高学年の英語活動…その工夫


キーワードその1
 小学校英語活動のねらいを確認しましょう 


国際理解に関する学習の一環としての外国語会話等を行うときは,各学校の実態等に応じ,児童が外国語に触れたり,外国の生活や文化などに慣れ親しんだりするなど小学校段階にふさわしい体験的な学習が行われるようにすること。(学習指導要領第1章総則 第3総合的な学習の時間の取扱い)

 学習指導要領総則編に上記のように記述されているように,小学校における英語活動は,「総合的な学習の時間に」,「国際理解に関する学習の一環として」行うべきであると言えます。
 そのねらいを考えたときに,学習指導要領等の文献からは次のようなことが読み取れます。
ね ら い 根  拠
外国語に親しみ,コミュニケーションへの関心・意欲・意欲を育成すること ・「…外国語に触れたり…」(学習指導要領)
・「国際社会において,相手の立場を尊重しつつ,自分の考えや意思を表現できる基礎的な力を育成する観点から,外国語能力の基礎や表現力等のコミュニケーション能力の育成を図ること。」
(第15期中央教育審議会答申「国際化に対応する教育を進める上での留意点」)
・「言語習得を主な目的とするのではなく,興味・関心や意欲の育成をねらうことが重要である。」
(小学校英語活動実践の手引)
自文化・異文化に慣れ親しみ,興味・関心を高めること ・「…外国の生活や文化などに慣れ親しんだりするなど…」(学習指導要領)
・「広い視野を持ち,異文化を理解するとともに,これを尊重する態度や異なる文化を持った人々と共に生きていく資質や能力の育成を図ること。」
(第15期中央教育審議会答申「国際化に対応する教育を進める上での留意点」)
・「国際理解は異文化を知ることだけにとどまらず,異文化を知ることを通して自国の文化を知り…ねらいとされている。」
(小学校英語活動実践の手引)
 このように,小学校英語活動のねらいは,「コミュニケーションに関すること」と「文化理解(異文化・自文化理解)に関すること」の2点に集約されると考えてよいでしょう。
 「コミュニケーションに関すること」は,単に英語によるコミュニケーション能力(英会話力)を育てることだけがねらいではなく,言語が異なるというハードルを乗り越えて何とかコミュニケーションが図れたという喜びを味わわせることにより,様々な人とかかわろうとする態度や意欲を育てることです。 身振り手振りを交えたノンバーバル(非言語的)なコミュニケーションでも交流できることに気付かせ,その楽しさを味わわせること,相手にかかわってみようという気持ちを育むことなどが小学校段階では必要になってきます。そのような体験は,将来,英語を学習するとき,さらには世界の人たちと交流するときに大きく役立つはずです。
 さらに,英語によるコミュニケーションを「発信」「受信」という方向で考えた場合,「自分の気持ちを表現できる」という「発信型コミュニケーション」の前に,「相手の言ったことが何となく分かり,それに反応することができる」という「受信型コミュニケーション」の力を育てることが重要になってきます。英語活動がスタートしたばかりの小学生が,週に1時間程度の英語活動でペラペラと話せるようになるということはあまり期待すべきではありません。まず,「英語を聞いて何となく分かった」という満足感と,流暢な英語ではなくても様々な方法で意思の疎通ができたという達成感を味わわせることからスタートすべきです。

 「文化理解に関すること」は,外国の知識が豊富な「物知り」を育てることではなく,習慣,文化,さらには外見などの違いはあっても,結局は自分と同じように生きている人間なんだということに気付かせるとともに,日本人としてのアイデンティティをもった子どもを育てることだと考えます。東京コミュニティスクール校長の市川力氏は著書『英語を子どもに教えるな』の中で,「国際感覚とは,自分と相手とを相対的に見つめることで初めて気付く共通点と相違点とをきちんと受け止める感覚であろう。自分の文化にもそして相手の文化にも,ともに良い部分と悪い部分があることを理解し,それを受け入れて,自らの世界観を広げることができる感覚を身に付けた人を国際感覚がある人と呼ぶことができる」と述べています。小学校段階の英語活動においては,様々な体験的な活動を通して,まさにこの国際感覚を身に付けた大人になるための土台作りをねらうべきであると考えます。

 このような力を培うことを目標として活動を組んでいけば,英語圏以外の国の人々とも英語を使ってコミュニケーションを図れるといった「英語の汎用性」に気付かせたり,中学校で英語の勉強をもっと頑張ってみようという「中学校英語への意欲」を高めたりするようなプラスアルファの効果も期待できるでしょう。

 コミュニケーションへの意欲を高め,異文化や自文化を尊重しようとする態度を育てること,これが小学校段階での国際理解教育の一環としての英語活動と言えるでしょう。



キーワードその2
 高学年児童の精神的な発達段階 

 だいたい10歳ぐらいを境にして第二次性徴が始まり,児童の体は大人になる準備を始めます。それは単に体の成長だけでなく,精神的な成長でもあります。それまで男女が一緒に遊んでいたのに,急に別々のグループをつくって遊ぶようになる,大きな声で元気よく歌っていたのに,大きな声を出すことを恥ずかしがるようになる…子どもたちのこのような変化が4年生の後半から5年生ごろに見られます。
 英語活動を行う場合も同様で,「3・4年生のころに楽しんで取り組んでいた勝ち負けを競うような単純なゲームでは盛り上がらない」,「大きな声で発音しなくなった」,「歌を歌わなくなった」,さらには「英語活動が楽しくないという児童がいる」といったことがしばしば見られます。
 英語のゲームや歌を楽しまない子どもが悪いと評価する前に,活動内容が児童の実態に合っていないのではないかと指導内容を評価する必要があります。
 一般的に,高学年の児童は間違えることを恐れるため,英語を元気に発するということに抵抗を示す場合があります。また,単純な繰り返し練習よりも,「ヘェー」と言う声がもれるような知的好奇心を刺激されるような活動に興味を示します。
 そこで,3年生から英語活動がスタートし,そろそろゲームやごっこ遊びでは子どもが生き生きと活動しなくなったというクラスでは,次に提案するようなコンセプトで英語活動を計画されてはいかがでしょうか。



キーワードその3
 タスクベースの活動 

 「キーワードその1 英語活動のねらい」でも述べたように,英語で考えや気持ちを表現できるという前に,英語を聞いて分かったという自信をもたせることが重要になってきます。
 Krashen(クラッシェン)という言語学者は,子どもが言語を習得するときに "silent period" (沈黙の期間)が存在すると言っています。周りで話される言葉を聞いて体で反応し,話すことができるようになるのは十分なインプットが与えられ,理解ができるようになってからだという理論です。また,クラッシェンは「話す能力は直接教えられて身に付くものではなく,理解可能のインプットを通して言語能力を育成する結果として自然に現れるものである」とも述べています。この理論は,もともと母語の習得過程に関するものではありますが,インプットの重要性という点では傾聴に値するものです。
 「英語をやっているからには最終的に英語を話せるようにしなければいけない」という思いからか,ごっこ遊びに見られるように,決まった表現を覚えさせ,順番に言わせるというような活動がしばしば見られますが,覚えたことを言うだけの行為は「おうむ返し」という言葉もあるように,本当の意味でのコミュニケーションとは言えないものもあります。また,単語や表現を覚える,さらに,覚えたことを言わなければならないということに抵抗を示し,「英語活動が楽しくない」という子どももいることでしょう。
 自分の意思を英語で表現できるほどインプット量が十分でない小学校段階では,「英語の指示通りに体を動かすことができる」,「英語の質問にジェスチャーなどで意思表示ができる」,「英語による説明で作業ができる」といった活動を計画してはどうでしょうか。
 子どもたちが興味をもちそうな作業を授業に取り入れ,その指示を英語ですることで,「英語を聞く」という必然性が出てきますし,指示通りに作業ができたということは,コミュニケーションが成立したと言えるわけです。「人間のコミュニケーションの約7割はノンバーバル(非言語的)なもの」と言われるように,言葉による反応だけがコミュニケーションではありません。コミュニケーションを広い意味でとらえることが重要です。
 さらに,子どもたちが興味をもちそうな作業を考えるとき,図工や音楽,家庭科などの内容からヒントを得ることができるというのも小学校教師ならではの強みです。言語の習得だけを目指しているわけではありませんから,合科的なカリキュラムを組んで小学校段階にふさわしい英語活動を構築してみましょう。

タスクベースの活動実践事例(指導案にジャンプします)
単 元 名 主 な タ ス ク
オリジナルえいごリアンを描こう 指示通りに絵の具を混ぜて別の色を作る
世界の時刻と時差 英語による指示で時差時計を作る
インチで測ってみよう 身の回りのものの長さをインチメジャーを使って測る
ペットボトルボーリングに挑戦 ボーリングを楽しみながら数に関するやりとりをする

その他の活動案(参考…「NHK学校放送スーパーえいごリアン」HP)
主なタスク 英語による指示の例
ポップコーンを作る Put butter in the frying pan.
Put salt in the frying pan.
Put corn in the frying pan.
Put the pan lid on the frying pan.
Turn on the gas range.
Shake the frying pan.
Listen to the sound.
Turn off the gas range.
Wait for one minute.
Open the pan lid.
Let's eat popcorn.
ぶんぶんごまを作る Draw a circle on the cardboard
Color the circle like this.
Cut out the circle.
Make small holes.
Pass the strings through the holes.
Tie the end of the strings.
Enjoy spinning the top.
シャボン液とシャボン玉を作る 洗濯用石けん(laundry soap)
洗濯用のり(starch)
はちみつ(honey)
水(water)
Let's make soap bubbles.
Put water in the bucket.
Next, put the laundry soap in the bucket.
Add some starch in the bucket.
Add a little honey in the bucket.
Mix them in the bucket.
This is soap water.
Put it in the bowl.
Let's try this one.
Good!


 



キーワードその4
 コンテントベースの活動 

 英語活動のねらいの一つに「異文化・自文化に気付き,それぞれのよさを認める」ということがあります。英語活動の中に,異文化や自文化に気付くような内容,児童の知的好奇心を刺激するような内容をリンクさせることで,子どもたちの意欲を高めることができます。
 上記のタスクベースでは,図工,音楽,家庭科などの技能教科で取り扱う作業を取り入れることが多いのに対して,コンテントベースでは,国語,社会,算数,理科的な内容と関連付けることが多いようです。下の活動実践事例で紹介しているように,インチとセンチメートルの単位換算,世界の主な都市と時差,ローマ数字の表記の仕方など,「ヘェー」と感心させるような内容を盛り込むことが考えられます。
 日本語の説明が多くなる場合もありますが,「国際理解教育の一環として」という現在の位置付けを考えるとオールイングリッシュの授業でなければならないというわけでもないでしょう。

コンテントベースの活動実践事例(指導案にジャンプします)
単 元 名 知 的 好 奇 心 を 刺 激 す る 内 容
オリジナルえいごリアンを描こう ・三原色を混ぜることで多くの色ができる
・同じ色を作ったつもりでも色合いに微妙な違いが出る(…肌色という色が1色だけあるというわけではない)
世界の時刻と時差 ・国ごとに時差が存在する
・東西に広い国では複数の標準時がある
・高緯度地域ではサマータイムが設定されている
インチで測ってみよう ・インチという長さの単位と日常生活での使われ方
・インチとセンチメートルの単位換算

 この他にも,ただ単に野菜や果物の名前を取り扱うのではなく,それが植物のどの部分(実・花・茎・根など)を食べているのかということなどと関連付ける,動物の名前とその動物のエサとなる食べ物,住んでいる地域と関連付ける,世界の国や都市名とそれぞれの地域の代表的な食べ物と関連付けるなど,先生方のアイディアで英語活動に広がりをもたせることができます。
 児童の興味を引きながら,知らず知らずのうちに英語表現に触れさせるような工夫をしてみてください。