平成22年度佐賀県小・中学校学習状況調査Web報告書

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Ⅲ 各教科の調査結果の分析   

※中学1年生の調査については、小学6年生の学習内容としているため、小学校の項で分析している。

小学校国語

日常生活で生かせる言語活動を意識した指導

ほとんどの評価の観点、内容・領域において、「おおむね達成」の基準を上回った。特に、中学1年生の「言語についての知識・理解・技能」の観点においては、評価の観点、内容・領域ともに「十分達成」の基準を上回る結果となった。しかし、小学5年生の「言語事項」(語句に関する知識)の内容・領域においては、内容・領域別正答率で「おおむね達成」の基準を下回っており、課題である。中学1年生の結果が平成21年度よりもよくなっていることから、小学校において漢字やローマ字、慣用句など知識の定着が図られていると考えられるが、小学5年生では向上が見られていないので、今後も継続した指導が必要である。また、「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと」についても、「十分達成」を目指し、日常生活で生かせる言語活動を意識した国語科の指導を行っていく必要がある。

この後、評価の観点については、以下のように記す。

○国語への関心・意欲・態度 → 本調査では設定なし。

○話す・聞く能力 → 「話す・聞く」

○書く能力 → 「書く」

○読む能力 → 「読む」

○言語についての知識・理解・技能 → 「知識・理解・技能」


結果の概要
 
(ア)
教科全体及び設問毎正答率
 
教科全体正答率 各種グラフ

正答率ごとの分布

観点別達成状況 

内容・領域別達成状況 

基礎と発展の比較

「活用」に関する問題

設問ごと正答率

 

小学5年生、中学1年生ともに、「おおむね達成」の基準を上回っている。特に、中学1年生では、「十分達成」の基準とほぼ同程度の正答率で、国語科の指導法の改善が図られていることが分かる。

 

(イ)

評価の観点別正答率

①小学5年生

図1 H22年度 (小学5年生国語) 評価の観点別正答率

「読むこと」に関しては、「おおむね達成」の基準を大きく上回っており、良好な結果であった。叙述に即して的確に読む指導が丁寧に行われている効果が表れていると思われる。また、 「話すこと・聞くこと」「書くこと」「言語についての知識・理解・技能」については、「おおむね達成」の基準を上回っており、中学年までの各観点ごとの指導効果が表れていると考えられる。

しかし、「書くこと」や「言語についての知識・理解・技能」については、「おおむね達成」の基準をわずかに上回るにとどまっている。「書くこと」では、自分の考えが明確になるように書いたり、情報をとらえ目的に応じて書いたりすること、「言語についての知識・理解・技能」では、単語をローマ字で正しく書き表すこと等の定着がまだ十分でないことが考えられる。

②中学1年生

図2 H22年度 (中学1年生国語) 評価の観点別正答率 

「言語についての知識・理解・技能」については、「十分達成」の基準を上回っており、良好な結果であった。漢字の読み書きの指導や語句のきまりの指導が、小学校の6年間で継続して行われている成果が表れていると思われる。「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと」については、「おおむね達成」の基準を上回っており、小学校高学年までの各観点ごとの指導の効果が出ていると考えられる。

しかし、「読むこと」においては、説明的な文章における筆者の表現の工夫や文学的な文章における情景描写の読み取りで、特に課題が見られた。


(ウ)

内容・領域別正答率

「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと」については、評価の観点の項目と同じであるため、言語事項「漢字の読み」「漢字の書き」「語句に関する知識」について、学年ごとに分析する。

小学5年生と中学1年生の言語事項

①小学5年生

図3 H22年度 (小学5年生国語) 言語事項の内容・領域別正答率

「漢字の読み」については、「十分達成」の基準を上回り、日常生活でよく使う熟語や送り仮名のある漢字の文字を正しく読むことができていることが分かる。

「漢字の書き」については、「おおむね達成」の基準を上回っており、特に、日常生活でよく使う熟語や送り仮名のある漢字の表記は正答率が高いが、「消費」(しょうひ)の正答率が低かった。

「語句に関する知識」については、「おおむね達成」の基準を下回る結果となった。特に、ローマ字の表記が正しくできていないことから、ローマ字で表記させる場面を意図的に取り入れ使わせるような指導が必要であると思われる。

②中学1年生

図4 H22年度 (中学1年生国語) 言語事項の内容・領域別正答率

「漢字の読み」については、「おおむね達成」の基準を上回り、日常生活でよく使う熟語や送り仮名のある漢字の文字を正しく読むことができていることが分かる。

「漢字の書き」については、「十分達成」の基準を上回っており、日常生活でよく使う熟語や送り仮名のある漢字の文字の表記ができていることが分かる。

「語句に関する知識」についても、「十分達成」の基準を上回る結果となった.。


(エ)

到達度分布(小学5年生「書くこと」及び「読むこと」)

小学5年生の調査結果を見ると、他の領域に比べて「書くこと」の正答率が低い傾向にある。具体的な設問をみると、テキストに書かれたことを読み、情報を取り出して理解したことやテキストに基づいて自分の意見を書くというような問題での誤答や無解答が多い。テキストの内容を読んで理解した上で書く設問内容の重要性からも、ここでは、「書くこと」と「読むこと」の二つの領域を児童の到達度分布から見て、その関連性から誤答や無解答が多かった要因を分析する。

図5 小学5年生「書くこと」「読むこと」の到達度分布

①「書くこと」

正答率では、「おおむね達成」の基準を上回ったものの、「十分達成」と「要努力」の児童がほぼ同程度であることが分かる。自分の考えを書くことができている児童が約4割いる反面、書くことに抵抗を感じている児童も4割いる。また、無解答率も他の領域と比較するとかなり高くなっている。このことから、考えを書ける児童は抵抗なく書けているが、書くことが苦手な児童は全く書けないでいると思われる。

②「読むこと」

正答率では、「おおむね達成」の基準を大きく上回ったものの、「十分達成」の児童よりも「要努力」の児童が多いことが分かる。約4割の児童が「おおむね達成」の基準まで到達していない状況であり、課題である。問題として提示された文章の内容を理解できていない児童がかなり存在することが分かる。また、「十分達成」の基準に到達している児童は3割しかおらず、提示された文章を理解して問題を解いている児童が少ないことが分かる。

③「書くこと」と「読むこと」から見られる課題

共通して言える課題としては、「要努力」の児童の割合が約4割いるということである。文章を正確に理解できていない、情報の取り出しができないなど、読む能力が身に付いていない児童は、それらに基づいて自分の考え等を書くこともできていないと思われる。書くためには、何についてどのように書けばよいか等の内容理解が必要である。


経年比較 

 


ここでは、次の2つについての経年比較を行うことする。
1点目は、同一児童生徒について平成20年度の小学5年生と平成22年度の中学1年生の結果を経年比較する。同じ児童・生徒を追って学習状況を比較することにより、学習内容の定着を見ていく。なお、ここでは「言語事項」と「読むこと」についての分析を行う。
2点目は、同一学年児童生徒について平成21年度と平成22年度の中学1年生と、平成21年度と平成22年度の小学5年生の結果を経年比較する。このことにより、指導法改善の効果や課題を見ていく。ここでは、まず、今回の調査で課題が見られた中学1年生の「読むこと」領域において、指導法改善の効果と課題を分析していく。さらに、小学校での指導法改善の効果を詳しく見ていくために、平成21年度と平成22年度の小学5年生について、ここ数年間の課題である「書くこと」「読むこと」を、到達度分布等を用いて分析を行う。


(ア)

同一児童生徒の経年比較

① 「言語事項」の経年比較 H22中学1年生とH20小学5年生(同一児童・生徒)

図6、図7、図8、は、中学1年生の「言語事項」について平成20年度の同一児童と比較したグラフである。

 図6 H20年度(小学5年生国語)、H22年度 (中学1年生国語) 「言語事項(漢字の読み)」
     正答率の経年比較

「漢字の読み」の正答率は、平成20年度は「十分達成」の到達基準85.0に対して6.9ポイント上回っていた。平成22年度は「おおむね達成」の到達基準63.3に対しては16.6ポイント上回っていたが、平成20年度と比べると12.0ポイント下回っていた。

 図7 H20年度(小学5年生国語)、H22年度 (中学1年生国語)  「言語事項(漢字の書き)」

     正答率の経年比較

「漢字の書き」の正答率は、平成20年度は「おおむね達成」の到達基準61.7に対して0.5ポイント下回っていた。平成22年度は「十分達成」の到達基準83.3に対して4.0ポイント上回っていた。

図8 H20年度(小学5年生国語)、H22年度 (中学1年生国語) 「言語事項(語句に関する知識)」   正答率の経年比較

「語句に関する知識」の正答率は、平成20年度は「十分達成」の到達基準78.6に対して3.3ポイント上回っていた。平成22年度は「十分達成」の到達基準82.5に対して10.3ポイント上回っていた。

このように、「言語事項」での同一児童・生徒の経年比較から、全体的に良好な結果を保っており、学習内容の定着ができていると思われる。特に、「漢字の書き」や「語句に関する知識」では正答率が向上しており、小学校で学習した漢字や語句の習得ができていると考えられる。しかし、「漢字の読み」については経年で比較しても「おおむね達成」の基準を上回っているものの正答率は下がっているので、高学年で学習する漢字の読みについても漢字の書きと合わせて継続して指導する必要がある。

















 


② 「読むこと」領域の経年比較 H22中学1年生とH20小学5年生(同一児童生徒)

図9は、中学1年生の「読むこと」について平成20年度の同一児童と比較したグラフである。

図9 H20年度(小学5年生国語)、H22年度 (中学1年生国語) 「読むこと」正答率の経年比較

「読むこと」領域については平成20年度は「おおむね達成」を10.3ポイント上回っており、平成22年度も10.3ポイント上回っていた。学年が上がると、正答率は2.0ポイント下がっているものの、「おおむね達成」は10ポイント以上上回ったままであり、良好な状態を保つことができた。このことから、読む文章の分量が増えたり内容が難しくなったりしてきても、しっかりと問題文や提示された文章を読むことができている。しかし、説明的な文章の読解においては、筆者の表現の工夫に着目することに課題が見られた。説明的な文章を読んでいく際、表現方法や構成の仕方に気付かせたり事実と意見との関係をとらえさせたりする活動を取り入れるなどの授業改善をする必要がある。


(イ)

同一学年児童生徒の経年比較

①H21・22年度(中学1年生国語)「読むこと」に関する問題での経年比較


「読むこと」の「情景などの表現に着目すること」を問う問題の結果を平成21年度と22年度の中学1年生(同一学年)で比較することにより、 文学的な文章の読み取りの学習での指導法改善が図られているかを見ていく。

表1 H21年度(中学1年生国語)、H22年度 (中学1年生国語)「読むこと」に関する問題の比較

表1からも分かるように、平成21年度、平成22年度ともに正答率がとても低く、無解答率も10%を超えている。平成21年度と比較して正答率や無解答率での向上がやや見られるものの、「おおむね達成」の基準には至っていない。情景などの表現に着目して内容を読み取るという同じねらいの設問において、2年連続して同じ傾向の結果が出ている。このことから、文学的文章を読解する際、人物の心情や置かれている状況を情景などの表現に着目して読んでいくような指導が十分に行われていないことが予想できる。


H21・22年度(小学5年生国語)「書くこと」及び「読むこと」に関する問題での経年比較


(1)「書くこと」 
平成22年度の小学5年生では、「ア結果の概要」で述べたように、「書くこと」で 課題が見られた。そこで、「書くこと」についての指導法改善が図られているかの分析のために、到達度分布を経年で比較することにした。

図10 H21・22年度(小学5年生) 「書くこと」の到達度分布

平成22年度の小学5年生は、平成21年度の小学5年生と比較すると、「おおむね達成」の児童の割合が10%以上減少し、「十分達成」と「要努力」の児童の割合が増加している。特に「十分達成」の児童は10%以上増加している。「書くこと」の正答率でみると課題は残るものの、指導法改善の成果が徐々に表れている結果だと言える。しかしながら、「要努力」の児童の割合も約4%増加し、40%以上を占めており、「十分達成」の児童との二極化が顕著になった。「書くこと」に対して抵抗を感じている児童が増えているので、個に応じたきめ細やかな対応策が必要である。表現の様式に合った書き方を学ばせ、短い文章を継続して毎日書かせていくなど継続的な指導が効果的である。

(2)「読むこと」 
平成22年度の小学5年生では、「ア結果の概要」で述べたように、「読むこと」 領域ではおおむね良好な結果が見られたが、「十分達成」の基準に到達している設問は5問中1問のみだった。また、説明的な文章の読解においては「十分達成」を上回る設問はなかった。そこで、「読むこと」についての指導法改善が図られているかの分析のために、到達度分布から経年で比較することにした。

図11 H21・22年度(小学5年生)「読むこと」の到達度分布

平成22年度の小学5年生は、平成21年度の小学5年生と比較すると、「十分達成」の児童の割合が0.3%減少し、「要努力」の児童の割合が1%増加している。到達度の割合の傾向としては大きな変化は見られない。しかし、「要努力」の児童が連続して4割近くいるということが明らかになった。問題文として出されている文章の内容や問題文自体の意味を理解できない児童が2年連続で約4割いるということになる。「読むこと」の学習に対して抵抗を感じている児童への手立てを具体的に考え、個に応じた指導を取り入れていくことが必要である。また、「十分達成」の児童も増えていないことから、読み取った内容を的確に解答し、様々な設問に対応できるような指導も必要であると思われる。

 

設問ごとに見た傾向と指導法改善の手立て

 


平成22年度の調査結果を踏まえ、ここでは、「読むこと」「書くこと」領域における「事実と感想の述べ方に気付くこと」「形式や目的に合わせて書き換えること」について分析する。さらに、今年度正答率が低かった問題から「情景などの表現に着目して読むこと」 「形式や目的に合わせて二文に分けて書き換えること」「濁音や撥音を含んだローマ字の書き取り」についても分析を行う。

傾向1

文章の内容を正確に読み取ることに課題がある。

[中学1年生 大問2の三]  
○ 問題の概要


○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率55.0に対し正答率は37.3で、17.7ポイント下回っている。また、無解答率は8.5ポイントで高い数値を示している。本設問は、報告文の中から自分の考えが述べられた一文の最初の7字を書き抜くものだったが、事実と感想との述べ方の違いに気付かず、文章表現に着目した読み取り方ができていなかったと考えられる。

○ 指導法改善の手立て

説明的文章の読み取りの学習の中で、教材文の内容の読解だけにとどまらず、事実と感想、意見などとの関係を確実に押さえていくような読み方を指導していくようにする。具体的には、次のような指導が効果的である。
①筆者が「どのような事実を事例として挙げ理由や根拠としているのか」、「どのような感想や意見を示しているのか」を文末表現から把握させるような学習活動を取り入れていく。
②授業の中で、段落相互の関係を接続語やキーワードを基にとらえさせ文章構成を理解させる。文章構成を学ばせた後でそれを生かして自分でも説明や報告の文章を書かせる。その際に、事実と感想や意見とを明確に分けて書かせるように指導する。
③授業計画を立てる段階で、児童にはっきりとした見通しをもたせる。例えば意見を述べた文章や解説の文章(意見文、報告文、解説文など)を利用する際には、「何のために読むか」「どう読んでいくとよいか」などの目的意識をもたせた上で、文種の特性に応じた読み方を指導していく。

[中学1年生 大問3の三]  
○ 問題の概要


○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率50.0に対し正答率は25.7で、24.3ポイント下回っている。また、無解答率は、10.2ポイントと高い数値を示している。「走ったり歩いたりしながら」や「ただひたすら」といった言葉から、「距離が長いこと」を読み取るものだったが、情景に着目することによって登場人物の心情や置かれている状況を読み取ることができなかったと考えられる。


○ 指導法改善の手立て

文学的文章の読み取りの学習の中で、教材文の内容の読解にとどまらず、様々な作品や文章の中の人物の関係や心情、場面についての描写をとらえることができるような読み方を指導していくようにする。具体的には、次のような指導が効果的である。
①叙述を基に人物の境遇、状況を把握させる。気持ちを行動、会話文、情景などから関連的にとらえさせる。その際、叙述に線を引かせたり書き抜きをさせたりして児童自身が語句や文章に着目できるようにする。
②児童の経験と照らし合わせたり、それぞれが感じ取ったことを交流し合わせたりする場面を取り入れ、それぞれの児童の読み取り方のよさに気付かせるようにする。
③高学年では、人物の心情や置かれている状況が行動や会話、情景などを通して暗示的に表現されていることを、児童が実感できるような学習場面を設定していくようにする。

傾向2

目的や意図に応じて書き換えたり、情報を取り出して自分の考えを書いたりすることに課題がある。

[小学5年生 大問6の二]  

○ 問題の概要


○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率55.0に対し正答率は54.9で、0.1ポイント下回っている。また、無解答率は10.1ポイントで高い数値を示している。「活用」に関する問題として出題しており、【ノートの内容】に書かれたことを、【新聞】の形式や目的に書き換えるものであった。このような書き換えの学習に慣れていなかったことと、形式や目的にあった情報の取り出しができなかったことが原因と考えられる。


○ 指導法改善の手立て

「書くこと」領域の指導では、「記述」だけに重点を置いて指導するのではなく、どうすれば適切な記述をさせることができるか、また、どのような効果的な書き方を身に付けさせて今後の書く活動に生かしていくかを見据えて指導していくことが重要である。具体的には、次のような指導が効果的である。
①課題設定や構成の仕方について学ばせる際や書く事柄を収集する際に、相手や目的を明確に意識させる。
②記述の前の段階で、取材した事柄を記述に役立つように整理させる。
③形式や目的の特性を理解させ、各自が書き表すことの形式や目的に合わせて分かりやすく記述できるようにさせる。
④課題設定や取材、構成、記述、推敲、交流の学習過程のそれぞれを丁寧に指導していくようにする。

[中学1年生 大問4の二]  

○ 問題の概要


○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率45.0に対し正答率は56.8で、11.8ポイント上回っているが、「読むこと」の設問の中では一番無解答率が高い。「活用」に関する問題として出題しており、読み取った内容を基にして書き換えをするという、ここ数年続けて課題が見られる問題である。内容としては、【構成メモ】に書かれている「準備運動はしっかり」と、その理由の「けが防止のため」という内容を【原稿】の中の指定された部分を二文に分けて書くというものだった。文章の構成や表現の効果を工夫し、形式や目的に沿って書くことができていなかったと考えられる。


○ 指導法改善の手立て

「書くこと」領域の指導では、目的や必要に応じて理由や事例を挙げて記述する学習を系統的・段階的に積み重ねていくような授業改善が必要になってくる。小学校6年間で、段階的に書く力を確実に高めていきたい。具体的には次のような指導が効果的である。
①一文で書かれた文章と二文で書かれた文章とを比較させ、接続語や順番を表す言葉の効果を実感させる。一文を二文に分けて書き換えたり、二文を一文にまとめて書いたりする機会を多く与える。
②書き換えた文の文章における効果について考えさせたり、意見を交流させる。



[小学5年生 大問6の三]
○ 問題の概要

○ 解答状況
「おおむね達成」の期待正答率45.0に対し正答率は61.5で、16.5ポイント上回っている。無解答率も「書くこと」の中では最も高い。この問題も「活用」に関する問題として出題しており、【新聞】の空いている欄に、4年生に紹介するための記事を自分で考えて書くという内容だった。この問題のように、「あなたならどう書きますか。」「自分で考えて書きましょう。」という形式だと、無解答率が増加する傾向にある。

○ 指導法改善の手立て
まずは、児童に書く必然性を感じさせ、目的意識や相手意識を明確にもたせたい。具体的には、次のような指導が効果的である。
① 何を、どんな目的でどのように書くとよいのかを書く前の段階で理解させ、書く材料の収集や選択を確実にさせる。
②自分が書きたいことをはっきりと決めさせた上で、形式や目的を意識させたり表現の工夫をさせたりする。
③書いたことを友達と交流させることにより、記述の工夫に多くふれさせていく。


傾向3

濁音や撥音を含んだ単語をローマ字で書くことに課題がある。

[小学5年生 大問7の三②] 
○ 問題の概要 


○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率60.0に対し正答率は24.8で、35.2ポイント下回っている。無解答率は27.8ポイントで非常に高い数値を示している。清音で始まる単語の記述の正答率と比較すると20ポイント以上下回っている。ローマ字表を利用した書き取りの練習では濁音で始まる単語の学習が不足しがちになるため、誤答や無解答が多くなったと考えられる。

○ 指導法改善の手立て
ローマ字の指導は第4学年(平成23年度からは第3学年)で行われている。現在のローマ字指導は、日常使われている簡単な単語などをローマ字表に従って、置き換える活動が中心となっている。しかし、平成22年度の調査結果からは、清音のローマ字記述はできるものの、濁音や撥音、促音が含まれる単語をローマ字に置き換える問題でのつまずきが見られた。このようなことから、次のような指導の工夫が効果的である。
①濁音で始まる単語や撥音、促音が含まれる単語をローマ字に置き換える活動を多く取り入れる。例えば、濁音や撥音で始まる身の回りにあるものを(画用紙、どんぶり、ビー玉、救急車、賞状など)児童に探させて記述させるなどの工夫をする。
② ローマ字表記の基本をしっかりと指導する。コンピュータ等のキーボード操作を通して定着を図るのも有効的だが、実際に文字として書く作業を意図的に多く取り入れる。例えば、日記の題名だけをローマ字で書かせたり、授業の一言感想をローマ字で書かせたりするなどの活動がある。
③ ローマ字表記の指導を小学校中学年だけなく、高学年においても指導し、確実に定着させていく。例えば、5年生や6年生でも、漢字テスト同様、ローマ字の読み書きのテストを行うなど、児童のローマ字に対する意識が低くならないように継続して指導していく。



これからの指導に向けて
 

 

平成22年度の調査で明らかになった課題は次の通りである。
○ 文章の内容を正確に読み取ること
○ 目的や意図に応じて書き換えたり、情報を取り出して自分の考えを書いたりすること
○ 濁音や撥音を含んだ単語をローマ字で書くこと

これらの課題を解決するためには、次のア・イ・ウに示す指導改善の工夫を、全学年で年間を通して行うことが大切である。また、児童の定着状況を的確に把握し、指導を継続して行うことも必要である。


ア 日常の生活場面で生かせる言語活動を取り入れた指導

国語科で身に付けた言語能力は、各教科等の学習の基本となり、発揮されていくべきものである。そこで、単元を構成する際に、児童が各教科等でも行う「ポスターに書いて説明する」「調べた事を新聞にまとめる」などの言語活動を設定し、その言語活動を通して、「話す」「聞く」「書く」「読む」力を付けていくことが大切である。児童の実態や学習経験、教材の特性に合った言語活動を設定することで、児童に目的意識が生まれ、活動を行う際には、思考力・判断力・表現力が育成される。そのような学習を繰り返していくことで、上記に挙げた「文章の内容を正確に読み取ること」や「目的や意図に応じて書き換えたり、情報を取り出して自分の考えを書いたりすること」などの課題に対しても改善が期待できる。 具体的な言語活動の設定例は次の通りである。

1 文学的文章の読み取りの学習に言語活動を位置付ける。
(1)取り入れる言語活動→「テーマに沿って物語を読み、紹介する文章を書く」言語活動
(2)ねらい→構成や表現の工夫、人物の気持ちに着目して文章を読み、紹介する文章を書くことに生かす。
(3)指導過程
 ① 物語の内容を十分理解させる。
 ② 読み取ったことを基に自分の考えをもたせ、紹介する文章を書かせる。

①の段階では、登場人物の行動を表す言葉や情景描写などから、登場人物の心情や置かれている状況を読み取らせることが重要である。②の段階では、その物語のジャンルのもつ特徴、展開や構成、表現の工夫などに必ず着目させるようにする。例えば、読書発表会を設定する場合、教材文から物語の特徴、展開や構成、表現の工夫について読み取らせ、それを生かして自分で選んだ本の内容について紹介し、感想を交流させるようにする。
このような学習活動を児童の実態に応じて単元計画に取り入れていくことで、情景などの表現に着目して読むことができ、自分の考えをもつことができるようになると考えられる。

2 説明的文章の読み取りの学習に言語活動を位置付ける。
(1)取り入れる言語活動→ 「説明文を読んで、効果的な資料の使い方を学び、調べたことを報告する」言語活動
(2)ねらい→効果的な資料提示や例示の仕方を説明文の読み取りを通して学び、調べた事を報告する活動に生かす。
(3)指導過程
 ① 説明文から効果的な資料提示や例示の仕方などの表現の方法に気付かせながら読み取らせる。
 ② 自分の意図が伝わるように表現の仕方を工夫させて、調べた事をまとめさせ、報告会で発表させる。

①の段階では、写真と文章の対応、文章の構成などの表現の方法に着目して読ませる。②の段階では、①の段階で学んだ表現の方法を使って、目的や意図に応じて自分の考えが伝わるように表現を工夫させる。例えば、報告文作りを設定する場合、読み取る段階でキーワードや指示語・接続語、文末表現に着目させながら、構成、写真と文章の対応など筆者の書きぶりから表現の工夫を読み取らせるようにする。そして、学んだ表現の工夫を使って、調べたことについて自分の意図が伝わるように報告文にまとめさせ、発表させる。
このような学習活動を児童の実態に応じて単元計画に取り入れていくことで、筆者の表現の工夫について読み取ることができ、目的や意図に応じて自分の考えを伝えることができるようになると考えられる。

イ 螺旋的・反復的に繰り返すことで知識・技能の定着を図る指導

知識・技能は一度学習したからといってすぐには定着しない。そこで、指導過程において身に付けた知識・技能を繰り返し使うことを意識して学習を仕組んでいく必要がある。年間指導計画を立てる際には、次のようなことが大切である。
(1)児童の学習の定着状況や学習経験を把握し、重点を置くべき指導内容を明確にする。
(2)前後の学年段階を考慮して弾力的な指導ができるよう配慮する。

年間指導計画の作成に当たっては、形式的に該当する学年に当てはめて指導したり、その学年だけで指導が終わったとしたりするような扱いにならないように注意することが必要である。例えば、「書くこと」の学習では、低学年では文と文をつないで順序を考えながら書くことができるようにさせる。その力を生かして、中学年では段落相互の関係や事実と意見との関係を考え、段落のつながりを意識しながら書くことができるようにさせる。更に高学年では、低学年から身に付けてきた書く力を生かして、目的や意図に応じて文章全体の構成を考えた効果的な書き方ができるようにさせる。
更に詳しく言うと、5年生で資料を引用した効果的な書き方ができない場合には、前学年までの指導内容に戻り、新聞や報告書、感想文などの書き方を想起させたり段落を意識した書かせ方の指導を再度行ったりするなどの工夫を取り入れることが効果的であろう。

このように、文字の読み書きや、読み方、話し方などの知識・技能についても、当該学年のみの指導にとどまらず、次の学年でも引き続き意識して指導していくことで定着が図られると考えられる。


授業実践に参考となるリンク
   
 
   
 

最終更新日: 2011-1-31