平成23年度佐賀県小・中学校学習状況調査Web報告書

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Ⅲ 各教科の調査結果の分析   

  ※中学1年生の調査については、小学6年生の学習内容としているため、小学校の項で分析している。

小学校理科

  意味付け・関係付けを意識し、考えを表現させる授業づくり

小学5年生、小学6年生、中学1年生の全ての評価の観点において、「おおむね達成」の基準を上回った。特に、小学6年生では、「科学的な思考」が「おおむね達成」、「観察・実験の技能・表現」が「おおむね達成」の基準を大きく上回った。さらに、2つの観点とも「十分達成」の基準にも達している。「自然事象についての知識・理解」に関しても、小学5年生、小学6年生、中学1年生ともに「おおむね達成」の基準を上回っており、良好な定着状況が見られた。しかし、用語の定着に課題が見られた。また、小学5年生の「科学的な思考」については、「観察・実験の技能・表現」「自然事象についての知識・理解」に比べ、低い結果となり、今後の指導への課題が残る。授業では、教師は児童に対して、何が問題となっていて、それを解決するためにどのような観察や実験を行うのか、目的意識をもたせた上で活動を行わせ、学習中、常に目的意識が継続されるよう、児童の考えを表現させる積極的な場づくりを行っていくことが必要である。
この後、評価の観点については、以下のように記す。

 ○自然事象への関心・意欲・態度

 ○科学的な思考

 ○観察・実験の技能・表現

 ○自然事象についての知識・理解


本調査では設定なし

「思考」ただし本文中では「科学的な思考」

「技能・表現」

「知識・理解」

 

 

結果の概要
 
(ア)
教科全体及び設問毎正答率
 
教科全体正答率 各種グラフ

正答率ごとの分布

観点別達成状況 

内容・領域別達成状況 

基礎と発展の比較

「活用」に関する問題

設問ごと正答率

 

教科全体正答率について、全ての学年において、「おおむね達成」の基準を上回った。しかし、「十分達成」の基準を上回った学年は見られなかった。

 
(イ)

評価の観点別正答率

①小学5年生

図1 H23年度(小学5年生理科)評価の観点別正答率

全ての観点において、「おおむね達成」の基準を上回った。しかし、「科学的な思考」については、「おおむね達成」の到達基準55.0を4.8ポイント上回った。しかし、「技能・表現」の到達基準62.5を15.1ポイント上回っていること、「知識・理解」の到達基準62.4を16.5ポイント上回っていることに比べて低い結果となった。事象の解釈や観察・実験を行うことの理由を説明することに課題が見られた。何を解決するために観察や実験を行っているのか、目的を明確にしないまま活動を行っていることが考えられる。

小学6年生

図2 H23年度(小学6年生理科)評価の観点別正答率 

全ての観点において、「おおむね達成」の基準を上回った。特に、「科学的な思考」と「技能・表現」は基準を上回っており、「十分達成」の基準に達していた。調べる目的を明確にして、観察や実験の活動に向かわせるような学習指導が行なわれていると考えられる。
③中学1年生

図3 H23年度(中学1年生理科)評価の観点別正答率

全ての観点において、「おおむね達成」の基準を上回った。しかし、「科学的な思考」が「おおむね達成」の到達基準55.0を10.8ポイント上回っていること、「知識・理解」が「おおむね達成」の到達基準62.8を12.4ポイント上回っていることに比べて、「技能・表現」については、「おおむね達成」の到達基準60.8を6.4ポイントと、「おおむね達成」の基準を上回る率が低い結果となった。高学年では、普段の生活の中ではなじみが薄い、理科の実験特有の薬品や器具を扱った実験も多い。一例としてリトマス試験紙を使った水溶液の液性調べなどでは、水溶液とリトマス試験紙の色の変化について、正しく結果を整理させることが不十分なことが挙げられる。

 
(ウ)

内容・領域別正答率

①小学5年生

図4 H23年度(小学5年生理科)内容・領域別正答率

②小学6年生

図5 H23年度(小学6年生理科)内容・領域別正答率

③中学1年生

図6 H23年度(中学1年生理科)内容・領域別正答率

平成23年度から全面実施となった新学習指導要領では、「物質・エネルギー」、「生命・地球」の2つに区分けされた。小学5年生と小学6年生では、「生命・地球」に比べて、「物質・エネルギー」の正答率が低くなっている傾向が見られる。中学1年生では、「物質・エネルギー」に比べて、「生命・地球」の正答率が低くなっている傾向が見られる。中学年の「生命・地球」の内容は、星の観察や植物の成長の仕方など、観察活動が主となるが、高学年の「生命・地球」の内容は、植物の水の通り道を実験で調べたり、月と太陽の位置関係をモデル実験で調べたりするなど、実験的な活動が求められる。つまり、事象と実験を関係付けて問題解決を図ることが多い。このことが、高学年において、児童が「生命・地球」の内容に難しさを感じていると考えられる。

   

経年比較 

 

平成22年度の教科正答率は、小学校5年生が最も低い結果であった。また、平成22年度の小学5年生の観点別正答率を見ると、中でも「科学的な思考」が最も低い結果であった。そこで、経年比較では、まず初めに、考える力の児童の能力の伸長の点から、「科学的な思考」について、平成22年度と平成23年度において同一児童を追跡し分析を行う。次に、児童の体験充実の点から「観察・実験の技能・表現」について、平成22年度と平成23年度において、中学1年生同一学年を取り上げ、分析を行う。最後に、「活用」に関する問題について、平成22年度と平成23年度において、中学1年生同一学年を取り上げ、分析を行うこととする。

   
(ア)

「科学的な思考」の経年比較
①H23小学6年生とH22小学5年生(同一児童)

図7 H22・23年度(小学5・6年生理科)「科学的な思考」正答率の経年比較

平成22年度の小学5年生では、「おおむね達成」の到達基準60.0に対して、それを5.8ポイント上回る正答率65.8であった。平成23年度の小学6年生では、「おおむね達成」の到達基準55.0に対して、それを20.9ポイント上回る正答率75.9であり、平成22年度から増加している。さらに、これを「科学的な思考」の到達度分布で、平成22年度と平成23年度を比較すると図8のようになる。

図8 H22・23年度(小学5・6年生理科)「科学的な思考」の到達度分布の経年比較

「十分達成」の児童の割合は、平成22年度の23.6%に対し、平成23年度は63.8%と「十分達成」の基準に到達している児童の割合が増えていることが分かる。「要努力」の児童の割合を見ても、平成22年度の39.9%に対し、平成23年度は11.2%と28.7ポイント減少している。平成23年度の小学6年生の「科学的な思考」の調査問題を各設問ごとに見ると、児童が観察や実験を行った結果を基にした思考を問う問題が多く出題されている傾向がある。そのため児童が、実際の授業での観察や実験を想起しながら、そこから論理的に考えて解答することができたと考えられる。しかし、平成23年度の調査問題では、気象衛星の雲画像とアメダスのデータから、日本のある地点の天気を考える問題について、「おおむね達成」の基準をに到達していなかった。資料やデータを読み解く力に課題があると考える。

   

















②H23中学1年生とH22小学6年生(同一児童)

図9 H22・23年度(小学6年生・中学1年生理科)、「科学的な思考」の正答率の経年比較

平成22年度の小学6年生では、「おおむね達成」の到達基準55.0に対して、それを10.3ポイント上回る正答率65.3であった。同一児童である平成23年度の中学1年生では、「おおむね達成」の到達基準55.0に対して、それを10.8ポイント上回る正答率65.8であり、平成23年度は平成22年度より0.5ポイント上回っていた。しかし、これを「科学的な思考」の到達度分布で、平成22年度と平成23年度を比較すると図10のようになる。

図10 H23年度(中学1年生理科)、H22年度(小学6年生理科)「科学的な思考」の

到達度分布の経年比較

「十分達成」の生徒の割合は、平成22年度は45.7%だったのに対し、平成23年度は33.8%と、「十分達成」の基準に到達している生徒の割合が減少している。「要努力」の生徒の割合を見ると、平成22年度の25.8%に対し、平成23年度は30.4%と4.6ポイント増加している。平成23年度の中学1年生の「科学的な思考」の調査問題では、月の見え方と太陽の位置との関係から、月と太陽の位置関係を推論して説明したり、地層とその地層に見られる小石の特徴から地層のでき方を説明したりすることに課題が見られた。事実と事実を関係付けて、そこに解釈を加え表現することに児童が難しさを感じていることがうかがえる。

   

(イ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「観察・実験の技能・表現」の経年比較
H23・H22年度中学1年生理科(同一学年)

図11 H22・23年度(中学1年生理科)「観察・実験の技能・表現」の正答率の経年比較

平成22年度の中学1年生では、「おおむね達成」の到達基準60.0に対して、それを19.5ポイント上回る正答率79.5であった。平成23年度の中学1年生では、「おおむね達成」の到達基準60.8に対して、それを6.4ポイント上回る正答率67.2であり、平成22年度より低い結果となった。これを「技能・表現」の到達度分布で、平成22年度と平成23年度を比較すると図12のようになる。

図12 H22・23年度(中学1年生理科)「技能・表現」の到達度分布の経年比較

「十分達成」の生徒の割合が、平成22年度の63.7%に対し、平成23年度は45.5%と「十分達成」の基準に到達している生徒の割合が減少している。さらに、「要努力」の生徒の割合を見ると、平成22年度の20.4%に対し、平成23年度は38.0%と17.6ポイント増加している。平成22年度と平成23年度の比較から、「技能・表現」について、「十分達成」と「要努力」との二極化傾向にあることが懸念される。平成23年度の調査問題を設問毎に見てみると、「リトマス試験紙を使って水溶液の液性を調べたり、植物の水の通り道を実験で調べたりすること」に課題が見られた。どちらも、問題を解決するための調べるための「方法」としては理解できているが、一人一人が実験の結果として、正確に整理できていないことが考えられる。結果を表に整理させ、考察させる際、結果を根拠として表現させるような指導が必要であると考える。

   
(ウ)

「活用」に関する問題の経年比較

H23・H22年度中学1年生理科(同一学年)

図13 H22・23年度(中学1年生理科)「活用」に関する問題の正答率の経年比較

平成22年度の中学1年生では、「おおむね達成」の到達基準56.3に対して、それを2.3ポイント下回る正答率54.0であった。平成23年度の中学1年生では、「おおむね達成」の到達基準51.0に対して、それを12.2ポイント上回る正答率63.2であり、平成23年度は、平成22年度を上回った。平成21年度からの移行期間から、平成23年度の学習指導要領に対応するため、「活用」を意識した学習指導が行われている成果が見られると考えられる。活用に関する問題では、記述で解答を求めることが多い。そこで、平成23年度の小学5年生、小学6年生、中学1年生の調査問題から、活用に関する問題を含む「理由や解釈を記述させる問題」を抽出し、整理すると表1のようになる。

表1 H23年度(小学5年生、小学6年生、中学1年生理科)「理由や解釈を記述させる問題」

の正答率

表1より、小学6年生は「おおむね達成」の基準を上回ってるが、小学5年生と、中学1年生は、「おおむね達成」の基準を下回っている。特に、小学5年生において、正答率が低く、理由や解釈を記述することに課題が見られる。このことは、中学年の学習指導において、観察や実験の活動で時間をとり、児童自身の考えを記述させるような場面が少なくなってしまっていることが一因として考えられる。観察や実験の活動に加えて、積極的に自分の考えを表現させるような言語活動の充実を図る必要がある。

   
設問ごとに見た傾向と指導法改善の手立て

 

平成23年度の調査結果を受け、学習内容の理解、定着の面から、「知識・理解」について、自らの考えを表現することの面から「科学的な思考」について総合的に分析する。また、学習指導要領にて、重点の1つとなっている実社会・実生活との関連を重視する内容を充実させる点からも分析を行う。

   
傾向1

自然の事物・現象の解釈をしたり、理由について考えを述べたりすることに課題がある。

[小学5年生 大問5の(1)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率60.0に対して、正答率は55.2であり、4.8ポイント下回った。無解答率も2.7であった。この学習では、水の温まり方を調べるために、みそを用いることが多い。水にみそを入れて、熱したときのみそ動きから、温められた水の動きを視覚的に捉えさせるものである。本調査問題は、水の温まり方を調べる「方法」から「目的」を問う、可逆的な思考を要するものである。児童に、調べる目的と実験方法との意味付けや関係付けがなされていないことが正答率の低さの理由として考えられる。

○ 指導法改善の手立て

水の温まり方の学習では、導入で、水を入れた試験管の下部を熱し、熱したところから離れた水面近くが温まっていることを体感させ、「水はどのように温まっていくのか」という学習問題へと導くことが多く行われる。そこで、それを調べるためにみそなどを用いることになる。しかし、児童によっては、水の中にみそを入れて熱することで、なぜ温まり方が分かるのか、目的と実験方法とが結びつかないまま活動を行っているものと考えられる。指導としては、児童に、問題に対し予想や仮説を基に実験を行わせることが大切である。「もし温められた水が移動しているならば、その動きがみそで分かるのではないか」、という考えをもたせた上で、実験に取り組ませる必要がある。さらに、考察の場面では、「みそが上に移動していることから、温められた水は、上に移動している」という結果を踏まえた表現をさせる指導が必要である。

[中学1年生 大問2の(1)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率55.0に対して、正答率は26.7であり、28.3ポイント下回った。無解答率も9.5であった。水溶液の性質の単元では、気体が溶けている水溶液として、実際に水に二酸化炭素を溶かす内容がある。これにあわせて、塩酸も気体が溶けたものであることを指導する。塩酸は塩化水素が水に溶けたものであるが、危険な薬品でもあり、塩化水素の名称についても小学6年生では取り扱わない。この調査問題では、塩酸を熱したあとに何も残らなかった理由を、「気体」という用語を使って説明することに、難しさを感じる児童が多かったと考えられる。
○ 指導法改善の手立て

「気体が溶けている水溶液」の学習内容で、水に二酸化炭素を溶かす活動を行う。教師は、気体が溶ける水溶液の代表として、水に二酸化炭素を溶かす活動を行わせることを、より意識して指導する必要がある。二酸化炭素が溶けている証明として、炭酸水の液性をリトマス試験紙で調べたり、石灰水と混ぜて白濁することを確かめたりさせるが、これに加えて、炭酸水を熱してもあとに何も残らないことを丁寧に指導し、気体が溶けているから熱してもあとに何も残らないという考えをもたせることが大切である。このとき、塩酸やアンモニア水も熱して、あとに何も残らないことを確かめさせ、気体が溶けている水溶液について、より理解を深めさせると良い。

   
傾向2

学習したことを実生活での場面と関連させて考えたり生かしたりしていくことに課題がある。

[小学5年生 大問9の(1)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率50.0に対して、正答率は26.5であり、23.5ポイント下回った。無解答率も6.8であった。学習指導においては、「水の三態」のあと、「自然の中の水」として、空気中の水蒸気の存在について学習する。具体的には、コップに氷水を入れて、コップの外側に水滴が付くことから、空気中の水蒸気が冷やされて水の状態に戻ること調べる活動を行う。しかし、特定の条件下で実験したことと、身の回りに起きる自然現象とを関連させて考え、説明することが児童にとって難しい様相がうかがえる。
○ 指導法改善の手立て

自然の中の水の蒸発について、単元の導入にて、雨が降ったあとの水たまりなどが、しばらくするとなくなっていく現象をどのように考えるか、児童の考えを十分引き出させるような丁寧な指導が必要である。児童はこの現象に対して、自分なりに考えをもち、イメージを膨らませる。導入の段階では、水蒸気となって空気中に出て行くことに関して、漠然としたイメージでもよい。そこから予想や仮説を立てて、水を入れた2つの容器で、ラップをかぶせたもの、かぶせないものを比較する実験へとつなげるようにする。このとき、水蒸気をイメージ図として描かせることが、見えない水蒸気が空気中に出て行くことを、より具体的なイメージとしてもたせることに有効であると考える。逆に、氷水を入れたコップに水滴が付く現象についても、空気中の水蒸気をイメージ図として描かせ説明させるような指導を行っていくようにする。このように、現象をイメージ図として描かせることで、自然現象が起きる日常生活の場面でも、事象を具体的にイメージし、学習と実生活の場面とを関連させて考えることができるようになっていくと考える。

[小学6年生 大問4の(2)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率65.0に対して、正答率は63.6であり、1.4ポイント下回った。日本上空付近の雲はおおよそ、西から東へと移動していることについて、選択式の問題にも関わらず「おおむね達成」の基準を下回った。日本上空付近の雲は、おおよそ西から東へと移動していることは、調査結果よりも多くの児童が知識としてもっていると考えられるが、気象衛星から見た雲画像を示されたことで、かえって地図上に見るデータの読み取り方に戸惑ったのではないかと考えられる。
○ 指導法改善の手立て

気象衛星から見た日本上空の雲画像は、日常生活では、天気予報番組などでよく目にするものである。今後の天気について天気の情報を得たり、自分なりに予想することは、私たちの日常生活を送る上でも欠かせない活動である。学習指導要領においても、映像などの情報を活用して雲の動きなどを調べ、天気の変化の仕方について考えをもたせることが求められている。実際の学習指導では、教科書やインターネットなどの画像データなどを利用することが多い。その際、画像データに映る日本と地図上の方位を丁寧に関係付けて読み取らせることが大切である。また、学級全体で画像データの読み取りを確認させる場を設けることが大切である。一人一人のデータの読み取りを整理し、学習をまとめるために電子黒板などの情報機器の利用が考えられる。
   
傾向3

科学的な用語の定着に課題がある。

[小学6年生 大問9の(1)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率60.0に対して、正答率は67.7であり、7.7ポイント上回った。しかし、他の知識・理解を問う問題に比べ無解答率が6.2と高かった。水に物を溶かして無色透明又は有色透明になっている液体を水溶液といい、食塩水、ホウ酸水、塩酸などは全て水溶液である。しかし、水に食塩を溶かしたものは、「食塩水」、水にホウ酸を溶かしたものは「ホウ酸水」と呼ぶため、学習の中で、児童が、水溶液という用語を使う頻度が少ないことが、無解答率が高くなる一因として考えられる。
○ 指導法改善の手立て

「水溶液」という用語の定着のためには、水溶液の定義を学習する際は、教師は、「食塩の水溶液」、「ホウ酸の水溶液」など、ことばに出したり、板書して示したりし、「水にものを溶かして見えなくなった状態のものを水溶液ということ」を児童に意識させることが大切である。水溶液の重さは、水と溶かしたものの重さの和になることを学習する内容では、実験素材としては食塩水を用いることが多い。この場合、「水に食塩をとかすと重さはかわるのだろうか」という問題提起でなく、「水に食塩をとかしたとき、水溶液の重さは変わるのだろうか」などの問題提起の仕方を工夫することが大切である。

[中学1年生 大問7の(3)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率60.0に対して、正答率は28.5であり、31.5ポイント下回った。また、無解答率も14.1と平成23年度調査(中1理科)において高かった。平成22年度も同様の問題が出題されているが、同じような結果であった。学習指導要領改訂にともない、平成21年度の以降期間から追加された内容である。植物が根から水を取り入れていること、その水は植物の体全体に行きわたっていることは、経験的に児童にも理解されやすい。その水が、植物の葉から空気中に放出されるという事実とその用語について、日常生活で意識されたり、用語を使用したりすることがほとんどないことが正答率の低さ、無解答率の高さの理由として考えられる。
○ 指導法改善の手立て

「蒸散」という日常生活では使わない用語の定着のためには、植物が吸い上げた水が葉の表面の穴から水蒸気となって空気中に放出されることを、実験を通して科学的な概念として獲得させた後に、積極的に用語として使用していくことが求められる。例えば、学習の中で「植物はなぜ水をあげないと枯れてしまうのか」などの問いかけをし、説明し合うような場面を設けることが考えられる。そのとき児童が、「蒸散で水が出て行ってしまうから」などの説明ができるように指導していくことが必要である。
   
これからの指導に向けて

 

今回の調査によって、主に「自然の事物・現象の解釈をしたり、理由について考えを述べたりする」こと、「実生活との関連を図る」ことに課題があることが分かった。この2つの点は、つながりが深い。小学校理科の教科の目標に掲げられている「科学的な見方や考え方を養う」ことについて、学習の対象は、自然の事物・現象である。この自然の事物・現象の関わって私たちの生活があり、そこに理科の学習で科学的なアプローチをして、児童に科学的な概念をもたせなければならない。したがって、教師は、常に児童に「学習していることは、自分たちの生活と関わっていること」を念頭に置かせて、自然の事物・現象に対して、疑問や問題意識をもたせ、目的意識をもって観察・実験を行わせていくことが大切である。さらに、より科学的な思考力・表現力の育成を図るために、学習指導要領で求められてる言語活動の充実の一つとして、自分の考えを根拠をもって述べさせたり、考えを交流させたりすることが大切である。学習で学んだ自然の事物・現象の性質や働き、規則性などが、実際の自然の中で成り立っていることに気付いたり、生活の中で役立てられていることを確かめたりすることで、自然の事物・現象について、意味付け・関係付けが図られ、実感を伴った理解ができると考える。

(ア) 日常生活との関連を図った問題解決に取り組ませること

学習と日常生活との関連を図るためには、児童が生活の事象から問題を見いだし、それを解決していこうという態度をもたせることが大切である。例えば、5年生の「天気の変化」では、1日の雲の様子の観察から始め、数日間の雲の様子の変化と天気の変化を関係付けさせ、雲の動きの規則性ついて気象情報を集めさせたり、読み取らせたりする活動を通して、天気は予想することができるという考えをもたせるように指導することが多い。しかし、児童は、日常生活の天気予報番組などで、明日の天気や一週間の天気を予想できることは知っており、その情報を基に日々の生活を送っていることも事実としてある。このことを踏まえると、児童には、「そもそも天気予報はどのようにして天気を予想しているのだろうか」、という単元を通した問題意識をもたせて学習に取り組ませたい。このような単元全体を見通した問題意識をもたせることで、一連の問題解決が、理科の授業場面のみならず、児童の日常生活の中でも継続され、単なる天気に関する情報として見ていた天気予報番組も見方が変わっていくと考えられる。さらに、理科の学習場面にそれが生かされるようになることも考えられる。このように、教師は、常に日常生活と学習との関連を意識した指導計画を立て、学習指導を行うことが大切である。

(イ) 観察・実験の結果を踏まえた考察を行わせること

自然の事物・現象の解釈をさせたり、理由について考えを述べさせたりする力を高めるためには、観察・実験の結果を踏まえた考察を行わせることである。そのためには、まず、児童に観察・実験の「結果」を重要視させることが大切である。観察・実験の「結果」を重要視させることは、遡って、調べる目的が明確でなければならないことも意味する。例えば、6年生の「水溶液の性質」では、水溶液の液性を調べるのにリトマス試験紙を使用する。塩酸の液性を調べた場合、「塩酸は酸性であることが分かった」ことだけを考察として表現させてはならない。「結果」と「考察」を分けて指導することが大切である。「結果」「考察」「結論」と、学習過程によっては、考察を結果の検討の場とし、考察のあと結論を位置付ける考え方もあるが、この場合も教師は「結論」を重視してはならない。結果とは「青色リトマス紙に塩酸を付けると、リトマス紙が赤色に変わった」「赤色リトマス紙に塩酸を付けると、リトマス紙は変化しなかった」ということである。この「結果」と合わせて、「考察」として表現させることが大切である。つまり「塩酸は酸性である」という結論の根拠を結果に求め、常に意識させて表現させることが大切である。

(ウ) 思考と表現をつなぐ言語活動の充実を図ること

学習指導要領改訂により評価の観点が従来の「科学的な思考」から「科学的な思考・表現」となった。このことは、理科の学習における児童の思考を、表現させることで、その表現を基に思考の評価を行っていこうというものである。前述の「(イ) 観察・実験の結果を踏まえた考察を行わせること」も理科における言語活動の1つと考えてよい。児童が事象に対してどのような考えをもっているのか、どのように解決していこうとしているのか、なぜそう思うのかなど、児童に自分の考えを表現させる場の設定やワークシートの記述のさせ方の工夫が必要である。児童にとっても、頭の中で分かっているつもりでいても、それを声に出したり、書き出したりすることで、より思考の整理が行わる。そのことで、自身の理解の程度や課題となる点について自覚することにつながり、探究活動がより一層充実したものになると考えられる。

   
授業実践に参考となるリンク
   
 
   
 

最終更新日: 2011-10-07