本研究では、題材の発想、構想、表現、鑑賞の各段階に対応したワークシート(「木彫」ワークシート 全10ページ)を作成して、その活用を試みた。ワークシートは、主に授業における自分の気付き、感じたことや学習したこと、アイデアスケッチなどを記録するページと、次時までの課題として、授業外での調査活動等に取り組むページからなっている。また、題材全体を見通して自らの制作行程を計画するページも準備した。さらに鑑賞の際には、自らの作品の写真を貼付し、その自己評価をしたり、他者からの評価を貼付したりするページも準備した。つまり、このワークシートが、最終的に木彫の学習に取り組んだ記録としてのポートフォリオ的な意味合いをもつものにもなるのである。このワークシートを活用したことによる効果としては、次の3点が挙げられる。
1点目は、個々の生徒と教師をつなぐコミュニケーションツールとしての効果である。毎時間の学習の振り返りや見通し、自分の思いや考えの記録、調査活動の成果などに対して教師はていねいにフィードバックを行ない、限られた授業の中ではできなかった個別の指導もワークシートへの記述で補うことを心掛けた。その結果、教師は個々の生徒の作品に対する思いや意図、学習過程におけるつまずきなどを把握することができ、生徒はそのことに対する適切な助言を得ることができた。限られた授業時間の中で、このような記録する活動を充実させることは美術本来の活動時間を圧迫するとの批判もあるが、ICT活用によって、効率的な指導が可能になったこともあり、記録する活動の時間を保障できるようになったと言える。
2点目は、言語活動の充実に資する手立てとしての効果である。新学習指導要領では、「よさや美しさを鑑賞する喜びを味わうようにするとともに、感じ取る力や思考する力を一層豊かに育てるために、自分の思いを語り合ったり、自分の価値意志をもって批評し合ったりする」ことを鑑賞指導に求めている。しかしながら、語り合ったり、批評し合ったりする活動は即席でできることではない。はじめは、ワークシートへのていねいな記述などを心がけさせ、それをよりどころとしながら、段階的に指導していく必要があると考えられる。このワークシートは、そのための手立てとして、題材における鑑賞活動やグループ批評と関連付けながら、記述する活動を取り入れることで言語活動充実に資するものになり得たと考えている。
3点目は、生徒同士の情報共有ツールとしての効果である。発想の基となる調査活動の成果や優れた構想が記されたワークシートなどを、ICTを用いて提示し、その情報をすべての生徒で共有することが可能となる。例として紹介された生徒はその自信を深め、他の生徒も他者のアイデアに触発されて自らの発想や構想を膨らませることとなる。ややもすると個人活動になりがちな美術科の授業において、制作に向かう思いや意図、作品に対する自分なりの意味や価値を互いに共有することは、よりよいものを生み出そうとする意欲や新たな発想や構想への刺激となる。まさに、「ICTとワークシート」の相乗効果といえる。
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