平成22年度佐賀県小・中学校学習状況調査Web報告書

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Ⅲ 各教科の調査結果の分析   

※中学1年生の調査については、小学6年生の学習内容としているため、小学校の項で分析している。

中学校国語

「自分の考えの形成」に導く言語活動の充実を

中学2年生全体としては、「十分達成」の到達基準68.8に対して、71.0であり、2.2ポイント上回っており、良好な定着状況が見られた。これは、日ごろ行われている教科全般における指導法の工夫が成果となって表れていると言える。そして、「授業がわかる」、「楽しい」という生徒の意識と教師の指導との相乗効果があったと考えられる。ただ、内容・領域では「読むこと」に課題が多い。また、設問毎に見ていくと、内容・領域のすべてにおいて、自分の考えの形成に課題があるという実態が見られる。今後は、授業における言語活動の充実の核として、自分の考えをまとめる活動を位置付ける必要がある。

この後、評価の観点については、以下のように記す。

○国語への関心・意欲・態度 → 本調査では設定なし。

○話す・聞く能力 → 「話す・聞く」

○書く能力 → 「書く」

○読む能力 → 「読む」

○言語についての知識・理解・技能 → 「知識・理解・技能」


結果の概要
 
(ア)
教科全体及び設問毎正答率
 
教科全体正答率 各種グラフ

正答率ごとの分布

観点別達成状況 

内容・領域別達成状況 

基礎と発展の比較

「活用」に関する問題

設問ごと正答率

評価の観点と内容・領域が重なるという教科の特質上、以後は「話す・聞く」=「話すこと・聞くこと」、「書く」=「書くこと」、「読む」=「読むこと」、「知識・理解・技能」=「言語事項」として分析する。なお「言語事項」については、必要に応じてさらに「漢字の読み」、「漢字の書き」、「語句に関する知識」に分けて見ていくこととする。

 

(イ)

評価の観点別正答率

中学2年生

図1 H22年度 (中学2年生国語) 評価の観点別正答率

(ウ)

内容・領域別正答率

中学2年生

 図2 H22年度 (中学2年生国語) 内容・領域別正答率

「話す・聞く」と「知識・理解・技能」については、「十分達成」の基準を上回っており、良好な結果であった。

「書く」は「おおむね達成」の基準を十分に上回った。これは、教師意識調査の設問「レポートや作文などを書いて表現する活動を取り入れた授業を行っているか」という問いに対して,行っているという回答が多かったことから,書く表現活動の効果が表れていると言える。このことは、生徒意識調査の設問「自分の思いや考えを文章に書こうと努力しているか」の回答において,努力していると答えた生徒が多かったことからも裏付けられる。ただ今回の調査からは、書く材料がそろい、書き方が明示されたものは書けるということであるが、相手や目的に応じた表現様式についての知識が不足していることも実態として浮かんできた。

「読む」については、「おおむね達成」の基準を上回ったが、今後も指導に工夫を要する。文脈の中における語句の意味を的確にとらえ、理解することや、文章に書かれている内容や要旨を的確にとらえることに課題があった。更に、読み取ったことを基に自分の考えを形成することは困難であったことが推察される。

 

経年比較 

 
 

中学2年生に着目し、平成22年度と平成21年度の同一学年の経年比較により分析をする。

昨年度からの課題となっている内容・領域の「書くこと」、「読むこと」、「言語事項(漢字の書き)」について分析する。

(ア)

中学2年生の「書くこと」の経年比較(同一学年)

 図3 H22・21年度 (中学2年生国語) 「書くこと」正答率の経年比較

図4 H22・21年度(中学2年生国語)「書くこと」到達度分布の経年比較

表1(生徒意識調査)「 自分の思いや考えを文章に書こうと努力しているか」(%) 

 

表2(中学校教師意識調査)「レポートや作文など書いて表現する活動を取り入れた授業を行っているか」(%)※中学校国語科教師を対象

H22・21年度(中学2年生国語)「書くこと」正答率の経年比較と到達度分布の経年比較をみると明らかなように、平成22年度の中学2年生は良好な定着状況であるといえる。これは、レポートや作文など書いて表現する活動を取り入れた授業が、自分の思いや考えを文章に書こうと努力している生徒を育てていることに深く結び付いていると考えられる。しかし、だれに、何のために、何を、どのように書けば効果的なのかという書き方についての知識が定着していないことがうかがえた。(詳しくは設問ごとに見た傾向で述べる。)

 

(イ)

中学2年生の「読むこと」の経年比較(同一学年)

 図5 H22・21年度 (中学2年生国語) 「読むこと」正答率の経年比較

図6 H22・21年度(中学2年生国語)「読むこと」到達度分布の経年比較

「読むこと」ついての定着状況には今年度も課題があると言える。内容読解のための第一歩である語句の意味についての知識が不足しており、文章の額縁構造も重なったため、要旨をとらえることが難しかったと考えられる。また、読み取ったことを基に自分の考えを形成することは、生徒にとってさらに難しかったようである。



(ウ)

中学2年生の「言語事項(漢字の書き)」の経年比較(同一学年)

 図7 H22・21年度(中学2年生国語)「言語事項(漢字の書き)」正答率の経年比較

 

図8 H22・21年度(中学2年生国語)「言語事項(漢字の書き)」到達度分布の経年比較

表3(生徒意識調査)「新しい漢字の読み方や書き方を身に付けるように努力しているか」(%)

H22・21年度(中学2年生国語)「言語事項(漢字の書き)」到達度分布を比較すると、平成22年度は要努力の生徒が減少していることが分かる。これは、新しい漢字の読み方や書き方を身に付けるように努力している生徒(「そうしている」、「どちらかといえばそうしている」)がほぼ8割おり、努力が結果となって表れたと考えられる。


設問ごとに見た傾向と指導法改善の手立て

上記の「ア結果の概要」と「イ経年比較」から、「書くこと」、「読むこと」、「言語事項」において課題が見えてきた。そこで、この3つの内容・領域を取り上げ、正答率が低かった設問と無解答率が高かった問題について、設問ごとに分析を行うことで、より詳細に課題を把握し、具体的な改善の手立てについて探ることとした。

傾向1

書こうとする意欲は良好だが、相手や目的、場面に応じて伝えるべき内容を整理したり、分かりやすく書いたりすることに課題がある。

 図9 H22年度 中学2年生国語

[中学2年生 大問2の一] 

○ 問題の概要 


○ 解答状況

正答率は55.7であり、「おおむね達成」の期待正答率は上回ったが、「十分達成」の期待正答率には届かなかった。「書くこと」到達度分布に見られるような二極化の傾向がうかがえる(図4参照)。できていない生徒は、答えとして求められていることについて内容と答え方の2段階に分けて思考を整理することや、必要なことがどこに書かれているかという情報の絞り込みをすることに、課題がある生徒が多いためと考えられる。


○ 指導法改善の手立て
与えられた条件を踏まえた思考の道筋を示すことが大切である。この問題では次の3ステップが考えられる。
1.何を書くのか
  美化コンクールの目的 → どこに書かれているか(情報の絞り込み)→ 話し合いの記録 
2.入れなければならない2つの事柄とは何か
  ①校内美化の意識をもつ
  ②掃除の取り組みの向上

3.指定された文末(に適する形で書く)に合わせる
  ために美化コンクールを行います。

[中学2年生 大問2の四]
○ 問題の概要 

○ 解答状況

正答率は36.8であり、「おおむね達成」の期待正答率50.0をかなり下回る結果となった。これは「ポスター」という表現の特徴と、作成するときの留意点について知識がない、または知識の整理がされていないためと考えられる。


○ 指導法改善の手立て

「ポスター」「パンフレット」「リーフレット」など多様な表現の特徴と、そこにかかれる図表やイラストなどの効果について、知識の習得と整理をさせる機会を設けることが必要である。併せて、相手や目的に応じた効果的な表現様式を選ぶこと、かく際の注意事項など知識・技能に視点を当てた授業を組み込むことも重要である。



傾向2

文章から必要な情報を読み取り、整理することはできているが、読み取ったことを基に自分のものの見方や考え方へと発想を広げること(自分の意見の形成)に課題が見られる。

 図10 H22年度 中学2年生国語

[中学2年生 大問3の一]  
○ 問題の概要 


○ 解答状況

正答率は56.9であり、「おおむね達成」の期待正答率を6.9ポイント上回った。しかし、語句の理解が内容読解の基礎・基本であることと選択式の問題であることを考えると、この結果は課題であると考える。「一見」は中学生が日常使う言葉ではないことが結果の一因と考える。また、文脈から語句の意味を推量できない背景には読書量の差があるのではないかと考えられる。


○ 指導法改善の手立て

日ごろの授業の中で、「初読」を大切にすることが効果的である。生徒が各自で「初読」の際に、読めない言葉、意味の分からない言葉を取り上げて、調べたり人に尋ねたりして地道に語彙を増やしていくように、指導することが大切である。指導者が意識的にいくつかの言葉を取り上げて学級全体に語彙拡充の意識を持たせることと、それを継続させるために発表の機会を設けるなど個人の学習を全体に広げることが効果的である。

 

[中学2年生 大問3の三]  

○ 問題の概要

○ 解答状況

正答率は55.2であり、「おおむね達成」の期待正答率を10.2ポイント上回った。しかし、選択式の問題であることを考えると、この結果は課題であると考える。この説明的文章のタヌキとアナグマの部分は筆者の意見を際立たせるための具体例だが、内容の面白さに引きずられて額縁構造を忘れ、要旨をとらえ損ねたことが考えられる。


○ 指導法改善の手立て

説明的文章を読むときは、文章の中心的な部分と付加的な部分や事実と意見を読み分け、文章に印を入れることによって、構成や論の展開を視覚的にとらえさせる効果もねらう。そして、要点をとらえ、要旨をとらえるというような「読み方」に重点を置いた学習が時には必要である。

[中学2年生 大問3の五]  
○ 問題の概要 

○ 解答状況

正答率は17.6であり、「おおむね達成」の期待正答率35.0に対して17.4ポイント下回った。無解答率も29.4であり、全問題中2番目に高かった。要因として、次のことが考えられる。

1.思考の道筋が認識できない。 

2.文章に書かれたタヌキの習性が読み取れない。 

3.物語に出てくるタヌキのイメージがわかない。 

4.自分の考えをまとめることができない。  


○ 指導法改善の手立て

文章に書かれていることを読み取るだけでなく、関連することへと視野を広げることも大切である。ここでは、次の3ステップで解答に導くとよい。

①文章に書かれたタヌキの習性のうち、自分が着目したものを明らかにする。

着目したタヌキの習性から導かれる、物語に出てくるタヌキのイメージをもつ。

③自分の考えをまとめる。



傾向3

言語事項の漢字の読みと語句に関する知識の定着は良好であるが、漢字の書きに関する知識と語句に関する知識の活用については課題がみられる。

図11 H22年度 中学2年生国語 「言語事項」

[中学2年生 大問4の二の1]  

○ 問題の概要 

○ 解答状況

正答率は28.7であり、「おおむね達成」の期待正答率55.0に対して26.3ポイントも下回る結果であった。無解答率も16.8と高かった。これは画数を一つ多く書くなど、正確に漢字が習得されていなかったり、イメージ画像的に認識していたりして、書くまでに到らなかったためと考えられる。

○ 指導法改善の視点

筆順と画数の確認も兼ねて指文字で空書きさせて、各自に再確認させるとよい。ちなみに「展」は、今年度の中学1年の漢字の読みで出題され、正答率93.9であることと照らし合わせると、読めるが書けない漢字のようである。このことを踏まえて、「展」の含まれる熟語を数多く書かせ定着を図ることも考えられる。

 

[中学2年生 大問4の二の4]  

○ 問題の概要 


○ 解答状況

正答率は30.0であり、「おおむね達成」の期待正答率50.0に対して20.0ポイントも下回る結果であった。無解答率も30.5と最も高かった。「のぞむ」=「望む」であり、「臨む」という訓読みの漢字と用例が定着していないことが考えられる。


○ 指導法改善の手立て

漢字を指導する際には、その漢字を用いた語句の例を併せて学習させることが大切である。「海に臨む」は「臨海工業都市」などの学習用語と関連させてもよいだろう。また、日常の様々な機会をとらえて漢和辞典などを活用し、漢字を用いた語彙を広げていくことも大切である。


[中学2年生 大問4の三]  
○ 問題の概要 

○ 解答状況

正答率は47.2であり、「おおむね達成」の基準は上回ったが、「十分達成」の期待正答率55.0に対して7.8ポイント下回った。無解答率は22.5だった。要因として、次のことが考えられる。

1.このことわざそのものを知らない。 

2.このことわざの意味を知らない。 

3.どんなふうに使うのか使い方がわからない。 

○ 指導法改善の手立て

日常生活の中で使用頻度を高めるために、教室や廊下などにことわざカレンダーを掲示することも言語環境の面では有効と言える。ことわざと意味は一対で知識として覚えさせることはもちろん、用例を考えさせることで本当に使える語彙になると考えられる。例えば、ことわざを読み札、意味を取り札としたことわざカルタを作り、札を取った人は用例を考えて言うような活動を取り入れることも、指導の一方法である。そうすれば、楽しみながら知識の習得と定着が図れるだろう。

 

これからの指導に向けて
 


本調査で明らかになったことは、「書くこと」については指導法が工夫され、生徒の学習意欲も高まり、学習内容の定着状況もよくなってきているということである。このように成果が見える一方で、「書き方」、「読み方」などの学習方法の知識に関する指導にもう少し力を入れなければならないという実態が見られる。また、内容・領域すべてにおいて「自分の考えの形成」に導く指導の必要性もはっきりしてきた。単元の指導計画、授業計画を立てる際に、以下の点を意識しながら改善を図っていくことが大切である。

ア 「話すこと・聞くこと」
自分の経験に照らし合わせて、内容を整理して聞き取る指導は充実してきたので、これに加えて、話し手の意図を考えながら聞くことにも配慮して指導する。さらに授業では、聞き取ったことを基に自分の考えをもち、根拠を明らかにして話す活動に取り組ませることにより話す力の向上にもつなげることができる。また、話し方、聞き方、話し合い方などの指導も必要である。

イ 「書くこと」
目的・相手・内容・分量などの条件を踏まえて書くように日ごろの授業の中でも指導する。ポイント(条件)をしぼって書かせると、書く方も評価をする方も抵抗感が少ないのではないか。その際の条件は、一つから徐々に増やしていくことが望ましい。また、授業で学んだ知識・技能が生活の中で活用できると生徒に認識させるためにも、文章以外の表現の仕方(ポスター、パンフレット、リーフレット、広告チラシなど)を知ること、相手や目的に応じた効果的な表現の仕方を選ぶこと、書く際の注意事項など知識・技能に視点を当てた授業も必要である。

ウ 「読むこと」(内容と表現の仕方)
小説の読み方、説明的文章の読み方など、作品(教材)が変わっても変わらない一般的な読み方と、その作品(教材)に何が書かれているかという作品の内容価値の双方を意識して指導する。また、文章に書かれていることの読解に加え、それに対する自分の意見をもたせ、まとめさせることが大切である。その際に、視点や観点を示すことが指導の一方法となる。そうすることによって、生徒は文章に書かれていることの理解とそれに対する自分の意見・感想をもつだけでなく、自分の読書体験と照らし合わせて読むことができるようになるだろう。つまり、読むべきは書かれている内容と書かれ方(表現の仕方)であり、そのことについて自分の意見をもつことが求められているのである。このことを踏まえて指導することが重要である。

エ 「言語事項」

漢字の読み書きについては、日常的にあらゆる機会をとらえて地道に行うことが大切である。新出の漢字だけでなく、既習漢字についても、音訓、熟語の基本を押さえた後は、文脈に即して漢字を使えるかどうかを確認することが大切である。語句に関する知識についても、覚えた後は、使う機会を増やして定着を図るしかない。たとえば熟語書きしりとりをチーム対抗で行ったり、ことわざカルタ、四字熟語カルタなどを行ったりすることが考えられる。毎時間1問ずつ積み重ね、カルタ大会など、その知識を楽しみながら活用する場の設定と指導の工夫が大切である。


授業実践に参考となるリンク
   
 
   
 

最終更新日: 2011-1-31