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○ 事例2  中学校美術科の実践についての考察

 
授業の考察(1/7) 本時@
 

新学習指導要領において、これまで位置付けがあいまいであった「発想や構想の能力」が、創造的な技能と分けて整理され、明確に位置付けられた。この「発想や構想の能力」に着目して、本題材の導入において、ICTを活用した鑑賞授業と表現ジャンルを整理する学習に取り組んだ。

これらの活動を通して、作品に込められた思いを読み取らせ、表現についての位置付けを理解させることにより、学習指導要領解説にある「構想の場面では、どのような表現方法で表すのかも含めて検討することが必要になり、材料や表現方法などの創造的な技能における見通しを同時に考えて構想を組み立てていく」(注1)ことを意識させるようにした。


(1) ICTを活用した鑑賞授業について

教科書や資料集、黒板への拡大資料の提示などに比べ、ICTを使った鑑賞授業は、資料を原色に近い色合いで拡大して生徒に提示することができ、また、次の資料を提示する作業も瞬時にできるのが特徴である。

ICTを活用した鑑賞授業がどのような効果があったかということについて、授業後に生徒に実施したアンケートから考察する。


ICTを活用した鑑賞授業についての生徒の記述

いろいろな絵にとても関心がもてた。
パワーポイントを使った授業で分かりやすかった。
いろいろな絵の作品を見れて楽しかった。
自分はあまり絵は興味がないから、スクリーンの絵はあまり知りませんでした。けど、先生のスクリーンでの教え方では結構絵のことが分かりました。
いろいろな絵を見ると、素敵な絵がたくさんあって感動しました。  
自分が知らなかった美術の世界を、少しでも知れてよかった。

橙色マーカーは、裏付けになると考えられる記述  
 

図1 プレゼンテーションソフトを用いて、資料提示をしたことに

   ついての分かりやすさについてのアンケート結果


  図1のグラフより、ICTを活用しての鑑賞授業は、多くの生徒が好意的に受け止めていることが分かる。また、表1の生徒の記述内容からも主に「分かりやすさ」についての好意的な記述がみられる。実物を提示することが最もよいとは考えられるが、より実物に近い形で、かつ効率的に提示できるといった点でICTの活用は有効であると考えられる。
  また、 題材の導入において、ICTを活用した鑑賞の授業を行うことは、その後の制作への意欲を高める効果があるということが、後日提出したワークシートの内容やその後のアンケート結果からも読み取ることができる。また、教科書や資料集に掲載されている作品を使った鑑賞授業よりも、ICTを活用した鑑賞授業の方が、生徒の関心も高まり、「絵を読み取る」ことへの意欲も高まるといえる。


(2) 共通テーマの設定と調べ学習の導入について

「発想や構想の能力」にかかわる内容は、美術科という教科がもつ教科の特性である。しかしながら、このことについての指導は難しく、何の手立てもなしに、生徒に発想させることは困難を伴う。そこで、本題材では1つの共通テーマを設定し、生徒一人一人にテーマにかかわる調べ学習に取り組ませることで、イメージをふくらませることができると考えた。この取り組みがどのような効果があったかということについて、授業後に生徒に実施したアンケートから考察する。
 
篤姫について調べてきたことについての生徒の記述

美術なのに、ちょっと社会っぽいことをしたり、社会ってこんな感じだったら楽しいと思った。とても楽しかった。
自分で調べることによって、いろんなことが頭に入ってきた。 
知らなかったことが、いっぱい分かった。
ワークシートに書いたこと以外にも分かった。
ただ好きなものを彫るよりは、「篤姫の小箱」とテーマを決めてデザインを考えるのはとてもよかった。 
篤姫について調べるのも楽しかったし、驚いたりもした。 

橙色マーカーは、裏付けになると考えられる記述

図2 テーマ設定をしたことによる発想や構想についてのアン

   ケート結果

図2のグラフより、共通テーマを設定し、調査活動を導入したことを多くの生徒が好意的に受け止めていることが分かる。また、生徒の記述からも、共通テーマを設定したことのよさや自ら調べる活動を評価している記述が見られた。授業外での活動ということで、生徒の負担になることも考えたが、必要な資料の紹介なども含めて、すべての生徒が調べ学習に取り組むことができるような手立ても工夫した。このように、生徒が主体的に情報を収集し、イメージにつなげていくことを意図した活動は、生徒にとっても新鮮であり、「ただ彫るだけ」「ただ描くだけ」の美術の授業ではなく、制作活動の発想・構想の段階を意識させるためにも有効であったと思われる。


  これら2つの結果から、

@ICTを活用した鑑賞授業を位置付ける。

A制作のための共通テーマを設定し、テーマに沿った調査活動に取り組ませる。


という2つの活動は、生徒の意欲の喚起や主体性の育成に効果があり、発想・構想の能力をはぐくむための手立てとして有効であるといえる。

   
授業の考察(2/7) 本時A

 

第2次では、次の2つの手立てを講じて、授業を行った。1つは、ICT活用やグループ批評を通して、共通テーマ「篤姫」に関する情報やそれに対する印象などについて学級で共有化を図ること、もう1つは、プレゼンテーションソフト「いろいろな彫り方」を使って、表現技法についての学習をするということである。


(1) ワークシートを活用した調査活動とグループ批評について
  前時の課題であった調査活動の内容をスクリーンに提示し、学級全体で意見交流をすることや、グループ批評を通して内容を深めたりする学習を行った結果、どのような効果があったかということについて、授業後に生徒に実施したアンケートから考察する。


学級全体での意見交流とグループ批評についての生徒の記述

ワークシートを出すたびにコメントを書いてもらえて嬉しかった。あと、他人の考えも見れて、いろいろな意見があるということが分かってよかった。
篤姫についてのみんなの考えをスクリーンで発表してくれたからよかった
プリント学習などとは違って、パソコン・ワークでの授業はとても分かりやすかった特に、彫り方までをパソコンで見れたりしたところが工夫してあって見やすかったのと、友達の意見や作品もみんなと一緒に見れたことがよかった。
デザインのイメージをとてもつかみやすかった。
スクリーンでの授業はとても分かりやすかったし、みんなの意見をスクリーンで見たときに「この人すごいなぁ」と感じた。他の人の考えを見れてよかったです。

橙色マーカーは、ワークシート活用の効果の裏付けになると考えられる記述
  青色マーカーは、彫り方に関するICT活用の効果の裏付けになると考えられる記述

図3 ワークシートを活用についてのアンケート結果


  図3のグラフより、ワークシートを基にして調査活動の内容をスクリーンに提示したことは、他の質問ほどではないが、生徒は好意的に受け止めている。

これまでの授業では、調べてきた内容を口頭で発表させたり、生徒がワークシートに書いた内容をプリントに印刷して配布したりして、他の生徒に知らせることが多かった。それと比較して、本時に実施したICTとワークシートの組み合わせによる手立ては、生徒の記述からも、口頭での発表やプリントを使った場合と比べて分かりやすかったということがうかがえる。また、記述の中で興味深かったのは、生徒は他の生徒がどのように調べたのか、どのように考えているのかということについて大変興味があるということとである。

  生徒の記述や図3の結果から、ワークシートに書かれたいろいろな生徒の意見や調査内容を、プレゼンテーションソフトで掲示することが、生徒の理解を深め、意欲を高めることにつながり、また、その後行った生徒同士の意見交流に対しても効果的であったといえる。また、共通テーマを設定して、それについて調査した内容やそこからの印象などを学級全体で共有していくことは、お互いの考え方やアイデアのよさを認め合い、自らの発想や構想を広げていく上でもとても有効であった。

自由テーマではなくて、生徒にある程度の裁量をもたせた共通テーマを設定して、様々な手立てを講じたことは、生徒にとっては発想しやすくなったと考えられ、学級全体やグループでの活動においても、共通テーマが有効に働いて、活動が充実したと考えられる。活動の充実はすなわち、生徒一人一人のアイデアを更に深化させることにつながっているということも、生徒の記述や机間指導中の生徒の反応などから考えられることである。

(2) ICTを活用した「いろいろな彫り方」の技法指導について

 生徒の中に表現したいイメージが芽生えてくる段階と並行して、どういった表現技法が木彫において制作可能なのかという情報を生徒に提示した。生徒の中で表現したいイメージが芽生え、そのイメージを基に制作を進めても、実際に彫り出す段階になって、イメージを表現する技法が予想以上に難易度が高かったり、制作が不可能であるということが分かれば、必然的に生徒の意欲は低下する。

アイデアがはっきりと固まる前の段階で、技法についての指導をできるだけ分かりやすく行い、発想したものを基に、制作に向けて具体的に思考していく力をICTを活用して高めていった。この取り組みがどのような効果があったかということについて、授業後に生徒に実施したアンケートから考察する。

図4 「いろいろな彫り方」を紹介するソフトが興味・関心を

   高めたかということについてのアンケート結果

ICTを活用した「いろいろな彫り方」の技法指導について、生徒の興味・関心が高く、また、彫り方などの技法についても理解しやすかったということが、図4のグラフやアンケートのコメントから分かる。

教科書や資料集にある技法の説明では、実際にどのように彫刻刀を動かして彫るのかというイメージがつかみにくい。理想としては教師が生徒の目の前で実際に実演して見せることである。しかし、これには教師が実技指導ができるかという指導者の技量にかかわる問題と、すべての生徒がきちんと実演が見える状況で実技指導ができるかという教室環境の問題が出てくる。ICTの活用を通しての実技指導は、こういった問題を解決できる手段であると言えるだろう。

 

   
授業の考察(3/7) 本時B

 

 

第3次では、次の3つの手立てを講じて、授業を行った。1つ目はアイデアスケッチについて、前時の調査活動の成果も踏まえて、グループ批評を行うということ。2つ目はプレゼンテーションソフト「いろいろな彫り方」を実際に生徒が操作し、技法について学習するということ。3つ目はアイデアスケッチを基に、ソフトで確認した技法を踏まえながら平面図を描くことである。
  ここでは検証授業との関係で、1つ目と2つ目について考察したい。


(1) ワークシートを活用した、「共通テーマの設定」に基づくアイデアスケッチのグループ批評について

課題としていたアイデアスケッチについて、前時と同じようにスクリーンに映し出し、紹介した後でグループ批評の時間を行った。この活動がどのような効果があったか生徒に行ったアンケートから考察する。


生徒のアイデアスケッチを用いてのグループ批評についての生徒の記述

いろいろな友達の絵(アイデアスケッチのこと)を見ることができて、楽しかった。
友達の意見や作品(アイデアスケッチのこと)を見ることができたことがよかった

橙色マーカーは、ワークシート活用の効果の裏付けになると考えられる記述

生徒は他の生徒のアイデアスケッチに対して、とても興味があることと、スクリーンに映し出されるスケッチやグループ批評で他の生徒のスケッチを見ることができることは、生徒にとって楽しい活動であるということが、生徒の記述などからも分かる。このような記述は他にも多く見られた。
 初めに学級全体で、スクリーンに映し出されたアイデアスケッチを基に、意見交流したことで、次に取り組むグループ批評のモデルを示すことができたこともグループ活動が充実した要因であると考えられる。。


(2) プレゼンテーションソフトを使った技法指導について

前時で紹介したプレゼンテーションソフトについて、本時では生徒自らが操作し、彫り方の技法について学習を進めた。また、立体を平面に描き表す正投影図について、どのように描けばよいかということについてもプレゼンテーションソフトを用いた。これらの学習活動がどのような効果があったかということについて、生徒に実施したアンケートから考察する。

 

図5 ソフト「立体的にイメージする」を用いて、立体的な形を

   つかむことができたかということへのアンケート結果

図5のアンケート結果から、プレゼンテーションソフトのアニメーションや動画が、立体的な形をイメージする力の向上にもつながったということが考えられる。

図6 ソフト「いろいろな木彫」を用いることで、具体的な彫り方

   について理解ができたかということへのアンケート結果

図6のアンケート結果から、プレゼンテーションソフトを使うことで、生徒が具体的な彫り方について理解しやすかったということが分かる。

 これらのアンケート結果から、プレゼンテーションソフト「いろいろな彫り方」が興味・関心を高めるだけでなく、立体をとらえる力を養う指導に有効であることが考えられる。生徒が実際に操作したことについての感想を見ても、分かりやすかったという声が多かった。


(3) ICTの活用が、生徒の興味・関心を高めたかということへのアンケート結果

 今回の検証授業では3回の授業をICTとワークシートを活用して行った。特にICTに関しては下の図7のグラフからも分かるように、生徒の興味・関心を高めるには有効な手段であったことが分かる。プレゼンテーションソフトにより、様々な絵画や資料をより実物に近い形で、効率よく提示したり、動画やアニメーションを使って、分かりやすい教材に加工して提示したりしたことが、興味・関心の高まりへもとつながったと考えられる。

図7 プレゼンテーションソフトの活用と生徒の興味・関心の

   関係についてのアンケート結果


 3回の検証授業で、いろいろな学習過程においてICTの活用が生徒の学習活動を活発にし、立体をとらえる力を養うことに効果があるということが検証できた。

プレゼンテーションソフトで、生徒がワークシートに書いてきた調べ学習の内容やアイデアスケッチを提示したことで、それまでイメージやアイデアがまとまっていなかった生徒の参考となり、後で行ったグループ批評の活性化につながったことが、ワークシートのコメントなどから分かった。

また、プレゼンテーションソフト「立体的にイメージする」を用いた正投影図の説明に関しても 、アニメーションの効果により、平面を立体としてとらえる力が高まったと推察できる。

また、「いろいろな彫り方」についての学習に関しては、パソコンを自分で操作しながら学習できるということが生徒には好評であった。これまで「この技法をやってみたい」とか「こういう形に彫ってみたい」と思ってはいても、彫り方が十分に理解できていなかったり、教師にたずねることができなかったりして、活動が滞ることがあった。「分からなかった内容を、自分で操作して見ることができ、分からないところは何度でも繰り返し確認できることがよかった」という感想を生徒から聞くことができた。自分で操作することによって、納得いくまで何度も確認できることが、その次の段階であるイメージやアイデアを具体的な装飾デザインを描くときの意欲へとつながったと考えられる。


 課題としては、パソコンの台数が少なかったということが挙げられる。教室に3台、パソコンを設置し、操作できるようにしておいたが、他の生徒の操作を見るだけだったり、順番を待っていたりしていたので、あと3〜5台ほどあれば、更に効果が高かったと考えられる。こういった設備の点に関しては、学校の施設に関する事情もあり、難しい面も多い。この点が今後の課題となるだろう。



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最終更新日: 2009-3-24