平成23年度佐賀県小・中学校学習状況調査Web報告書

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Ⅲ 各教科の調査結果の分析   

中学校英語

  1~2文程度の英語を書く活動の充実

全ての評価の観点、内容・領域において、「おおむね達成」の基準を上回る成果が見られた。特に、中学2年生は「聞くこと」及び「読むこと」の領域で、中学3年生は「聞くこと」の領域で「十分達成」の基準を上回った。「書くこと」の領域では、学年が上がっても「要努力」の生徒の割合は増えなかったが、依然として英作文の得意な生徒と苦手な生徒の二極化傾向が見られ、語順などに注意して正しく書くことに課題がある。今後の指導に当たっては、自分の考えや気持ちを1~2文程度の英語で書くなど、引き続き書く活動を日常的に取り入れた授業づくりが必要である。

この後、評価の観点については、以下のように記す。

 ○コミュニケーションへの関心・意欲・態度

 ○表現の能力

 ○理解の能力

 ○言語や文化についての知識・理解

本調査では設定なし

「表現」

「理解」

「言語・文化」

 

 

結果の概要
 
(ア)
教科全体及び設問毎正答率
 
教科全体正答率 各種グラフ

正答率ごとの分布

観点別達成状況 

内容・領域別達成状況 

基礎と発展の比較

「活用」に関する問題

設問ごと正答率

 

教科全体正答率では、中学2年生が「十分達成」の基準を上回っており、中学3年生が「おおむね達成」の基準を上回った。このことを設問毎で見ると、中学2年生の大問11のような、まとまった英文を書く設問の正答率が平成22年度調査と比べて向上しており、書くことに対する指導が成果として表れている。

 
(イ)

評価の観点別正答率

①中学2年生

図1 H23年度(中学2年生英語)評価の観点別正答率

全ての観点で「おおむね達成」の基準を上回った。特に、「理解」の観点が「十分達成」の基準を上回った。英語で話された内容から、時間、場所、用件などの具体的な情報を正しく聞き取る能力が身に付いている。しかし、英文を正しい語順に並べる問題については定着が十分ではないと考えられる。

中学3年生

図2 H23年度(中学3年生英語)評価の観点別正答率 

全ての観点で「おおむね達成」の基準を上回った。特に、「言語・文化」の観点では、単語を正しく聞き取ったり、文法に従って正しい語順にする力が定着している。しかし、「表現」の観点では、それらの知識を場面や条件に合うように書く力を付けることには課題が見られた。

 
(ウ)

内容・領域別正答率

中学2年生及び中学3年生のどちらも、「聞くこと」の領域で「十分達成」の基準を上回った。

①中学2年生

図3 H23年度(中学2年生英語)内容・領域別正答率

「聞くこと」及び「読むこと」については「十分達成」の基準を上回った。「書くこと」については、与えられたテーマなどについて自分の考えを書く力は付いているが、文法のきまりに従って正しい語順で書く力が付いていないことが考えられる。既習文法を繰り返し指導して定着を図る指導が必要である。

②中学3年生

図4 H23年度(中学3年生英語)内容・領域別正答率

「聞くこと」については「十分達成」の基準を上回り、良好だった。しかし、「読むこと」については、1文1文の読み取りはできても、前後の文脈を捉えて、対話の流れや概要を理解する問題に課題がある。「書くこと」については、疑問詞を含んだ英語での質問に対して、自分の考えや気持ちを簡単な英語で答える問題は、誤答率や無解答率が高く、日常の授業での書く活動の取り組みが必要である。

   

経年比較 

 

定着に差が出やすい「書くこと」の領域について、同一学年の経年比較(平成22年度中学2年生と平成23年度中学2年生)及び同一生徒の経年比較(平成22年度2年生と平成23年度中学3年生)を行い、「要努力」の割合の変容を分析した。さらに、具体的な問題で変容を分析するために、まとまった英文を書く力を見る問題と英語の質問に簡単な英語で答える問題で経年比較を行った。

   
(ア)

「書くこと」の領域での経年比較
①同一学年経年比較

図5 H23年度(中学2年生)、H22年度(中学3年生)の「書くこと」の内容・領域別

の到達度分布の経年比較

「要努力」の割合に注目すると、平成23年度は前年よりも18.5ポイント減少した。

   

















 

同一生徒経年比較

図6 H23年度(中学3年生)、H22年度(中学2年生)の「書くこと」の内容・領域別の

到達度分布の経年比較

「要努力」の割合に注目すると、平成23年度の「要努力」の割合は前年よりも3.2ポイント減少している。このことから、「書くこと」を苦手としている中学3年生の割合が、やや減少していると言える。

図7 H22年度(中学3年生)、H21年度(中学2年生)「書くこと」の内容・領域別の

到達度分布の経年比較

平成22年度の「要努力」の中学3年生は57.3%だった。中学2年生の「要努力」が44.7%だったことから、学年が上がるにつれて、「書くこと」を苦手にする生徒が増えていくことが分かる。平成21年度以前についても同傾向が見られた。図6と図7の比較を通して、「『書くこと』を苦手とする生徒は学年が上がるにつれて増える」という傾向が、今年度の中学3年生には見られないことが分かる。

中学2年生の同一学年経年比較と中学3年生の同一生徒経年比較を通して、「書くこと」を苦手にしている生徒の割合が減少している。

   
(イ)

設問ごとの経年比較

まとまった英文を書く力を見る問題

図8 H23年度(中学3年生の問11)、H22年度(中学3年生の問10)正答率の経年比較

中学3年生が英語で自分の考えや気持ちを書く問題である。平成23年度は「おおむね達成」の基準を上回った。テーマが異なるために単純に比較はできないが、平成22年度と比較しても県正答率が上昇している。なお、無解答率が上昇しているのは、テーマについての書きやすさによるところが大きく、定着に差がついてきたとは言えない。

図9 H23年度(中学2年生の問11)、H22年度(中学2年生の問10)正答率の経年比較

中学2年生が英語で自分の考えや気持ちを書く問題である。平成23年度は「十分達成」の基準を上回った。文の数の条件が異なるために単純に比較はできないが、平成22年度と比較しても県正答率が上昇している。なお、無解答率が下がったのは、文の条件が異なるためであって、定着の差がつかなくなったとは言えない。

図8と図9から、まとまった英文を書く力は、中学2年生と中学3年生ともに少しずつ身に付いてきていると言える。

英語の質問に簡単な英語で答える問題

図10 H23年度(中学3年生問9(2))、H22年度(中学2年生問8(2))正答率の経年比較

中学3年生が英語の質問に簡単な英語で答える問題である。平成22・23年度共に「おおむね達成」の基準を下回っている。しかし、平成22年度と比較して、県正答率が上昇している。

図11 H23年度(中学2年生問9(1))、H22年度(中学2年生問8(1))正答率の経年比較

中学2年生がcanを使って自分ができることを英語で答える問題である。平成22・23年度共に「十分達成」の基準を上回っている。また、正答率が2.9ポイント上昇している。

図10と図11から、英語の質問に簡単な英語で答える力も少しずつ身に付いてきていると言える。

以上のことから、「書くこと」については「要努力」の生徒が少なくなり、まとまった英文や簡単な英文などを書く力が少しずつ身に付いてきたと考えられる。

   
設問ごとに見た傾向と指導法改善の手立て
  今年度の調査で、正答率が低かった問題について、「正しい語順」、「簡単な自己表現」及び「概要の読み取り」について分析を行った。
   
傾向1

正しい語順で書くことに課題がある。

[中学2年生 大問10の(1)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率50.0に対して、正答率は22.5であり、27.5ポイント下回った。前年度調査の同趣旨の問題(Which bag is yours?の並べ替え)も「おおむね達成」の期待正答率50.0を下回っており(正答率44.1)、改善が必要である。中学1年生では全ての疑問詞を一通り学習するが、知識として疑問詞の意味は知っているが、普段の授業で実際に使う場面が不足しているために、定着していないと考えられる。
○ 指導法改善の手立て

定着を図るために、何度も口頭練習を繰り返して定着を図る方法が一つあるが、"What color do you like?"と"What do you do after school?"を使い分ける力を身に付けるには、普段の授業で実際に使う場面を設定する必要がある。例えば"What am I?"ゲームなど、質問が出しやすい言語活動が効果的である。ただし、聞いたり話したりする言語活動だけでは、正しい語順を意識させることは難しい。そこで、質問することをノートやワークシートに書く活動を一つ取り入れると、定着しやすいと思われる。

[中学3年生 大問8の(3)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率50.0に対して、正答率は45.1であり、4.9ポイント下回った。教科書では"Show(Give) me your ~."など命令文で取り扱われることが多いため、「主語+動詞+間接目的語+名詞」という文構造は定着に時間が掛かる。
○ 指導法改善の手立て

この文構造を新出文法事項として導入するときは、命令文で取り扱うことが有効である。しかし、"I'll show you my picture."や"I'll tell you an interesting story."など I から始まることも多いため、既習文法として復習することができるように、スピーチ原稿などで使うように仕組むことが大切である。

   
傾向2

自分の気持ちや考えを条件に即して簡単な英語で書くことには課題がある。

[中学2年生 大問9の(2)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率40.0に対して、正答率は41.6であり、1.6ポイント上回った。前年度調査の同趣旨の問題(昨日したことをIから始まる英文で書く)も「おおむね達成」の期待正答率45.0を下回っており(正答率41.3)、改善が必要である。過去形は中学1年生の3学期に学習することが多く、現在進行形を学習する時期と重なるため、定着に時間が掛かることが原因の1つと考えられる。
○ 指導法改善の手立て

動詞の形については、定着に時間が掛かるため、関連のある文法事項はまとまりをもって整理する必要がある。例えば、過去形の指導の後に、現在形と関連付けて時制として整理する方法がある。具体的な活動としては、「一日の生活」というテーマで"I get to school at eight."など現在形で書かせた後に、その英文を使って「昨日一日の生活」というテーマで書かせる指導を行う。このときに、教師から説明をするのではなく、生徒同士のペア活動を行い、生徒に気付かせる活動にすることが大切である。

[中学3年生 大問9の(1)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率40.0に対して、正答率は38.2であり、1.8ポイント下回った。中学2年生の1学期に学習することが多く、その後の言語活動で実際に使用する場面がないために定着に時間が掛かると思われる。
○ 指導法改善の手立て

未来形は中学2年生の1学期に学習することが多い。実際の授業では、夏休みの予定について英語でスピーチする言語活動がよく行われている。大切なことは、この後でも、未来形を含む英文を実際に使う場面を設定することである。例えば、「将来の夢」、「私の住む町」、「私の好きなもの」など自分のことを英語でスピーチしたり書いたりする言語活動を行うときに、"I'm going to talk about ...."から始めるようにするだけでも定着しやすくなる。また、ALTが授業に参加するときには、授業冒頭のフリートークで“What are you going to do during winter vacation?”などの質問を取り入れるなどして、使用場面を増やすことが必要である。

   
傾向3

前後の文脈を捉えて、対話の流れや概要を理解する問題に課題がある。

[中学3年生 大問5の(1)(2)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率45.0に対し正答率は、大問5(1)が47.2で2.2ポイント上回り、大問5(2)が23.5で21.5ポイント下回った。大問5(1)は場所を示す英文"We'll meet here."のhereがどこかを正しく理解していないことと、時間を示す英文"It's one o'clock now."と"you have free time for three hours."を統合して集合時刻が4時だという理解ができないことが原因である。また、大問5(2)は"I went to the park with my dog after lunch."という英文で、前後の文脈を捉えて、昼食と公園に行くのはどちらが先か理解できていないことが原因の1つと考えられる。
○ 指導法改善の手立て

一文一文を丁寧に読み取っていく指導が必要な場面はあるが、不要な情報も含めたたくさんの情報の中から、自分に必要な情報だけをつなげて統合し、判断する場面もある。教科書の本文を指導するときには、全ての英文を一文一文訳するのではなく、概要を読み取る程度に留めた指導も必要である。
   
これからの指導に向けて
 

来年度から英語の授業が週3時間から4時間に増加する。指導すべき文法事項等は従来のままであることから、コミュニケーション能力の育成を目指した言語活動の充実が今まで以上に求められる。指導に当たっては、増えた1時間を全て文法のまとめに使うのではなく、ドリル的な口頭練習で終わっていた新出表現をスピーチ活動などの発展学習に使うようにしたい。そこで、次の3点に留意してこれからの指導を行う必要がある。

(ア) I で始まる英文を書く指導

中学生の段階では、自分のことをどれだけ表現できるかが大切である。したがって、新しい表現を学習したときには、それを使った I で始まる英作文を書かせる指導が必要である。また、英文の量は、初めの時間は1文でよいが、次の時間には接続詞but, becauseなどを使って2文にするとよい。例えば、"I got up at seven in the morining, but I usually get up at six thirty."のように、過去形の英文を1文加える指導を行えば、現在形と過去形の動詞の形に着目させることができる。また、佐賀県教育センターの「中学校英語科プロジェクト研究」では、生徒に書かせる英文のテーマについて紹介されており、参考になる。

(イ) 使いながら文法の定着を図る指導

三単現のSという文法事項は英語教師でも不正確なときがある。実際の会話では、"John usually come here, uh, he usually comes here..."と使いながら自己修正することが多い。生徒たちも同じで、家族や好きなものをクラスの友達に紹介するときに、実際に使いながら自己修正をして三単現のSを学習することが望ましい。指導に当たっては、文法用語の解説や用法の区別などには最小限に留め、言語活動を通して定着を図ることが重要である。

(ウ) 概要を読み取る指導

ある程度まとまった長さの英文を読んで、大切な部分などを正確に読み取る力が求められている。指導に当たっては、一語一語の意味や一文一文の解釈などに多くの時間を掛けるのではなく、書き手の伝えようとすることを正確に読み取ることに焦点をしぼる必要がある。例えば、対話文であれば、登場人物を確認したり、時間の流れで区切って読んだりするなど、正確な読み取りのための配慮が必要である。

(エ) 「聞くこと」から「読むこと」「書くこと」への連結
聞く力を付ける指導に関しては、中学2年生及び中学3年生のどちらも「十分達成」の基準を上回っている。しかし、実生活では聞くことだけで完結する場面は少なく、聞いたことを基に自分の考えや思いを相手に伝える、いわゆるコミュニケーションを求められる場面が多い。このことを踏まえ、聞いた情報をメモなどに取り、それを自分の言葉に書き直して他の人に伝えるような言語活動を行い、「聞くこと」を基に「読むこと」や「書くこと」の力を高める必要がある。

   
授業実践に参考となるリンク
   
 
   
 

最終更新日: 2011-10-07