研究のねらい
 高等学校において,旧課程の数学Aの「平面幾何」は必修ではなく,選択領域であったため,生徒全員に指導がなされなかった経緯があり,改めて,指導方法を見直す必要に迫られています。
 こうした状況の中で,今後,中学校と高等学校との接続を踏まえて,生徒が段階に応じて,意欲的に数学を学ぶことができる教材等を整備していくことが必要です。本県の生徒が苦手とする図形領域について,必要な教材開発や指導方法の改善に取り組むことは有意義なことと考えています。

 以上のことから,

  中学校と高等学校の接続を踏まえ,指導方法を改善した授業を実践することによって,

 
生徒の図形領域に対する関心や問題解決能力を高めることを目指し,

研究を進めてきました。

  
2 理論研究
(1) 図形領域の系統性への考慮について
 「デカルトが幾何学を代数化し,17世紀の数学者たちが,幾何学や運動力学を基盤として微積分学を形成して以降,数学では,幾何学によってではなく,文字記号で構造を表し,式・文字記号で命題を表し,推論を節約する演算で証明するという,数学理論の代数化が進行した。・・・そして,その構造で意味を表現し,演算で推論するには,そのための感覚(センスないし直観)の育成が不可欠である。今日の教育課程も,その系統の基盤を代数に寄せてきた。」(*1)

 これまでの数学の教育課程では,こうした代数重視の見方が一般的な中で,図形的な感覚をきちんと時間をかけて指導してきた小中学校の図形指導の果たしてきた役割は大きいと感じています。
 現在では,こうした図形分野の一部の内容が高等学校へ移行されていますが,小中学校におけるこれまでの指導のよさが十分生かされているとは言えず,指導方法の改善に当たって,改めて,図形領域の系統性を見直す必要があると感じています。

 今回の研究は,「教育内容の高校への移行」それ自体の是非を議論しようとしたものではありません。むしろ,これまでの小中学校の児童生徒に対する指導経験の総体を正しくとらえ,入学してくる生徒の実態に応じた興味関心を高めるために,
「図形領域の指導の系統性」を考慮し,その在り方を示すことが重要であると考えています。

(*1)日本科学教育学会年会論文集21 筑波大学 磯田正美1997
 
(2) 図形領域の指導方法の改善について
     
〜系統性のある指導方法とは〜
 本研究でいう指導の「系統性」とは,現行の学習指導要領や教科書の指導順序等の固定概念に縛られた全国一律の画一的なものではありません。数学教育の歴史的・体系的な指導実態を把握するとともに,それぞれの学校・学年の取組などを踏まえて,目標を明確にした教材・評価資料を開発するところに新たに生じるものであると考えています。

 この「系統性」は,学校の教育目標に応じて,学習指導要領に示されている「系統」に基づいたものに戻る場合もあると思います。しかし,改めて「教材・指導方法を見直す過程」を経て,実際の指導に役立つ独自の「系統性」が確保できると考えます。
 こうした積み重ねを繰り返し,よりよい指導方法を改善していく姿勢が大切です。 
 
(3)興味・関心を高める指導の在り方
   〜図形指導状況の評価・改善の具体的な取組についての提案

@アセスメント調査
 アセスメント調査には,まず,全国や本県で行われた学習状況調査の結果(平成15年度高等学校学習状況調査結果)を利用する方法があります。また,各高等学校には,県下一斉模試をはじめ各種試験のデータも数年分蓄積した資料があるので,こうした資料を併用することが望ましいと思います。この場合,単に学年間の比較をするためではなく,
学校としての傾向や課題を正しく把握することが大切です

A指導計画の評価
  県内外の各高等学校数学科の年間指導計画を収集し,生徒の活動の総体である指導計画に関するデータを収集し,要因を多面的に分析します。

 この指導計画の評価を行うことによって,自校に求められる指導内容や指導方法の改善策が見いだせるとともに,授業の効率性と効果性も向上していくものと考えます。
 数学的活動を実践する「時間を生み出す」ためにも,欠かせない取組です。

B数学教員及び生徒の意識調査
 指導しにくい分野はどこか,生徒の理解が定着していない分野はどこか,生徒の意識はどうか,さらに,どうしてこのような結果になったのか,どんな要因(児童生徒の要因,教師の要因等)が働いているのかを分析することが重要です。

C系統性の考慮
 入学,進級した生徒のこれまでの学習内容や理解度等の実態や,学校・学年のこれまでの取組等を踏まえて,目標を明確にした教材開発や評価資料を開発し活用したり,各学年・校種間のつながりを見通した指導を行ったりする必要があります。

DS(評価)→P(計画)→D(実践)
  高等学校の場合,それぞれの学校の生徒の実態や指導実態が大きく異なることから,
自校の生徒や指導方法の評価を行い,課題や弱点を分析し,改善方策を策定(計画)し,授業への実践につなぐ必要があります。

 新たな実践を取り入れる場合,ますます授業の進度計画が厳しくなるという指摘を校内から受けることも考えられます。こうした意見に対しては,理論的な背景や期待される効果についてきちんと説明できるように準備し,一定の合意のもとにできるところから実践していく必要があります。