「食べる力」をはぐくむ食育授業の研究     佐賀県教育センター・プロジェクト研究  TOPページへ
研究の概要 食の実態調査 段階的な指導について 授業の実践 役に立つ情報

 食の実態調査結果を「朝食について」「共に食事をすること」「高校生の食生活」「指導法について」の4項目で示しました。

 はじめに
 この調査では,小・中学生の結果については,県体育保健課による「平成17年度 食生活等実態調査結果」のデータを基にしています。小・中学生の調査対象は,県内の小学校5年生 8,773名(悉皆),中学校2年生 8,435名(悉皆)です。
 高校生については,県内の高等学校3校でアンケートによる調査を当研究委員会で実施しました。調査対象は高校1年生,回答者数は,855名(1割程度の抽出)です。高校生の調査の方法は,小・中学校のアンケート様式から,質問項目を絞って,6月〜7月に実施しました。
                                               
高校生対象のアンケート様式はこちらからPDF
 この研究委員会では,これらの調査データを基に授業の在り方を探るために,食生活上の課題を明らかにすることを目的として分析しました。ここでは,課題ごとに根拠としたデータを挙げながら,考察を加えています。

 朝食についての課題
 小・中・高ともに毎日,朝食をとっていない子どもがいます


 高学年ほど,朝食摂食率が低下しています。また,その理由として,高学年ほど「食べる時間がない」ことを理由として挙げています。小学校では,「食欲がない」と回答する児童が多く,朝食をとれない原因として,「おそく寝る」「夜遅い食事・間食」「朝起きられない,起きても食事が入らない」といったことが推察され,前日の過ごし方を含めて,生活リズムと食事のとり方を見直す授業の必要性を感じます。

 朝食はとっているものの,食事内容が気になります

 食事内容を見ると,主食だけ,あるいは主食に飲み物という簡単なもので済ませる子どもが2〜3人に1人の割合でいます。このような食事は午前中の活動源として不十分であり,朝食内容を見直す必要性があります。まずは,朝食をとることを指導することが大切ですが,次の段階としては,望ましい内容の朝ごはんをとろうとする態度を,家庭や地域と連携しながら,育てることも大切です。 

 朝食の摂食率は,子どもの心身の健康状態に影響を与えているようです
 調査では,「朝起きられず,体調が悪いことがあるか」「イライラすることがあるか」「何もやる気が起こらないことがあるか」といった心身の健康状態(不定愁訴)について,「しばしばある」「時々ある」「たまにある」「ない」の4段階で回答してもらいました。上記4つのグラフは,「朝食の摂食の様子」と子どもの「心身の健康状態」の関連を表したものです。(一部を抜粋しています。)
 これによると,心身の健康状態は「朝食の摂食の様子」との関連が深く,小学生では朝食を食べない子どもほど「朝起きられず,体の調子が悪い」「イライラする」と訴えることが多いことが分かりました。中学校でも朝食を食べない子どもほど,「何もやる気が起こらない」「イライラする」と訴えることが多いことが分かりました。朝食は一日の大切な活動源,勉強のエネルギー源であり,朝食をとらないと,子どものやる気がなくなり,イライラがつのるのではないかと考えられます。「いつも食べない子ども」は,逆にこれらを「感じない」と回答する傾向がありました。これはいつも食べないので,自分の体調の変化をとらえきれていないことによるものと思われます。
 朝食をとらないと前日からの低血糖の症状が続き,「ぼんやりしたり」,逆に,体が血糖値を上げようとするので「イライラしたり,キレやすくなったり」するとも言われています。集中力を高め体調を整えて,授業に臨むためには,「朝食をきちんととる」ように促すことが重要です。
 高校生についても同様の調査を行い,「朝食の摂食の様子」と心身の健康状態についての関係を調べました。高校生については,「朝起きられず,体の調子が悪い」「食欲がない」「だるさ,疲れやすさ」「やる気が出ない」「イライラする」の5項目に絞って調査し,「しばしばある」を1点,「時々ある」を2点,「たまにある」を3点,「ない」を4点として数値化し,その合計を心身の健康状態としました。
 【G1】グラフは「朝食の摂食別」に,心身の健康状態を比較した結果です。結果は,小・中学生と同様に朝食を食べない子どもほど,心身の健康状態が低くなりました。
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 「共に食事をとる」ことについての課題
 家族でそろって,食事をとる子どもが減っています


 「朝食」「夕食」をそれぞれ,だれととっているのかを調査しました。小・中・高と学年が上がるにつれ,「家族で食事をとらない子ども」の割合が増えています。これは,子どもだけで解決できる問題ではなく,地域や社会が連携して取り組むべき課題と言えます。
 この研究委員会では,子どもの食事の仕方(だれととるか)がどのように子どもに影響を与えるかを調査結果から分析していくことにしました。また,「食べる力」のねらいの中に「食事を一緒に楽しく食べることができる」を掲げて,授業に反映させるようにしました。 

 共に食事をとることは,子どもの心身の健康状態に影響を与えているようです
 調査では,「イライラすることがあるか」「何もやる気が起こらないことがあるか」といった心身の健康状態(不定愁訴)について,「しばしばある」「時々ある」「たまにある」「ない」の4段階で回答してもらいました。グラフは,「夕食をだれととっているか」と,子どもたちの「心身の健康状態」の関連を表わしたものです。(一部を抜粋しています。)
 これによると,心身の健康状態は「家族でだれと食事をとっているか」との関連が深く,一人で食事をしたり,子どもだけで食事をしたりする子どもほど,心の健康状態が良くないことが分かります。夕食は「一日の疲れを癒し,明日への活力を得る」重要な働きがあり,特に子どもは,共に食事をすることで日々のストレスを解消していくとも言われています。「朝食をとる子のほうが成績がよい」という結果は,よく知られている事実ですが,共に食事をとることの大切さについても,家庭や社会へ働きかけて広く知らせる必要があります。
 高校生についても同様に調査を行い,「夕食のとり方」と心身の健康状態について,関係を調べました。(調査方法と健康状態の集計方法については,上記グラフ【G1】と同様の方法です。)
 【G2】グラフは「夕食のとり方」について,該当者の健康状態を比較した結果です。小・中学生ほど顕著ではありませんが,一人で夕食をとる子どもの健康状態は最も良くないことが分かりました。
 高校生においても,食事を一人でとることは特に「やる気」「イライラ」「だるさ・疲れやすさ」と大きくかかわり,一人で食べることはイライラやだるさをつのらせ,やる気を失せさせやすいと考えられます。  
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 高校生の食生活に関する課題    〜研究委員会では,次の項目について高校生を対象に調査しました〜
 間食についての課題は?   〜いつでも,食べたいものを食べている生徒がいるようです〜
 「間食の頻度」を調査すると,小・中学生よりも間食頻度が高い結果となりました。その理由として,休み時間,放課後などの間食が増えることが考えられます。 いつでも,好きなときに,好きなもの(甘いものが多い)を食べている生徒の実態がうかがえます。

 食生活に関するその他の課題は?   〜コンビニをしばしば利用し,食事中にも携帯メールを手にしている高校生・・・〜
 スーパーやコンビニの利用の目的はほとんどが食品の購入であり,週に3日以上利用する生徒が半分以上でした。間食の問題とも関係がありますが,食品選択について考えさせる授業の必要性を感じます。また,携帯電話を自由に使える環境になることから,食事中によく携帯メールをしている生徒がいるようです。自由記述形式で「高校生の食生活で気になること」を調査した結果の中にも,「間食,お菓子のとり過ぎ」(25%程度),「食事中の携帯」(10%程度)などの回答が見られ,問題だと思う生徒もいました。
 下記グラフ【G3】は,コンビニの利用頻度と高校生の「心身の健康状態」とでどのようなかかわりがあるのか,その関係を分析したものです。(調査方法と集計方法については,グラフ【G1】に同じです。)利用頻度があまり頻繁になると,心身の健康状態が良くない生徒が多いことが分かりました。また,個人を見ていくと,「朝食を抜く」→「安易な食品購入」→「間食が多い」→「一人で食べる食事」→「健康状態が良くない」という実態は相互に関連しており,食の乱れの著しい生徒には個別指導の必要性を感じました。
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 指導方法についての一考察
 「好き嫌い」をなくすための指導法について考えました。

 上記のグラフは,「好き嫌いしないように気を付けている」と回答した子ども,「気を付けていない」と回答した子ども,「分からない」と回答した子どもについて,それぞれ,食品の栄養的な働きについて質問し,正解率を示したものです。このグラフでは,「好き嫌いに気を付けている」「気を付けていない」において正解率に大差が見られませんでした。
 このことから,食品の働きについての知識が定着しても,それによって好き嫌いをなくそうとする態度にまで高まっていないと考えられます。当研究委員会では,栄養面の指導は大切ですが,それが「好き嫌い」をなくすための直接的な指導とはなりえないことを念頭において,授業づくりを考えるようにしました。
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