(授業を行う上での注意事項)
本単元は,「いじめ予防」のための授業としてご活用下さい。
1〜2時目に使う「いじめの1枚の絵」や2時目に使う「アンケート」につきましては,使い方によっては「いじめ」を助長する危険性があります。そのあたりのことを十分配慮してお使い下さい。


      第5学年   道 徳 学 習 指 導 案
                             
1  主題名「『いじめ』なんてしたくない!」 【内容項目2−B】


2 主題設定の理由

○価値について
 集団生活を行う子どもたちにとっては,お互いのよさを認め合い,助けあいながらお互いを高めていくことのできる学級が理想である。しかし,現実に目を向けると「優れている子への妬み」「劣っている子への嫌悪」「異質なものを排除しようとする差別意識」などの理由から,学級における「いじめ」は後を絶たない。「いじめ」は,特別な学級においてのみ発生するものではなく,人間が集団で生活する以上,どの学級にも起こりうる可能性を秘めている。また,現在の「いじめ」は,どの子も,被害者になる可能性と加害者(観衆,傍観者を含めて)になる可能性の両方を秘めている。
 そのような「いじめ」の解決には,いじめの発生を防ぐ「予防」と,発生しているいじめを止める「対処」の2つが必要となってくる。その2つの中で,心を育てることをねらいとする道徳の時間にできることは,「予防」である。つまり「いじめはいやだ」という心情や,「いじめをなくしたい」という実践意欲と態度を育てていくことである。そして,このような道徳的実践力を育てていくことが,友情を深めることにつながっていくと考える。
 そこで,これからも学校生活を続けていく子どもたちにとって,「いじめ」について考えていくことで友だちを大切にしようとする思いを育てていくことは,よりよい友だち関係を築く上で価値あることだと考え,本単元を設定した。

○児童について
 本学級の子どもたちは,困っている友だちに声をかけをしたり手助けをしたりなど,友だちと仲良くしたいという思いは持っている。また,友だちのいいところを見つけようとする優しい目ももっている。さらに,全員が「いじめ」とはどのようなものかということについての考えを持っているし,大半の子が「いじめ」問題に対して自分ができることを知っている。
 しかし,「いじめ」について気づいていないことも多い。例えば,いじめの具体的な姿を思い浮かべることはできるが,「いじめとはどのようなものであるか」という定義について考えている子は少ない。それから,思い浮かべるいじめの具体的な姿においても「暴力をふるう」や「悪口を言う」など直接的なものが大半で,「無視をする」「仲間外しをする」「ものを隠す」などが「いじめ」に入るとは思っていない子どももいる。また,観衆や傍観者を「加害者」と考えている子どもはほとんどいない。

○資料について  
 「いじめ」についての新たな見方・考え方や「いじめ」と自分との関わりに気づかせるために,本単元においては,教室内でのいじめを描いた1枚の絵(自作資料)を中心の資料とする。
 絵を資料とすることには,次のようなよさがあると考える。1つ目は,「絵」に対する子どもたちの興味・関心が高く,学習への意欲を高めやすいということである。2つ目は,見るだけで内容が分かるために,文章の読み取りが苦手な子どもでも,内容理解が容易であるということである。この絵を使うことで,どの子も「いじめの具体的な姿」を理解することができるであろう。3つ目は,資料に多くの情報を取り入れることができるということである。これにより,子どもたち同士の「いじめ」に対する考え方の違いを明らかにすることもできるであろう。また,「いじめ」について加害者と被害者の両方から自分の経験と重ねて考えたり,これまでの自分をふり返ったりすることができやすいであろう。4つ目は,絵を資料とすることで「いじめの言葉」「いじめの行為」「いじめで不幸になる人」など絵には描かれていないことまで想像を広げることができやすいということである。このような点で,本資料はねらいを達成できるものと考える。

○指導について   
 指導にあたっては,これまでとは違った「いじめ」についての見方・考え方に気づかせたい。そのために,まず,資料の絵の中から「いじめを感じる場面」を発見させ,いじめとはいかなるものであるかという「いじめの具体的な姿」や「いじめの定義」を理解させる。そして,そこで発見したことをもとに「いじめにつながる言葉」「いじめる側に含まれる人たち」「いじめで不幸せになる人」についても考えさせていく。その後,いじめられる子の気持ちを予想させたり,いじめられた子やいじめた子の悲しみ・苦しみにふれさせるたりすることで,「いじめはいやだ」という心情を育てていきたい。
 次に,道徳的実践意欲と態度を育てるために,誰もが「いじめる側」「いじめられる側」のどちらにもなる可能性があるという,現在のいじめの特徴に気づかせる。そこから,どの子にも「いじめ問題は人ごとではない」という思いを持たせたい。そして,資料から発見したいじめの具体的な姿から「これまでの自分」をふり返らせたり,「これから先の目指す自分」の姿について考えさせたりすることで「いじめをなくしたい」という思いを育てていきたい。

3 単元のねらい
「いじめ」についての見方・考え方を広げたり深めたりさせることで,「いじめはいやだ」という道徳的心情を育てる。
「いじめ」についてこれまでの「自分」を振り返らせそこから目指す「自分」を考えさせていくことで,「いじめをなくしたい」という道徳的実践意欲と態度を育てる。
  
 
4 単元計画(全2時間)
   

第 1 時
ね ら い  資料を通して「いじめの具体的な姿(言葉)」「いじめる側に含まれる人たち」「いじめで不幸になる人」について考えさせるとともに,様々な人々の「いじめ」に関わる悲しみや苦しみについて知らせることで「いじめはいやだ」という道徳的心情を育てる。
主な学習活動 1.資料の中から,「いじめを感じる場面」を発見する。
2.資料から「いじめの言葉」について考える。
3.いじめによって「不幸せ」になる人について考える。
4.「いじめ」で「不幸せ」になった人の話を聞く。
5.感想を書く。

第 2 時
ね ら い  自分の中にある「いじめ」についての資質からこれまでの「自分」について振り返らせたり,「いじめ」から立ち直った人たちの話を聞かせたりすることで,「いじめをなくしたい」という実践意欲と態度を育てる。
主な学習活動 1.前時に解決しなかった問題について考える。
2.自分の中にある「いじめ」の資質と,現在の「いじめ」の特徴に気づく。
3.「いじめ」に対する「これまでの自分」と「これからの自分」について考える。
4.「いじめ」から立ち直った人の話を聞く。
5.感想を書く。

5 1時目のねらいと展開
 資料を通して「いじめの具体的姿(言葉)」「いじめる側に含まれる人たち」「いじめで不幸になる人」について考えさせるとともに,様々な人々の「いじめ」に関わる悲しみや苦しみについて知らせることで「いじめはいやだ」という道徳的心情を育てる。
学習活動・期待する児童の反応 学 指 導 上 の 留 意 点 備 考
.資料の中から,「いじめを感じる場面」を発見する。
「いじめを感じる場面」を見つけさせ,青鉛筆で囲ませる。
掲示用の絵
(1枚目)
価値についての発見
(発問・指示)
この絵の中に「いじめを感じる場面」はありますか。
児童用の絵
(1枚目)
「いじめを感じる場面」の予想例
精神的な苦痛を感じる場面
・無視する ・物をとる など
身体的な苦痛を感じる場面
・たたく ・髪を引っ張る など
「いじめ」の定義の予想例
強い者が弱い者を
繰り返し
心や体に痛みを与えること
「いじめる人」についての予想例
直接
直接+観衆
直接+観衆+傍観者
「いじめを感じる場面」については,「被害者」と「加害者」の両方を囲ませる。これにより「いじめを感じる場面」とともに, 「加害者に対する考え方」の違いが明らかになるだろう。
友だちの発表を聞いて「いじめ」を感じたら,赤鉛筆で囲ませる。
「いじめを感じる場面」をもとに,次のような内容について考えさせたい。
・「いじめ」にはどんな種類があるか。
・「いじめ」と「けんか」はどう違うか。
・「いじめる人」とはどんな人か。
青鉛筆
赤鉛筆
.資料から「いじめの言葉」について考える。
資料に吹き出しを書かかせ,そこに聞こえてくる声を書き込ませる。
価値についての発見
(発問・指示)
この絵から「いじめている人」のどんな声が聞こえてきそうですか。
絵には直接見えない「言葉」にもいじめにつながるものがあることに気づかせたい。
.いじめによって「不幸せ」になる人について考える。
「不幸せ」な人を見つけさせ,青鉛筆で囲ませる。
掲示用の絵
(2枚目)
価値についての発見
(発問・指示)この絵の中で「不幸せ(悲しい思い,苦しい思いをする人)」な人はいるでしょうか。
児童用の絵
(2枚目)
(期待する反応)
.被害者
.被害者+傍観者
.被害者+傍観者+加害者(観衆)
友だちの発表を聞いて「不幸せ」になる人を見つけたら,赤鉛筆で囲ませる。
ア→イの順に出にくくなるだろう。机間巡視をし,「傍観者」「加害者」に印を付けている児童を見つけておく。
ここでは「傍観者」「加害者」に対しても「不幸せ」という視点で見るきっかけをつくる。
青鉛筆
赤鉛筆
.「いじめ」で「不幸せ」になった人の話を聞く。
ここでは「被害者」「傍観者」「加害者」の三者の話をする。
3の活動で「被害者」しか出てこなかった場合は,話を聞かせたあとに再度「不幸せ」な人について考えさせたい。
.感想を書く。
(期待する内容)
発見したこと
心に残ったこと
発見したこと(「価値について」「自分について」)と,心に残ったこと(いじめに対する道徳的心情の高まり)を中心に書かせる。
解決しなかった問題については,次時の最初に再度考えることを伝えて終わる。
プリント(一太郎版)

プリント(PDF版)
6 2時目のねらいと展開
 自分の中にある「いじめ」についての資質からこれまでの「自分」について振り返らせたり,「いじめ」から立ち直った人たちの話を聞かせたりすることで,「いじめをなくしたい」という実践意欲と態度を育てる。
学習活動・期待する児童の反応 学 指 導 上 の 留 意 点 備 考
.前時に解決しなかった問題について考える。
(予想される問題)
.いじめの具体的姿や言葉
.いじめる側に含まれる人
.いじめで不幸せになる人
前時から本時までの間を使って考えたり尋ねたりしたことを,書かせておく。
「ア」については,前時に考えた「定義」をもとに検討させる。
「イ」「ウ」については,対立する考えが出てきた場合,クラス全体の問題として考えさせたい。
掲示用の絵
(1時目に使ったもの2枚)

児童用の絵
(1時目に使ったもの2枚)
.自分の中にある「いじめ」の資質と,現在の「いじめ」の特徴に気づく。
「いじめられる資質」と「いじめる資質」の2種類のアンケートを,何についてのものか伝えずに行う。
アンケート
(2種類)
価値についての発見
(発問・指示)今から2種類のアンケートを採ります。あてはまるものに丸を付けましょう。
(期待する反応)
自分の中には「いじめられる資質」と「いじめる資質」の両方がある
2つの「いじめ」に関する資質は,誰もが持っている
誰にも「いじめられる」可能性と「いじめる」可能性がある
これまで見えていないであろう,自分の中にある「いじめ」に関する2つの資質に気づかせたい。
誰にでもいじめられる可能性といじめる可能性があるという現代の「いじめ」の特徴を知らせる。
「2」の活動により,「いじめは人ごとではない」という思いを持たせたい。
.「いじめ」に対する「これまでの自分」と「これからの自分」について考える。
「いじめの2つの資質は誰の心の中にもある」ということを十分押さえてから発問に入る。
掲示用の絵
児童用の絵
価値についての発見
(発問・指示)この絵の中に,これまでの自分自身(自分に似ている人)はいませんか。
(振り返りの視点)
いじめられた立場
いじめた立場(直接,観衆,傍観者)
資料の中の「いじめの具体的な姿や言葉」を想起させ,自分自身をふり返らせる。
安心してふり返りができるように,人前で発表する必要はないことを伝えておく。
価値についての発見
(発問・指示)あなたはこれまでの自分に満足ですか。この絵のようなクラスに満足ですか。
(期待する心情)
自分を変えたい
絵のようなクラスはいやだ
いじめのないクラスにしたい
この発問は,しっかり自分と向き合わせるためのものである。それ故,ここでの思いを発言させることはしない。
.「いじめ」から立ち直った人の話を聞く。
ここでは「いじめに立ち向かった子」「いじめられた子を救った子」の話をする。
話を聞くことで「いじめに立ち向かう勇気」や「いじめられた子の力になろうとする優しさ」など「いじめをなくしたい」という思いを育てたい。
感想を書く。
(期待する内容)
発見したこと
心に残ったこと
発見したこと(「価値について」「自分について」)と,心に残ったこと(いじめに対する道徳的実践意欲と態度の高まり)を中心に書かせる。
プリント(一太郎版)

プリント(PDF版)