好ましい人間関係を育てる開発的・予防的教育支援の在り方の研究

  中学校     個への支援事例(学級担任と部活動顧問との連携を通した支援)

(1)生徒の実態

 

 
 
部活動顧問の指導についての考え方(部活動に対する事前のアンケートからの抜粋)
実施したアンケートはこちら
 

@部活動を通して生徒に付けたい力
○自分で課題を見付けて向上していく力
○我慢して取り組む力
○継続して頑張れる力
○他のメンバーと協調し、自分の役割を果たす責任力
○自分たちで考え、行動できる力
○生徒同士のトラブルも、解決できる力
○最後までやり通す力
○礼儀作法
A日常の取り組みで心掛けていること
○なるべく全員平等に声を掛けるようにしている。
○練習のポイントを明確化し、生徒が理解した上で取り組ませるようにしている。
○個人的に話す機会をもつようにしている。
○「上級生の姿を見て下級生は育つ」と言っている。
○先輩後輩関係、友人関係づくりを意図的に行っている。
○チームワークや個人の能力に応じて指導している。
○礼儀作法など日常生活にかかわることを指導している。
○個と全体の指導を使い分けている。
○日常生活でも、仲間を大切にすることを話している。
○スポーツの楽しさ、喜びを体得させるような活動を仕組んでいる。
B学級担任と協力しながら取り組んだこと
○部活動内で人間関係のトラブルが起こったとき、該当の生徒に学級担任からも事情を聴いてもらい、保護者も交えて話をすることができた。共通理解をもつことができ、部活動内で指導をするときも安心感があった。
C今後行いたい支援
○気になる生徒に対しては、学級での様子を常に尋ねるような話題づくりを行いたい。
○担任、保護者との連携を密に行う。
○生徒のがんばりの様子を学級担任に報告するようにする。
アンケートからの考察
 
○部活動を指導する上で、その活動上の専門的な技術や体力の向上より、活動を通して人間性や社会性、課題解決力、向上心、忍耐力、主体性、協調性などを身に付けてほしいという考えが多かった。
○中学校においての部活動指導は、生徒支援上も大切な部分を占める活動であると考える。生徒は部活動で活躍の場があることで自信を付け、その他の活動に対しての動機付けになる。また、普段の生活では見られないような生徒の生き生きとした姿や表情を見ることも多い。このことから、学級担任と部活動顧問との連携が生徒支援の大きな力になるのではないかと考える。
対象生徒 生徒A
学級担任から見た生徒Aの学級での様子
(7月)
学級での生活場面では、生徒Aの言動で学級の雰囲気が左右されることがある。
○周囲の仲のよい友達は、生徒Aの様子をうかがいながら、共に行動している。

○生徒Aの周囲では、友人関係が上下の関係になりやすい状況がある。
「がばいシート」の学級での様子
(7月)
〔グラフ1〕個人の様子

*〔グラフ1〕〔グラフ2〕の縦軸の数値は、各観点の回答状況を点数化し、合計したものである。好ましい状態であるほど数値が高く、満点は20点とする。
部活動顧問から見た生徒Aの部活動での様子 ○時々部活動を休むこともあり、意欲的に活動できていない。
○部活動顧問は、生徒Aに部の中心的な存在としてがんばってほしいと願っている。
「がばいシート」の部活動での様子
(7月)
〔グラフ2〕個人の様子

結果の分析 ○学級での様子では、「学級の雰囲気」の点数が低い。部活動においては、「部の雰囲気」「部員との関係」が高い。このことから、生徒Aは部活動内での人間関係に、居心地のよさを感じていると考えられる。
○学級の様子では、「教師との関係」の点数が低い。このことから、学級担任とのかかわりが少ないのではないかと考えられる。    
○部活動においては、「自己存在感」が一番低い。このことは、部活動での活躍の場が与えられていないのではないかと考えられる。
考察 ○学級での「教師との関係」の点数が低いことは、学級担任からの事前の聞き取りで、活動によっては学級の雰囲気になじめない様子が見られること、生徒Aの言動で学級の雰囲気が左右されることがあること、学級担任の指示が通りにくいことで注意をされることがあり、そのことが関係していると考えられる。 また、発言力の強さで「友達との関係」を保っているということを、生徒A自身も学級担任に話したことがあり、学級で居心地の悪さを感じていると考える。
○「教師との関係」より、「部活動顧問との関係」が点数が高いことから、部活動顧問が、学校生活全般で生徒Aの個別対応を心掛け、意識的な声掛けや働き掛けが有効であると考える。
○部活動では上級生との関係がよいことから、部活動内で「自己存在感」を高めるような役割や活躍の場の設定を行うことが必要だと考える。
   

(2)支援の実際

   
 
ねらい ○「教師との関係」の点数を上昇させるために、学級内で生徒Aの活躍の場を作り、「自己存在感」を高めさせる。
方法 ○学級担任が、部活動顧問と生徒Aについて情報交換し、連携した支援を行う。
○学級担任は、学校行事等を通して、生徒Aの「自己存在感」を高めるような場を設定する。
○部活動顧問が、 部活動で活躍できる場を設定をする。
○関係職員が学校生活全般で意識的に声掛けを行い、随時個別対応を行う。
支援の実際
 
○学級担任が、部活動顧問と連携を取り合いながら、自分の意思を周囲に理解してもらえるようなかかわり方や言葉掛けのスキルについて、個別支援する。
部活動顧問が別室で話す機会をもち、言動についての個別指導を行う。
○学級担任は、部活動に積極的に取り組む生徒Aの様子から、本人の希望進路について話す機会をもち、部活動顧問と連携した進路指導を踏まえてかかわる。
学級担任から見た生徒Aの学級での様子
○学級でも表情が和らぎ、友達に対しての接し方に変化が見られるようになってきた。
○授業にも積極的に参加するようになってきた。
「がばいシート」の学級での様子
(10月)
〔グラフ3〕個人の様子

部活動顧問から見た生徒Aの部活動での様子 ○休まずに部活動に参加するようになった。
○部長になり、部活動顧問とのかかわりが増えた。部長としての立場や責任感について個人的に指導を受たこともあり、部活動内では部員を励ましたり注意したりすることができるようになってきた。
○自分から進んで顧問に対して話し掛けてくるようになった。
「がばいシート」の部活動での様子
(10月)
〔グラフ4〕個人の様子

結果の分析 ○部活動においては、前回と比べて「部の雰囲気」「部員との関係」が低い。このことは、生徒Aが部長になったことと関係しているのではないかと考えられる。 
○「学級の雰囲気」「友達との関係」は変化がなかった。
○学級での様子では、「授業への意欲」が一番高い。このことは目的意識をもって学習に取り組んでいると考えられる。
○「教師との関係」も上昇している。このことは学級担任のかかわり方がよくなったと考えられる。
生徒Aの変容と考察 ○部活動においては、前回と比べて「部の雰囲気」「部員との関係」が低くなったことは、部長としての責任感と部員に対しての発言が多くなったためと考える。
○「学級の雰囲気」「友達との関係」は変化がなかったが、学級担任の観察から、友達に対して配慮した言葉掛けができる場面が増えている。このことは、部長になったことで、部員への言葉掛けや配慮を見せる言動が見られ、そのことが学級でも反映されるようになったためと考える。
○学級の様子で「授業への意欲」が上昇しているのは、部活動顧問から学習に対して取り組むよう進路面の支援があり、目的意識をもって学習に取り組んでいるためだと考えられる。
○部活動で部活動顧問と接する時間は以前より多くなり、生活面や生徒Aの考え方に大きく影響を与えている。学級では、学級担任とのかかわりに対しても変化が見られ、個別指導を受けたことを実行しようとする態度も見られるようになった。このことは点数の上昇からうかがうことができる。
○部活動は、その活動を通して、専門性・競技(技術)力の向上を図るだけではなく、集団活動を通じた人間的な成長を図っていくことが大きな目標でもあると考える。このような目標を実現するためには、集団としての秩序やルールの確立、部員間の良好な関係性の構築にも力を入れながら、部活動としてのよりよい集団の形成を図ることが大切だと考える。今回の学級担任と部活動顧問が連携した支援は、学級ばかりでなく部活動指導においても大切であると考える。
 

(3)今後の取り組み

 

 

 
○部活動は、子どもの心身や社会性の発達、活躍の場などが得られる大切な活動である。子どもは、その活動内での役割や部活動顧問からの指導、支援のあり方で大きく成長していくことができる。また、部活動での自信が学校生活に影響し、相乗効果を及ぼすこともある。部活動は、学校生活での充実を図る場としても必要であり、学級担任と部活動顧問や関係職員との情報交換や支援は、生徒を支援する際に大変効果的であるので、今後も学級担任と部活動顧問との連携を行っていく。
○部活動に限らず、関係職員が連携することは生徒支援において重要であるので、学校生活全般で多面的な生徒支援を継続していく。

 


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最終更新日: 2010-02-24