新学習指導要領で求められている中学校英語科学習指導を提案します!

2 研究の実際

(1) 4技能を関連付けた言語活動
  4技能を総合的に育成するためには、それらを関連付けた言語活動が重要となります。このことは、「中学校学習指導要領解説 外国語編」(平成20年9月)に示されている「外国語科改訂の趣旨」にも具体的に記されています。しかしながら、複数の領域を関連付けた言語活動の位置付け方等については、これからの指導法研究が待たれるところです。4技能を総合的に育成するといっても、50分の授業の中に、ただ4技能が位置付けられればよいのではなく、明確な意図をもって、4技能が相互に関連付けられることが必要です。
  そこで、本研究では、「複数の領域を関連付けた言語活動」と「複数単元で学習したことを総合的に活用する言語活動」の両面から、これからの英語科学習指導の工夫について考えました。
ア 複数の領域を関連付けた言語活動
   4技能を総合的に育成する言語活動の例として、ディベートが挙げられます。ディベートは、まず相手側の主張をメモを取りながら(Writing)  聞いたり (Listening)、資料やデータを読んだり (Reading) して、次に自分のメモを見ながら反論(Speaking) していくものです。しかし、 ディベートのように1つの言語活動の中に4技能すべてが関連付けられているような言語活動を、中学校の授業に位置付けるには相応の時間が必要です。私たちにできることは、現在行っている言語活動をちょっと工夫して、1つでも多くの複数の領域を関連付けた言語活動にしていくことです。
  そこで、中学校で実践可能な複数の領域を関連付けた言語活動例を4技能別に紹介します。表1、表2は岡等(2004)が提案している中学校で実践可能な言語活動例をまとめたものです。 
表1 4技能を関連付けた言語活動の分類(岡等「『英語授業力』強化マニュアル」による)
表2 複数の領域を関連付けた言語活動例(岡等「『英語授業力』強化マニュアル」による)
表1の番号と関連領域
言語活動例
@ Listening と Speaking ○ 授業の始めの教師と生徒のSmall Talk
○ 電話で聞いた内容を自分の言葉で他の人に話す活動
A Listening と Reading ○ 教科書本文に関するオーラルイントロダクション後の本文を読む活動
○ テレビやラジオで聞いたニュースを新聞で読む活動
B  Listening と Writing ○ 電話の内容についてメモを取る活動
○ ディベートやディスカッションで相手の主張を書き取る活動
C Reading と Speaking ○ 教科書の本文を読んだ後、内容に関するQ&Aをする活動
○ 広告やメニューを読んで、電話で注文したり店員に注文したりする活動
D  Writing と Speaking ○ スキットやスピーチの原稿を書いて発表する活動
E Reading と Writing ○ 受け取った手紙やEメールを読み、返事を書く活動
○ 書いたもの(物語、意見、感想等)を交換して読み合う活動
○ 物語や文章の続きを書いたり、感想を書いたりする活動

以上のように@からEまでのような言語活動例が考えられます。これら6つのタイプの言語活動を行う意義として、岡等は「より自然で、実践的コミュニケーションに近い」、「内容中心の言語活動になる」、「英語力を定着、発展させるのに役立つ」 1) の3点を挙げています。これらの活動例は、

@とAの言語活動例は、中学校の英語の授業で既に実践されているものも多くあります。
Bの言語活動例は、後に述べる単語の空書きやディクテーションなどのドリル的活動でも行うことができます。
Cの言語活動例は、本文の内容についてのQ&Aの他に、内容の背景となったことについて調べ、それを発表するような活動が考えられます。本文の内容から発展的に考えたり意見を述べ合ったりすることで、内容をより豊かに理解することができます。しかし、この言語活動はやや高度な活動となり、事前に十分な準備が必要になります。
Dの言語活動例は、実際の授業でよく取り組まれる活動です。
Eの言語活動は、これからの英語科学習においては、比較的取り入れやすく、効果も高いと考えています。
 そこで、本研究では、主にDとEの言語活動例に示されているような複数の領域を関連付けた言語活動について研究を進めました。そして、これらの言語活動を位置付けた授業を実践して、その成果についての検証を行いました。
 このように、4技能を関連付けるために、複数の領域を関連付けた言語活動を位置付けることは、大切なことです。4技能を関連付けることについては、新しい発想でいろいろな言語活動を開発していくことも必要ですが、次に示す(例1)(例2)のように、日常の授業で行われている「新出単語の発音練習」や「自己紹介」などの活動に工夫を加えることで、関連付けを図った活動へとリニューアルすることも可能です。
  1) (岡 秀夫・赤池 秀代・酒井 志延「『英語授業力』強化マニュアル」2004 大修館書店)
 

(例1) 『新出単語を覚える言語活動』 
  従来の授業では、フラッシュカードを提示し、カードに書かれた文字を読む(Reading )活動で終わっていた新出単語を覚える言語活動でも、複数領域を関連付けた指導が可能です。 例えば、次のような例が考えられます。
【sweater を教えたい場合】
「聞く・話す」活動
・  "This is my sweater. Do you have a sweater?″と写真や実物を指さしながら対話を行う。
・  「スウェター」と聞こえていた音声をフラッシュカードに書かれた文字で確認して、発音練習をする。
・  「セーター」と教師が日本語で意味を言う前に、"How do you say this in Japanese?″と問う。
「聞く・書く」活動
・  "Put your hands up. Write 'sweater'.″とセーターを空書き(指で宙に書くこと)する。
 このようにドリル的な言語活動も意識することによって、新出単語を覚える活動も、複数の領域を関連付けた
  言語活動にすることができます。

   

 (例2) 『自己紹介をする言語活動』

この言語活動はどの教科書でも1年生で取り扱う、書く活動(Writing)です。自己紹介は書く活動(Writing)とスピーチ活動(Speaking)とセットで行うことが多く、2つの領域が関連付けられた言語活動と言えます。その後で、聞いている生徒がスピーチの内容についての質問を行えば、「聞くこと・話すこと」が関連付けられた言語活動になります。
  ここまでは、よく行われている活動ですが、さらに、読む活動 (Reading)を自己紹介の言語活動に取り入れることもできます。例えば、英作文を書かせる前に、「隣のクラスの友達数人の自己紹介文を読んでみましょう。だれだか分かりますか。」という活動を行えば、読み取った英文を参考にして、趣味やスポーツなどの情報を加えて書くようになります。本研究の検証授業では、書く活動で取り組んだ英作文を基にして、スピーチやスキットを行ったり、友達に読んでもらう活動に展開させました。
  

イ 検証授業で行った言語活動
 佐賀県小・中学校学習状況調査の結果などを踏まえた上で、検証授業では表2のDとEの言語活動例を参考に、下の「書くこと」と「話すこと」や「読むこと」を関連付けた言語活動を位置付けた授業を実践しました。具体的には、Dの言語活動例のように原稿を書いてスピーチやスキットへと展開する授業や、Eの言語活動例のように書いたものを交換して読み合い、書き直す授業に取り組みました。その内容の詳細については、下に設定しているリンクからご覧ください。
D Writing → Speaking への展開(実践事例)

1年 Program 6
シアトルでの1日

E Writing → Reading への展開(実践事例)

3年生 Unit 6
20th Century Greats

ウ 4技能の総合的な指導のための工夫点
 これから4技能を関連付けた言語活動を行うには、どのようなことを心掛けておけばよいかということについて、新里(2008)の「4技能の総合的な指導のための工夫 7つの提案」を紹介します。
 ここで提案されていることは、これからの英語科学習指導を進めていく上でのポイントを示唆するものであり、本研究において、4技能を関連付けた指導を進めていく際にも、参考にした点が多くあります。
@ 基本的に英語を使って授業を行う。
A 語彙(ごい)、文型・文法の導入に関して、Listening(L)→Speaking(S)→Reading(R)→Writing(W)の順序を
   基本的に守るとともに、それぞれに費やす時間を意識的に確保する。
B 教科書本文の内容を扱う中で、4技能を意識する。
C 現実の言語使用をもとに、authenticな活動の連携を考える。
D スピーチやディスカッション、ディベートなど、4技能の総合的な活用を前提とした活動を取り入れる。
E プロジェクトワークなどを取り入れる。
F 4技能の総合的な活用そのものを評価活動として取り入れる。
                     新里眞男「いま、4技能を統合的に教える必要性 −そして、さらなる向上も!」『英語教育』2008年4月号より引用
 

以上、示した7点について、新里氏の記述を参考にして説明を加えます。

  @では、あいさつや指示などの教室で使う英語はもちろんですが、授業の始めに行う教師と生徒とのsmall talkやオーラルイントロダクションなど英語を使ってやりとりをする機会を少しずつ増やしていくことが必要です。毎時間、毎時間、少しずつでもよいので量を増やしたり、質を高めながら、繰り返し繰り返し行うことが大切です。

 Aでは、学習活動のすべての場面で、4技能を意識した指導を心掛けることが大切です。「今日は○○を学習します」と言って、基本英文を板書して、その説明から入るような指導では、4技能を意識した指導とはいえません。例えば、受動態について学習するのであれば、まず、学習する表現を含んだオーラルイントロダクションを聞かせ(L)、その内容についてのQ&Aを行い(L&S)、次に、文字を提示して十分に口頭練習した後で(R)、受動態を用いて、自分自身のことや身近な話題についての英文を作らせて(W)、最後に発表させる(S)といったような手順を踏んで、授業を進めることで、4技能が総合的に育成されることにつながると考えます。

 Bでは、本文の内容を読むだけの活動で終わらない意識が大切です。教科書を開いて音読をする前に、教師によるオーラルイントロダクションやCDを使って音声を介した言語活動を位置付けることが効果的です。また教科書本文の内容理解が終わった後の音読は欠かせないのですが、更に本文の内容理解を確かめるために、Q&Aを用いたり、要約文や感想を書かせる活動を行うなどの工夫が大切です。このように教科書本文を生かした指導を展開するためには、事前に教科書本文の内容についてのていねいな教材研究が必要であるということはいうまでもありません。

 Cでは、現実での言語使用場面を想定して4技能の関連を図ることが大切です。「authentic」とは、「真正な、本物の、実際の」といった意味であり、より現実的な実際の場面を想定した活動となるように4技能の連携を図ることの重要性を示しているといえます。例えば、 新聞を読み、その内容を簡単に1文で相手に伝え、さらに自分の感想を付け加えるといったような、現実の生活でも行っている言語活動を英語の授業の中でも取り組んでみるとよいと思います。当然のことですが、現実的な場面では4技能の中の複数の技能を用いている場面が多くあります。

 Dでは、ここに挙げられているようなスピーチやディスカッション、ディベートなどの活動はその活動自体が4技能を総合的な活用しているため、そのような活動に取り組ませることが有効であるということを述べてあります。例えば、スピーチでは、発表の前に必ず原稿を書く活動が行われます。書く内容を決めるために情報を収集する際には、読んだり聞いたりすることもあるかもしれません。また、原稿を書いた後は、当然ですが、相手に話す活動へと展開します。このように、これらの活動を位置付けることによって、4技能の総合的な指導が可能になるということです。

 Eでは、Dの活動と同様に、4技能を総合的に活用できるプロジェクトワークが有効であるということを述べてあります。プロジェクトワークとは、学習者が自ら活動の計画を立てて、情報を収集し、それらをもとに作品を制作したり、レポートにまとめて発表したりするような活動を指していると考えられます。このような活動は、比較的長期にわたりますので、Dの活動よりもより充実した4技能の関連が図られると思われます。しかしながら、この一連の活動のすべてを英語で行うということは大変難しく、調査や考察の段階では日本語に頼ることが多くなることも予想されるため、生徒の学習経験やスキルなども考慮した上で、教師による適切な条件設定をすることが必要です。
 
  Fでは、
4技能の関連付けた学習を進めていくと同時に、その活動を対象として4技能の総合的な育成が図られているのかということをきちんと評価することの大切さを述べてあります。個々の生徒の観察をするに当たっても、テストなどで客観的に評価する際、その評価のための活動自体が4技能を総合的に活用させたものとなっているかを確かめておく必要があるということです。授業において、4技能の総合的な育成をめざしているにもかかわらず、教師がテストでは個々の技能の評価だけに終始してしまえば、生徒も4技能を総合的に身に付けていくことの意義を失ってしまうことになりかねません。

 本研究において、4技能を関連付けた言語活動を位置付けた授業を構想し、実践していくに当たっては、これらの提案の一部も参考にしました。これらの提案については、教師が自らの授業を見直す際の視点としても参考になるものと思います。

エ 複数単元で学習したことを総合的に活用する言語活動

「複数単元で学習したことを総合的に活用する言語活動」も、これからの英語科学習においては大切であると考えます。各単元において、4技能を関連付けたリハーサル的な言語活動に取り組ませた上で、それらの成果を生かして、生徒自らが思考力・判断力・表現力を駆使して言語活動に取り組むことができるような単元を位置付けることは、新学習指導要領の理念を具体化するにおいても、大変有効であると考えるからです。
  新学習指導要領による教育課程では、週4時間で英語の授業を行うことができるので、表2で示したような言語活動を取り入れた授業を充実させることも十分に可能となります。

  図1は、複数単元で学習したことを総合的に活用する言語活動の位置付け方をイメージした図です。
  例えば、Lesson 1では、 to不定詞(want to)の使い方の定着を図るために「やってみたいことを書こう」というリハーサル的な言語活動を行います。同様に、Lesson 2では、to不定詞(have to)の使い方の定着を図るために「お手伝いを書こう」というリハーサル的な言語活動を行います。Lesson 3においても、「週末の予定を書こう」などのような言語活動を行います。その上で、まとめの単元を位置付け、これまで学習したto不定詞を総合的に活用できるような言語活動「将来の夢を書こう」という言語活動を位置付けます。この単元では、今までに学習したto不定詞の使い方を想起させた上で、これらを自由に使いながら、自分の将来の夢を書くという言語活動に取り組ませます。

  NEW  HORIZON (東京書籍) の教科書では、Writing Plus などの単元において「複数単元で学習したことを総合的に活用する言語活動」を位置付けることができます。
  Sun shine (開隆堂出版) の教科書では、Let's Communicate を発展的に扱ったり、図5のように、いくつかのPROGRAM (単元) を学習した後に、特設したりすることができると思います。

 指導に当たっては、少なくとも Writing Plus や Let's Communicate などの単元で、時間がないので書かせて終わることがないように、きちんと発表をさせて意見交換させたり、書いたものを読む活動に発展させたりして、各単元で学習した表現や文法事項を総合的に活用する言語活動を位置付けた授業を工夫することが大切です。

図1 複数単元を総合的に活用する言語活動のイメージ
引用文献・参考文献
・岡 秀夫・赤池 秀代・酒井 志延 『「英語授業力」強化マニュアル』 2004年 大修館書店
・新里眞男  「いま、4技能を統合的に教える必要性 −そして、さらなる技能も!」 『英語教育』 2008年4月号 大修館書店


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最終更新日: 2010-03-29