生きて働く言語能力を育てる「国語科学習指導の具体策」を提案します!

 授業展開案  〜授業づくりの基本構想に基づく実践の提案〜  (「読むこと」の指導)
単元名 
  「小説に書かれていない場面を想像して、考えを交流しよう」 
教材名(出典)
  「少年の日の思い出」(東京書籍「新しい国語1」)
生徒の実態と指導のねらい
   佐賀県の中学1年生の実態として、平成24年度全国学力・学習状況調査の結果から、「登場人物の相互関係から人物像やその役割を捉え、内面にある深い心情も合わせて捉える」ことを問う設問において正答率が期待正答率を下回っていて、課題が見られます。
  生徒は、これまで小学校や中学校第1学年の文学的な文章の学習において、場面の展開や登場人物などの描写に注意して読み、内容を捉える学習を積み重ねています。しかし、文学的な文章の表現の特徴について捉え、その工夫や効果について自分の考えをもつという学習活動の経験は十分ではないと考えられます。登場人物の内面にある深い心情を捉えるためには、文章表現の工夫や効果に気付き、想像力を働かせて心情を推し量ることが必要です。
 以上のような課題と生徒の学習の実態から、本単元では、「小説に書かれていない場面を想像して、考えを交流する」という言語活動を通して、「思考力や想像力を働かせながら読む力」と「表現の工夫とその効果について自分の考えをもつ力」を身に付けさせたいと考えました。学習指導要領の指導事項との関連では、「場面の展開や登場人物などの描写に注意して読み、内容の理解に役立てること」(「読むこと」ウ)、「文章に表れているものの見方や考え方をとらえ、自分の見方や考え方を広くすること」(「読むこと」オ)を考えます。心情描写や情景描写に注目して内容を正確に読み取り、本文の記述を基に自分の考えをもたせ、交流することで、ものの見方を広げたり、考え方を広くしたりしていくことを指導します。
学習内容の系統性
 
言語活動について
   本単元では、読むこと」の力を身に付けさせるために、学習指導要領第2学年「C読むこと」の(2)に位置付けられている言語活動例の「ア 詩歌や物語などを読み、内容や表現の仕方について感想を交流すること」を参考にして、小説を読み、小説に書かれていない場面を想像して考えを交流するという言語活動を位置付けました。この言語活動を通して、描写に注意して読んで内容の理解を深めたり、自分のものの見方や考え方を広くしたりすることを指導します。
単元の目標
(1)
場面の展開及び心情や情景を表す語句に注意して読み、内容の理解を深めることができる。
(2) 読み取ったことを基に自分の考えをもち、交流して自分のものの見方や考え方を広げることができる。
7 単元の評価規準
 
   国語への関心・意欲・態度
 読む能力
 言語についての知識・理解・技能
@ 文章を読んで感想をもち、交流して考えを広げようとしている。
@ 場面の展開や登場人物の描写に注意して読み、内容を理解して自分の感想をもっている。(ウ)
A 小説に表れているものの見方や考え方を捉え、交流して自分のものの見方や考え方を広げている。(オ)
@ 心情や行動などを表す多様な語句の働きについての理解を深め、描写に注意して読んでいる。(イ(ウ))
8 単元の指導と評価の計画(全4時間)
 
主な学習活動
指導上の留意点
評価規準
評価方法
指導計画
ワークシート
モデル学習に取り組み、感想をもつこと及び見方や考え方を広げることについて自分の能力を自覚する。
学習課題「小説に書かれていない場面を想像して考えを交流し、描写に注意して読む力を付けたり、自分のものの見方や考え方を広くしたりしよう」を設定する。
単元の計画を知り、学習の見通しをもつ。
書かれていることを根拠にして書かれていない場面を想像し、考えを交流するために、場面の展開や登場人物の描写、及び情景描写に気を付けて全文を通読する。
既習教材を用いて、どのようにして感想をもち、どのようにして見方や考え方を広げたかを想起させる。
小説に書かれていない場面を想像するには、描写に注意して読み、書かれていることを根拠に想像することが大切であることを理解させる。
学習計画表を用いて、単元の学習活動を確認させ、学習の見通しをもたせる。
自分の考えをもって交流することを見通して、本文を読むように促す。
ワークシートAを手掛かりに、情景描写や心情描写にマーキングをさせる。
[国語への関心・意欲・態度]@
文章を読んで感想をもち、交流して考えを広げようとしている。
【観察】
【ワークシート@】
【学習計画表】
指導計画1/6
ワークシート@
<東京書籍用>

(記入例)
ワークシート@
<光村図書用>

(記入例)

学習計画表











本文ワークシート
<T>

<U>
<V>
ワークシートA
(記入例)
小説の全体の構成をつかみ、登場人物を確認する。
現在の場面を読み、情景描写の効果について考えて感想をまとめる。
現在の場面から過去の回想へと続き、過去の回想のまま物語が終わることに注目させる。
時間や出来事、登場人物に着目させ、3つの場面(現在の場面、過去の場面T、過去の場面U)に分けさせる。
  〔東京書籍〕
現在…P148L1〜P150L11
過去A…P150L12〜P153L13
過去B…P153L14〜P160L10
情景描写の効果について、人間の五感で感じる「暗さ」や「静けさ」がどのような印象を与えるのか考えさせる。
















[読む能力]@
場面の展開や登場人物の描写に注意して読み、内容を理解して自分の感想をもっている。(ウ)
【本文ワークシート<T>】
【ワークシートB】
指導計画2/6
学習計画表
本文ワークシート
<T>
ワークシートB
(記入例)

登場人物について書かれていることに気を付けて過去の場面Tを読む。
「僕」と「エーミール」の人物像や関係を捉える。
登場人物の人物像を捉えるために読むという意識を明確にもたせ、人物についての説明や描写にマーキングをさせる。
マーキングをした表現を根拠にして、「僕」と「エーミール」の人物像や関係をワークシートBにまとめさせる。
[言語についての知識・理解・技能]@
心情や行動などを表す多様な語句の働きについての理解を深め、描写に注意して読んでいる。(イ(ウ))
【ワークシートC】

[読む能力]@
場面の展開や登場人物の描写に注意して読み、内容を理解して自分の感想をもっている。(ウ)
【本文ワークシート<U>】
【ワークシートC】


指導計画3/6
学習計画表
本文ワークシート
<U>
ワークシートC
(記入例)

心情や行動を表す語句に注意して過去の場面Uを読み、「僕」の心情を想像する。
10 登場人物がどのように描かれているか考え、「僕」の心情を想像する。
「僕」の心情を表す表現にマーキングをさせ、その表現を根拠にして「僕」の心情を想像させる。
「僕」の目を通して描かれる「エーミール」の行動や様子が分かる表現にマーキングをさせ、その表現を根拠にして「僕」の心情を想像させる。
[言語についての知識・理解・技能]@
心情や行動などを表す多様な語句の働きについての理解を深め、描写に注意して読んでいる。(イ(ウ))
【ワークシートD】

[読む能力]@
場面の展開や登場人物の描写に注意して読み、内容を理解して自分の感想をもっている。(ウ)
【本文ワークシート<V>】
【ワークシートD】

指導計画4/6
学習計画表
本文ワークシート
<V>
ワークシートD
(記入例)
11 「僕」は小説に書かれた現在から先の未来で、「エーミール」と「再会する」のかそれとも「再会しない」のかについて想像し、自分の考えをもつ。
12 小説に書かれていない場面を想像してグループで交流し、自分のものの見方や考え方を広げる。
小説の表現を根拠に再会するかしないかの想像をさせ、立場を明確にさせて考えを交流させる。
友達の意見を聞いて、自分の考えがどのように変わったかをワークシートEに記入させる。
[国語への関心・意欲・態度]@
文章を読んで感想をもち、交流して考えを広げようとしている。
【観察】
【ワークシートE】

指導計画5/6
学習計画表
ワークシートE
13 小説に書かれていない場面を想像して学級で交流し、自分のものの見方や考え方を広げる。
14 単元の学習を振り返り、身に付けた力やその力を活用できそうな場面について考える。
立場の同じ友達の考えや立場の違う友達の考えを聞いて自分のものの見方や考え方がどのように変わったかをワークシートEに書かせる。
単元の学習活動について指導者の評価を伝え、生徒が新しい課題や今後の学習の展望をもてるようにする。
[国語への関心・意欲・態度]@
文章を読んで感想をもち、交流して考えを広げようとしている。
【観察】
【ワークシートE】

[読む能力]A
小説に表れているものの見方や考え方を捉え、交流して自分のものの見方や考え方を広げている。(オ)
【ワークシートE】
指導計画6/6
学習計画表
ワークシートE

  ※学習計画表は、単元を通して同じものを使用しています。また、同一番号のワークシートはすべて同じ内容です。
実践を振り返って
 
  言語活動について
  本単元では、指導事項を「読むこと」のウ「場面の展開や登場人物などの描写に注意して読み、内容の理解に役立てること」及びオ「文章に表れているものの見方や考え方をとらえ、自分の見方や考え方を広くすること」に焦点化し、これに応じて「小説に書かれていない場面を想像して、考えを交流する」という言語活動を取り入れました。この言語活動を通して、心情や情景を描いた表現に着目して内容を正確に読み取り、本文の記述を基に自分の考えをもち、交流して、ものの見方や考え方を広くしていくことを指導しました。情景描写や心情描写については、マーキングをすることで、本文の記述を基にすることを意識付けました。自分の立場を明確にして考えを交流する場面ではグループでの交流と全体での交流とを取り入れました。このことにより、同じ立場であっても、注目した場面はそれぞれであり、様々なものの見方や考え方があると知ることができました。

第6時で使用したスライド資料
学習評価の進め方について
  評価規準をより具体的に設定することで、指導者は指導すべきことを明確にすることができました。また、生徒に評価規準を示すことは、目標を明確にもたせるだけでなく、学習活動を理解させる助けにもなりました。
  前時の学習活動において「十分満足できる」状況(A)にあった生徒のワークシートの記述を、授業の導入で紹介し、その時間に取り組む学習活動につながるように解説することで一斉指導に生かすことができました。また、紹介された生徒は、学習活動に更に自信をもって取り組み、その結果、その時間の学習活動においても「十分満足できる」状況(A)とすることができました。
ICT利活用について
  電子黒板、デジタル教科書の導入により、学習の目標や流れを示したり、語句の意味の確認(第3時参照)を行ったりすることを効率的に行うことができました。また、活動をさせる際に、指示を視覚的に行うことで理解を確実にすることができ、学習活動に対する意欲を喚起することにつながりました。
  教材提示装置を活用して、グループでの話合いの記録やワークシートの記述を拡大提示して示したことで,分かりやすい説明をさせることにつながりました。また、生徒はグループでの記録やワークシートへの記述を行う際に、読み手を意識して分かりやすく工夫して書くようになりました。
  学習指導案・単元指導計画一括ダウンロードはこちら PDF

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