の中で生徒自身に自分の言葉を使って文章で表現させることを徹底することが重要であると考えられる。

 

これからの指導に向けて
 


今回の調査によって、「結果を分析して解釈する内容」「導き出した自分の考えを文章やグラフで表現する内容」に課題が見られた。この課題を解決するためには、基礎的・基本的な知識・技能の確実な定着と科学的な思考力・判断力・表現力の育成の両立を図る授業を展開することが重要である。

そこで、次の3つの点を大切にして、これからの指導に取り組む必要がある。

ア 目的意識をもった観察・実験の徹底

日々の授業で、観察や実験はよく行われているが、「何を観察するのか」「何のためにこの実験を行うのか」という目的意識をもっていない生徒が少なくない。また、活動すること自体が目的となってしまい、何を確かめるのかがわからないまま、「楽しかった」「おもしろかった」だけで終わってしまっていることも多い。重要なのは、生徒に目的意識をもって観察や実験を行わせ、何が獲得でき、何が分かるようになったかを明確にさせて、一連の学習を生徒に自分のものとしてとらえさせることである。そこで、観察や実験を行う前に学習した知識や概念を使って自分なりの仮説や予想を立てたり、観察や実験で得られた結果を分析して解釈し表現したりする活動を、一連の学習活動の中に明確に位置付けて取り組んでいくことが必要である。

イ 言語活動の充実を通して、科学的な思考力・表現力を育成
科学的な思考力や表現力をはぐくむためには、言語活動の充実を図ることが必要である。特に理科においては、観察や実験の結果に基づいてグラフの作成や読み取りができる、考察を言語化し表現できるなどの能力の育成が求められる。そこで、言語活動の充実を図るためには、観察や実験等の生徒の直接体験と結び付けた指導を行うことが重要で、具体的には次のような学習活動が考えられる。

① 問題を見いだし観察や実験を計画する学習活動

② 観察や実験の結果を分析し解釈する学習活動

③ 科学的な概念を用いて考察したり説明したりする学習活動

これらの学習活動を、年間指導計画に明確に位置付け、言語活動の充実をより一層図っていくことが重要である。

ウ 基礎的・基本的な知識・技能の習得を図る指導と評価の一体化
科学的な思考力や表現力をはぐくむためには、学習した知識や技能を活用し、科学的に探究する場面を授業に計画的に取り入れることが重要である。そのためには、まず基礎的・基本的な知識・技能の定着を図ることが必要である。そこで、習得させるべき学習内容が確実に定着しているかを確かめる評価を計画的に行い、達成できていない場合は補充的な指導を確実に行うことが重要である。つまり、「指導と評価の一体化」を、今一度、徹底する必要がある。 その際、授業中の観察やノートの点検、小テストの実施などの「短いフィードバック・サイクル」によるものと、単元末の確認テストや定期テスト・実力テストのやり直しなどの「長いフィードバック・サイクル」によるものを組み合わせて行うことが重要であると考える。個に応じたきめ細かな指導を全学年で継続的に取り組んでいくことが大切である。

 

授業実践に参考となるリンク
   
 
   
 

最終更新日: 2011-1-31