平成22年度佐賀県小・中学校学習状況調査Web報告書

Web報告書もくじⅢ 各教科の調査結果の分析>小学校算数

Ⅲ 各教科の調査結果の分析  

※中学1年生の調査については、小学6年生の学習内容としているため、小学校の項で分析している。

小学校算数

算数的活動を効果的に取り入れて、数学的な考え方を育てる授業づくり 

「数量や図形についての表現・処理」、「数量や図形についての知識・理解」の評価の観点別正答率及びほとんどの内容・領域別正答率において、「おおむね達成」の基準と同等か上回った。特に、中学1年生の「数量や図形についての表現・処理」の観点においては「十分達成」の基準を上回った。しかし、小学5年生、中学1年生ともに「数学的な考え方」の観点別正答率で「おおむね達成」の基準を下回り、「『活用』に関する問題」や「発展的・応用的問題」の正答率でも、小学5年生、中学1年生ともに「おおむね達成」の基準を下回っており、課題である。授業において算数的活動を充実させ、数量や図形について豊かな感覚を育てながら、基礎的・基本的な知識・技能を確実に定着させるとともに、思考力・判断力・表現力を高めることが必要である

この後、評価の観点については、次のように記す。

 ○算数への関心・意欲・態度 → 本調査では設定なし。

 ○数学的な考え方 → 「考え方」

 ○数量や図形についての表現・処理 → 「表現・処理」

 ○数量や図形についての知識・理解 → 「知識・理解」

結果の概要
 
(ア)
教科全体及び設問毎正答率
 
教科全体正答率 各種グラフ

正答率ごとの分布

観点別達成状況 

内容・領域別達成状況 

基礎と発展の比較

「活用」に関する問題

設問ごと正答率

 

教科全体正答率 各種グラフ

正答率ごとの分布

観点別達成状況 

内容・領域別達成状況 

基礎と発展の比較

「活用」に関する問題

設問ごと正答率

 

(イ)

評価の観点別正答率

①小学5年生

図1 H22年度 (小学5年生算数) 評価の観点別正答率

「表現・処理」の観点においては「おおむね達成」の基準を大きく上回った。「知識・理解」の観点においては「おおむね達成」の基準を若干上回っているが、これからの指導においても注意が必要である。また、「数学的な考え方」の観点においては「おおむね達成」の基準を下回っており、特に課題としては、「D数量関係」の領域で折れ線グラフの様子を読み取って説明する力が十分ではないことなどが挙げられる。

さらに、「知識・理解」の観点においても、課題として次の2点が挙げられる。

・「A数と計算」の領域で1より大きい分数の表し方の理解が十分ではない。

・「B量と測定」の領域でhaと㎡の関係の理解が十分ではない。

②中学1年生

図2 H22年度 (中学1年生数学) 評価の観点別正答率

「表現・処理」の観点では、「十分達成」の基準を上回り、「知識・理解」の観点でも「おおむね達成」の基準を大きく上回った。一方、「数学的な考え方」の観点においては、「おおむね達成」の基準を大きく下回っており、特に課題としては、次の3点が挙げられる。

・「D数量関係」の領域において、平均の考え方を用いて解決過程を説明する力が十分ではない。

・「D数量関係」の領域において、伴って変わる2つの量の規則性から数値を求める方法を説明する力が十分ではない。

・「C図形」の領域において、直径と円周の関係を理解し、適切に用いる力が十分ではない。

 

(ウ)

内容・領域別正答率

①小学5年生

図3 H22年度 (小学5年生算数) 内容・領域別正答率

「数と計算」、「量と測定」、「数量関係」領域は、「おおむね達成」の基準を上回る結果であったが、「図形」領域においては「おおむね達成」の基準を下回っており、課題としては、次の3点が挙げられる。

・敷き詰め模様から台形などの四角形を見つける力が十分ではない。

・直方体の立体からその展開図を考える力が十分ではない。

・平行四辺形の性質を生かして頂点の位置を考える力が十分ではない。

②中学1年生

図4 H22年度 (中学1年生数学) 内容・領域別正答率 

「数と計算」、「量と測定」、「図形」領域は、「おおむね達成」の基準を上回る結果であったが、「数量関係」領域においては、「おおむね達成」の基準を下回っており、課題としては次の2点が挙げられる。

・複数の資料から必要な情報を抽出し、割合の考え用いて解決する力が十分ではない。

・比の性質を活用して問題解決を図る力が十分ではない。



経年比較 

 

小学校6年間の学習の成果を考察するために、平成21年度と平成22年度の中学1年生に着目し、同一学年の経年比較を行った。

(ア)

「基礎的・基本的問題」の経年比較

中学1年生(同一学年)

図5 H21・22年度 (中学1年生数学) 「基礎的・基本的問題」正答率の経年比較

「基礎的・基本的問題」は、平成21年度は、「おおむね達成」の到達基準62.1に対して75.4であり、13.3ポイント上回っていた。今年度の定着状況を見ると、82.7で「十分達成」を上回っていた。経年的な定着状況は、良好で、昨年よりも改善傾向にあるといえる。

(イ)

「活用」に関する問題の経年比較

学1年生(同一学年)

図6  H21・22年度「活用」に関する問題正答率の経年比較

「活用」に関する問題は、平成21年度は「おおむね達成」の到達基準49.0に対して、正答率は52.7であり、3.7ポイント上回っていた。しかし、平成22年度では、「おおむね達成」の到達基準46.0に対して、正答率は24.5で、21.5ポイント下回り、下降傾向である。経年比較を通して見えてきた課題は、グラフの特徴や比の性質を活用しながら解決過程等を言葉や式で記述することなど、生徒の数学的な思考力・判断力・表現力を育成していくことである。

 


設問ごとに見た傾向と指導法改善の手立て  


今年度の調査で、正答率が低かった問題と無解答率が高かった問題について、「基礎的・基本的な知識・技能の定着」と「数学的な思考力・判断力・表現力の育成」の2つの視点で、分析を行った。


傾向1

図形や数量などについての基礎的・基本的な知識・技能は、ある程度身に付いているが、一部の設問において定着に課題が見られる。

[小学5年生 大問1の(3)]  

○ 問題の概要 


○ 解答状況

1位数÷1位数を行い、割り切れるまで割り進んでいくという問題で、正答率は38.8と「おおむね達成」の期待正答率65.0を下回っている。無解答率は3.4である。割り進めて商を小数第一位に立てることができなかったり、小数点を打ち忘れたりしたことが要因であると考える。

○ 指導法改善の手立て

計算を行う際には、商の見積もりをすることが必要となってくる。また、問題の意味に合うように割り進めて、小数点を打つことも忘れないように指導することが必要である。小数点を打ち忘れたときに商の見積もりとの違いに気付かせるような指導も大切である。また、筆算を行う際には6を6.0とみて計算する工夫にも児童に気付かせて、計算練習等に取り組ませる必要がある。

[小学5年生 大問4の(2)]  

○ 問題の概要 

○ 解答状況

1リットルを超える水のかさを分数で求める問題で、30.6と「おおむね達成」の期待正答率55.0を大きく下回っている。誤答としては、「オ 7/10リットル」を選択する児童が多かったと思われる。これは、分数は単位分数のいくつ分かで表すことができることを十分に理解できていないためだと考えられる。


○ 指導法改善の手立て

児童は、「分数は、いくつかに分けたうちのいくつ分」というイメージはもっている。しかし、本問題の正答率から考えると、「何をいくつに分けたうちのいくつ分」の「何を」に当たる「基準」に目を向けていないことが予想される。分数の大きさを求める場合、「単位分数」のもととなる「基準」をいつも意識させるような指導をする必要がある。例えば、「5/3は1/3の5こ分」というように、児童が図と言葉を結び付けて説明できるようにする指導が必要となってくる。

 

傾向2     

基礎的・基本的な知識・技能を活用することに課題がある。


[小学5年生 大問9]  
○ 問題の概要 

○ 解答状況

合同な正三角形を敷き詰め、その中にできる四角形(正三角形を2枚以上組み合わせた四角形)を選択肢の中からすべて選ばせる問題であった。正答率は36.2と「おおむね達成」の期待正答率45.0を下回る結果となった。原因としては、ひし形や平行四辺形を選択ししたものの、台形を選択しなかったことが考えられる。


○ 指導法改善の手立て

本問題では、合同な正三角形を敷き詰めた模様であることをしっかりと理解することが大切である。また、辺の長さや辺の並び方に着目させるとともに、いろいろな四角形の性質を基にして判断する力が必要である。そこで、「C図形」の領域の指導に当たっては、図形の構成要素に着目させて性質を見いださせたり、その理由を説明させたりすることが大切である。

[小学5年生 大問13]  
○ 問題の概要 

○ 解答状況

太郎さんの家を出発してコンビニエンスストアに途中寄り、郵便局に行くまでの時間と進んだ道のりとの関係を表すグラフを選び、選択した理由を記述させる問題であった。グラフを選択する問題の正答率は47.3と、「おおむね達成」の期待正答率55.0を下回り、さらに選択理由を記述する問題の正答率は20.0と、「おおむね達成」の期待正答率45.0を大きく下回った。また、選択理由を記述する問題での無解答率は13.3と高かった。自分の考えを筋道を立てて論理的に説明することに課題がある。


○ 指導法改善の手立て

本問題は、時間と道のりの関係をグラフに表現したものである。自転車で進んでいるときは、時間がたつにつれて道のりが長くなることや、コンビニエンスストアに立ち寄ったことに着目してグラフを読み取ることが大切である。また、そのグラフの特徴をとらえて記述するなど、日ごろの授業の中で身に付けさせていく必要があると考える。児童は、理解していることでも、それを相手に伝えるためには「何を」「どのように」記述すればよいのかを考え、論理的に表現する力を付けさせなければならない。さらに、児童には授業中に考えを述べるときは、問われていることに対して適切に答えられているかということを常に意識させることが大切であり、発表する前に自分の考えをノートに記述するなどの活動を取り入れることも効果的である。

 

[中学1年生 大問3]  

○ 問題の概要 

○ 解答状況

縦と横の長さの比が3:5の長方形の旗を作るために縦45センチメートル、横65センチメートルの長方形の布からできるだけ大きな旗を作るために長さをどのように設定すればよいかという問題であった。正答率は19.2と「おおむね達成」の期待正答率50.0を大きく下回っている。また、無解答率も12.1であった。問題の意味が理解できなかったり、比の性質を理解できていなかったりしたことが要因だと思われる。


○ 指導法改善の手立て

この問題では、問題の意味をきちんと理解できるように問題をよく読んで条件を理解することが重要となってくる。また、比の基本的な理解ができるように「たてと横の長さの比が3:5でたての長さが30㎝のときの横の長さを求めましょう。」といった基本的な問題が解けるように、比の性質を理解させる必要がある。そのようなことを踏まえて、縦を最大限に取った場合と横を最大限に取った場合で旗の面積を比べるといった、自分の解決過程を振り返る活動を、日ごろの授業においても取り組ませることが重要となってくる。さらに、計算をして解決することも大切な要素となってくるので、計算力を培っていく手立ても必要である。

[中学1年生 大問6]  

○ 問題の概要 

○ 解答状況

ソフトボール投げの場面で、4回投げた距離の平均を踏まえて条件に合うように5回目の距離を考え、式や言葉で説明させる問題であった。正答率は28.5と「おおむね達成」の期待正答率45.0を下回っている。また、無解答率が36.0と非常に高かった。平均の考えが十分に理解できていなかったり、考えを論理的に説明することがうまくできていなかったりしたためと思われる。


○ 指導法改善の手立て

まずは、平均の考え方を身近な題材を使って、理解させることが重要である。また、この問題は平均値を求めるような問題とは異なり、なぜこのような答えになるのかという理由を踏まえ,これをどのように論理的に説明するかということを考えさせる問題である。日々の授業の中で、自分の考えを図や式、言葉を使って適切に説明するなどの活動を取り入れ、友達に説明させることを積み重ねていくことが大切である。その際、自己評価や相互評価等を取り入れて自分の表現を見直させたり、説明を工夫させたりして、論理的に説明する力を付けていくことが必要である。

 

[中学1年生 大問14]  

○ 問題の概要 

○ 解答状況

あるケーキ店の月別売り上げに関する資料で棒グラフ、円グラフ、値段表の3つを関連付けて解決する問題であった。小問(1)の8月の売り上げが一番多かったケーキを選択する問題の正答率は9.1と「おおむね達成」の期待正答率50.0を大きく下回る結果となった。また、小問(2)の8月に売れたイチゴショートの個数を考える問題の正答率は8.7であった。条件に合うグラフを読み取り、複数の資料を関連付けて解決することに課題が見られる。

○ 指導法改善の手立て

この問題では、棒グラフや円グラフなどの複数の資料を関連付けて読み取らせることが大切な課題である。算数科だけでなく、社会科などでもこれらの内容を意識した指導が必要となってくる。また、割合の考え方も重要となり、「~の~%は~」という関係を確実に理解するとともに、実際の数値を求めることができるように指導することも大切である。さらに、計算する際、桁数が大きい場合も計算の工夫を行うなどの力が必要となってくるので、日ごろの計算練習などにおいても、意図的に桁数が大きい問題に取り組ませることが必要となってくる。

 

これからの指導に向けて
 


今回の調査によって明らかになった課題は、算数的活動を一層充実させ、基礎的・基本的な知識・技能を確実に身に付け、それらを基にして解決していくような思考力・判断力・表現力を育てていくことである。そのためには、基礎的・基本的な知識・技能を身に付けさせ、それらを基に発展的・応用的に考えたりする活動や、考えたことを適切に表現したり、説明したりするような算数科における言語活動を充実させることが大切だと考える。

ア 基礎的・基本的な知識・技能の定着

算数科の内容は、系統性や学習の連続性が明確な教科である。日々の授業の中で、児童は基礎的・基本的な知識・技能を身に付け、それらを基にして新たな知識・技能を積み上げていくことになる。そのような観点から教師は、1時間1時間の授業を大切にし、児童に確実に基礎的・基本的な知識を定着させなければならない。

そこで、

・単に知識として覚えさせるのではなく、児童が思考活動を繰り返しながら新しい知識を生み出すような授業を目指していくこと。

・獲得した基礎的・基本的な知識・技能を定着させるために、練習問題(適用問題や応用問題)やドリルなどに取り組ませていくこと。

・学習したことを日常生活に活用させるような問題にも取り組ませ、基礎的・基本的な知識・技能をより一層定着させること。

以上のようなことを配慮する必要がある。

イ 考えを表現し、説明する活動を通した思考力・判断力・表現力の育成

 算数科において、考えを表現したり、説明したりする力を児童に身に付けさせることは日々の授業の積み重ねがあって初めてできることである。そこで、
・課題に対して考えたことをブロックやおはじきなどの具体物を実際に動かしたり、絵や図、グラフ、表などを使ったりしながら、自分の考えを表現する活動。

・課題に沿うように、式や言葉などを使って適切に表現する活動。

・隣の友達などに、ブロックなどの具体物を操作したり、ノートやワークシートに書いたりしたものを基にわかりやすく説明する活動。

・相手からの説明を聞いて、よく分からなかったことをもう一度聞き直したり、説明のよかったところを知らせたりする活動。

・話し合いを通して、友達の考えのよさをクラス全員で検討し、深めていく活動。

・友達の考えのよさを使って適用題や応用題、生活とつなげるような問題に取り組む活動。

このような活動を繰り返すことによって、児童の思考力・判断力・表現力がはぐくむことが重要である。


授業実践に参考となるリンク
   
 
   
 

最終更新日: 2011-1-31