小・中学校を通じた理科の授業づくりを提案します!

2 研究の実際
(1) 新学習指導要領における小学校・中学校の理科学習の方向性
 

小学校では平成23年度から、中学校では平成24年度から全面実施となる学習指導要領に基づいて、学習内容の追加、移行が行われています。また、理科に関しては、小学校、中学校とも標準授業数の増加もあります。これらについて、整理したいと思います。

  @小学校・中学校の学習区分・分野
 

平成21年度からの移行期間から、理科の学習の標準授業時数が下記の表のようになりました。内容の増加に伴って、授業時間数が増えています。特に中学校ではそれが大きく、理科教育がますます重要視されていることがうかがえます。

  <小学校理科の授業時数>
 
 
第3学年
第4学年
第5学年
第6学年
合計
平成21年度から
90
105
105
105
405
平成20年度以前
70
90
95
95
350
  <中学校理科の授業時数>
 
 
第1学年
第2学年
第3学年
合計
平成21年度から
105
140
140
385
平成20年度以前
105
105
80
290
 

また小学校では、児童の学び方の特性や2つの分野で構成されている中学校との接続などを考慮して、従前の学習指導要領の「A生物とその環境」「B物質とエネルギー」「C地球と宇宙」の3区分から新学習指導要領では、「A物質・エネルギー」「B生命・地球」の2区分となりました。なお、中学校は、従前より「第1分野(物理・化学)」、「第2分野(生物・地学)」であり、小中が同様の区分で示されるようになりました。

  <新学習指導要領における小学校と中学校の領域構成>
 
小学校
A区分
物質・エネルギー
B区分
生命・地球
中学校
第1分野
物理領域・化学領域
第2分野
生物領域・地学領域
 

このことからも、小学校の場合、これまで以上に中学校を意識した指導が必要であり、中学校もまた、小学校における学習を踏まえて学習指導を進めることが大切になると考えます。

   
  A小学校・中学校で育みたい問題解決の能力
 

新学習指導要領において、小学校では「問題解決の能力」として、中学校では「科学的に探究する能力」として育みたい問題解決の能力が示されています。また、下のように小学校では学年ごとに、中学校では分野ごとにそのポイントが示されています。

   
 
小学校
小学3年生
自然の事物・現象の違いに気付いたり比較したりすることができること。
小学4年生
自然の事物・現象の変化とその要因とを関係付けることができること。
小学5年生
制御する要因等を区別しながら、観察や実験などを計画的に行っていく条件制御ができること。
小学6年生
自然の事物・現象の変化やはたらきを、その要因や規則性、関係を推論しながら調べること。
中学校
中学1年生
物質やエネルギーに関する事物・現象の中に問題を見いだし、目的意識をもって観察、実験を行い、事象や結果を分析して解釈し、表現できること。
中学2年生
生物とそれを取り巻く自然の事物・現象の中に問題を見いだし、目的意識をもって観察、実験を行い、事象や結果を分析して解釈し、表現できること。
         
 

問題解決の能力は、小学校においては、その学年で中心的に育成し、段階的に積み上げていくものです。したがって、下の学年の問題解決の能力は上の学年の問題解決の能力の基盤となるものであることに留意する必要があります。さらに、小学校において育まれた問題解決の能力を踏まえて、中学校においては、科学的に探究する能力の基礎と態度を育成することにつなげていくようにします。

 
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(2)科学的な思考力・表現力の育成を目指す理科学習指導の考え方
 

本研究では、科学的な思考力・表現力について、次のようにとらえたいと思います。

  「科学的な思考力」は、科学的な見方や考え方ができる過程で必要とされる力だと考えます。小学校の新学習指導要領解説には、「科学とは、人間が長い時間をかけて構築してきたものであり、一つの文化として考えることができる」とあり、「科学的」とは、事象の実証性、再現性、客観性について、条件を検討することであり、問題解決の場面における活動中の児童生徒の考えを指すと考えます。

  「科学的な表現力」については、問題解決の学習活動においては、児童生徒が自分の考えを、言葉・図・グラフなどに表し、それを、より実証性、再現性、客観性をもつものとして、記述することができることや説明ができることの力ととらえます。

  しかし、分かっているつもりでも、あらためてその内容を音声言語や文字言語などのことばに表そうとすると、なかなか難しいものです。仮に児童生徒が自然事象の規則性などを「分かった」と判断し、自分の中では解決できたと思っている場合でも、それを図や表などを使って説明したり、言葉で説明したりすると、そこに科学的な根拠が薄かったり、思い込みであったりすることに気付かされることがあります。つまり科学的な思考と表現は一体にならなければ、科学的なものの見方や考え方は高まらないと言えます。

  本研究では、この思考力と表現力をつなぐものとして、言語活動の充実とものづくりが重要と考えています。そこで、科学的な思考力・表現力の育成のために、言語活動の充実とものづくりについて研究を進めていく上でのポイントを以下の5点にまとめました。特に言語活動の充実にかかわる@からCについては、主に1単位時間の学習過程に位置付け、ものづくりにかかわるDについては、単元に位置付けてみて、実践に取り組んでみました。

 


@事象をどのようにとらえているか文字で書き表すこと

A他者とことばで考えを交流すること

B観察や実験の結果を適切な表やグラフにかき表すこと

C結果と考察を書き分けること

Dものづくりを通して学びをより実感させること

   
  @事象をどのようにとらえているか文字で書き表すこと
 

ここでいう「事象」とは、目の前の自然の事物・現象だけでなく、観察や実験を行っている最中の事象の変化も含みます。「事象をどのようにとらえているか」ということは、目の前で起きている事象や目の前にあるデータを読み取るということを指します。理科学習における、テキストの中のグラフや表を読み取ることも同じことを指します。

そこで、本研究の言語活動の充実において、特に重要視しているのが、自然の事物・現象の読み取りです。児童生徒が、主体的な問題解決の活動を進めるために、教師は、児童生徒がこれまでもっていた見方や考え方では説明できない事物・現象を提示するなど、児童生徒自らが自然の事物・現象に興味・関心をもち、問題を見いだす状況をつくる工夫が求められます。
実際の授業において教師は、学習の導入で、児童生徒にそのような事物・現象の提示(以下「事象提示」)として、映像を見せたり演示実験をして見せたりすることが多いです。そして教師は、この事象提示から児童生徒の「あれ・どうして・なぜだろう・調べてみたい」を引き出し学習問題へと高めていきます。
  しかし、そもそも自然の事物・現象をどのように読み取っているのか、もしくは読み取れているのか、これが曖昧なままだと、目的が分からず観察や実験を行ってしまったり、観察や実験の結果から結論が見いだせないなど、後の活動に影響していくのではないかと考えます。

この学習導入時における事象の読み取りについては、「(4)A理科における言語活動と問題解決の学習の流れに対応したワークシートのポイント」で、詳しく説明しています。

   
  A他者とことばで考えを交流すること
 

思考を深めるためには、個々人の考えを交流させる言語活動が欠かせないものだと考えます。一般的には、「予想」の段階や「観察・実験の活動中の気付き」「結果から考察へ向かう」などの場面で交流活動が取り入れられます。
本研究では、学習導入時の事象の読み取り「@事象をどのようにとらえているか文字で書き表すこと」に関連させて交流活動の場を設定しました。

教師が示した事象に対して「不思議だ」と考える児童生徒もいれば、「当たり前だ」と考える児童生徒もいるでしょう。また、事象のどこを見ればよいのか戸惑う児童生徒もいるかもしれません。


そこで、教師の事象提示について個々の児童生徒に自分なりの解釈を記述させて、それを交流させます。そうすることで児童生徒は、自身の考えが明らかになり、他者の考えとの違いなども明らかになって、正しく学習問題をとらえ、活動に向かうことができると考えています。

   
  B観察や実験の結果を適切な表やグラフにかき表すこと
 

小学校の新学習指導要領解説では、言語活動の充実と中学校まで見据えた問題解決の能力について、観察・実験において結果を表やグラフに整理し、予想や仮説と関係付けながら考察を言語化し、表現することを一層重視することが述べられています。 本研究では、考察の言語化はいうまでもなく、確実に「結果を適切な表やグラフにかき表させること」が大切であると考えました。

本研究の実践から小学校6年生「水溶液の性質」を例に説明します。第7時に「塩酸にアルミニウムを溶かした水溶液を蒸発させたときに出てくる物質はアルミニウムといえるのか」を調べる学習を行いました。児童には、その物質が「もしアルミニウムなら」という視点をもたせて、水溶液を蒸発させたあとに残った物質に、アルミニウムの性質があるのかを調べる活動を行っています。児童が考える方法としては「見た目の様子から考える」「電気を通すか調べる」「もう一度塩酸に溶かしてアルミニウムと同じ溶け方をするのか調べる」などがあります。このことについて、下のAは、結果を絵図にして表しています。それに対してBは、結果を表にしています。Aのような記録ができることも表現力としてとても大切だと考えていますが、本研究ではそれをBのように表を用いるなどして整理させることをねらいました。

       

irassuto1

       
調べる方法
アルミニウムの性質
アルミニウムがとけた塩酸から
取り出した白い粉のようなもの
電気を通す 電気を通す 電気を通さなかった
塩酸に入れる あわを出してとける あわを出さずにとけた
水に入れる とけない とけた
           
  C結果と考察を書き分けること
 

考察を科学的な表現、そして論理的な表現に高めていくためにも、結果と考察を書き分けられるように指導することが大切です。PISSA調査においても、「なぜそう考えたのかという理由」を問う設問で、出題者側としては結果に基づいた「考察」を求めているのに対し、日本の児童生徒は「結果」のみを記述することが多いと報告されています。

このことからも、指導者は、何が「結果」であり、何が「考察」であるのかを明確に分けて指導する必要があります。

ジャガイモにデンプンがあるのかを調べる実験を例に説明します。この実験では、ジャガイモにデンプンがあることを調べるのにヨウ素液を使用します。実験について結果と考察を分けて考えると次のようになります。

       
【問題】ジャガイモにデンプンはあるのか
  ↓
【実験】切り口にヨウ素液をかけてみる
  ↓
結果
青むらさき色に変化した
  ↓
考察
ジャガイモにはデンプンがあると言える
      なぜなら・・・ 
結果と考察について説明
 

つまり、結果とは「○○をしたら○○になった。」という、ある操作に対してそれが目に見える変化の様子であったり、数値的なものであったりします。ジャガイモのデンプン反応の実験の場合、結果は「青むらさき色になった」という事実を指します。続けて、考察とは、○○という結果から分かることは、○○ということである。その理由は○○だからである」のように、結果を受けて解釈するものだと考えます。

本研究では、結果を表やグラフに整理させるようにしていますが、この場合、整理させた表やグラフは結果に含まれると考えています。また考察についても「つまり」や「なぜなら」など結果を踏まえて表現させ、論理的な考察に向かわせるような接続詞や話型などを取り入れるようにしました。

加えて本研究において、児童生徒に考察をさせるときに、実験結果から言えることを、導入の事象提示に立ち戻らせ、「再説明」させるような工夫をしています。これにより、児童生徒が問題把握から結果まで学習全体を振り返るような考察をすることで、より科学的な思考力・表現力の育成が図られるのではないかと考えています。

   
  Dものづくりを通して学びをより実感させること
 

中学校の新学習指導要領では、ものづくりは、科学的な原理や法則について実感を伴った理解を促すものとして効果的であり、学習内容と日常生活や社会との関連を図る上でも有効であることが述べられています。
本研究においても、単元で学んだことを実感させるものづくりを位置付けて、児童生徒が、より理解を深めたり生活との関連に気付いたりすることができるようにしました。

例えば小学3年生の「電気」や「磁石」の単元の指導内容には、単元の終末におもちゃづくりの場が設定されています。教科書にもその例示がされ実際に取り組まれているところですが、材料の関係や指導時数などの関係から、課題も多いようです。

本研究では、着実に児童生徒にものづくりを体験させることが大切であると考え、教科書の事例を基本としながら、課題となる点も考慮して実践を行いました。

 
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(3)科学的な思考力・表現力の育成を目指す理科学習の進め方
 
  @2区分の学びの特性に見る小・中学校のつながり
 

新学習指導要領において、小学校の理科が「A物質・エネルギー」と「B生命・地球」に整理されました。この2区分では、それぞれ特徴的な学び方があると考えられます。表1に概略をまとめてみました。

 
                          表1 小学校理科の2区分の学びの特性
 
<A区分の学び>
<B区分の学び>
電気、磁石、水溶液など実験を中心に学ぶ学び方
○再現性が高く、何度も繰り返せる
○数多くの状況をつくることができる
○要因を抽出して変数として制御できる
○時間や空間を制御できる
○理論や事象の規則性を実験的に確かめることができる
○屋内実験的活動
植物、生物、太陽や月など観察を中心に学ぶ学び方
○原則的には再現性がない
○数多くの状況をつくることが難しい
○さまざまな要因がからみあう状況を受け取り吟味していく
○時間や空間を制御しにくい
○事象に対し、観察的で、視点や観点を重視する
○屋外観察・調査的活動
 

A区分は、電気や磁石、水溶液といったものを学習の対象とするものが多く、自ら問題解決のための状況を時間や空間に左右されずつくることができます。また一人一実験というように、学級の児童生徒全員が同じ状況を作り上げることも可能です。したがって、学習の場も理科室などで実験的な活動として行うことが多くなると思います。

これに対して、B区分は、植物の成長であったり、季節の生き物、太陽や月の動きなどのように、対象物が限られていたり、自由に手にとったりできないようなものが多いです。事象の再現性に関しても、非常に長時間であったり、壮大なスケールなものであったりするなど原則的には再現性がないものです。そのため、様々な要因が絡み合う中で自らが状況に入り、視点や観点をもって観察することが求められます。それは、理科室のみならず、屋外や場合によっては課外の観察活動が必要になることも多いです。

このように、A区分は実験型の学び方が中心となり、B区分は観察型の学び方が中心になると考えられます。

小学校の2区分を中心に述べましたが、中学校(「第1分野 物理・化学」「第2分野 生物・地学)の場合も、おおよそ同様のことがいえると思います。このことから新学習指導要領のもと、小学校と中学校において、各区分・分野の学びの特性を考慮した接続が図られたと考えてよいと思います。

   
  A言語活動の充実により科学的な思考力・表現力の育成を目指した学習の進め方
 

本研究において、言語活動の充実により科学的な思考力・表現力の育成を目指した授業実践として、小学校「A物質・エネルギー」、中学校「1分野 物理 化学」について行うようにしました。
  さらに「科学的な思考力・表現力の育成を目指す理科学習指導の考え方」で示した5つのポイントの中の
@事象をどのようにとらえているか文字で書き表すこと
A他者とことばで考えを交流すること
B観察や実験の結果を適切な表やグラフにかき表すこと
C結果と考察を書き分けること
について、それぞれの手立てを講じていくとき、その学習の進め方を明らかにして取り組む必要があると考えました。

そこで本研究では
1 事象提示を見る
2 事象を説明する
3 学習問題を立てる
4 計画を立てる
5 実験を行う
6 結果を交流する
7 結果から言えることをまとめる
の7つで構成される学習過程を考えました。
   なお、これは学習指導案を作成する際も同じ項立てで示し、学習を進めていくようにしています。

   
    <学習の進め方(教師用)(1単位時間)>                        <学習の進め方(児童用)>
  教師用学習過程説明児童用学習過程説明
 
<学習の進め方>教師用・児童用のダウンロードはこちらから→印刷用ダウンロード【PDF】
「印刷用ダウンロード」または画像を直接クリックすると上の2つの画像がPDF出力されます。児童用はノートに貼ったり、拡大して教室に掲示したりするなどして御活用ください。
  B学習したことを実感させるものづくり
 

上に示すような言語活動の充実を図る学習を繰り返しながら、小単元や大単元の終末にものづくりを行っていくようにします。
ここでいうものづくりとは、本研究においては、学んだことが身近に存在し、生活に生かされていることを実感するための活動を指しています。したがって必ずしも、何か「もの」を作る製作活動ばかりだとは限りません。まずは教科書の事例などを参考に、確実に取り扱っていくことが大切だと考えています。

 
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(4) 科学的な思考力・表現力の育成を目指す理科学習指導のポイント
  @理科における言語活動を促す学習導入時の事象提示のポイント
 

本研究における言語活動の充実に関わり、児童生徒が知識や体験、思考を言語化する場面として、学習導入時の事象提示が大きなポイントであると考えます。

多くの場合、学習の導入場面で、教師はその時間に学習する内容に関する自然の事象について、事象提示を行います。そうして児童生徒に、「あれ、どうして、なぜだろう」などの疑問をもたせ、解決すべき問題として、学習問題へと高めていきます。しかし、同じ現象を見ても、児童生徒の解釈がすべて同じとは限りません。

そこで本研究では、この「なぜ」「どうして」という児童生徒の考えをことばとして記述させることから始めるようにしました。さらに、事象提示を「比較」の視点をもって、事象Aと事象Bの2つの事象を見せることを基本にし、児童生徒が比較することを通して、より問題となる点に着眼するような工夫を行いました。事象Aと事象Bを比較させる視点としては、次のようなものがあると考え、表2のように整理しました。

   
 

<事象Aと事象Bを比較させる視点>

 


(ア) 素朴概念(イメージ)と科学的な概念を比較させる事象提示

(イ) 操作を加える事象と加えない事象を比較させる事象提示

(ウ) 既習事項と未習事項を比較させる事象提示

(エ) 異なる物質に同じ操作を加えて比較させる事象提示


 

※ 事象Aと事象Bは、2つの事柄を示すという意味であり、特に順序性や、それぞれの内容(考え方)を固定するものではありません。

                    表2 事象Aと事象Bを比較させる視点と考え方及びその例
 
事象提示の視点
考え方
事象提示の例期待される効果
実践例
(ア)
素朴概念(イメージ)と科学的な概念を比較させる事象提示
通常行う教師による事象提示は、児童生徒がもつ素朴概念(イメージ)に対して科学的な概念に基づく現象を見せることで、児童生徒に「不思議だ、どうしてだろう」というような疑問を引き出します。
これを事象提示の基本(ア)として考えます。

通常は、この(ア)の考えをもって事象提示を行うことが多いです。つまり、児童生徒がもつ素朴概念と科学的概念を比較させていると考えます。
本研究においても、この(ア)が基本となり、事象Aと事象Bを比較させる視点の(イ)(ウ)(エ)を組み合わせて考えるようにしていきます。
事象提示の例
小学4年の単元「ものの温度と体積」
温度の変化によって、空気の体積が変化することを学習する場合
事象Aとして(児童生徒がもつ素朴概念)
事象Bとして、石けん膜を張った試験管を温めているところを提示(科学的概念に基づく事象)
期待される効果
この場合事象Aとしての事象提示は行いません。児童がもつ素朴概念としては、「空気が温度によって膨らむとは知らない(思っていない)」ことが考えられ、事象Bに対して、驚きと興味をもつが考えられます。
(イ)
操作を加える事象と加えない事象を比較させる事象提示
事象の変化の前後の違いや事象に操作を加えていること(変化の要因)に着目させたい場合の事象提示です。

事象提示に使う実験器具は、同じものを2つ準備します。そして、 必ず児童生徒に、何も操作を加えなければ事象に変化はないことを確認します。その上で、操作を加えたものと何が違うのか、どのような操作を加えると事象が変化するのか等、比較を通して考えさせます。
操作を加える事象と加えない事象を比較させることで、五感を通して情報を収集し、原因として考えられる要因について、自分の考えを言葉で表現しやすくなると考えています。
事象提示の例
小学4年生の単元「ものの温度と体積」
温度の変化によって、空気の体積が変化するということを学習する場合
事象Aとして、石けん膜を張った試験管を提示(操作を加えない事象)
事象Bとして、石けん膜を張った試験管を温めているところを提示(操作を加える事象)
期待される効果
この2つの事象を比較させることで、児童は、事象Bにおいて、石けん膜が膨らむ様子を見て、「湯につけるとはどういうことなのか」「湯でないと変化は起きないのか」「石けん膜が膨らむのに温度が関係しているのか」など、様々なことについて、その時点における自分なりの解釈をします。このように思考の整理をさせると、言葉で表現することが容易になると考えられます。
実践A小学4年生
 
 
 
 
(ウ)
既習事項と未習事項を比較させる事象提示
既習事項とは、前時以前のすべての事項を指します。事象Aでは既習事項を想起させ、それを基に事象Bをどのように考えるかという事象提示です。

既習事項を丁寧に提示することで、そのあと問題となる点に着眼しやすくなり、自分なりの解釈が言葉で表現しやすくなると考えています。
事象提示の例
小学6年生の単元「水溶液の性質」
アルミニウムを溶かした塩酸を熱して出てきた物質を調べて、溶けたアルミニウムは別の物質に変わっているということを学習する場合
事象Aとして、食塩水を熱して食塩の粒が析出する様子を提示(既習事項)
事象Bとして、アルミニウムが溶けている塩酸を熱して白い粒が析出する様子を提示(未習事項)
期待される効果
この2つの事象を比較させることで、児童は「食塩水を熱して出てきたものは食塩である。」ならば「アルミニウムが溶けている塩酸を熱して出てきた白い粒はアルミニウムであると考えられるのではないか」など予想することが考えられ、このあとの学習において、予想や仮説を含んだ説明が行いやすくなると考えられます。
実践@小学3年生
実践B小学5年生
実践C小学6年生
 
 
(エ)
異なる物質に同じ操作を加えて比較させる事象提示
一見したところ同じように見える物質Aと物質Bに対して、同じ操作を加えます。そのときの現象の違いから、変化の要因に気付かせたり、事象Aを基に、より事象Bの物質の性質に着目させたりする事象提示です。

複数考えられる変化の要因を1つにしぼって児童生徒にとらえやすくさせたり、本来とらえさせたい点をより際立たせたりするのに有効だと考えています。
事象提示の例
小学6年生の単元「水溶液の性質」
水溶液の中には気体が溶けているものがあることを学習する場合
事象Aとして、ペットボトルに入れた水を湯につけたときの様子を提示します。
事象Bとして、ペットボトルに入れた炭酸水を湯につけたときの様子を提示します。
事象Aは水であり事象Bは炭酸水であることを知らせます。
期待される効果
事象Aの水は特に変化がないのに対し、事象Bの炭酸水は泡が出始めます。水では起きなかった現象が、炭酸水では起きることから、児童は「水が沸騰するときの泡とはちがう、あの泡の正体は何だろうか」や「溶けていた気体が出てきたのだろうか」、「気体が水に溶けるとはどういうことなのか」など疑問を言葉にし、目的意識をもった探究活動へと向かいやすくなると考えています。
実践B小学5年生
実践C小学6年生
実践D中学1年生
実践E中学2年生
 
     以上のように本研究では、学習導入時の事象提示の視点(ア)、(イ)、(ウ)、(エ)を基に、教師がこれらを単独または組み合わせて事象提示を工夫していくことで、児童生徒に知識や体験、思考を言語化させやすくなると考えています。
 
  A理科における言語活動と問題解決の学習の流れとに対応させたワークシートの開発とそのポイント
     本研究では、言語活動の充実により科学的な思考力・表現力を育成するためのワークシートの開発を行いました。
理科の学習では、問題解決学習を、1単位時間あるいは2単位時間で、1つの単元を通してスパイラル的に行うことができます。つまり、先に示した「言語活動の充実により科学的な思考力・表現力の育成を目指した学習の進め方」の学習の流れを繰り返し行うことで、児童生徒にも一連の問題解決の過程がつかませやすいと考えています。

   そこで、使用するワークシートも本研究における一連の問題解決と対応させるような構成が望ましいと考えました。次にワークシートの基本構成を示し、学習指導のポイントと合わせて使い方のポイントについて説明を述べていきます。
 
 

<ワークシートの基本構成>

 
ワークシート例
ワークシート構成
A 
「事象の説明」
B 「解決のキーワード」
C
 「学習問題」
D 
「実験方法」
E
 「注意事項」
F
 「実験の結果」
G
 「結果から言えること」
 
joseito

自作ワークシート用として、本研究で使用したワークシートの項目のみ示したシートをこちらからダウンロードできます。

小学校

ワード版ワークシート Word版

一太郎版ワークシート 一太郎版
 
 
中学校
  ワード版ワークシートWord版
  
一太郎版ワークシート 一太郎版

 
  A 「あなたが考える説明を書きましょう」
     教師が事象提示を行い、児童生徒にその事象を読み取らせ、自分なりの説明を記述させる欄です。
 
ワークシートA  
記入のさせ方
小学6年生「水溶液の性質」のアルミニウムを溶かした塩酸の学習を例に説明します。
  ポイント 目の前の事象を児童生徒なりの考えで、つじつまが合うように説明させてみることが大切です。
     文字に書き表すことで、児童生徒は現在の自分の考えを明らかにできます。また、自分なりに事象の説明をさせることで、事象に対する仮説や予想をもつことにつながると考えています。

   書くことに戸惑っている児童生徒には、無理に書かせようとはせず、うまく表現できないときは、「なんとなくわかるけど書けない」「説明できない」など記入させ、空欄のままは避けるようにするのがポイントです。

   児童生徒が、1単位時間の終末において、この欄と「G(結果から言えること)」とを対応させて見ることで、自身の学びの成果が感じられるようにするためです。書かせたあと、児童生徒で考えを交流させます。
   
  B 「解決のキーワード」
    「A自分なりの事象の読み取り」について他者と考えを交流させ、問題を解決するために、着目すべき点をキーワードとして書き出させる欄です。
 
ワークシートB
記入のさせ方 小学6年生「水溶液の性質」のアルミニウムを溶かした塩酸の学習の例に説明します。
  ポイント 見いださせる「キーワード」は学習内容にかかわる「空気」「温度」など事象の変化の要因です。
    学習内容にかかわる要因を見いださせることは、理科学習で重要なことです。事象提示の中から「何が関係しているのか」ということを適切にとらえさせないと、児童生徒は、何を調べるために観察や実験を行うのか、不明瞭になります。解決に向けたキーワードを見いだす交流活動を行わせることで、自分の考えがもてない(あるいは言葉で説明ができない)児童生徒も、他者の考えを参考に自分の考えをもたせることができると考えます。また、とらえるべき要因と違う要因をとらえてしまっている児童生徒も、キーワードを見いだす交流活動で修正されると考えます。

  例えば、小学4年生の「ものの温度と体積」で、児童に石けん膜を張った試験管を温めて石けん膜がふくらむ事象を提示したとします。ある児童の場合、「中の空気が温められてふくらんだから」と考え、キーワードは「空気、温度、ふくらむ」などが見いだされます。また、ある児童場合、「中の空気が温められて上に上がろうとしたから」と考えます。この場合、キーワードは「空気、温度、上がる」などが見出されます。さらに、両者の考えが対峙したとき、「石けん膜がふくらむのは、空気がふくらむことに関係しているのか、それとも空気が上昇していることに関係しているからなのか」などが問題として出てくることが予想されます。

  教師は、児童生徒同士の事象の読み取りとキーワードについて、学級全体で整理するようにします。
   
  C 「今日の学習問題」
    本時で解決すべき学習問題を書かせる欄です。
 
ワークシートC   記入のさせ方 小学6年生「水溶液の性質」のアルミニウムを溶かした塩酸の学習の例に説明します。
  ポイント 「キーワード」を用いて、学習問題を立てさせることです。
    学年が上がるごとに、まずは児童生徒自身に書かせることが望ましいと考えます。解決のキーワードが学習問題に使われるようにするとよいでしょう。

  教師は、本時の学習問題として適切になるように児童生徒とやりとりを行いながら、学級全体としての学習問題に整理して掲げるようにします。

  教師が、児童生徒の意見を整理して板書した表現と、児童生徒自身が立てた学習問題との表現が違ったときは、まずは児童生徒に自分が立てた学習問題と、板書された学習問題との意味が同じかどうか判断させるのがよいでしょう。児童生徒が意味は変わらないと判断した場合は、自身が立てた学習問題の表現のままにしておくようにし、大きく意味が違うと判断した場合は、自分が書いた表現を消さずに、欄の空いているところに書き込むなどして、修正させるようにしていきます。
   
  D 「実験方法」
    実験計画を立てさせたり、実験方法について話し合わせたりする欄です。
 
ワークシートD   記入のさせ方 小学6年生「水溶液の性質」のアルミニウムを溶かした塩酸の学習の例に説明します。
  ポイント 単なる実験手順ではなく、実験の目的と意味を考えさせることです。
    例示の3年生のワークシートでは、実験の方法や手順についてあらかじめ示していますが、学年や児童生徒の実態に応じて児童生徒自身で書き込めるようにするとよいです。

  特に小学5年生以上において、「植物の発芽、成長、結実」や「振り子の運動」など、変化させる要因と変化させない要因を区別しながら、観察、実験などを計画的に行っていく条件制御の能力の育成が重要視されるような実験については、この項に重点をおいて学習指導をするようにします。
   
  E 「注意事項」
    本時の観察や実験に際して、予測される危険行為や留意事項などを示すところです。
 
ワークシートE   記入のさせ方 小学6年生「水溶液の性質」のアルミニウムを溶かした塩酸の学習の例に説明します。
  ポイント 危険な行為に対する注意や実験のコツなど示します。
     事故につながるような行為や観察や実験で気を付ける事項を示します。

   特に、薬品を取り扱ったり、加熱機器を取り扱ったりする実験では、「薬品を触った手で目をこすらない」ことや「ぬれぞうきんを準備しておく」ことなど、具体的に示すようにするとよいでしょう。
   
  F 「実験の結果」
     実験の結果を表またはグラフに整理させるところです。
 
ワークシートF   記入のさせ方 小学6年生「水溶液の性質」のアルミニウムを溶かした塩酸の学習の例に説明します。
  ポイント 結果を書き込む表やグラフを示すことで、観察・実験の活動イメージをより明らかにさせることです。
    本研究においては、実験の結果は表またはグラフに整理することを基本としました。

  例示のような表を示すことで、児童生徒に実験の目的や手順について、より明確に観点や視点をもたせることができると考えています。また、同じことを何度も繰り返せるような実験の場合は、基本的に最低3回行わせることが指導のポイントです。

  学習内容や実験素材などによっては、一人で何度も行うことができない実験もあります。このような場合も、個人で1回の実験の結果も4人グループならば、4回の実験を行った結果として取り扱うように指導します。同様に、グループで1つの実験を行って出されるような結果も、学級で10グループあれば、10回の実験を行った結果として考えることができます。
このような考えをもって、観察・実験に取り組ませることで、児童生徒は、より自分が行う観察や実験の重要性を感じながら活動を行うと考えます。
  中学校では、表やグラフの枠から自分で考えさせるために、結果の欄は、方眼紙にして自由に整理できるようにしておくとよいと考えられます。
   
  G 「結果から言えること」(最初の考えをパワーアップ)
    いわゆる考察を記述させる欄です。
 
ワークシートG   記入のさせ方 小学6年生「水溶液の性質」のアルミニウムを溶かした塩酸の学習の例に説明します。
  ポイント 単に「ものの性質やきまり」ではなく、事象や観察・実験の結果と関係付けた考察をさせることです。
    本研究においては、言語活動の充実を図ることを通して、科学的な思考力・表現力を育成するための手立てとして、結果と考察を書き分けさせることを重要視しています。

  このことを踏まえて、ワークシートのG「結果から言えること」の項では、記述欄に「・・・ということがわかった。なぜなら・・・からである。」のように、接続詞や話型の一部を記して、児童生徒が結果の部分と考察の部分を明確に分けて書くことができるように工夫しました。また、この項を記述させる際は、学習の導入場面で提示された事象に立ち戻って、その事象を再度、説明するように指示して記述させることが大切です。

  例えば、前述の「B解決のキーワード」で例に挙げた「石けん膜がふくらむのは、空気がふくらむことに関係しているのか」、それとも「空気が上昇していることに関係しているのか」という問題について考えます。様々な実験を行った結果、児童は「温められた空気はふくらむ性質がありそうだ」ということに気付きます。
  ここで、単に結果から言えることとして児童に記述させると、「温められた空気はふくらむ」とまとめるでしょう。空気の性質のきまりとしてはこれで十分だと言えますが、より事象と空気の性質を関係付けたものにするために児童に、「もう一度最初に提示された『石けん膜を張った試験管を温めると石けん膜がふくらむ』という事象を説明をするとしたらどのように説明しますか」という投げ掛けをすることが大切だと思われます。
  そうすることで、児童は「石けん膜を張った試験管を温めると石けん膜がふくらむのは、中の空気が温められてふくらむからである。なぜなら・・・。」というように、結果と考察を分けて説明ができます。

  このようにしていくことで、児童生徒は、具体的な事象と空気の性質とを結び付けて、科学的な概念を獲得していけるようになると考えています。さらに、「学習の最初はうまく説明できなかったことが、学習の終末では説明できるようになった」と、児童生徒の科学的な思考力・表現力の高まりとともに、自己の成長を感じることができると考えています。
   
  B学んだことを実感させるものづくりのポイント
  ポイント 学習した「ものの性質」を生かすこと、実生活の中でその「ものの性質」が生かされていることを意識させることです。
 

右の写真は5年生「電磁石の性質」におけるものづくりの様子です。電磁石を釣り竿にして、魚には鉄製クリップや磁石を貼り付けてあります。電磁石の性質を生かして、釣るときは電流を流し、釣った魚を手元にもってきたときに電流を止めて魚を落として自分のかごに入れます。魚に磁石を貼り付けておくことで、釣り竿の電磁石の極によっては電池の極を逆にする必要があります。さらにこの実践は、低学年と一緒に遊ぶことを目的に行われました。
 このように、学んだことを実感させるものづくりでは、ものの性質をいかにうまく生かすことができるかということがポイントになります。教師も単元計画を立てるときに、単元の中で行うものづくりが学級または学校全体の中で生かされるようなことを視野に入れておくとよいでしょう。また、身の回りの道具にものの性質が使われている事象に気付かせることが大切です。

電磁石ものづくり
『電磁石で魚釣り』
5年生「電磁石の性質」
 
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(5)実践事例一覧
 
     研究1年次である平成22年度は、所員1名、研究委員7名により、以下の6つの単元において研究仮説に基づく授業実践を行いました。(単元名は大日本図書発行「たのしい理科」「中学校理科」による)
 
実践の詳細は、単元または実践内容をクリック
 
@ 小学校第3学年 『風やゴムのはたらき
  実践内容「風の強さと風の力で動く車の距離
A 小学校第4学年 『とじこめた空気や水をおしてみよう
  実践内容「空気を固い筒に閉じ込めて性質をさぐる
  実践内容「ものづくり(動画)
B 小学校第5学年 『電磁石の性質
  実践内容「電磁石の強さとコイルの巻き数の関係
  実践内容「電磁石の極
  実践内容「ものづくり@(PDF)」「ものづくりA(PDF)
C 小学校第6学年 『水溶液の性質
  実践内容「アルミニウムを溶かした塩酸から析出させたもの
  実践内容「気体が溶けている水溶液
  実践内容「ものづくり(動画)
D 中学校第1学年 『物質の状態変化
  実践内容「物質が状態変化するときの体積の変化
   
E 中学校第2学年 『電流と磁界
  実践内容「電流が磁界の中で受ける力の向き
  実践内容「ものづくり(PDF)
   
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(6)研究の考察
     科学的な思考力・表現力の育成を目指した理科学習指導の在り方をテーマに、言語活動を充実させた学習指導とものづくりを位置付けた学習指導の工夫について研究を進めています。

   特に研究1年次は言語活動の充実について、理論研究を基に授業実践を重ね、学習モデルの確立とその具体的な手立てについて探ってきました。また小学校と中学校のスムーズな接続を考え、同じ学習モデルの基に、小学校4つ、中学校2つの計6つの単元で実践を行ってきました。
   実践を重ねながら手立ての在り方も徐々に明らかになってきたこともあり、研究1年次は、まず小学校高学年において、研究2年次は中学校において、研究の考察を行うように計画しました。

   そこで、研究1年次では、小学5年生「電磁石の性質」と小学6年生「水溶液の性質」の実践を中心に研究の考察を行いました。
   1単位時間の学習における手立ての有効性を見るために、小学5年生の単元「電磁石の性質」では、抽出児の活動の様子と学級全体の活動の様子において、研究の考察を行いました。
   また、単元を通した学習における手立ての有効性を見るために、小学6年生の単元「水溶液の性質」では、実験結果における児童の考察の質の変容について研究の考察を行いました。
   
  @ 小学5年生の実践
  単元名「電磁石の性質」全9時間 本時5/9(児童数37名、平成22年10月実施)
     1単位時間の研究における手立てについて、抽出児の授業の様子と学級全体の児童の様子を基に研究の考察を行いました。
  本時の目標
  ○ コイルの巻き数を変えたときに引きつける釘の数を調べる活動を通して、コイルの巻き数によって電磁石の強さが変わること
  が分かる。
   
 
  児童は、前時までに100回巻きのコイルを自作し、コイルに電流を流すと電磁石になること、電磁石の力を強くするには、流す電流の量を増やせばよいことを学習しています。本時では、コイルの巻き数に着目させ、コイルの巻き数によって、磁石の強さはどのように変わるのかを学習しました。
  研究の考察に当たっては、C児(抽出児)と学級全体について、授業中の児童の様子の観察と授業後の児童に実施した振り返りアンケート及び聞き取り調査を基に行いました。

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導入の事象提示
  C児のプロフィール
 
・理科学習に興味・関心が高い。
・学習中の教師の発問に対してのつぶやきや実験中の内容に関わるつぶやきが多い。
・つぶやきを自分の考えとして整理し、文章(記述)で表現することは苦手。
   
  【比較を通した事象提示と児童の事象の読み取る活動】
     事象を比較させる視点としては、既習事項と未習事項を比較させる事象提示を行いました。事象Aとして100回巻きの電磁石、事象Bとして、150回巻きの電磁石を提示し、児童には巻き数の違いがあることは告げないようにして事象提示を行いました。
   どちらも乾電池を1つ使っていることは、児童に分かるように見せています。教師が電磁石をクリップに付ける実験を2回行い、2回ともBのコイルの方が、クリップがたくさん付いた様子が分かりました。児童からは、「同じコイルじゃないないようだ。」「Bのほうがコイルが太いみたい。」など、巻き数に着目しているようなつぶやきが聞かれました。
   ここで、教師は「このAの電磁石とBの電磁石に付いたクリップの数が違うことを自分なりに説明しましょう。」と投げ掛け、説明のために児童に話型を次のように板書に示しました。
 
Aのコイルは(                )付いたクリップは少ない。
Bのコイルは(                )付いたクリップは多い。
     AのコイルBのコイル共にまず見た目で分かる現象については板書に示し、(  )の中に考えられる理由を書き込むようにさせました。
   C児は「Aのコイルは(エナメル線を少なく巻いているから)付いたクリップは少ない。Bのコイルは(エナメル線をたくさん巻いているから)付いたクリップは多い」とワークシートに記述することができました。他の児童もほぼ同様なことを記述することができていましたが、中には「乾電池がなくなっていたから」や「導線の長さが違うから」と、コイルの巻き数以外に着目している児童もいました。
   同じ条件の下で事象提示を行っても、それをどう受け取っているのかは、児童によって様々であることがわかります。
  C児の事象の説明
 
Aのコイルは(エナメル線を少なく巻いているから)付いたクリップは少ない。
Bのコイルは(エナメル線をたくさん巻いているから)付いたクリップは多い。
     授業後の聞き取り調査で、普段書くことに抵抗を感じているC児に自分の考えを書くことができたことについて尋ねたところ、「見たことをいつも同じような文章で書けばよいから」という回答でした。学習の進め方をパターン化させていることと、事象説明に話型を与えたことで、抵抗なく記述できたと考えられます。Aのコイルに付いたクリップは少なく、Bのコイルに付いたクリップが多いことは、現象としては全員が分かります。
   C児の「見たことを」という回答には、事象提示から得られる現象を比較することで、「巻き数に違いがあるようだ」という視覚的に情報を受け取り、解釈の根拠として、予想や仮説を含んだ表現につながったとものと考えられます。
   
  【読み取った事象を説明し合う活動】
     自分なりの事象の説明を記述させた後、それを話し合う活動を行いました。
児童の中には、Aのコイルがその見た目と、クリップが付いた数から自作した同じ100回巻きのコイルと判断し、Bを100回巻きより多いコイルと表現する児童もいました。C児のように「巻き数が多い、少ない」と表現していた児童も、話し合いを経て、Aは100回巻きのコイルであろうと考えるようになってきました。最初の自分の事象の読み取りで、乾電池や導線の長さに着目していた児童も、この話し合いを行ったことで自分が気付かなかったコイルの巻き数についても要因として考えられることに気付くことにつながり、考えを変えている様子が見られました。
   また、最初の事象について、考えを文章化できなかった児童も、この話し合いを行いながら文章化していくことができていました。


  事後のアンケートで、児童に話し合いをもったことで、自分の最初の事象の説明に対して自信がどのように変わったのか尋ねたところ、81%(30名)が「話し合いをしたことで自信がもてた」と回答していました。C児は、「自信は変わらなかった」と回答していました。C児への聞き取りでも同様の質問をしたところ「最初から自信があった!」と研究の手立てを取り入れる以前の様子から変化していることがうかがえました。

  自分なりの説明が表現できたことで、自信の大きさや学習への意欲が高まっているように思われました。
   
  【実験結果を表やグラフに表す活動】
 
   言語活動の充実により科学的な思考力・表現力の育成を目指す本研究で、観察や実験の結果を表やグラフに表させることは、ポイントの一つとしているところです。

   本時では、コイルの巻き数と電磁石の強さの関係を児童に、具体的なクリップの数として調べさせることで、より探究心をもって取り組むようにしました。そのために、コイルの巻き数を30回、50回、100回、150回の4種類を準備し、それぞれに付いたクリップの数を調べて表にしたあと、さらにグラフにまとめるようにさせました。
結果をグラフに表させたことで、コイルの巻き数が増えるほど、電磁石の力が強くなることを視覚的にとらえることができたと考えられます。

   C児は、調べた結果を表にすることはできていました。しかし、グラフにすることには戸惑っていました。教師の机間指導で、折れ線グラフの書き表し方(横軸と縦軸の関係)の理解が不十分であることが分かりました。
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結果を表とグラフに表す
   C児は時間内にはグラフを書き上げるまでには至りませんでしたが、結果の交流でグループの友だちが折れ線グラフを使って巻き数とクリップの数の関係を説明するのをうなずきながら聞いていた様子から、折れ線グラフに表すことのよさを感じ取ったのではないかと考えます。

   なお、授業後のワークシートから、結果を正しく表とグラフに表すことができた児童は81%(30名)、表のみに表すことができた児童は16%(6名)、表・グラフともに表すことができなかった児童は3%(1名)という結果でした。表やグラフに表すことができなかった児童7名はいずれも実験活動は行っていました。しかしC児同様、表やグラフにすることのよさやかき方を今後指導していく必要があると考えられました。
   
  【最初の事象提示に返り再説明をさせる考察の活動】
     本時では、考察を「結果から言えること」としてまとめさせました。
前時までの学習指導で「○○は○○であることが分かった。だから○○ということが言える。」という定型文を意識させています。教師は「最初のAのコイルとBのコイルに付くクリップの数が違うことの理由が分かったか」について投げかけたところほとんどの児童が「分かった」と回答していました。そこで最初の事象を意識させながら結果から言えることを記述させています。

   実験結果を踏まえた考察(結果から言えること)を記述できた児童は78%(29名)、実験結果を踏まえた考察が不十分な児童は22%(8名)でした(表1)。考察が不十分な児童について、導入段階において事象の読み取りの様子を見てみると8名中6名が、最初の事象をうまく読み取れていなかったり、記述が不十分であったりたりしていました。
   このことからも最初の事象の読み取りが、その後の一連の問題解決の活動や学習の考察に影響していることが考えられます。
                      表1 児童の事象提示の読み取りと考察の関連
 
事象提示の読み取りが十分であった児童
事象提示の読み取りが不十分であった児童
70%(26名)
30%(11名)
結果を踏まえた考察が十分であった児童
結果を踏まえた考察が不十分であった児童
78%(29名)
22%(8名)
   
  A 小学6年生の実践
  単元名「水溶液の性質」全13時間 (児童数24名、平成22年10月実施)
      単元を通して、研究における手立てについて、児童のワークシートの考察欄の記述を基に研究の考察を行いました。
  単元の目標
  ○ いろいろな水溶液について、その性質や金属を変化させるようすを調べ、水溶液の性質やはたらきについての考えをもつようにする。
   
    本単元は、水溶液は酸性・中性・アルカリ性の性質に分けられることや水溶液には塩酸などのように金属を溶かすものがあること及び炭酸水などのように気体が溶けたものがあることを学習します。この実践では、全13時間のうち3時目以降にこの研究で開発したワークシートを使用し授業を行っています。そこで研究におけるワークシートを使っていない2時目と、研究におけるワークシートを使用した7時目のワークシートの児童の考察欄の記述についての比較から考察を加えることにします。
  2時目の学習内容
    リトマス紙を使い、水溶液の酸性・中性・アルカリ性を調べる。 (研究におけるワークシート未使用)
  7時目の学習内容
    アルミニウムが溶けた塩酸を熱して析出したものがアルミニウムであるかを調べる。 (研究におけるワークシート使用)
   
  【抽出児に見る考察の変容】
   A児の2時目と7時目の考察の変容
 
2時目

7時目

見た目は全部水みたいだけど、色がかわる性質があるものがあることが分かった。 白い砂のようなものは、アルミニウムではない。アルミニウムは電気を通すが、白い砂(のようなもの)は通さない。塩酸に入れてもあわを出して溶けない。
     A児は、2時目のリトマス紙を使って液性を調べる学習における、ねらいに沿った考察が不十分であることが分かります。
   リトマス紙の色の変化と液性とを漠然ととらえており、リトマス紙の色の変化と液性を正しく関係付けてまとめているとは言えません。それに対し、7時目のアルミニウムが溶けた塩酸から取り出された白い粉について調べることについては、A児はまず「アルミニウムではない」と結論付けています。その後、アルミニウムにあるはずの性質が析出物には見られないということを根拠として記述することができています。
   児童には、考察の記述をさせるときに、「『分かったこと』なぜなら『理由』」という話型を板書で示しました。A児は、「なぜなら」という言葉は使っていませんでしたが、結論と理由に分けて記述できていました。
   
  B児の2時目と7時目の考察の変容
 
2時目
7時目
Aは塩酸、Bは水酸化ナトリウム(の水溶液)、Cは食塩水ということをリトマス試験紙で分かった。 アルミニウムを溶かした塩酸を蒸発させた粉はアルミニウムではない。それは電気を通さず塩酸に入れてもあわが出なかったから。
     B児の2時目の考察では、どれが何の水溶液か結論付けたことだけが記述されています。B児の場合もリトマス紙の色の変化と液性を関係付けてまとめているとは言えません。
   それに対し、7時目では、まず「アルミニウムではない」と結論付けています。その後、アルミニウムにあるはずの性質が析出物には見られないという結果を根拠として記述することができています。A児と同様に、話型を板書に示したことで、「なぜなら」という言葉は使ってはいませんでしたが、結論と理由に分けて記述できていました。
   教師は、学級全体の児童に、「最初に、先生が見せた実験(事象提示)をもう一度説明してみよう」という投げかけを行っています。B児は、それを受けて「アルミニウムを溶かした塩酸を蒸発させた粉は」と、白い粉が、どのような過程でできたものなのかが分かる、具体的な事象から
書き出していました。これによりB児は、アルミニウムが溶けた塩酸を熱すると白い粉が残るという具体的な事象と、その白い粉はアルミニウムではないこととを関係付けてとらえることができたと考えます。
   
  【学級全体に見る考察の変容】
     研究の手立てを取り入れていない2時目と研究の手立てを取り入れた7時目の実践について児童の考察の比較を行い表2に整理しました。
  表2 
 
 
2時目(23名)
7時目(25名)
根拠を挙げて説明し、具体的に記述ができている。
45.3%(10名)
84.0%(21名)
結論を導いた根拠が記述されていない、または足りない。
8.7%(2名)
12.0%(3名)
実験結果を文章化するに終わり、考察が述べられていない。
34.8%(8名)
0.0%(0名)
学習のねらいに沿った内容の考察ができていない。
13.0%(3名)
4.0%(1名)
    以上のように、根拠を挙げて説明し、具体的な記述ができている児童は、第2時では、学級の半数以下であったのに対して、第7時では、8割以上の児童ができるようになっていました。

  このことから、結果と考察を明確に分けて記述するように指導したり、考察を単に自然のきまりとしてまとめさせるのではなく、導入の事象を再度説明させるような考察を意識させたことで、実験で分かったことや考えたことをもれなく記述することができるようになってきていると考えられます。
 
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最終更新日:2011-03-30