1 高校数学科教員の意識調査結果
(1) 調査の目的
 本県の数学科教員の指導方法に関する意識と実態を知るために,県立高等学校の数学科教員を対象にアンケート調査を実施しました。
 新教育課程スタートから3年目を迎え,特に,学習状況調査結果から課題として指摘されている「図形領域」の指導を中心に教員の意識がどうなっているのか,また,指導の実態はどうかを把握し,今後の教科指導においてより効果的な指導方法を研究し,実践する上での参考することを目的としました。
(2) 調査対象
   県立高等学校数学科教員全員(198名)
(3) 調査期間
   平成17年10月24日(月)〜10月28日(金)
(4) 調査結果の概要




■回収結果 173名(87.4%)

■主な調査項目 
意識調査質問用紙(PDF)
(ア)指導しにくい分野(領域)及びその要因
(イ)指導方法の改善に関する意識
(ウ)日頃の指導実態
(エ)生徒の理解度が低い領域とその要因
(オ)図形領域の指導の実態と工夫

■主な結果
(ア−1) 指導しにくい分野(領域)
 指導しにくい分野として,最も多く選択された項目は,普通科,専門学科等(総合学科を含む)ともに「平面図形」である。普通科では66.9%,専門学科等では49.0%の教員が選択した。
 いずれの高等学校においても,「平面図形」について指導が困難であり,何らかの対策が必要であると認識していることを示している。
 その次に多かった分野は,普通科と専門学科等では異なり,普通科では,「統計処理」(32.3%),「論理と集合」(29.0%),「式と証明」(27.4%),専門学科等では,「二次関数」(38.8%),「論理と集合」(26.5%),「式と証明」・「空間ベクトル」(ともに24.5%)であった。
 なお, 「統計処理」については,指導しにくい分野として上位にきているが,最も指導しにくい分野としてとらえている教員は少なく,教材自体の出題率が低いため,日常の指導ではそれほどウェートが置かれていないと考える。
 これらの結果を参考に,「平面図形」を中心に,論理・証明といった指導が困難な分野の授業改善の視点を考えていくことにした。

                             (グラフ1)
 (グラフ2)
(アー2) 指導が困難な要因について
「平面図形」を最も指導しにくいと回答した教員の回答を,「そう思う」を4点満点とする4点法に換算して集計した。
 その結果,普通科では,(A2)の「条件に合う式や図をノートに書いたり、じっくり考えたりすることが苦手なため」が最も高く,3.11ポイントであり,専門学科等でも,3.66ポイントとほとんどの教員が主な理由の一つとして支持している。
 その次に多かったのは,普通科では,(A3)「論理的な思考力・表現力などが不足しているため。」(3.08ポイント),(A7)「指導方法・指導順序等について改善する余地があるため。」(3.08)ポイント),(A8)「生徒自身がどちらかといえば苦手としている分野であるため。」(3.00ポイント)である。
 また専門学科では,(A3)「論理的な思考力・表現力などが不足しているため。」(3.50ポイント),(A8)「生徒自身がどちらかといえば苦手としている分野であるため。」(3.38ポイント),(A1)「基本的な知識や計算力などの基礎学力が不足しているため。」(3.13ポイント)が上位にきており,生徒の苦手意識や基礎学力の不足に原因があると考えている。
 こうしたことから,それぞれの学校・学科の課題を把握し,意欲的に学ぶ教材や指導方法の改善に取り組む必要があると考える。
<選択肢>
(A1)生徒に基本的な知識や計算力などの基礎学力が不足しているため。
(A2)生徒が条件に合う式や図をノートに書いたり、じっくり考えたりすることが苦手なため。
(A3)生徒に論理的な思考力・表現力などが不足しているため。
(A4)生徒に新しい概念や記号の定義に対する抵抗感があるため。
(A5)指導時間の減少に伴い、学校で十分指導する時間が足りないため。
(A6)この分野の教材をさらに魅力ある内容に改善する余地があるため。
(A7)この分野の指導方法・指導順序等について改善する余地があるため。
(A8)生徒自身がどちらかといえば苦手としている分野であるため。
(A9)教師自身がどちらかといえば苦手としている分野であるため。
                              (グラフ3)
(イ)指導方法の改善に関する意識について
  「図形分野」を指導しやすくするための方策として,普通科,専門学科等ともに,(B1)「教科書・問題集の内容を精選し,生徒の実態や進路目標に応じた教材開発に取り組む」(普通科3.36ポイント,専門学科等3.38ポイント)が最も高い支持を得た。
 次に支持が高かったのは,普通科では,(B3)「中学校との間で移動した内容等を改めて整理し,単元ごとの指導計画を見直す」(3.28ポイント),(B2)「評価問題の作成に取り組む。」(3.00ポイント),(B6)「主体的に学習に参加できるような教材・教具を工夫する」(2.97ポイント)であった。
 また,専門学科では,(B5)「社会とのかかわりの中で数学を学ぶ意味を伝え,意欲を引き出すよう工夫する」(2.88ポイント),(B2)「評価問題の作成に取り組む」,(B6)「主体的に学習に参加できるような教材・教具を工夫する」,(B7)「教材等を共有したり、県全体でデータベース化したりする」(以上3項目とも2.75ポイント)であった。
 この結果,普通科については,生徒の実態に応じた教材・教具の開発を進めるとともに,単元ごとの指導計画を見直したり,評価問題の開発に取り組む必要がある。また,専門学科については,図形分野の指導に当たって,社会とのかかわりの中で数学を学ぶ意味を伝え意欲を引き出す指導方法を工夫したり,主体的に学習に参加できるような教材・教具を開発することが必要である。
<選択肢>
(B1)教科書や問題集の内容を精選し,生徒の実態や進路目標に応じた教材開発に取り組む。
(B2)生徒の理解度を的確に把握できる評価問題の作成に取り組む。
(B3)学習指導要領の改訂に伴い中学校との間で移動した内容等を改めて整理し,単元ごとの指導計画を見直す。
(B4)コンピュータ等の機器を活用し,指導方法の改善に取り組む。
(B5)生徒に社会とのかかわりの中で数学を学ぶ意味を伝え,意欲を引き出すよう工夫する。
(B6)生徒が主体的に学習に参加できるような教材・教具を工夫する。
(B7)他の先生と教材等を共有したり,県全体でデータベース化したりする。
(B8)研究授業(公開授業)を積極的に行い,授業力を高めていく。
(B9)入試問題を解く・校内外の研修に参加するなど,時間を作り研修を重ねる。


                             (グラフ4)
(ウ)日頃の指導実態について          (グラフ5)
<質問項目>
(C1)生徒によく指名して理解を確かめたり,考え方を引き出し生かしたりする授業を行っている。
(C2)複数の方法で解答できる問題を用意して使うように心掛けている。
(C3)理解しにくい分野では,ワークシート等の補助教材を準備して授業を行っている。
(C4)コンピュータを活用したり,インターネット上に公開されているコンテンツ(教材)を活用したりして授業を行っている。
(C5)授業がある日を中心に,課題を出すようにしている。
(C6)週末課題を出すようにしている。
(エ)生徒の理解度が低い領域とその要因
 生徒の定着が悪いと思う分野として,数学教員が最も多く選択した項目は,普通科では,「数列」(51.6%)であり,専門学科等では「2次関数」(67.3%)である。
 その次に多かった分野は,普通科では,「指数関数・対数関数」(39.5%),「空間ベクトル」(36.3%),「平面図形」と「三角関数」(ともに29.8%)が続く。
 また,専門学科等では,「図形と計量」(42.9%),「指数関数・対数関数」(32.7%),「三角関数」(30.6%)が続く。
 いずれの高校においても,「数列」,「2次関数」を始め,生徒の理解度を向上させるため,それぞれの課題に応じた対策が必要であると認識していることを示している。
 とりわけ,普通科の高校では,数学U・Bに集中しており,喫緊の課題である。
                               (グラフ6)
                               (グラフ7)
(オ)図形領域の指導の実態
 平面図形などの図形領域の指導で取り組んでいる項目として,高い支持を得た項目は,普通科,専門学科ともに,E5「基本的な概念や用語・記号の意味の理解などについて,丁寧な指導を行っている」で,それぞれ,普通科2.97ポイント,専門学科等3.12ポイントであった。
 その次に支持が高かった項目は,普通科では,E7「授業時間数の関係等で,講義中心の指導を行っている」(2.92ポイント),E3「ワークシート等の補助教材を準備して授業を行っている」(2.66ポイント),E6「条件に合った作図ができるよう時間を確保している」(2.58ポイント)が続く。
 また,専門学科等では,E6「条件に合った作図ができるよう時間を確保している」(2.79ポイント),E3「ワークシート等の補助教材を準備して授業を行っている」(2.76ポイント),E7「授業時間数の関係等で、講義中心の指導を行っている」(2.50ポイント)が続く。
 いずれの学科の高校においても,図形分野については,日ごろから,丁寧な指導を心掛けているとともに,補助教材を準備するなど,授業の準備をしっかり行って授業をされている。
 しかし,普通科の高校では,「授業時間数の関係等で,講義中心の指導を行っている」という回答が多いことも事実であり,指導計画や指導方法の見直しに取り組む必要がある。
(E1)既習事項について,事前に生徒の到達度の確認を行い指導に生かしている。
(E2)数学史の内容を取り入れたり,身近な事象とのつながりを意識させる指導を行ったりしている。
(E3)ワークシート等の補助教材を準備して授業を行っている。
(E4)中学校における指導内容との関連を踏まえ,教材を精選して指導している。
(E5)基本的な概念や用語・記号の意味の理解などについて,丁寧な指導を行っている。
(E6)生徒自身が条件に合った作図ができるよう時間を確保している。
(E7)授業時間数の関係等で,講義中心の指導を行っている。
(E8)生徒が自ら図形の性質を見いだしたり,証明をしたりするような指導を行っている。
(E9)コンピュータを活用したり,インターネット上に公開されているコンテンツ(教材)を活用したりして授業を行っている。
(E10)生徒が主体的に学習に参加できるような教材・教具を工夫している。
                              (グラフ8)
2 高校数学科教員の図形指導に関する因子分析結果

○因子分析によって抽出された因子
                   質問項目
第1因子 授業力向上        B8,A6,E7,C4
第2因子 生徒側の意識・能力    A3,A8
第3因子 到達度の把握と丁寧な指導 E5,E1,E2
第4因子 教材・教具の工夫     E10,E9
第5因子 指導方法や指導計画改善  A7,B3
第6因子 生徒の意欲喚起策     B5

(表1)図形指導の困難さの因子分析の結果

変  数(質問項目)  第1因子 第2因子 第3因子 第4因子 第5因子 第6因子
第1因子:
教師の授業力向上
 
・研究授業による授業力向上 0.673 0.120 0.066 -0.027 -0.050 0.121
・魅力ある教材内容への改善 0.667 0.106 0.226 -0.374 0.299 -0.027
・講義重視の授業 0.613 -0.112 -0.170 -0.298 -0.165 -0.115
・コンピュータを活用した授業 0.496 0.119  -0.140 -0.298 -0.074 0.022
第2因子:
生徒の意識や能力不足
 
・論理的思考力・表現力不足 -0.009 0.884 0.042 -0.087 -0.035 -0.040
・図形分野に対する苦手意識 0.117 0.686 -0.011 0.086 0.067 -0.149
第3因子:
丁寧な学習指導
 
・基本事項などの丁寧な指導 -0.030 0.310 0.827 -0.061 -0.123 -0.196
・レディネスの把握と活用 0.070 -0.316 0.684 0.130 0.038 0.119
・身近な事象との関連 0.041 0.038 0.483 -0.152 0.008 0.320
第4因子:
指導計画や教材の工夫
 
・授業参加を促す教材の工夫 -0.285 -0.052 -0.005 1.024 0.102  -0.028
・図形コンテンツの活用 0.107  0.113 0.211 0.444 -0.169 0.053
第5因子:
指導方法や指導計画改善
 
・指導方法や指導順序の改善 0.114 -0.031 -0.062 0.089 0.961 -0.054
・単元指導計画の見直し  -0.147 0.101 -0.085 0.059 0.605 0.050
第6因子:
学ぶ意味を伝え意欲喚起
 
・数学と社会との関わりの指導 -0.004 -0.113 -0.014 -0.028 -0.051 1.026
 
因子寄与率 12.087 10.661 10.069 10.031 8.952 8.264
累積寄与率 12.087 22.748 32.817 42.817 51.800 60.064
  
<分析>
 図形分野の指導が困難である要因や改善策として,第一に「授業力の向上」が挙げられた。すべての領域に共通する要因であるが,特に大きな要因となっている。次いで,生徒の図形に対する苦手意識や論理的な思考力の不足が挙げられる。また,基本事項の丁寧な指導が求められていることも大きな特徴である。
 今後は,第4,5,6因子にあるように,指導計画や教材に工夫を重ね,図形分野全体の指導方法や指導計画の改善を行うとともに,数学と社会の関わりの指導の在り方についても検討する必要がある。
3 研究授業実施クラスの生徒の意識調査結果
(1)目的
  検証授業の前に,生徒の「図形分野」に関する意識を調査し,指導法改善の参考資料とする。
(2)調査対象
  致遠館高校理数科1年生(40名)
(3)主な調査項目
  1 生徒が興味関心が高いと思う分野
  2 生徒が理解が不十分と考えている分野
  3 図形分野への興味関心
  4 図形分野に興味がもてない理由
  5 図形分野の理解に有効と思う方法
<分析>
 興味・関心については,「図形と計量」や「式と証明」,「二次関数」等が上位にきており,「平面図形」は4.5%と最下位であった。
 上位にきている分野は,「解法」がある程度決まっている内容が多い。理数科の生徒にとっては得点に結びつきやすく,興味・関心の高さにつながったのではないかと思われる。
理解不十分な分野については,「確率」,「式と証明」,「場合の数」が上位にきている。「平面図形」はそれほど高くないが,指導時間が十分確保できない実情から,中学校の復習程度にとどまっているためではないかと思われる。
 「式と証明」については,どちらも上位にきている。理数科の生徒たちは学ぶ必要性を感じ,興味・関心はあることから,今後もっと理解していきたいと考えていると思われる。
 「証明」は生徒の関心が高い割に定着しにくい分野であるので,様々な角度から,生徒の理解につながるような指導を工夫する必要がある。
<分析>
 図形分野が苦手な生徒は,その理由として,「自分の努力不足」を一番多く挙げている。
 次に,「日常生活との関連や学ぶ意味が分からない」,「図形の証明が苦手である」を理由として回答している。
 日ごろの授業の中で,学んでいる内容と日常生活との関連を具体的な事例を紹介して,興味・関心を喚起する必要がある。また,図形分野が苦手な要因として,「証明」を挙げている生徒も多いことから,「証明」を丁寧に指導し,証明に対する苦手意識を少しでも解消するとともに,多様な証明法の紹介を通して,これまで証明してきた意義を再確認し,数学の「問題解決」との関連を実感させる授業を増やしていく必要がある。
次にあげることがらは,「図形領域」を理解するためにどの程度有効(必要)だと思いますか。
B1定規,コンパスを使って基本的な作図ができる。
B2練習問題をたくさん解いて慣れる。
B3論理的にねばり強く考える習慣を身に付ける。
B4条件に合う図形をノート等に必ず描いて考える。
B5コンピュータグラフィック等を用いて,今より分かりやすい教材で学べるようにする。
B6与えられた課題に対して,いろいろな方法で解答するように心掛けるる。
B7さらに丁寧に時間をかけて学べるように学習内容を精選する。
B8アドバイスをしてくれる先生や,質問できる友人を積極的に利用する。
B9図形検定のような能力検定試験をつくる。
B10図形パズルなどに取り組み,頭を柔らかくする。
<分析>
 「そう思う」を4点,「そう思わない」を1点として,4点法で集計した結果,B2「練習問題をたくさん解いて慣れる」(3.66ポイント),B4「条件に合う図形をノート等に必ず描いて考える」(3.50ポイント),B8「アドバイスをしてくれたり、質問したりする先生や友人を積極的に利用する」(3.39ポイント),B1「定規、コンパスを使って基本的な作図ができる」(3.11ポイント)が続いている。
 問題練習を積み重ね,分からないところを質問することで,理解したいという回答が多い。「図形分野」はいろいろな問題に取り組んで,実際に図を描いたり問題を解く方法で理解を深める方がよいと考えていると思われる。
4 研究授業実施クラスの生徒の図形に関する意識の分析

(質問内容)
.「角の二等分線の比の性質」の証明を自分なりにいろいろ考えることができましたか。
.「角の二等分線の長さ」の解法を自分なりにいろいろ考えることができましたか。
.学んだことを利用して,様々な方法で考えることができることが理解できましたか。
.今後,平面図形の問題解決に「補助線」を更に活用しようと思うようになりましたか。
.平面図形と身近なことがらの関連に気付き,平面図形への関心は高くなりましたか。

<分析>
(質問1)
 研究授業の前日配付し,課題としていた証明問題については,「できた」,「だいたいできた」を合わせ53%の生徒が自分なりに取り組めたと考えている。クラスの生徒のほとんどが,2種類程度の方法で証明できていたことから,「あまりできなかった」不十分だと解答した生徒の多くは,授業で紹介した多数の証明法や「ピタゴラスの定理」の300を超える証明法の多さに驚き,相対的に自己評価がやや厳しい結果となったものと考えられる。

(質問2)
 「できた」,「だいたいできた」を合わせ65%の生徒が自分なりに取り組めたと考えている。全員に指定した「三角形の面積を利用する解法」は,ほとんどの生徒が正答しており,別解についても自分なりに考えることができ,おおむね取り組めたと評価している。
(質問3)
 「できた」,「だいたいできた」を合わせ82%の生徒が理解できたと考えている。自由記述でも,1つの問題にたくさんの切り口で証明できたり,問題解決ができたりすることに驚いたという記述が多く,多様な方法で考える必要性を理解してくれている。
(質問4)
 「思う」,「少しは思うようになった」を合わせ94%の生徒が補助線を活用する必要性を支持している。日ごろ,図形の問題を定型的な方法で解答している生徒が多い中で、本時の授業を受けて,ほとんどの生徒が「補助線」の必要性を改めて実感してくれたようである。
(質問5)
 「高くなった」,「少しは高くなった」を合わせ76%の生徒が支持している。理数科の生徒で日頃から意識が高い中で,授業の導入等で日常生活に関連のある内容に触れることによって,さらに意識が高まった。