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対象を立体的にとらえる力を養う指導法を提案します

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 研究の成果 (中学校 美術科)

   
 
1 ICTの活用について
 

本研究では、検証授業の題材全般を通して、ICTを活用してきた。ICT活用による効果は大きく3点を挙げることができる。

1点目は、明確かつ効率的な資料提示が可能になるということである。例えば、資料を原色に近い形で大きく拡大し分かりやすく提示でき、また、アニメーション設定などを活用できる点、これまで狭くて見えにくい状態で行っていた作業に関する実演を、あらかじめ動画として保存し、提示できる点などがある。また、黒板に大きな資料を提示したり、それを貼り替えたりするような時間も必要なく、スムーズに授業を進めることができる。

2点目は、生徒が必要に応じてコンピュータを操作しながら、必要な情報を取り出すことができ、何度でも確認できる点が挙げられる。本研究で開発した「いろいろな彫り方」のプレゼンテーションデータは、生徒が自由に操作できる環境を整えることで、生徒の個人差に応じることが可能となり、生徒が自ら学ぶことを促すことにもつながり、制作意欲を高めることもできた。

3点目は、本研究の中心的課題でもある「対象を立体的にとらえる力」を構成する3つの力の育成に大いに効果があるという点である。生徒が思い描いているイメージは、それぞれに視点などが異なる。そのような中で、生徒それぞれが思い描いているイメージに近い資料やビジョンを提示できるということが立体における「構成力」を高めることにつながると考える。また、そのイメージを動画やアニメーションといった動きのある映像として提示することで「思考力」を高めることができ、更に立体を平面図に描き表す方法などを的確に指導することによって「表現力」を高めることも可能となる。このようなことが、ICTを活用することによって可能となり、結果として「対象を立体的にとらえる力」を養うことに有効に働いたと言える。

 
  2 ワークシートの活用について
 

本研究では、題材の発想、構想、表現、鑑賞の各段階に対応したワークシート(「木彫」ワークシート 全10ページ)を作成して、その活用を試みた。ワークシートは、主に授業における自分の気付き、感じたことや学習したこと、アイデアスケッチなどを記録するページと、次時までの課題として、授業外での調査活動等に取り組むページからなっている。また、題材全体を見通して自らの制作行程を計画するページも準備した。さらに鑑賞の際には、自らの作品の写真を貼付し、その自己評価をしたり、他者からの評価を貼付したりするページも準備した。つまり、このワークシートが、最終的に木彫の学習に取り組んだ記録としてのポートフォリオ的な意味合いをもつものにもなるのである。このワークシートを活用したことによる効果としては、次の3点が挙げられる。

1点目は、個々の生徒と教師をつなぐコミュニケーションツールとしての効果である。毎時間の学習の振り返りや見通し、自分の思いや考えの記録、調査活動の成果などに対して教師はていねいにフィードバックを行ない、限られた授業の中ではできなかった個別の指導もワークシートへの記述で補うことを心掛けた。その結果、教師は個々の生徒の作品に対する思いや意図、学習過程におけるつまずきなどを把握することができ、生徒はそのことに対する適切な助言を得ることができた。限られた授業時間の中で、このような記録する活動を充実させることは美術本来の活動時間を圧迫するとの批判もあるが、ICT活用によって、効率的な指導が可能になったこともあり、記録する活動の時間を保障できるようになったと言える。

2点目は、言語活動の充実に資する手立てとしての効果である。新学習指導要領では、「よさや美しさを鑑賞する喜びを味わうようにするとともに、感じ取る力や思考する力を一層豊かに育てるために、自分の思いを語り合ったり、自分の価値意志をもって批評し合ったりする」ことを鑑賞指導に求めている。しかしながら、語り合ったり、批評し合ったりする活動は即席でできることではない。はじめは、ワークシートへのていねいな記述などを心がけさせ、それをよりどころとしながら、段階的に指導していく必要があると考えられる。このワークシートは、そのための手立てとして、題材における鑑賞活動やグループ批評と関連付けながら、記述する活動を取り入れることで言語活動充実に資するものになり得たと考えている。

3点目は、生徒同士の情報共有ツールとしての効果である。発想の基となる調査活動の成果や優れた構想が記されたワークシートなどを、ICTを用いて提示し、その情報をすべての生徒で共有することが可能となる。例として紹介された生徒はその自信を深め、他の生徒も他者のアイデアに触発されて自らの発想や構想を膨らませることとなる。ややもすると個人活動になりがちな美術科の授業において、制作に向かう思いや意図、作品に対する自分なりの意味や価値を互いに共有することは、よりよいものを生み出そうとする意欲や新たな発想や構想への刺激となる。まさに、「ICTとワークシート」の相乗効果といえる。

   
  3 新学習指導要領について
 

新学習指導要領における改訂のポイントとして大きく3点が挙げられる。1点目は、これまで「A 表現」の中で境界があいまいとなっていた「発想や構想の能力」と「創造的な技能」が整理され、「発想や構想の能力」の指導に関する内容が明確になった点、2点目は、鑑賞指導をいくつかに細分化し、その中で批評し合ったりするなどの言語活動の充実を図ることとした点、3点目は、〔共通事項〕が新設され、表現と鑑賞を通して共通に指導する内容が記された点である。

本研究では、来年度からの移行期間を視野に入れて、これらの改訂のポイントも可能な限り、配慮して研究を進めてきた。

「発想や構想の能力」に指導に関しては、「篤姫の小物入れ」という共通テーマの設定と、アイデアスケッチの段階におけるグループ批評を行う活動が、「(2) 目的や機能を考えた発想や構想」の指導及び「鑑賞におけるグループ批評」(言語活動)とつながると考えた。また、ICTを活用した鑑賞指導とワークシートによるアイデアスケッチの指導においては〔共通事項〕の位置付けを配慮した。

本研究は、新学習指導要領の全容が明らかになっていく過程と並行して進めてきたこともあり、その改訂のポイントを題材の中にどのように位置付けるかということについては手探りの状態であった。今後は新学習指導要領についての理解を更に深め、改訂の視点から題材を見直し、移行期間に備えたいと考えている。

 


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最終更新日: 2009-03-25