本調査では、「基礎的・基本的な社会事象についての知識や概念の理解と定着に関する問題」と「習得した知識を基に、資料を基に社会的事象の意味や意義を説明する問題」に課題があることが分かった。 新しい学習指導要領においては、社会的な見方や考え方を養い、そこで身に付けた知識、概念や技能などを活用し、よりよい社会の形成に参画する資質や能力につないでいくことが求められている。そのためにも、思考力・判断力・表現力の基盤となる知識・技能の定着と言語活動の充実に継続して取り組んでいくことが必要と考える。
(ア) 反復(スパイラル)的に繰り返し、知識・技能の定着を図る指導
社会的な諸事象について理解させる上で必要となる基礎的・基本的な知識や概念は一度の学習によって定着させることは難しい。また、毎時間の授業や小テストなどを通して知識や技能の習得ができていても、生徒がそれらをいつでも使えるような知識として定着できていなかったり、それらを活用して問題を解決したりするまでには至っていないことが考えられる。そこで、学習過程において身に付けさせた知識・技能を繰り返し活用させることを意識して学習を仕組んでいく必要がある。具体的には、これまでに学んだ知識や技能を想起させたり、現在学習している事象と比べさせたりするなどしながら、前時までの学習と本時の学習、単元と単元とを意図的に関連付けたり、歴史的分野と地理的分野を相互に関連付けたりしていくような工夫が必要である。
(イ) 資料等の活用と作業的、体験的な指導の工夫
新学習指導要領では、教科の目標の1つとして「諸資料に基づいて多面的・多角的に考察し」と「資料を適切に収集、選択、処理、活用し、それらの資料に基づいて多面的・多角的に考察し公正に判断する態度を身に付けさせることを、情報化の進展に対応する観点も踏まえて重視」してある。その際、以下のような作業的・体験的な学習の充実を図ることが必要だと考える。
① 地図や年表を読ませたり、作成させたりする。
② 新聞、紀行文などの読み物、統計その他の資料に日常的に親しませる。
③ 観察や調査などの過程と結果を整理させ、報告書にまとめ、発表させる。
④ 資料の収集、処理や発表などに当たっては、コンピュータなどのICT機器を活用させる。
教師が資料を提示する場合、資料から気付かせたいことが何なのか、その資料の読み取りを通して身に付けさせたい力は何なのかということを明確にもち、系統的に指導をしていく必要がある。これらのことを通して、様々な資料を適切に収集、選択する技能が高めていくとともに、多面的・多角的に考察し、事実を正確に捉え、公正に判断するとともに適切に表現する能力を高めていくような工夫をし、知識に偏りすぎた指導にならないようにする必要があると考える。
(ウ) 「思考力・判断力・表現力」
をはぐくむ言語活動の充実とその評価
新学習指導要領では言語活動の充実について、説明、解釈、論述などの活動が具体的に挙げられている。これらの活動は社会科の目標の1つである「多面的・多角的に考察する能力と態度の育成」のためにも必要な要素であると考える。そこで、「思考力・判断力・表現力」を育むために次のような学習活動が考えられる。
① 解釈させる
社会的事象が「なぜ」存在しているのか、その時代の社会にとって「どのような意味」があるのか、他の時代の社会にとって「どのような意義」があるのかなどの問いを立て、考えさせる学習が考えられる。例えば、歴史的分野では「なぜ、江戸幕府は鎖国を行ったのだろうか。」「鎖国をしたことによって幕府にどのようなメリットがあったのだろうか。」「鎖国によって日本にはどのようなデメリットがあったのだろうか。」地理的分野では、「この地域にこのような産業が発達しているのはなぜだろうか。」「この地域は主要産業が○○から△△に変わっているのはなぜだろうか。」「この地域の人々の暮らしぶりが○○なのはどのような理由なのだろうか。」など、幾つかの問いによって、社会的事象の意味や意義の解釈を行う学習活動が考えられる。その際、解釈を行う視点(背景、行為、目的、手段、結果など)を明確に示す必要があると考える。
② 説明させる
社会的事象の特色を説明することや事象間の関連を説明することが中心になると考えられる。例えば、地理的分野などで大陸にある世界の国々と島国である日本の地形や気候の「特色」を他者に説明することなどが考えられる。また、歴史的分野では、平安時代と鎌倉時代の文化を「比較」し、その「共通点」や「相違点」を示しながら、時代の特色を説明することなどが考えられる。その際、事象の背後にある関係性などを見つけ、習得した基礎的・基本的な知識や概念、法則、理論などを使いながら説明できるように、支援を行う必要があると考える。
③ 論述させる
ある問題が生じたときに「自分はどう考えるのか。」「自分が考えた結論がなぜ妥当なのか。」など、習得した基礎的・基本的な知識や概念を活用し、収集した様々な資料を根拠を示しながら論理的に自分の考えを伝える活動が考えられる。また、話し合い(討論・ディベートなど)の活動を通して、集団の考えを発展させたり、自分の考えを修正・発展させたりするなどの言語活動を重視した学習活動が考えられる。
これらの学習活動を充実させることによって、「思考力・判断力・表現力」を育むことができると考える。また、適切に指導をしていくために、
何についてどの程度の内容を基準として評価していくのかを十分考えて、評価の基準を設定していくことが必要である。このことについては、評価規準の作成のための参考資料、評価方法等の工夫改善のための参考資料(※)を参考にしていただきたい。
※国立教育政策研究所
「評価規準の作成のための参考資料、評価方法等の工夫改善のための参考資料」(平成23年7月)中学校編 社会 http://www.nier.go.jp/kaihatsu/hyoukakijun/chuu/k_all.pdf
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