〔共通事項〕をよりどころとして表現と鑑賞の関連を図った指導法の工夫について提案します!!
                                                                        

2 研究の実際

(4) 検証授業の分析

〔共通事項〕をよりどころとして表現と鑑賞の関連を図った指導法の工夫を通して、音楽表現の創意工夫や鑑賞の能力がどのように変容したかについて、児童のアンケート調査による意識調査やワークシート、活動の観察などから検証しました。

まだ、本研究に取り組む前の、6月の鑑賞 サン・サーンス作曲「象」(組曲「動物の謝肉祭」より)、7月の鑑賞 アラン メンケン作曲「新しい世界」(映画「アラジン」より)のワークシートや活動の観察と、9月〜10月から研究に取り組んだ題材「せんりつのとくちょうをかんじとろう」における、鑑賞「白鳥」、歌唱「ふじ山」、器楽「メリーさんの羊」、音楽づくりのワークシートや活動の観察を基に分析しました。

検証授業は、3年生(34名)を対象としています。

内容は、抽出児童(A児、B児、C児)の「鑑賞の能力」「音楽表現の創意工夫」「関心・意欲・態度」の変容と学級全体における「鑑賞の能力」「音楽表現の創意工夫」「関心・意欲・態度」の変容についてです。

@ 抽出児童における題材を通した鑑賞の能力、音楽表現の創意工夫、関心・意欲・態度についての分析

抽出児童(A児、B児、C児)のプロフィール

6月の抽出児童(6月のアンケートや活動の観察より)
抽出児童

音楽の学習が

すきですか

理由
授業中の様子
A児
どちらでもない
空欄
音楽に対する反応が少なく、ワークシートを自分一人で書くのは難しい。
B児
きらい

  歌うのが

 きらいだから

音楽が嫌いで音楽活動に抵抗がある。音楽に対する反応は豊かで、ワークシートにもたくさん書くことができるが、的を得ていない記述もある。
C児
すき

  歌うのが

  楽しいから

音楽が好きで、楽しそうに活動している。ワークシートに、自分の感じたことを書くことができるが、進んで活動するほどではない。


 抽出児童の「鑑賞の能力」と「音楽表現の創意工夫」の変容 

 表2   ※〔共通事項〕の「旋律」の特徴を聴き取り、感じ取った内容を緑、思いや意図はピンクで示しています。
A児の変容
鑑賞の活動「白鳥」
歌唱の活動「ふじ山」
音楽づくり


 


       

 



記入無し
 

楽譜の「ふじは日本一の山」のところを○で囲んでいる。

大きくきれいに歌った。」 

 

6小節目の「シレド」の部分を○で囲んでいる。

(旋律が)あがったりさがったりしているところがおもしろい。だからお気に入りです。」

6月「象」や7月「新しい世界」の鑑賞では、ワークシートはほとんど空欄でした。

9月の「白鳥」では、曲名や楽器名など板書したことについては記入できていたものの、自分が聴き取り感じ取ったことについての記入はできていませんでした。机間指導で、声を掛けましたが、時間的にも必要事項を書かせるだけで精一杯でした。

 

 

歌唱「ふじ山」の活動では、〔共通事項〕の旋律を思考・判断の根拠として、@どこを、Aどのように、Bなぜ表現の工夫をしたいのか、具体的に問い掛け、ワークシートに書かせたことで、ワークシートの工夫マップの工夫したい部分を○で囲み、大きくきれいに歌いたいという自分の思いや意図を書くことができていました。

しかし、音楽を〔共通事項〕の各要素と関連させた記述はできていませんでした。なぜ、そのように表現したいのかが自分でもよく分からなかったようでした。

机間指導で、「どうして大きく歌いたかったのですか?」と補助的な問い掛けをしましたが、答えることができませんでした。

   音楽づくりも、歌唱と同様、@どこが、Aどのように 気に入っているのか具体的に問い掛け、ワークシートにその欄を設けたことで、グループ活動で友だちと相談しながらつくった曲への自分の思いや意図を書くができました。

その表現の工夫について、Bなぜそのように工夫したのかについても、「あがったりさがったりしているところが」という表現で、旋律の特徴を捉えた思いや意図を表現をすることができていました。

B児の変容
鑑賞の活動「白鳥」
歌唱の活動「ふじ山」
音楽づくり


 

 




旋律の図には、記入無し

「チェロは、たかくなったりひくくなったりしていいきもちがします。なぜかというと、こころがつたわってくるからです。おとがたかいときは、かいだんのようになっているからいいきもちでした。

おとがたかくなっているとき、白鳥がきらきらしていてきれいだとおもいました。かわいいはくちょうがとんで、きらきらしているところがかわいいとおもいました。」

 

「みおろして」のところの楽譜に下がる矢印を書き込んで、「声をちょっと小さく」と記入したり「ふじは日本一の山」のところを○で囲んだりしている。

大きくうたったからきもちのいいくうきのかんじがした。ふじ山のところにいるみたいにおもったからすずしかった。けしきが、きらきらひかっているふじ山だとおもいました。」

 

1、2小節の「ソラシドレ」部分を○で囲んでいる。

「とんでいるように、だんだんそらにむかっているように、おとをだんだんたかくしている。」

6月「象」や7月「新しい世界」の鑑賞では、ワークシートに記入はありましたが、曲想についてなんとなく感じたことを書いていました。

9月の「白鳥」では、旋律の音の高さの変化に気付き、「いいきもち」「かわいい」のように感じたことを書くことはできていますが、感じたことを〔共通事項〕の各要素と関連させて表現することはできていませんでした。

 

旋律がだんだん下がっている部分や、歌詞から曲の山を感じ取って、楽譜に印を付け示すことができていました。

自分の表現したいところについて、それぞれ「声をちょっと小さく」や「大きく」のように、旋律の特徴を捉えて「強弱」の工夫について書くことができていました。

また、ふじ山にいるような気持ちで、情景を思い浮かべながら歌えた様子がうかがえました。

しかし、感じ取ったことと〔共通事項〕の各要素とを関連させて考えることまではできていませんでした。

   音楽づくりにおける、音楽表現の創意工夫では、「ソラシドレ」と旋律の音高をだんだん高くしている理由について、「金のユニコーンがだんだん空に向かってとんでいくように音を高くしている」のように、〔共通事項〕の音楽を形づくっている要素である旋律の特徴と自分の思いや意図を関連させて記述することができていました。
C児の変容
鑑賞の活動「白鳥」
歌唱の活動「ふじ山」
音楽づくり

 
 

ピアノの旋律に、旋律線を自分で書き込んでいる。

チェロの音楽(音色)をきいて白鳥がみずうみでおよいでいるふうけいがうかんできた。せんりつが入っているからいい音楽だと思う。」

「ピアノの音楽が、なみの音にきこえました。白鳥がはばたく音にもきこえました。」

 

楽譜の「ふじは日本一の山」のところと、「にっぽん」の歌詞のところを○で囲み、そこに「のばすところを大きく歌う」と書き込んでいる。

せんりつの山をちょっと大きくしたところがよかったっです。ふじは日本一の山のところを大きくできてよかったと思いました。」

 

繰り返しの「ソーソドレド」の部分を囲んでいる。

「なぞのペガサスがもういっぴきのなぞのペガサスとおどっているようにかんじました。」

「ソソラソド」の部分を○で囲んでいる。

「なぞのペガサスが、はずむようなかんかくたからです。」「なぞのふしぎなかんじがしました。」

ピアノの繰り返される波のような旋律の特徴に気付き、図に旋律線を書くことができていました。

チェロの旋律についての図への記入はありませんでした。

「せんりつ」という言葉がでていますが、意味はまだ十分理解できていないような文章表現でした。

ピアノの旋律についても、波のように感じたり白鳥のはばたく音のように感じたりしており、旋律の特徴を捉えながらも感じ取った内容には迷いが見られました。

   「せんりつの山」という言葉から分かるように、旋律の意味を理解して表現の工夫をすることができていました。

「せんりつの山」の部分を○で囲んでいます。自分の工夫したいところに印を付けて、「大きく歌いたい」という思いや意図をもつことができていました。

また、「にっぽん」の歌詞にも印を付け、「にーっぽん」と伸ばすところや「ふーじは」と伸ばすところに、「のばすところを大きく歌う」のように旋律に出てくる音符の長さと強弱とを関連させて表現の工夫をしたいという思いや意図ももつことができていました。

〔共通事項〕の音楽を形づくっている要素である旋律の特徴に気付いて曲想を感じ取り、自分の表現の工夫について強弱の変化を付けたいという思いや意図をもつことができていました。

   音楽表現の工夫について、1、2小節目と5、6小節目の反復について、「なぞのペガサスがもういっぴきのなぞのペガサスとおどっているように」という自分の思いや意図をもつことができていました。

また、「ソソラソド」のところは、「ソソラソ」と「ド」の跳躍した〔共通事項〕の音楽を形づくっている要素である旋律の特徴と「なぞのペガサスがはずむようなかんじ」とを関連させて思いや意図をもち表現することができていました。

「チャレンジシート」に挑戦
 「わたしはなぞのペガサスのさいしょのところをくふうしています。ソソラソド(の旋律)は、ペガサスがそらをとんでいるようで、きれいにふきたいです。
 さらに、5/6時間目の旋律創作の際、チャレンジ用のワークシートに進んで取り組み、このように表現したいという自分の思いや意図をイメージ豊かに絵や文章で表すことができました。また、8小節の記譜も正しくできました。

このように、A児、B児、C児とも、題材を通して〔共通事項〕をよりどころとして表現と鑑賞の関連を図った指導法を工夫したことで、〔共通事項〕を支えとしながら、鑑賞、歌唱、器楽、音楽づくりの各活動の流れの中で学習を重ねていくことにより、〔共通事項〕を思考・判断の根拠として自分の思いや意図をもち、表現したり味わって聴いたりすることができるようになってきていることが、表2の記述から分かります。

 ★ 抽出児童の「関心・意欲・態度」の変容(6月・10月のアンケートや活動の観察より)

表3

抽出児童
 音楽の学習が  すきですか
理由
授業中の様子の変容

  A児

6月

どちらでもない
空欄

〔共通事項〕カードを視覚的に提示したことで、思いや意図をもって表現したり味わって聴いたりするための思考・判断やその根拠が明確になり、ワークシートにも@どこを、Aどのように、Bなぜについて具体的に記述できるようになってきました。そのことにより、教師が机間指導する前にある程度記入できるようになってきて、A児の個別指導に教師が関わる時間も少なくてすむようになってきました。

また、音楽の音遊びなどの反応もよくなり、体を動かして楽しそうに参加できるようになってきました。音楽の学習に対して「どちらでもない」が「すき」に変わっています。音楽の学習への意欲の向上がうかがえました。

10月
すき

リコーダーをふいて

楽しかった から

  B児

6月

きらい
歌うのがきらいだから

個性的で豊かな感情を持ちつつも、音楽は嫌いで、始めは学習に抵抗がありました。しかし、題材を通して〔共通事項〕の音楽を形づくっている要素「旋律」の特徴を思考・判断の根拠として思いや意図をもたせたことで、なんとなく聴き取ったり、表現したりしていたものが明確になり、ワークシートの記述や発表が的確にでき、ほめられるようになりました。

自分の個性が表現の工夫に生かされ、表現する喜びを味わうことができるようになり、歌をすきになることができました。音楽の学習への意欲も「きらい」から「どちらでもない」に変化し、意欲が高まってきました。

10月
どちらでもない

歌うのがすきに

なったから

C児

6月

すき

歌うのが楽しいから

  6月のアンケートでは、音楽が「すき」と書いていましたが、進んで学習に取り組むほどの意欲は感じられませんでした。しかし、題材を通して〔共通事項〕をよりどころとした学習を積み重ねたことで、理解が深まり、意欲も次第に高まってきて、音楽づくりの学習では、発展的なワークシートに進んでチャレンジする姿を見せてくれました。
10月 すき 歌ったりリコーダーを演奏したりするのが楽しいから

アンケートや授業中の活動の観察から、抽出児童一人一人は6月と比べて、題材を通して各活動の学習を積み重ねていくにつれ、前の学習を生かして各活動の授業のねらいが達成しやすくなり、音楽の学習に対する意欲や心情も高まってきている様子がうかがえます(表3)。  

 
A 学級全体における鑑賞の能力、音楽表現の創意工夫、関心・意欲・態度についての分析

★ 学級全体の鑑賞の能力の変容について

6月の鑑賞 「象」、7月の鑑賞 「新しい世界」では、まだ〔共通事項〕をよりどころとして表現と鑑賞の関連を図った指導法の工夫に取り組んでいませんでしたが、9月に学習した鑑賞「白鳥」においては、その指導法の工夫に取り組んだことで、ほとんどの児童は、チェロやピアノの旋律の特徴や音色、伴奏の繰り返される反復などを聴き取り、白鳥が湖で泳ぐ姿を想像しながら感じ取ったことを音楽を形づくっている要素と関連させてワークシートに記述したり、発表をしたりすることができました(資料1)。

資料1

資料1の記述から、★チェロの旋律が「白鳥」を表現した音楽であると感じ取った理由→◎旋律がきれい。◎旋律が階段みたいになっている。★ピアノの旋律が「湖」を表現した音楽であると感じ取った理由→◎旋律がゆれているかんじがする。◎旋律がなみのように聞こえた、などのように、児童が聴き取り感じ取った内容について、その根拠を音楽を形づくっている要素である旋律と関連させていることが分かります。

このように、鑑賞領域で音楽を形づくっている要素を聴き取り感じ取っている児童の割合を、6月の鑑賞「象」、7月の鑑賞「新しい世界」、9月の鑑賞「白鳥」のワークシートや活動の観察から分析し、グラフに表すと次のようになりました(グラフ1)。

グラフ1

6月に鑑賞した「象」と7月の「新しい世界」と比較すると、「新しい世界」の方が、要素や仕組みを聴き取り感じ取っている児童が少なくなっています。どちらも、まだ〔共通事項〕をよりどころとした指導法の工夫を取り入れていませんでしたが、教材として、「象」の方が児童にとって親しみのある生きものであり分かりやすくイメージがしやすかったからではないかと思われます。「象」の様子を感じ取った理由として、「ドンという音が象の足音のように聞こえたから」「象の声みたいな音がしたから」など、音色を聴き取り感じ取っている児童がほとんどでした。それに対して、「新しい世界」では、大きな空をイメージしたり、雲や太陽などをイメージした児童もいました。音楽を聴いて様々な感じ取り方をしていただけに、その理由については、空欄も多く、何を根拠に感じ取っているのかが捉えにくい教材であったことも考えられます。

9月の鑑賞「白鳥」においては、〔共通事項〕をよりどころとして、音楽を形づくっている要素のア音楽を特徴付けている要素の旋律や、音楽の仕組みの反復などと関連させて指導したことで、ほとんどの児童が、チェロやピアノの旋律の特徴や音色、伴奏の繰り返される反復などを聴き取り、白鳥が湖で泳ぐ姿を想像しながら感じ取ったことをワークシートに記述することができました。

 ★ 音楽表現の創意工夫の変容について

6月 歌唱・器楽「とどけようこの夢を」 9〜10月の歌唱「ふじ山」、器楽「メリーさんの羊」、音楽づくりのワークシートや活動の観察から分析しました。

6月 歌唱・器楽「とどけようこの夢を」では、まだ〔共通事項〕をよりどころとして表現と鑑賞の関連を図った指導法の工夫に取り組んでいませんでした。9月〜10月に学習した歌唱「ふじ山」、器楽「メリーさんの羊」、音楽づくりにおいては、その指導法の工夫に取り組んだことで、児童は、旋律の特徴や反復などを聴き取り、思いや意図をもった音楽表現の創意工夫をすることができるようになってきました。(資料2〜4)。

資料2は、まだ〔共通事項〕をよりどころとして表現と鑑賞の関連を図った指導法の工夫に取り組んでいない6月の題材「拍の流れにのろう」の歌唱・器楽「とどけようこのゆめを」のワークシートです。左のワークシートのように音楽の仕組みの反復に気付いて、それを表現の工夫に生かして「交互に歌ったり演奏したりしたい」と書いている児童もいましたが、そうした児童は、34名中6名(約18%)で、右のワークシートのように反復に気付いている児童でも、表現の工夫では、「楽しく歌いたい」などのように、音楽を形づくっている要素に関連した内容でなく、自分の意欲や気持ちについて記述しているものがほとんどでした。

資料2

 
資料3

   資料3は、〔共通事項〕をよりどころとして表現と鑑賞の関連を図った指導法の工夫に取り組んだ歌唱「ふじ山」のワークシートです。表現の工夫をする際には、ワークシートに@どこを、Aどのように表現したいのか、またそれはBなぜかについて記入する欄を設けたことで、児童が自分の表現の工夫について、鑑賞「白鳥」の活動で学んだことを思い出しながら、 〔共通事項〕の音楽を形づくっている要素である旋律をよりどころとして、自分の思いや意図を記述することができました。資料3のように、「かいだんみたいになってるから。」と書いている児童には、机間指導の際に「何がかいだんみたいになっているのかな?」と、補助的な発問をすることで、児童は「せんりつが」ということを思い出し、音楽を形づくっている要素と関連させて書き加えることができます。

ワークシートで音楽表現の創意工夫について評価する際には、対話の中で児童の思いや意図を引き出したり、整理したりできるような問い掛けをして、形成的に評価することが大切だと考えています。

資料4

  資料4は、器楽「メリーさんの羊」のワークシートです。〔共通事項〕の音楽を形づくっている要素である旋律や反復に気付かせたいので、児童の気付きが楽譜に書き込めるようにして、@どこを、Aどのように、Bなぜという問い掛けをしながらワークシートを書かせました。資料4のように、自分の表現の工夫について、ほとんどの児童が楽譜の一部分を囲むなど表現の工夫をしているところに印を付けて、自分の思いや意図を書くことができていました。しかし、なぜそのように思考・判断したのか、根拠となった音楽を形づくっている要素と関連させているかどうかについてまで記述できていない児童が半数程度いました。そこで、机間指導の際に、補助的な発問をして書き加えさせたり、対話により児童の思考・判断の過程を見取って形成的に評価するようにしました。

資料4も、上記のワークシートでは、音楽を形づくっている要素に触れていませんでしたが、「なぜ羊みたいに演奏したいと思いましたか?」と問い掛けると、児童は「ターンタタンタンと羊がはねているような旋律になっているから。」と答え、旋律と関連させて考えることができました。

これらの工夫により、8割近い児童が、〔共通事項〕の音楽を形づくっている要素を根拠にして、自分の思いや意図をもつことができるようになりました。

  このように、表現領域で音楽を形づくっている要素を根拠にどのように表現したいか自分の思いや意図をもっている児童の割合を、 6月 歌唱・器楽「とどけようこの夢を」、9〜10月の歌唱「ふじ山」、器楽「メリーさんの羊」、音楽づくりのワークシートや活動の観察から分析し、グラフに表すと次のようになりました(グラフ2)。
グラフ2
   6月の歌唱・器楽「とどけようこの夢を」では、反復に気が付いて、同じ旋律がでてくるところを歌とリコーダーと交互に演奏したいという思いが多く見られました。しかしながら、表現の工夫においては、反復に気付きながらも、「リズムに乗って楽しく演奏したい」「明るく歌いたい」などのように、〔共通事項〕の音楽を形づくっている要素とは関連のない記述がほとんどでした。

9月〜10月の題材「せんりつのとくちょうをかんじとろう」では、旋律を中心にまず題材を構成し、音色、強弱、反復という〔共通事項〕を思考・判断の根拠として、鑑賞「白鳥」、歌唱「ふじ山」、器楽「メリーさんの羊」、音楽づくりの各活動を関連させて指導法の工夫(〔共通事項〕カードの作成・提示の仕方の工夫、発問や指示の工夫、ワークシートの工夫、音楽学習の環境づくり)を行ったことで、児童は、〔共通事項〕を根拠に思考・判断していく学習を積み重ねることができ、次第に自分の思いや意図をもって表現したり味わって聴いたりすることができるようになってきました。

題材構成の工夫では、鑑賞「白鳥」で学習した反復を器楽「メリーさんの羊」では、リコーダーの演奏と楽譜による理解につなげ、更に反復を生かした音楽づくりにつなげたことで、ほとんどの児童が旋律創作は初めてであったにもかかわらず、抵抗なく自分の思いや意図をもって楽しんで創作に取り組むことができました。

〔共通事項〕カードの作成・提示の仕方の工夫、発問や指示の工夫、ワークシートの工夫では、具体的に@どこを、Aどのように、Bなぜという発問や指示とワークシートとを関連させ、思考・判断の際に〔共通事項〕カードを提示したことで、思考・判断やその根拠が明確になり、ねらいの達成にもつながっていったように思います。また、ねらいを達成できたことで、児童は、思いや意図をもって表現したり味わって聴いたりする楽しさを味わい、学習への意欲も高まっていきました。

 ★ 関心・意欲・態度の変容について

〔共通事項〕をよりどころとして、表現と鑑賞の関連を図って指導をしていくことにより、一つ一つの活動がスムーズに導入できました。学習したことを次の学習に生かせる題材構成であったことから、児童がより意欲的に取り組むことができて、達成感が増し、次の音楽活動への意欲を次第に高めていくことができました。その意欲は、活動を重ねるごとに高まり、音楽づくりで最高に至っている児童が多くみられました。その様子は、題材最後の児童の感想からも読み取ることができました。

題材「せんりつのとくちょうをかんじとろう」を通して、児童が10月に書いたワークシートの記述から分かることは、次のようなことです(資料5)


資料5  「せんりつのとくちょうをかんじとろう」の学習をふりかえって のワークシートの記述
 


○ 音楽が苦手な児童も好きな児童も楽しく活動ができたことが分かる記述の例

 

○ 思いや意図をもって表現の工夫をする楽しさを味わうことができたことが分かる記述の例


○ 音楽づくりは初めてであったが、思いや意図をもって創作し、できた達成感と喜びを味わうことができたことが分かる記述の例

○ 題材を通して、〔共通事項〕をよりどころとして表現と鑑賞の関連を図った指導を工夫したことで、音楽に対する意欲も次第に高まり、「音楽づくり」で最高となっていることが分かる記述の例
 
                                                      
  次に、アンケートの結果を基に、音楽の学習についての児童の意識の変容について見ていくことにします。
6月と10月のアンケート集計より◆ 
グラフ3 「音楽の学習がすきですか」  
 音楽の授業については、もともと好きな児童が3分の2以上いました。10月は、若干ではありますが「すき」になった児童が増えています。
 
 グラフ4 「音楽の学習で、すきな活動に○を付けましょう」 (延べ人数)                                                   ※いくつ○を付けてもよい

音楽の学習で好きな活動は、やはり6月は歌唱と器楽が多くなっていました。特に3年生では、初めてソプラノリコーダーを学習しますので、楽器の演奏についての意欲が一番高い結果がでており、鑑賞と音楽づくりは、やや少なめでした。しかし、題材を通して、鑑賞→歌唱→器楽→音楽づくりの学習において、〔共通事項〕をよりどころとして表現と鑑賞の関連を図った指導法を工夫したことにより、児童は、各活動で学習したことを生かしていくことができ、学習の理解をより深めることができました。特に、最後の音楽づくりの活動では、その効果が表れていました。

教師の一方的な指導によるものでなく、自分たちの思いや意図を、友だちと話し合いながら試行錯誤してつくりあげていく学習過程に、「自分たちでできた」という達成感があったようです。このように初めて取り組んだ旋律創作においても、前時までの学習を生かしながら抵抗なく思いや意図をもって創作できたことが、楽しさや次の学習への意欲につながっていったように思います。

グラフ5 「歌ったり演奏したりする時、気を付けていることはどんなことですか」(述べ人数)
                            ※1番気を付けていることから順に2つ○を付け、1番2番の合計数

表現領域の歌唱や器楽の活動について、「歌ったり演奏したりする時、気を付けていることはどんなことですか」という質問について、6月は「まちがえないように」とか「きれいな声で」のうに、音楽表現の技能に関する内容が多かったのですが、〔共通事項〕をよりどころとして表現と鑑賞の関連を図った指導法を工夫したことにより、「曲の様子を思いうかべながら」や「曲に合わせて強弱や速さを工夫して」のように、表現の工夫に関する内容が増えています。

このように、思いや意図をもって音楽表現の創意工夫を行うことに対する意識の高まりも見られました。

                                                                  
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