研究のまとめ

(1)図形指導の方向性                                     これからの数学の授業は「数学的活動」を重視する考えに立ち,改善してくことが望まれています。

「数学的活動」は,授業における興味・関心を引き出す重要な活動と位置付けられ,魅力ある授業づくりに直接つながるものです。

 本研究のまとめとして,理論研究と調査研究を基に,図形領域における指導方法改善の方向性を三つ述べます。

 第一に
「系統性への考慮」が挙げられます。教師のほとんどは,図形領域の教材は豊富にあると認識しています。こうした中で,各学校に求められる「系統性」をきちんと踏まえた教材選択を行う必要があります。

 第二に
「効率性と効果性」が挙げられます。授業ではじっくり理解させる指導が求められますが,同時に効率性や効果性も求められます。授業改善の取組も,課題を見いだし,最も効率的,効果的に改善していくよう努力することが求められています。

 第三に
「計画,実施,評価,改善」が挙げられます。図形領域の指導に限らず,指導の改善サイクルはスパイラル的に常に連続して展開され,更新されていくべきものであると考えられます。
 
(2) 図形の論証指導のねらいを明らかにする数学的活動
 「系統性のある指導方法」を授業実践の中で具体化する方法として,「図形の論証指導のねらいを明らかにする数学的活動」を取り入れてみました。

 具体的には,これまで「図形の作図」,「図形の論証」,「図形の計量」がそれぞれ単独で自己完結的に指導されてきた反省を踏まえ,それぞれの学習を有機的に結び付ける手立てを考えてみました。

 図形の作図には,デカルト以前の幾何的かつ直観的な数学の見方のよさがあります。これまで教育現場で体系的な指導を行ってこなかった「補助線の幾何学」に対しては,授業実践を通して,生徒・教師それぞれに大きな驚きをもたらすことが明らかになりました。

 また,図形の論証の指導に当たっては,証明自体を目的化するのではなく,「証明の方法」を数学の課題解決や計量に応用できることを知らせる「振り返り」が前提となります。生徒に代数学と幾何学相互の橋渡しを意識させることができるのも,この分野ならではの内容ですので,時間をかけて丁寧に指導したいところです。

 今回の授業等実践研究を通して,中学校,高等学校の図形領域に関する指導法のつながりを整理するとともに,限られた指導時間の中であっても,こうした数学的な活動の実践を意図的・計画的に重ねることによって,図形に対する学習意欲を高め、問題解決能力の向上を図ることができると確信することができました。
 
(3)今後の課題
 図形領域の指導方法改善に当たって,「数学的知識を構成するに至るまでの思考過程を振り返ったり,構成した数学的知識の意味を考察の対象となった身近な事象に戻って考えたり,他の具体的な事象の考察などに数学的知識を活用したりする活動」を取り入れる授業を提案してみました。角の二等分線を教材として,その方向性を明らかにしようと努めました。
 
 今後は,他の教材にも,数学的な活動を取り入れた指導ができるものがたくさんあるはずです。授業実践に生かせる教材開発や指導方法の開発に取り組んで行く必要があると考えています。
 
 最後になりましたが,本研究の実施に当たっては,研究協力校である致遠館高校に大変お世話になりました。この場を借りてお礼を申し上げたいと思います。

 また,アンケート調査や意識調査に快く協力して頂いた数学科の先生方や生徒の皆さんにもお礼を申し上げます。
 なお,本研究で提案した授業実践の内容に御意見等があれば,お知らせください。