本調査では、「地理的な学習内容の知識・技能の定着」と「社会的な事象の特色や関連、意味を説明・解釈すること」に課題があることが分かった。新しい学習指導要領においては、社会的な見方や考え方を養い、そこで身に付けた知識、概念や技能などを活用し、よりよい社会の形成に参画する資質や能力につないでいくことが求められている。そのためにも、思考力・判断力・表現力の基盤となる知識や技能の定着と、言語活動の充実に継続して取り組んでいくことが必要と考える。
(ア) 観察・資料活用の技能を高めるために
「技能・表現」に課題が見られる中学年の学習においては、社会科の入門期でもあるので、資料の見方や考え方、まとめ方について時間をかけて丁寧に指導を行うことが大切である。体験したことや調査したことをまとめたり、資料から必要な情報を読み取ったりする力を高めるために、「小学校学習指導要領解説社会編」(平成20年8月)では、発達の段階に応じた指導をしていくことが求められており、中学年については以下のように記されている。
「小学校学習指導要領解説社会編」(平成20年8月)」p20
「地域における社会的事象を観察・調査する」
・ありのままに観察する。
・数や量に着目して観察する。
・観点に基づいて観察、調査する。
・他の事象と対比しながら観察、調査する。
・まわりの諸条件と関係付けて観察、調査する。
「地図や各種の具体的資料を効果的に活用」
・資料から必要な情報を読み取る。
・資料に表されている事柄の全体的な傾向を捉える。
・必要な資料を収集する。
この内容を踏まえ、中学年の2年間を通して、意図的・計画的に指導をしていくことが大切である。また、「気付いたことはないですか?」という曖昧な発問ではなく、この資料から読み取らせたいことを教師自身が明確にして、具体的な発問をすることが必要である。
(イ) 地図帳や地球儀の活用
新しい学習指導要領では、社会科の学習において地図帳や地球儀の活用を一層重視することが求められている。そこで、児童が地図帳や地球儀を見たり触れたり、活用したりする機会を増やしていくことが大切である。具体的には、次のような方法が考えられる。
○校内や教室に地図を常時掲示したり、地球儀を置いたりする。
○学習に必要なものとして、地図帳を常に準備させ、学習の中で出てきた地名をすぐに確認させる。
○地図を使って調べたり、考えたりする活動を意図的に取り入れる。
○ICT機器や地図ソフトなどを活用する。
(ウ) 自分たちの生活との関わりを感じさせるために
自分の生活との結び付きを感じづらい内容・領域ほど正答率が低くなる傾向が見られた。特に、小学5年生の「県の様子」、小学6年生の「国土の様子」、中学1年生の「我が国の歴史」などは、自分の生活との結び付きを感じづらく、調べることへの意欲をもったり切実感をもって考えにくかったりするためと思われる。そこで、児童が自ら考え、判断し、表現したくなるように、自分たちの生活との関わりを感じたり、既有の知識とのずれを感じたりするような事例や資料を取り上げることが必要である。
(エ) 知識を定着させるための指導の工夫
学年が上がるにしたがって、社会科における「知識・理解」が十分に定着できていないことが分かった。それは、初めて聞くような言葉も多く、社会的事象の仕組みと私たちの生活とを関連付けながら理解することが難しくなるためと考えられる。もちろん、小テストなどを通して知識を定着させることも大切ではあるが、「社会科=暗記教科」とならないようにするためには、指導法の改善を行うことが大切である。具体的に、次のような方法が考えられる。
○これまでに学んだ知識を想起させたり、比べさせたりする学習場面を意図的に位置付ける。
○社会的な問題を取り上げ、「どうすべきか」「どの解決策が望ましいのか」「どうした方が望ましかったのか(選択肢があったのか)」ということについて自分の考えをまとめ、それを基に話し合う活動を取り入れるなど、習得した知識を活用する学習場面を位置付ける。
○教室や廊下等に、これまでの学習内容をまとめた模造紙を掲示したり、学習内容についてのクイズコーナーを作ったりするなど学習環境を工夫する。
(オ) 「思考力・判断力・表現力」の評価
新しい評価の観点として「社会的な思考・判断」が「社会的な思考・判断・表現」となった。児童が学習の対象となる社会的事象に対して,思考・判断したことを「話す」「書く」といった言語活動を通して表現される内容について評価をすることになる。具体的には,「何を根拠としているのか」,「どのように表現しているか」などが考えられる。どの程度の表現内容を「おおむね満足できる」状況(A)と判断するのか,「十分満足できる」状況(B)と判断するのかを,「かかわる立場」や「社会的な価値」の内容,論理性などを基にして決めておき,評価することが大切である。そのためには,教師が事前に期待する児童の発言やワークシートの記述内容を想定して,「おおむね満足できる」状況と十分満足できる」状況(B)を具体的に考えておくことが必要である。 |