【高校家庭】保育における学習者主体の授業づくり



  ここで紹介するのは,専門教科「発達と保育」の中での授業ですが,普通教科「家庭基礎」と「生活技術」の乳幼児の発達と保育・福祉,「家庭総合」の親の役割と保育でも多少アレンジして実践することができます。    


○ 学習指導案    高等学校第2学年 「 発達と保育 」4単位 


1  単元名 「ともに生活する」 (平成17年11月実施,14名)        

佐賀県立牛津高等学校(教育センター)
授業実践者:川崎 千穂授業実践者へのメールはこちらから

2 単元設定の理由

教材観
 現在日本は少子高齢化が進行し,平成16年度の合計特殊出生率は1.29人と年々その数は低下の一途をたどっている。未婚化,晩婚化,非婚化や結婚形態の多様化,女性の社会進出が進む中で,「子育てにお金がかかる」「高齢出産がいや」「育児の負担が大きい」などの理由で,子どもを産むことに不安を感じている人も多い。そのような状況下で,子どもと触れ合う機会も減り,子どもの実態をあまり知らない人が増え,さらに少子化を招くという悪循環になっている。最近の青少年によって引き起こされる事件,親の育児不安からと見られる幼児虐待など様々な状況は,少子化や核家族化がその要因の一つとも言われている。全国教育課程研究協議会においては,家庭科教育の充実に向けての課題として,少子高齢社会への適切な対応が重視されている。
 そこで,乳幼児期が人間形成の基礎となる最も重要な時期であることを理解させ,子どもの健全な成長に関心をもち,かかわろうとする意欲や実際にかかわることができる能力と実践的な態度を育てることは,少子化に対応した教育として意義深いものと考えられる。

生徒観
 対象クラスは,生活経営科2年1組生活科学類型女子14名である。2年次より生活福祉類型との2コースに別れ,生活科学類型では保育に関して専門的に学べるという特色がある。
 保育についてのアンケートを行ったところ,全員が「乳幼児が好き」と答え,「将来子どもとかかわる仕事をしたいですか」という問いに対して「はい」9名,「迷っている」4名,「いいえ」1名という結果であった。乳幼児に関する興味・関心が非常に高く,専門的な知識や技術を学びたいという意識が高いことがうかがえる。
 さらに生徒全員が授業以外でも,保育園・幼稚園での就業体験やボランティア活動を体験しており,保育園でのボランティア活動は17日間が1名,1週間が2名,5日間が1名いる。長期休業中は就業体験やボランティア活動を通して,積極的に乳幼児と触れ合っている。
 今まで体験した保育実習中に「乳幼児との関係をよりよくするために努力した」は11名に対し,「乳幼児の発達に合わせた声掛けや接し方ができた」は2名,「乳幼児の思いを大切にしてかかわることができた」のは5名と数値が低かったので,適切に乳幼児とかかわることができるようになるための,体験的な実習を取り入れた授業内容を考える必要がある。

指導観
 生徒が主体的に活動でき,人や物とのかかわりについて多くのことに気付く心理劇を取り入れた実践的・体験的な学習を通して,適切に乳幼児とかかわることができる実践的な態度をはぐくみたいと考えた。

 <心理劇のねらい>

心理劇では,相手に合わせて,よりよい解決方法を考えながら演じる。相手の動作や言葉を受け入れて,相手とのかかわり方を工夫していい方向にもっていこうとする生活場面の擬似体験ができる。見ている側の生徒にとっても,演じた後の気付きや感想を述べ合うことで,自分では気付かなかった考えにも触れ,学習の広がりと深まりが期待でき,心が揺さぶられる学習になる。心理劇への取組を通して,乳幼児と保育者の関係をよりよい方向へ導こうとする意欲や実践的態度を育成する。

 <単元におけるコンピュータの活用について>

乳幼児の生活に関する映像と解説付きで,月齢・年齢別に選べるディジタルコンテンツ「乳幼児の心とからだの発達」を見せることによって,教科書では分かりにくい情緒や社会性の発達についての理解を助ける。


3 単元の目標

乳幼児の発達を促すための保育の必要性と意義を理解し,保育の目標と指導の原理に基づく基本的な保育技術を身に付ける。
家庭保育と集団保育について,それぞれの特徴や役割を理解する。

4 単元の計画 (全34時間)

  • (1) 保育の必要性と意義・・・・6時間
  • (2) 指導の原理・・・・14時間
  • (3) 保育者の役割・・・・4時間(本時1/4・2/4)
  • (4) 家庭保育と集団保育・・・・10時間

5 本時の学習 (21/34・22/34)   場所:牛津高等学校保育実習室 時間:3.4校時

 (1) 目標

  • ○ 保育者の5つの役割を理解できる
  • ○ 心理劇を通して,幼児の気持ちや保育者の役割を考えて表現することができる

 (2) 利用環境<本校の環境>

主なハードウエア ノートパソコン・プロジェクタ・スクリーン

主なソフトウエア 「乳幼児の心とからだの発達」東京書籍

準備物 「自己評価シート」
心理劇のプログラムは「家庭科における心理劇の実践」浜田駒子著を活用

 (3) 展開

流れ
生徒の学習活動
教師の指導・支援(●評価)


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@幼児の発達についての学習を振り返る。

A本時の学習の目標を知る。
○ディジタルコンテンツ「乳幼児の心とからだの発達」 を提示しながら,幼児の情緒・社会性の発達の特徴を確認する。<資料>【PDF】

















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B心理劇の準備をする。 ○心理劇の目的(自己の気付きや発見)を知らせる。
心理劇を演じる上での約束事を説明する。(板書しておく)
○机・椅子を廊下に移動させ,会場作りをさせる。
Cウォーミングアップ「みんなで縄跳び」
見えない縄を跳んでいる様子
○班分けをする。(7人×2班)
○全員に長縄を回す役を体験させる。
○回した時,跳んだ時のどちらの感想も言えるように心掛けさせる。
ウォーミングアッププログラム例はこちら
D感想を述べ合う。 ○気付いたことや感想を一言ずつ一人一人発表させる。
E保育者の役割について考える。 ○幼児の発達の特徴を踏まえながら,保育者としてどんなことを心掛けたらいいのか考えさせる。
F心理劇「幼稚園で遊ぼう」
・3,4,5才児と先生の役を決める。
話し合いの様子







・劇のリハーサルを行う。
・発表の前に,役名・役柄の紹介をして劇を演じる。
発表の様子
○演じる班の人数は7人を2班,その後クラス全体で行う。
○役をとり役柄を決め,班のメンバーでストーリーを設定してから演じさせる。
○先生役にはエプロンを付けさせる。

成功させるための心得
心理劇プログラム例はこちら

●心理劇に積極的に取り組んでいる。(意欲・態度)
●子どもの姿が具体的にイメージでき,幼児の気持ちや保育者としてどう行動したらよいかを考えながら演じることができる。(思考・判断)(技能・表現)
G感想を述べ合う。



○気付いたことや感想を自由に出させることで,子どもと保育者の両方のそれぞれ違った気持ちに気付かせる。
●感じたことや考えたことを表現することができる。(技能・表現)
H幼児期の子どもに対する望ましい働きかけはどんなものか考える。 ○保育に当たっては,大人自身のモデル的行動,肯定的な言葉の使用,禁止・注意におけるタイミング,明確さが重要であることを理解させる。



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I保育者の役割をワークシート【PDF】 に記入しながら理解する。

J「自己評価シート」【PDF】を記入する。
○5つの役割をパワーポイントで提示する。
●保育者の役割を理解できる。(知識・理解)
○本時の学習内容を整理させる。
資料 この単元の指導と評価の計画【PDF】

6 生徒の感想

  • んなで縄跳び
    すごく楽しかったのでまたやりたいです。
    縄が見えるようでした。引っかからないように,どきどきしながら跳びました。
    「縄があたると痛いだろうな。」と思いながら跳びました。みんなと合わせて跳ぶのは楽しくて汗が出ました。
    幼稚園で遊ぼう!
    幼児の役
    自分の性格と違う3歳児を演じてみようと思っても,結局自分と似た性格の子になるので難しかったです。
    3歳児は何を好んだり,嫌がったりするのか分かりませんでした。「こんなことは言わないだろうな」と後で反省する点が多くありました。もっと乳幼児に関して勉強していきたいと思います。
    自分なりに4歳の子どもの考えそうな行動を演じてみました。
    保育者(先生)の役
    子どもたちと一緒に遊ぶとき(ままごと)は, どんなふうに接して遊べばいいのか分からないからなくて難しかったです。
    子どもの反応や対応にとても悩みました。どんな声掛けをしたらいいのか分かりませんでした。自分で考えて演じることは難しかったけど楽しかったので,また違う役をやりたいなと思いました。
    子どもの気持ちを考えて接するのは難しいです。一人一人に応じた接し方をしようと思っていても,いざやってみるとみんな同じ対応になってしまいました。もっと一人一人の性格や行動に合わせて,接し方や言葉掛けができるようになりたいと思いました。
    心理劇を体験して
    お互いの気持ちを考えることの大切さが分かりました。
    恥ずかしくて戸惑うこともありましたが,先生の気持ち・幼児の気持ちをたくさん考えることができ楽しかったです。
    心理劇で難しいと思ったところが,自分にまだ足らないところや分かっていないところだと実感できてとても勉強になりました。みんなで考えて話し合っていたとき,とても楽しかったです。
    子どもと保育者の両方の気持ちを考えることができたし,他の人の発表を見ることで「こんな対応もあるんだ」と発見できたので楽しかったです。
 7 授業の評価
    観点別評価規準   
思考・判断
幼児の発達に合わせた声掛けや接し方などについて考えを深めている。
技能・表現
心理劇を通して保育者としての役割について,自分の考えをまとめたり,表現したりすることができる。
「思考・判断」の評価については,自己評価シートの生徒の感想も評価し,「十分満足できる状況」(A)と評価される部分を赤字で示した。
  
 8 コンピュータ活用の効果
  • 「乳幼児の心とからだの発達」のソフトは年齢や発達の領域を選択できますので,生徒に見せたいところをすぐ選べる点でとても便利です。
  • 今回の授業では,幼稚園実習を控えていたので,3・4・5歳児の情緒・社会性の発達に絞って使いました。乳幼児の発達に関して,教科書では理解しにくい情緒・社会性の発達については, ディジタルコンテンツを活用することにより,視角・聴覚に訴え,よりわかりやすく授業展開できることを実感しました。
  • 心理劇の導入として見せると,子どもに対する理解がより深まり,心理劇での生徒の動きもよくなります。

9 授業を終えて

  •   「心理劇は難しい」と感じながらも,回を重ねるごとに,人とのかかわりを楽しむことができるようになり,たくさんの気付きが生まれました。演じる側も見る側も真剣に取り組み, 細かいところまで気付づきを発表する生徒がおり,お互い考えさせられることもありました。見る側の生徒にとっても,自分ならどうするだろうという広がりと深まりが期待でき,心が揺さぶられる学習になりました。
      アンケートの結果から見ても「幼児の発達に合わせた声掛けや接し方ができましたか」「幼児の思いを大切にしてかかわることができましたか」の項目で「そう思う」と答える生徒が7割に増えました。(事前のアンケート調査では,それぞれ14.3%,35.7%でした。)
      心理劇を通して「自分で気付き,自分で自分を変える」という主体的に学ぶ問題解決型学習により,コミュニケーション能力も高まり,幼児との関係をよりよい方向へ導こうとする意欲や実践的な態度を育成することができました。
      人や物とのかかわりを大切にすることは,高等学校家庭科が目標とする共に生きる存在としての自己に気付き,主体的によりよい社会や家庭生活を創造する態度を培うことにつながると思います。