「意思決定を取り入れた討論型の学習」に取り組んでみませんか!

1 研究の概要                                            
(1)研究テーマ
社会科における思考力・判断力・表現力の育成を目指した授業の在り方
(2)研究テーマ設定の理由
 ア 社会科の学習に求められていること

社会は、急速に変化しており、人々の価値観は多様化しています。このような社会で生きていくためには、市民・国民としてどのようなことを学習していくべきでしょうか。もちろん、自分たちがどのような社会で生きているのか知る必要があるでしょう。しかし、峯は、社会科に対して、「@社会が分かればよいのか、A社会における問題を発見し、原因を説明できればよいのか、B社会を批判し、改善を求めるのか、C学習者は市民として社会にどのように関与するのか。これらの問いにどのように答えるかによって、社会科の目標、内容、方法は異なるものとなる」1)という問いを投げ掛けています。果たして社会科教育では、社会を知ることだけでよいのでしょうか。

  1)  峯 明秀   「5社会科における意思決定」社会認識教育学会『新社会科教育学ハンドブック』 
   2012年 明治図書 p.186

学習指導要領には、小・中学校社会科に共通する目標を、公民的資質の基礎を養うことと示されています。

  「公民的資質」とは、国際社会に生きる平和で民主的な国家・社会の形成者、すなわち市民・国民として行動する上で必要とされる資質を意味している。したがって、 公民的資質は、平和で民主的な国家・社会の形成者としての自覚をもち、自他の人格を互いに尊重し合うこと、社会的義務や責任を果たそうとすること、社会生活の様々な場面で多面的に考えたり、公正に判断したりすることなどの態度や能力であると考えられる。こうした公民的資質は、日本人としての自覚をもって国際社会で主体的に 生きるとともに、持続可能な社会の実現を目指すなど、よりよい社会の形成に参画する資質や能力の基礎をも含むものであると考えられる。

『小学校学習指導要領解説 社会編』 平成20年8月 p.12より

この目標に迫るために、学習指導要領解説社会編には、社会的な見方や考え方を成長させること、基礎的・基本的な知識、概念を活用する力や課題を探究する力を育成することなどを重視する学習活動を授業に取り入れるよう示されています。

実際の授業では、小・中学校ともに言語活動の充実を図るように求められています。具体的には次のように解説されています。

小学校
中学校
  問題解決的な学習を一層重視することの他に、 
  •   観察・調査や資料活用を通して必要な情報を入手し的確に記録する学習
  •  入手した必要な情報を比較・関連付け・総合しながら再構成する学習
  •  考えたことを自分の言葉でまとめ伝え合うことによりお互いの考えを深めていく学習

など

『小学校学習指導要領解説 社会編』 
平成20年8月 p.5より

様々な資料を適切に収集し、活用して事象を多面的・多角的に考察し公正に判断するともに、適切に表現する能力と態度を育てることを目指し、社会的な見方や考え方を養うことをより一層重視する観点に立った

  •  社会的事象の意味、意義を解釈する学習
  •  社会的事象の特色や事象間の関連を説明する学習

など

『中学校学習指導要領解説 社会編』
  平成20年9月 pp.5-6より

このようにして、よりよい社会の形成に参画する資質や能力の基礎として、社会科における思考力・判断力・表現力を確実に育むことが求められています。
 

 イ 県内の実態から
  「平成24年度佐賀県小・中学校学習状況調査及び全国学力・学習状況調査を活用した調査Web報告書」によると、次のような課題が指摘されています。
小学校の課題
中学校の課題
  • 自分の考えを論述すること
  • 事象の関連や意味を説明すること
  • 社会的な思考・判断に関すること
  • 資料活用の技能・表現に関すること
  この改善策として、報告書には、習得した知識を活用し、社会的な問題に対する解決策を話し合い、自分の考えをもたせる指導の必要性が示されています。

一方では、先生方から授業研究会の際に次のような質問や意見が出されています。

「社会科って知識・理解を重視すればよい。覚えさせることが多いから。」

「考える力を付ける学習はどうすればよいのですか?」

「社会科で何を考えさせたらよいですか?。社会科における思考力・判断力・表現力って何ですか?」

「社会的な問題を取り上げればよいと聞いたけれど、子どもたちには難しいのではないですか?」

「時間を掛けて話合いや討論をさせたけれど、なかなか盛り上がらなかった。」

「どうすれば子どもたちが主体的に話し出すのでしょうか?」など

社会科における思考力・判断力・表現力を育成する授業をやりたい、やらなければならないと思っていても、単元開発や指導、評価に、難しさを感じる状況があることがうかがえます。
 

 ウ 「意思決定を取り入れた討論型の学習」の構想 

そこで、本研究では、社会科における思考力・判断力・表現力を育成する授業として「意思決定を取り入れた討論型の学習」を提案します。これは、平成20・21年度のプロジェクト研究で取り組まれた「社会的な見方や考え方を深める社会科学習」の成果と課題を引き継ぎ、「取り組みやすさ」を切り口に研究した提案です。

特に、「取り組みやすさ」を重視した単元構成として、教科書を使った学習をした後に発展的な学習として意思決定を取り入れた討論型の学習を設定し研究を深めてきました。 また、社会的事象の特色や事象間の関連、意味などを考えさせていく中で、「意思決定を取り入れた討論型の学習」の入り口ともいうべき、社会的な問題に出会わせ、論題を見いださせる段階に焦点を当て、単元計画及び指導法を見直し、研究してきました。

「何がどのように問題なのか」といった、社会的な問題を明解にさせる手立てを取り入れることで、児童生徒は切実感をもって問題を追及し、自分の考えを深めるようになると考えます。あわせて、社会的な問題についての意思決定を迫る場を単元内に位置付けることで、多面的・多角的な見方や考え方から考える力、自分の考えや判断を説明したり、自分の言葉でまとめたりする力を育成することができると考えます。

これらのことから、社会科における思考力・判断力・表現力の育成を目指す授業の在り方を探るため、本研究テーマを設定しています。
 

(3)研究の方法と内容
     
   「意思決定を取り入れた討論型の学習」についての理論研究
   取り組みやすい「意思決定を取り入れた討論型の学習」の単元づくりについての理論研究
   社会的な問題を把握させる段階についての理論研究
   社会的な問題を明解にする手立てと指導のポイントの開発
 小・中学校における問題を明解にする手立てを取り入れた授業実践
   授業実践の考察と1年次研究のまとめ


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