平成23年度佐賀県小・中学校学習状況調査Web報告書

Web報告書もくじⅢ 各教科の調査結果の分析>中学校理科

Ⅲ 各教科の調査結果の分析   

  ※中学1年生の調査については、小学6年生の学習内容としているため、小学校の項で分析している。

中学校理科

  科学的な思考力・表現力の育成と科学的な体験や自然体験の充実を図る授業づくり

教科全体正答率は、中学2年生と中学3年生ともに、「おおむね達成」の基準を上回った。評価の観点別正答率では、中学2年生は全ての評価の観点において「おおむね達成」の基準を上回ったが、中学3年生は「科学的な思考」の評価の観点のみ「おおむね達成」の基準を下回った。また、「活用」に関する問題の正答率では、平成22年度の中学2年生は「おおむね達成」の基準を上回ったが、平成23年度の中学2年生は「おおむね達成」の基準を下回った。そこで、中学校理科においては、科学的な思考力・表現力の育成と科学的な体験や自然体験の充実を図る指導法の工夫が必要である。

この後、評価の観点については、以下のように記す。

 ○自然事象への関心・意欲・態度

 ○科学的な思考

 ○観察・実験の技能・表現

 ○自然事象についての知識・理解

本調査では設定なし

「思考」ただし本文中では「科学的な思考」

「技能・表現」

「知識・理解」

 

 

結果の概要
 
(ア)
教科全体及び設問毎正答率
 
教科全体正答率 各種グラフ

正答率ごとの分布

観点別達成状況 

内容・領域別達成状況 

基礎と発展の比較

「活用」に関する問題

設問ごと正答率

 

教科全体正答率について、全ての学年において、「おおむね達成」の基準を上回った。しかし、「十分達成」の基準を上回った学年は見られなかった。

 
(イ)

評価の観点別正答率

①中学2年生

図1 H23年度(中学2年生理科)評価の観点別正答率

中学2年生は、全ての観点において、「おおむね達成」の基準を上回ったが、「十分達成」の基準には届かなかった。しかし、「技能・表現」は、「おおむね達成」を1.4ポイントしか上回っていない。凸レンズの焦点距離を調べる方法やエタノールを同定する方法等、第1分野の正答率が「おおむね達成」の基準を36.2ポイント下回っていたためであると考えられる。

②中学3年生

図2 H23年度(中学3年生理科)評価の観点別正答率

中学3年生は、「技能・表現」と「知識・理解」は、「おおむね達成」の基準を上回ったが、「十分達成」の基準には届かなかった。 「科学的な思考」は、「おおむね達成」の基準を下回った。観察や実験の結果をグラフや表で表したり、それらを分析・解釈して自分の言葉で表したりする力が十分に育成されていないためと考えられる。

 
(ウ)

内容・領域別正答率

①中学2年生

図3 H23年度(中学2年生理科)内容・領域別正答率

中学2年生は、「植物の生活と種類」「身近な物理現象」「身の回りの物質」において、「おおむね達成」の基準を上回ったが、「十分達成」の基準には届かなかった。 「大地の成り立ちと変化」は、平成22年度調査と同じく、「おおむね達成」の基準を下回った。「大地の成り立ちと変化」は、学年末に学習することが多く、定期テストや確認テスト等で学習内容が生徒一人一人に定着しているかの評価と、それに対する指導が十分に行われていないことも原因の1つと考えられる。

②中学3年生

図4 H23年度(中学3年生理科)内容・領域別正答率

中学3年生は、全ての内容・領域において「おおむね達成」の基準を上回ったが、「十分達成」の基準には届かなかった。 しかし、「電流とその利用」は、「おおむね達成」の基準を0.9ポイントしか上回っていない。「電流とその利用」は、回路と電流・電圧・抵抗の関係について、自分の考えを文章で記述したり、具体的な数値で示したりする問題が多く、正答率が「おおむね達成」の基準を下回っている問題が多かったためと考えられる。

   

経年比較 

 

中学校理科では、各学年で学習する内容・領域が決まっており、指導法改善の取り組みも内容・領域によってちがいが見られる。そこで、平成23年度と平成22年度の同一学年の生徒を対象に経年比較することとした。

   
(ア)

「知識・理解」の経年比較

H23中学2年生とH22中学2年生

図7 H23年度(中学2年生理科)、H22年度(中学2年生理科)「知識・理解」の正答率の

経年比較

平成22年度は「おおむね達成」の基準を下回っていた。しかし、平成23年度は、「十分達成」の基準には届かなかったものの、「おおむね達成」の基準は上回った。生徒がつまずきやすい内容の確実な習得を図るため、増加した理科の授業時間を使って繰り返し学習を行った成果の1つが、この「知識・理解」の経年比較の結果に現れたと考えられる。

②H23中学3年生とH22中学3年生

図8 H23年度(中学3年生理科)、H22年度(中学3年生理科)「知識・理解」の正答率の

経年比較

平成23年度は、平成22年度と同様に、「おおむね達成」の基準を上回ったが、「十分達成」の基準には届かなかった。今後とも、習得させるべき学習内容が生徒に確実に定着しているかを確かめる評価と指導の充実に、より一層取り組んでいかなければならないと考える。

   
(イ)

「活用」に関する問題の経年比較
H23中学2年生とH22中学2年生

図5 H23年度(中学2年生理科)、H22年度(中学2年生理科)「活用」に関する問題の

正答率の経年比較

平成22年度は「おおむね達成」の基準を上回っていたが、「十分達成」の基準には届かなかった。しかし、平成23年度は、「おおむね達成」の基準を下回った。その原因として、平成23年度は、平成22年度と比べて、図や表、グラフを分析・解釈する問題が多く出されていたことから、資料から適切に情報を取り出し根拠を踏まえて解釈を述べる力が、生徒に身に付いていないためであると考えられる。

 

H23中学3年生とH22中学3年生

図6 H23年度(中学3年生理科)、H22年度(中学3年生理科)「活用」に関する問題の

正答率の経年比較

平成23年度も、平成22年度と同様に、「おおむね達成」の基準を上回ったが、「十分達成」の基準には届かなかった。今後とも、知識や技能を活用して課題を解決する学習活動の充実に、より一層取り組んでいかなければならないと考える。

 
設問ごとに見た傾向と指導法改善の手立て
  平成23年度の調査で、正答率が「おおむね達成」の基準を上回った「知識・理解」と、正答率が「おおむね達成」の基準を下回った「活用」に関する問題と「科学的な思考」について、分析を行った。
   
傾向1

「知識・理解」に関する問題の正答率は「おおむね達成」の基準を上回る。特に、中学2年生の正答率は、前年度と比べて上昇。

[中学2年生 大問9の(4)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率50.0に対して、正答率は52.5であり、2.5ポイント上回った。平成22年度の同じ問題では、「おおむね達成」の期待正答率55.0に対して、正答率は45.7であった。また、平成23年度調査(中2理科)では、「知識・理解」の問題の13問中10問が「おおむね達成」の期待正答率を上回った。平成23年度は、昨年度の結果を踏まえ、生徒がつまずきやすい内容の確実な習得を図るための繰り返し学習を、増加した理科の授業時間を使って効果的に行ったためであると考えられる。


○ 指導法改善の手立て

地震による土地の変化については、実験で再現することが困難なものが多い。そこで、実際に発生した地震の時の写真やビデオ等の資料、コンピュータや模型等を使ったシミュレーションを活用することが、生徒の知識・理解の定着に有効であると考えられる。また、新聞やインターネット等で地震に関する記事を調べさせることにより、地震の学習に対する生徒の興味・関心をより一層高め、知識・理解の確実な定着を図ることができると考える。

[中学3年生 大問7の(3)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「十分達成」の期待正答率70.0に対して、正答率は75.7で、5.7ポイント上回った。無解答率は1.3であった。密閉容器としてペットボトルを使った実験が授業中によく行われているため、質量保存の法則につての知識・理解の定着が図られていると考える。また、二酸化炭素は小学校の学習でも扱われている身近な気体であり、その性質が生徒によく知られているためであるとも考えられる。
○ 指導法改善の手立て

観察・実験におけるTTや少人数指導などのきめ細かな指導が、生徒一人一人の観察・実験の技能の向上そして基礎的・基本的な内容の確実な定着に効果を上げていると考えられる。今回の学習指導要領の改訂により増加した授業時間を使って、生徒による観察・実験のより一層の充実を図っていくことにより、知識・理解のさらなる定着を図ることができると考える。
   
傾向2

「活用」に関する問題に課題が見られる。資料から適切に情報を取り出し根拠を踏まえて解釈を述べる力が不足。

[中学3年生 大問10の(4)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率40.0に対して、正答率は26.9であり、13.1ポイント下回った。無解答率は25.7であった。冬の季節風が日本海を渡るときに吸収する水蒸気と日本海側で降る大雪との関係について、問題文から読み取り、自分の言葉で説明することができなかったためであると考えられる。
○ 指導法改善の手立て

各地の気温・湿度や降水量の気象データ、天気図などの資料を使って、実際の天気を説明させたり予想させたりする学習は、資料から必要な情報を取り出し根拠を踏まえて解釈を述べる力を育成するために有効であると考える。

[中学2年生 大問6の(2)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率40.0に対して、正答率は22.4であり、17.6ポイント下回った。水は100℃、エタノールは78℃で沸とうし、沸とう中の温度つまり沸点は一定になることは理解している。しかし、それらの混合液は沸とう中も温度が上昇するため、沸点は一定にならないことを説明することができなかったためであると考えられる。
○ 指導法改善の手立て

身近にある赤ワインやみりんなどの混合物からエタノールを分離する実験を通して、純粋な物質と混合物の沸点の違いについて説明させる学習を行うことは、資料から必要な情報を取り出し根拠を踏まえて解釈を述べる力を育成するために有効であると考える。また、沸点の違いを利用して石油から様々な物質を取り出していることを例に取り上げ、日常生活や社会との関連について触れることは、「活用」に関する問題の正答率の向上に効果があると考える。

   
傾向3

「科学的な思考」に関する問題に課題が見られる。観察や実験の結果を原理や法則等を使って説明する力が不足。

[中学3年生 大問3の(3)直列、並列]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

問3(3)直列は、「おおむね達成」の期待正答率45.0に対して、正答率は18.6であり、26.4ポイント下回った。無解答率は、29.3であった。また、問3(3)並列は、「おおむね達成」の期待正答率45.0に対し、正答率は14.0であり、31.0ポイント下回った。無解答率は30.7であった。< style="margin-top: 0; margin-bottom: 0;">2つの抵抗を直列や並列につないだときの回路全体の抵抗については、直列つなぎや並列つなぎにおける回路全体の電流と電圧を使って考えることができなかったためであると考えられる。

○ 指導法改善の手立て

2つの抵抗を直列と並列につないだときの合成抵抗の違いを説明するためには、生徒自身が観察や実験で得られた結果を分析し解釈し、電流や電圧、抵抗についての規則性を見出すことが必要であると考えられる。そこで、生徒自身にどのような結果になるかを予想させてから観察や実験を行わせるような授業を繰り返し行うことが重要であると考える。

[中学2年生 大問3の(2)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率40.0に対して、正答率は24.1であり、15.9ポイント下回った。光源と実像の大きさが同じになるとき、凸レンズと光源の距離が焦点距離の2倍になることを実験で確認し、その理由を作図等を使って説明することができなかったためであると考えられる。
○ 指導法改善の手立て

まず、生徒実験を通して、光源と凸レンズの距離を変え、実像や虚像ができる条件を調べさせ、像の位置や大きさ、像の向きについての規則性を定性的に見いださせる。次に、その結果を、光の直進や屈折を考えさせながら、光の道筋を作図させる。最後に、その図を使って生徒に自分の言葉で説明させる。このように、きめ細かなステップを取り入れた学習を展開することが重要であると考える。

 

これからの指導に向けて
 

今回の調査では、自然事象についての「知識・理解」や観察・実験の「技能・表現」など、基礎的・基本的な内容については良好であった。しかし、「科学的な思考」に関する問題や「活用」に関する問題について課題が見られた。この課題を解決するためには、科学的な思考力・表現力の育成を図る授業を展開することが重要である。また、 児童生徒意識調査において、理科学習の有用性に課題が見られたことから、科学的な体験や自然体験の充実を図るための取り組みを行うことも重要なことである。

そこで、次の3つの点を大切にして、これからの指導に取り組む必要がある。

(ア) 探究的な学習の充実
科学的な思考力や表現力を育成するためには、生徒自らが課題を解決する探究的な学習の充実を図ることが重要である。

探究的な学習には、①「問題を見いだし観察や実験を計画する学習活動」、②「観察や実験の結果を分析し解釈する学習活動」、③「科学的な概念を使用して考えたり説明したりする学習活動」等が考えられる。①の学習活動の充実を図ることは、生徒が自然の事物・現象に進んで関わるために大切である。そのためには、観察や実験を計画する場面で、考えを発表する機会を与えたり、検証方法を討論したりしながら考えを深め合う等の学習活動が考えられる。②の学習活動の充実を図ることは、思考力や表現力を育成するためにも重要である。そのためには、データを図、表、グラフなどで表したり、結果を考察したりする時間を十分に確保することが大切である。③の学習活動の充実を図ることも、思考力や表現力の育成を図る観点から大切である。そのためには、例えばレポートの作成、発表、討論等、知識や技能を活用する学習活動を工夫し充実を図る必要がある。

(イ) 個に応じたきめ細かな指導と評価の充実
科学的な思考力や表現力を育成するためには、個に応じたきめ細かな指導と評価を充実させることが重要である。

まず、基礎的・基本的な内容が確実に定着しているかを確かめる評価を行う。次に、達成できていない内容について補充的な指導を行い、確実な習得を図る。最後に、習得した基礎的・基本的な内容を活用し、科学的に探究する学習活動に取り組ませる。つまり、「指導と評価の一体化」を、今一度、徹底することが大切である。 その際、授業中の観察やノートの点検、小テストの実施などの「短いフィードバック・サイクル」によるものと、単元末の確認テストや定期テスト・実力テストのやり直しなどの「長いフィードバック・サイクル」によるものを組み合わせて行うことが重要であると考える。個に応じたきめ細かな指導を全学年で継続的に取り組んでいくことが大切である。

(ウ) 科学的な体験や自然体験の充実を図るためのものづくりの推進

児童生徒意識で、「理科の勉強で学習したことは将来、社会に出たときに役立つか。」という質問に対して、「当てはまる」と回答した生徒の割合は、中学1年生37.9%、中学2年生23.5%、中学3年生19.5%であった。このことは、学年が上がるにつれて、理科学習の有用性を実感している生徒の割合が減少していることを示していると考えられる。

そこで、理科学習の有用性を生徒に実感させるためには、科学的な体験や自然体験の充実を図るためのものづくりを授業に取り入れることは有効であると考える。特に、ものづくりは、学習内容と日常生活との関連を図る上でも有効な学習活動の一つであると考える。
そこで、ものづくりを授業に取り入れるに当たっては、単元の導入、展開、まとめのどの部分に取り入れるのが最も効果的か、単元の学習内容の特質に応じて計画的に判断し行うことが重要であると考える。あくまでも原理・法則の理解を深めることが目的である。高度なものや複雑なものではなく、生徒が創意・工夫する余地のあるもの、安価で全ての生徒に材料が行き渡るものが、ものづくりの教材として望ましいと考える。なお、安全には十分配慮して行わなければならない。

   
授業実践に参考となるリンク
   
 
   
 

最終更新日: 2011-10-07